セフィロス先生vv 17
集骨が終わって誘われるままにセフィロスは、クラウドの家まで来た。
大事そうにお骨を胸に抱いてとぼとぼと歩く少年と、これ以上離れている事はできなかった。

精進上げという名の宴会が始まった。
クラウドは、ほとんど何にも箸をつけようとしない。
ぴとっとセフィロスの横に座ったまま、ちびちびとジュースを飲んでいる。

…こいつ、あれから何も食べてないな…
そんなクラウドを、まわりの親戚達はどう扱っていいのか解らないようだった。
ただ腫れ物に触るように接している。
そこには、さっきのクラウドの伯父のように、一抹の罪悪感もあるのだろう。

そろそろ宴も終わりになりかけた頃、さっきセフィロスと話していたクラウドの伯父が言った。
「クラウド…これからの事だが、伯父さんの家に来い。」
「え?」
クラウドは大きく眼を見開いて問い返した。
「伯父さんの家に来い、何の心配もいらん、おまえの母さんに対するせめてものわびだ。」
「え?でもこの家は…」
「この家はもう売ってしまえ、そうして残りの借金の足しにしろ、それでもう事故の補償はチャラになるようにオレが相手と話してくる。おまえがいつまでも両親の借金を引きずる事はない。」

そうだ、そうだ、そうしなさい…周りは口々にクラウドに勧めた。
クラウドはしばらく考えるようにしていたが、やがてゆっくり口を開いた。
「イヤです。」
「クラウド?」
「伯父さんの好意はありがたいけど、この家は父さんが建てたんです、オレと母さんのために。そしてその借金を返そうと無理に働いて、あんな事故を起こしてしまった。オレと母さんのためだったのに…だからこの家は売りません。」
「でもなクラウド…」
クラウドの蒼い瞳が切な気に揺れる。
「それに…この家を売ってしまったら、母さんと過ごした思い出が、全てなくなってしまう。」

周りが一瞬沈黙した、クラウドは更に続ける。
「あと何か月かでオレは中学を卒業します、そうしたら働ける。オレはなんとか一人でやっていきます。」

誰にも頼らない、今までほっておいたあなた達の助けはいらない、クラウドの決心を現すように蒼天の瞳が鋭く輝いた。

「クラウドそう言うな…おまえはまだ子供だ。」
一瞬気おされた伯父が言いかけたとき、それまで黙っていたセフィロスが口を開いた。
「クラウド、おまえはまだ働ける年齢じゃない。」
「でもセフィロス…」

伯父に対しては強気に言い放ったクラウドも、セフィロスに対しては語尾が揺れる。
「実は、おまえの母親からこれを預かっている。」
セフィロスが差し出したのは、クラウドも見覚えがある赤いキルトのポーチだった。
中を見ると入っていたのは、クラウド名義の満期になった学資保険、それにクラウド受け取りの生命保険。

「セフィロスこれ…」
「この前わざわざ訪ねてらした、自分に万が一の事があったらお前を頼むと、そしておまえの事だからきっと高校に行かずに働くと言いだすだろう、そのときは必ず説得してくれと…」

クラウドは震える指で学資保険証を開いた、そこにはクラウドが十分に大学まで行ける額が貯えられていた。
そしてひらりと落ちた紙切れが一枚、もう見る事もできない母の字で一言。
『クラウド、学校に行きなさい、お金の事は心配しないで。』
…母さん…
握りしめた手の上に、涙があとからあとからこぼれ落ちていった。

「クラウド、よかったな安心して伯父さんの家に来い。」
かけられた言葉に、クラウドはぐっと涙を拭って言った。

「いえ、オレこの家に一人で住みます。」
「クラウド、おまえはまだ保護者がいる歳なんだぞ。」

強情な子だ…周りの眼がそういっていた、だけどクラウドには譲る気はない。
「オレは一人で…」
言いかけた時、セフィロスがそれを制した。
「クラウド、みなさんはお前の事を心配してるんだぞ。」
クラウドは抗議の色を浮かべてセフィロスを見る。
「でもセフィロスオレは…」
「おまえはまだ子供だ、だから一人で生活するのはあまりに心配なんだ。」
「クラウド、先生のいうとおりだ、意地を張らずに…」
クラウドはくっと唇を噛み締める。

セフィロスだけは、オレの気持ちを解ってくれると思ったのに…
セフィロスはクラウドの肩に手をかけて優しく言った。
「おまえはまだ子供だ、だから言う事を聞け。」

「!」
クラウドが手を振払おうとした時、セフィロスが耳もとで囁いた。
クラウド一人にも聞こえるか聞こえないかの小さな声…

「Ju te veux…」
クラウドは、はっとしてセフィロスの顔を見た。
セフィロスはにっと笑っている。
オレにまかせておけ…
確かにクラウドには、セフィロスの声が聞こえた。

「みなさん、この子はまだ世の中の事が解ってないんです、子供一人で生活していけるわけがない。」
「でしょう、だからすなおに伯父さんの家に来い。」
「いえ、それが事情がありまして、それはちょっと待って下さい。」
伯父はえ?という顔をした。
「どういう事情ですか?」
「この子は成績がとてもいいんです、今の成績ならどんな進学校にも行けます。」
セフィロスは私立の全寮制の有名高校の名前をあげた。
まわりから、ほう…という感心した声があがる。

「実はそこの高校の奨学生として、オレが内申書を提出することを、このこの母親と約束してるんです。」
「え?」
クラウドも初めて聞く事だった。

「伯父さんの家に行くとなると、転校せざるをえないでしょう?そうなるとオレはこの子の母親との約束を果たせません。」
「でも先生、ではどうしろと?」
「高校に入学するまでオレの家に住ませます、それなら問題ないでしょう?」

「セフィロス…」
クラウドは蒼い大きな眼を、さらに大きく開いてセフィロスを見た。
セフィロスは、いかにも殊勝げにふるまっているがクラウドには解る、きっと母とそんな約束等していない。

「でも先生、それじゃあんまりご迷惑じゃ…」
セフィロスは突然畳みにこすりつけるように頭を下げた。
「御願します、オレにこの子の母親との約束を守らせて下さい。そうじゃないとオレは一生悔やむ事になるんです。」

クラウドは唖然として言葉もでない。
…セフィロスが人に頭を下げるなんて…
まわりの親戚達はふだんのセフィロスを知らない、きっと熱血先生と思っているだろう
…いや、わざとそう思わせるようにセフィロスは演技しているのだ。

「御願します。」
セフィロスはもう一度言った。
「先生、どうか顔を上げて下さい…この子の事をそこまで心配して下さってありがとうございます、クラウドおまえはそれでいいのか?」
クラウドもセフィロスの演技に合わせるように殊勝な顔をして言った。

「セフィロス先生、オレ、先生のとこにお世話になります。そして母さんの望んだ学校に行きます…そうしたらきっと母さんも安心できるでしょうから。」
「クラウド、そうしてくれるか?これでオレもおまえの母親に胸を張れる。」
「先生、ありがとう。」
がしっと握手する二人。
周りの親戚達は感動的光景に、じーんとなっていたが、当の二人が心の中で舌を出していたのは言うまでもない。

「解りました、先生この子をよろしく御願します。」
「はい、おまかせください。」

親戚達がみな帰った後でクラウドは呆れたように言った。
「あんたが人に頭を下げるなんて初めて見たよ。」
セフィロスはくすっと笑う。
「オレはお前のためなら何だってできる、解ったか?」
そうしてクラウドを抱き締めて、久々の恋人同士のキスをした。

その温もりの中でクラウドは想う


…愛してる…愛してるよセフィロス…たとえあなたがオレ一人のものじゃなくても…