セフィロス先生vv 14     
眼を覚ますと、腕の中にクラウドの温もりがあった。
柔らかい金髪に顔を埋めてみる、疲れきったクラウドは、そのくらいでは眼を覚まさない。

…又、無理させてしまったな… まだまだオレも、人間ができていない…

あどけない寝顔を見ていると、まだ幼い少年を、自分の欲望の対象にしている事に、胸が痛む。
しかし同時に、誰も踏み入れていない領域に、自分の足跡が間違いなく刻まれている事に、この上もない満足を感じるのだ。

いつでも、この腕の中で抱き締めていたい…

クラウドが、この部屋からいなくなって、一人で眠るようになって…
眼を覚ましても、腕の中に温もりがない、
優しい寝息が、肌をくすぐる事もない。
その事がどんなに、自分を寒々とした思いに駆り立てていくか…
ここ数カ月で、セフィロスは思い知らされていた。

…オレは、おまえと離れたら…もう生きていけない…

セフィロスは、そっと唇にキスをする。
「…ん…」
くすぐったさに、クラウドが軽く身じろぐ。

少し開いた唇、赤い舌が誘うように、ちょろっと覗く、 たまらなくなって、今度は深く口付ける。
絡ませたクラウドの舌は熱い、セフィロス自身をとろけさせる程に…

散々貪っても、眼を覚ます様子のないクラウドに、セフィロスは苦笑して唇を離した。
…これ以上疲れさせるわけにはいくまい…
金色の髪を、一房とってキスをする。

…オレはずっとおまえと過ごしたい…そのためには…

これ以上、クラウドの寝顔を見ていると、ただですみそうもないので
セフィロスは、渋々シャワーを浴びにいった。

…話し声…?

ゆっくりと意識が浮上する、見なれた室内。

…ああここはセフィロスの部屋だ… オレが安心して休める場所…

「…解った…だからおまえも、言う事に気をつけといてくれ…」

話し声はセフィロス?
だれと話してるんだ?…ああ、オレ、夕べ、又、セフィロスに抱かれたんだ…
昨晩の自分の痴態を思い出し、恥ずかしさでどうしようもなくなる。

『離さないで、ずっと側にいてよ!お願いだから…』
そう言って自分からセフィロスに身をすり寄せた…
セフィロスはどう思っただろうか?
途中から記憶が飛んでしまっている…

「…悪気はなかった?おまえはそう言うつもりでも、クラウドは事実、傷ついてるんだぞ…」

ああ、セフィロスは電話してるんだ…電話の相手はエアリス?
思わず聞き耳を立ててしまう。

「…だからクラウドが卒業したら帰る…これは教授も納得済みの事だ…」
…帰る?オレが卒業したら?
昨日は絶対に離さないって言ってくれたのに…セフィロス?

「…結婚式の準備?おまえ結婚、結婚っていくつのつもりだ?まだ早いだろ?…解った泣きまねするなって…」
…結婚式?

「…解ってる、オレだってそうそう教授の信頼を、裏切るわけにはいかない。…ああ、クラウドはまだ何も知らない…」
…オレには内緒?騙してるの?

「…クラウドにはオレからうまく言うから、頼むからおまえからよけいな事は言うなよ…
いいか、お前も解ってるんだろ?教授が、オレとお前の結婚を、心から望んでいる事を、だから… 結婚式の準備!?解ったもう勝手にやっとけ、でもオレは3月までは帰らんからな。」

やっぱりセフィロス…オレとは本気じゃなかったんだ…こっちにいるときだけの愛人…
クラウドは、自分で自分の身体を抱き締めた…震えが止まらない…涙も浮かばない…
哀しすぎて…哀しすぎて…

朝食を食べている時、クラウドはセフィロスの顔が見れない。
「どうした?昨日又無理させたからな…怒ってるのか?」

…この優しさも嘘?
何か言葉を出すと、止まらなくなりそうで、クラウドは食べたくないのに、無理に食物を飲み込む。

なぜか不機嫌なクラウドを、いぶかし気に思いながらも、セフィロスは話題を変えた。
「クラウド、おまえ高校は行くのか?」
「高校?」
思い掛けない問いに、思わず聞き返す。
「ああ、お前の成績ならどんな高校も大丈夫だ、オレが太鼓判を押す。もうすぐ三者面談の時期だ、おまえの母親と今後のお前の進路について…」
セフィロスが言いかけた時、遮るようにクラウドがきっぱりと言った。
「行かないよ!」

「クラウド?」
「オレ、高校なんて行かない!卒業したら働く、ずっと前から決めてるんだ。」
挑むようにセフィロスの顔を睨む、その瞳には、今まで見たこともないような、濃い影が浮かんでいた。

「クラウド?どうして…おまえの成績なら…」
「うるさい!セフィロスの指図は受けない!ごちそうさま、もうここにも来ない!」

言い切られて、セフィロスは呆然とした。
呆然とするあまり、クラウドが席を立ってドアを閉めるのを、追い掛けていく事もできない。

エレベーターの中にかけこんで、クラウドは初めて涙を流した。
…終わりにしなきゃ…本当にこれで終わりにしなきゃ…
自分から関係を絶つのが、せめてものプライドだった、

セフィロスの優しさが、全て嘘だとは思わない、だけどお世話になった教授の娘との縁談…
きっと断れないのだろう…そう思いたい、じゃないと…
オレがみじめすぎる…

「大好きだったよセフィロス…今でも…好き…」
思わず呟きそうになった言葉を、クラウドは涙と一緒に飲み込んだ。

部屋に残されたセフィロスは、まだ呆然としていた。

…クラウド…何をそんなに怒ったんだ?

いくら考えても思い付かない、昨日この腕の中で、あれだけ自分にすがったというのに …
『離さないで…お願いだから側にいて…』
切れ切れに、なんども喘ぎながらそう叫んだクラウド…それが、
『あんたの指図は受けない!…もうここにも来ない』

…どうしたんだクラウド?どうしてオレを拒絶する?
世界中が、自分を拒絶した気がする。
足下から、ガラガラと音を立てていく様な喪失感から、彼はまだ立ち直れなかった。