セフィロス先生vv 15
「ストライフ…いやクラウド…オレはお前が心配でたまらない…どうしてオレから逃げる…どうして?」

ここは進路相談室、どうしても母親を連れてこないクラウドに、日曜日にむりにセフィロスは三者面談を設定した。

しかし、クラウドの頑な態度は変わらない、むしろよけい依怙地になったような…

出ていこうとするクラウドを、無理やり抱き締め、学校の中である事も忘れて口付けた。
嫌々をして顔を背けるクラウド、その唇を追って、無理に口付けを繰り返す。
食いしばった歯をこじ開け、舌をからめようとすると、ぎりっとクラウドがその舌を噛んだ。
びっくりして、セフィロスの腕が緩んだ所を、突き飛ばして離れる。
血の味が、口の中に広がった。

「言ってやるから!みんなに、あんたがオレにした事を、言ってやるから!!」

挑むように、セフィロスに言い放つクラウド、セフィロスにはその理由が解らない。
ただ、ここで引いてしまっては、二度と、この少年を手に入れられない気がした。

「言えばいい!誰に言っても構わない!!オレは、人に恥じる様な事を、した覚えはない!!」
「生徒に手を出しておいて!?もうここにいられなくなるよ!!」
「構うか!!お前に拒絶されて、ここにいる意味がどこにある!?オレがここにいるのは何故だと思う?」

真摯にクラウドを見つめるセフィロス、その翡翠の眼には、少しの濁りもない、嘘をついているようには、見えないのだけれど…

「嘘つき!嘘つき!嘘つきーー!!」
延ばされた腕をはねのけて、クラウドは叫ぶ。
それでもセフィロスは、無理矢理抱き締めた。
振り回すクラウドの腕が顔に当たる、足で蹴りあげられる、それでも離さない。離すわけにはいかない!

「いつオレが嘘をついた!?」
「オレが子供だと思って…すぐごまかせると思って…セフィロスの嘘つき…」

ふいにクラウドの身体の力が抜けた、蒼い瞳に見る見る涙が滲んでくる。
身体が震え、込み上げてくる嗚咽が漏れだす。

「…うっく…ひっく…嘘つき…」
セフィロスは、優しく背中を撫で上げた。
「いつオレがおまえに嘘をついた?お前は何の事を言っているんだ?」

セフィロスが、嘘をついているとは思えない…以前と変わらない優しい声…クラウドを魅了する低い優しい響き…

でも…

クラウドは、セフィロスを見上げる。
翡翠の優しいまなざしが、クラウドを包むように注がれていた。

「言ってみろクラウド、オレがいつ嘘をついた?」
セフィロスは右手で、柔らかく金色の髪を漉いた。
左手は、しっかりクラウドの腰を抱き込み離さない。

そう、ここはオレが臨んだ場所…オレが安心していられる場所…

ようやく、嗚咽が収まってきたクラウドは口を開きかけた、その時…

ばたばたと人が近付いてくる音、慌てて二人は離れる。

ガラッと戸が開いて、用務員が入ってきた。
「ああ、先生、やはりここでしたか…」
「そんなに急いで、何の用ですか?」
用務員は、泣いているクラウドを見て妙な顔をしたが、その言葉に用件を思い出して叫んだ。
「君がクラウド・ストライフだね?すぐに帰りなさい、お母さんが倒れたそうだ!!」
クラウドの顔から、完全に血の気が引いた。


「…はい、母に成り変わってお礼をいいます。本当にありがとうございました。」

…オレは何をしている?
さっきからバカの一つ覚えのように、同じセリフを客に言い、おじぎをして…
自分がやっている事なのに、まるで映画をみているように現実感がない。

「本当にねぇ、まだ若かったのに無理し過ぎたんだろうねぇ。」
母の会社の人、近所の人、そして今まで知らない顔をしていた親戚の人…

「だいたい女手一つで子供を育てながら借金帰すなんて、無理がありすぎたんだ。」
「あの子が、こんなに苦労しなきゃならなかったのは、亭主があんな死にかたしたからだよね。」

うるさい…うるさい…うるさい!!

みんな口々に勝手な事を喋っている。
今まで、母子二人切りだった家が、今日は妙に賑やかだ。

賑やかすぎて、うるさい…うるさい…


セフィロスと一緒に病院まで急いだ。
ついた時すでに母は、色々なチューブにつながれて、一人で呼吸もできなくなって、口から入れられたチューブから、若い医師が、大きな風船のような物で空気を送り込んでいる。
別の医師が、胸のあたりを規則正しく圧迫し、それを少しでもやめると、心臓の動きを映すモニターは、素人の自分が見ても解る様なおかしなカーブを描き、 母は、ぴくりとも動かない。

「息子さんですか?」
確かめるように言う医師に、蒼白な顔で頷いた。

「あなたはご親戚の方ですか?」
セフィロスに向かって医師が聞く。

「この子の担任です、この子の家は、親戚と絶縁状態なんです。」
セフィロスは、震えるクラウドの手を、きつい程強く握りしめていた。

「オレが一緒に話を聞きます。」
「そうですね、では、はっきり言います。回復の見込みはありません。」

目の前が真っ暗になった。
セフィロスの力強い腕が、自分を抱き込むように支えてくれなければ、きっとその場に膝をついてしまったろう。
「御覧になって解るように、心臓は動いてはいますが、痙攣している状態です。人の手で、血液を送れるように動かしているんです。」
「まもなく心停止すると?」
「はい、ここに運ばれたときは、すでに意識がなかったんです。息子さんがみえるまではと、なんとか、がんばったのですが…」

セフィロスは、腕の中のクラウドをじっと見ながら、決断したかのように聞いた。

「あと、どのくらい持ちますか?」
「一時間もたないでしょう。」
「では、この子に手を握らせてあげておいて下さい、心臓が止まるときまで。」
医師は静かに頷いた。


その後の事は、はっきりと覚えてはいない。
まだ温かみのある母さんの手を、両手でぎゅっと握って…
「ごめんね、母さん、母さん…」

ずっと、呟いていた気がする…

涙が、壊れたように、後から後から流れ出す。
そんなオレの背を、セフィロスが、しっかり支えるように抱いてくれてたのを、覚えてる…

やがて、どんなに胸を押しても、母の心臓が動かなくなり、チューブが全て外され、母の遺体を持ち返る準備が整うまで、廊下に座って待っていた。

もう涙も乾いてしまったオレを、セフィロスは、ただ、ずっと肩を抱いててくれた。

何も言わずに…