セフィロス先生vv 16
葬式の準備も、全部セフィロスがしてくれた。
近所の人と話し合いながら、オレは母の会社の電話番号や、ほとんど付き合いのなかった親戚の連絡先を、きかれたとおりに教えてた。

お通夜の夜、まだ親戚も誰も来てなくて、オレは、セフィロスと二人で母さんの番をした。

病院の先生が言っていた。今度無理をすると心臓が持たないかもしれないと、本人には言っていたと。
でも母さんはオレに一言も話さずに…そうあの日も、オレが母さんに嘘をついて、三者面談はオレだけでよくなったと言った日も、オレの事だけ考えてくれていた。


『クラウド、卒業したら働くなんてやめなさい、おまえの学費ぐらい母さんどうにかするから。』
『でも母さん、オレ…』
『先生から聞いてびっくりしたわ、おまえがそんな事を思っていたなんて、せっかく先生に眼をかけてもらっているのに、上の学校に行きなさい。』
『…電話あったの?』
『ええ、おまえの事をとても心配してらしたわ』

あの時は、セフィロスの事を考えるのもいやで、すごくぞんざいな言葉で母に返事した気がする。

『オレだって考えてるんだ、勝手に二人で話するなよ!』

…ごめん…母さん…


セフィロスは、オレの身体を支えるように、肩を抱いてくれている。
優しく髪をすきながら…ただそばにいてくれる。

「クラウド寒くはないか?腹は減ってないか?」
時間を空けては、何度も同じ事を聞く。
ああ、けっこうあんたって不器用なんだ…
こんな時なのに、少しおかしく感じながらオレも同じ答えを返す。

「大丈夫だよ…だって側にいてくれるから…」
セフィロスの胸に、体重を預けながらオレは答える。
…そうだよ、貴男がいなかったら耐えられないよ…こんな事…


翌日、顔も覚えていない叔父さんや、伯母さんがやってきて、セフィロスに一応お礼を言って、もう後は身内でやるからと、帰るように言っていた。

身内?一番母さんが困っている時に、何もしてくれなかった人達が?

セフィロスは帰る時、オレの髪をくしゃっとかき混ぜて、いつものように笑った。

「オレは一応帰るが、用があったらいつでも電話しろ、ただ顔が見たいからと言う理由でもかまわん。」
そして、周りに気付かれないように軽いキス。

「大丈夫だよオレ…」
「大丈夫な顔をしていない、オレをみくびるな。」
そう言って、もう一度オレの髪をくしゃっとして、自分の携帯を渡したセフィロス。

セフィロスが帰ってから、オレは、ずっと呼ばれたら返事して、教えられた通りの挨拶を繰り返すだけ。

「お客さん一段落したから、クラウド台所で御飯食べてこい。」

促されて台所に行くと、知っている近所のおばさんや、知らない人たちが、わいわいがやがや話しながら、お茶や料理の準備をしてる。

茶の間では、叔父さん達が、葬式に使う祭壇はいくらだの、花代がいくらだの…
オレに気付いた一人が、声をかける。

「なんだ?もうメシは食ったか?」
「うん、食べた。」
「少し部屋で休んでこい。」
言われるままに、部屋に行く。

本当にこれは現実か?オレは何をしてるんだ?

部屋に座って、セフィロスの携帯をじっとみる。
これでセフィロスの声が聞ける、セフィロスと話せる。

だけど今、セフィロスと話したら、オレはきっと泣いてしまう。
…まだ泣けない、今は…泣けない。

セフィロスの事を、想うときだけ現実に還る。

…セフィロスお腹空いた…でもオレあそこの物は、食べたくないんだ。
あそこの物を食べようとしたけど、その時はお腹一杯に思えたんだ。
セフィロスが作ってくれる、チーズとベーコンが入った、オムレツが食べたいんだ…
セフィロス、今度作ってくれる?

セフィロス…きっとオレって親不孝だ、こんな時に思い浮かぶのは、あんたのことばかり…

きっと天罰が下ったんだね、だってオレ思ってたもん、どうして母さん退院したんだ…って、母さんが退院しなかったら、ずっとセフィロスの側にいれたのにって…
ずっと心のどこかで思ってた、だから神様は、オレから永遠に母さんをもってっちゃったんだ…


「…最後のお別れをしてください。」
言われた言葉で、現実に還った。
いつのまにか葬式も終わり、気が付けば火葬場の釜の扉の前。

最後に母さんの顔を見る…

眠っているようで明らかにそうではない母さんの顔…
扉が開いて、母さんの棺が吸い込まれ、バタンと閉まった。
その時オレは初めて叫んだ…扉に取りすがって叫んだ。

「イヤだよ!イヤだよ!母さん!!帰ってきてよ!!母さん!!」
そのまま崩れるように、床に膝をつきそうになったオレを、力強く支えてくれたのは…

「…セフィロス…」
「バカが、こんなにギリギリまで我慢するな。」

そのままオレは、セフィロスにすがって泣いていた、泣き叫んでいた。

「セフィロス…母さんが死んじゃったんだ。」
「うん。」
「もう二度と会えないんだ。」
「うん。」
「もう謝る事もできないんだ…」

後は言葉にならずに…ただセフィロスの腕の中で、子供のように泣いていた。


散々泣いた後、クラウドは眠ってしまった。

…よほど張りつめていたんだろうな…
涙の跡を、唇で拭ってやりたい気持ちをおさえ、セフィロスは、自分の上着を掛けてやった。

「先生、少し飲みなさらんか。」
クラウドの伯父が、湯飲みに酒をついで持ってきた。

「いえ、オレは…」
「まあそういわずに、今まで甥と妹が世話になったようですからな。」
「はあ、では頂きます。」
セフィロスは、湯飲みを受け取って口を付けた。

「ふがいない身内とお思いでしょう?」
「いえ、別に。」
「いや、いや隠さんで下さい…」
男は自嘲ぎみに言った。
「さっきクラウドが、あんたにしがみついて泣いたときに思ったんですよ、この子は、私たちの前では泣く事もできなかったんだなって、妹に本当に悪い事をしてました。」

セフィロスは、苦悩に満ちた男の言葉を、否定も肯定もできずに、おとなしく聞いていた。
「妹の亭主が起こした事故の借金を、あいつが一人で返すと聞いた時、そりゃあ止めましたよ、女手一人で子供を育てながら返せる額じゃない。」
湯飲みを持つ男の手が、震えていた。

「だから、たかを括っとたんです。弱音を吐いていつか頼ってくると,借金を返すのを諦めてくれると…でもあいつは一人で働いて、働いて…」
男の眼から涙が一つ落ちた。

「…どれだけ謝ってもたりないですよ、妹には…本当に…せめてお詫びに、クラウドの面倒だけでも、見てやろうと思っているのですが…」

今まで関わり合いを恐れて、付き合いを断っていたクラウドの母の身内、でもその言葉に偽りはないのだろう。
セフィロスは、湯飲みを一気に煽って話そうとした、その時館内放送が入った。

『ストライフ様ストライフ様…集骨の準備ができました。休憩室を片付けて10分後に5番にお集まり下さい。』