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前略 母さん元気ですか?
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| 熟睡していてもソルジャーであるザックスにとってその気にさえなれば、気配を感じる事は難しい事ではない。ザックスはセフィロスがクラウドを書斎に運び込んでから自分の寝室へ戻ったことを理解していた。 夢現の中で書斎にソファーベッドがあることを今までザックスに知らせていないセフィロスに文句を言い募っていたのである。 それからどれほど時間が過ぎたのだろう。喉の渇きを覚えたころキッチンに人がいる気配がする。見覚えのあるパジャマと金色の髪……。ザックスもノロノロと動き出しキッチンへ入った。 そしていつものように髪をワシャワシャとさせてから体重を掛けるようにして後ろから抱きついた 「なぁ、クラウド。俺にも水くんない?」 クラウドは何も言わずに自分が飲んでいたグラスを濯いでから新たに水を入れて抱きついている手にグラスを押し付けた。 ザックスは半分、体重をクラウドに預けたままでグラスを受け取って水を飲み干した。 「あんがとよ。……ところで、クラウド。お前、いつもどおり旦那のベッドへ行けよ。いいじゃん、おっかさんがいても。でもって俺に書斎のベッド、譲ってくれ。やっぱ、ソファーじゃ寝にくいわ。」 「いつもどおりって……どういうことかしら?ザックスさん。」 腕の中から聞こえた声はクラウドとは似ても似つかぬ女性の声。ザックスは慌てて跳ね退きマジマジと見詰めて息を飲んだ。 「げぇ〜っ!やべぇ〜!」 その時、背後にもっと剣呑な気配を感じた。恐る恐る振り返ると腕を組み、入り口に背を寄りかかるように立っているセフィロスがいた。 (前門の狼、後門の虎……ってか……まじ……やばいっす……。) 酔いが一瞬でさめた瞬間だった。 冷や汗が背中を流れ落ちて行く。一秒がこれほど長く感じた事はザックスの生涯にも数えるほどしか無い。この状況から逃げ出すのにはどうするべきかザックスの頭脳はフル回転で逃げ道を探っている。 そんな緊張した空間に似つかわしく無い声が聞こえた。 「……セフィ……ザックスを苛めんなよ。」 怪我をして入院したときにヒルダが買ってきた唯一のパジャマを母に貸したために、セフィロスのTシャツをパジャマ代わりに着ているクラウドが、目を擦りながらフラフラと歩いてきた。 その姿はまるで幼子である。両手をセフィロスの首へと伸ばし甘えたように抱き付いてくる。 「セフィ……眠い……。」 どうやら寝惚けているらしいクラウドはここに母親がいることに気付いていないようである。 「いい子だ。傍にいるからゆっくりと休め。いいな。」 「うん。」 セフィロスは一瞬どうしたものかと逡巡したのだが、結局はいつもどおりクラウドを抱き上げて寝室へと運んで行った。 「た、たすかったぁ〜。」 「今のうちに、書斎のベッドへ逃げたら?」 ヘナヘナと座り込んだザックスにシェリルが提案する。振り向くとニッコリと微笑んで 「セフィロスの事は心配しないで、任せなさい。」 「よろしくたのんます。」 ザックスは『なさけねぇなぁ』と思わないでも無かったが、ことセフィロスに関してはヒルダにしろシェリルにしろ、女性陣に任せたほうが上手く事が運ぶようである。 (クラウドのおっかさんも、おっかさんしてんだよなぁ〜) と愚にも付かない感想を抱きながら這這の体で書斎へと逃げ込んだのだった。 初めて訪問した家の冷蔵庫を開ける事に躊躇いを感じない訳では無かったのだが、先程の息子の様子と今夜全般に交わされた会話を思い出しながら、ここは息子の住む家なのだからと自分にいい訳をして中を物色した。 これからセフィロスと交わすであろう会話を思い浮かべるとやはりワインの一つも飲みたくなるというもの。シェリルはよく冷えた白ワインを見つけてグラスと一緒にダイニングへと向かった。 上等なワインの香りを愉しみながらダイニングに飾ってあるウータイの結納飾りを暇に任せて眺めているとセフィロスが漸く戻ってきた。 「失礼して勝手にやらせてもらってるわ。」 「かまわんが……ザックスは?」 「書斎に逃げ出したわ。」 クスクスと笑う姿は少女のようである。考えてみればセフィロスの相手は殆どシェリルと大差の無い年頃の女性が圧倒的に多かったのだが、これほど幼い雰囲気の女性は一人もいなかったように思う。 セフィロスはそんな事を思い出しながら冷蔵庫から夕食の残り物を見繕ってきた。少しでもこの緊張を解したい。もしくは決定的瞬間を先へ延ばしたいと思う深層心理の現われだろうか。いつもセフィロスからは考えられないほど酷くのんびりした動作である。 「落ち着いて、座ったら。」 先に席についているシェリルが声をかけた。セフィロスは観念して向かい合わせの席に腰を下ろしたのだった。 「息子は……クラウドは頑固でしょ?」 微笑みながらシェリルはそう尋ねてきた。セフィロスはどんな関係なのかと詰問されるとばかり思っていたので拍子抜けしていた。 「確かに。」 「でも、根は素直なのよね。」 うふふと笑いながらシミジミと言葉を紡ぎだすシェリル。 「あぁ、そのようだ。」 セフィロスはこの会話の到着点が見えずいる。何故、自分の周りにいる女性はこうも一筋縄ではいかないのか頭を抱えたい気分である。本当にこのシェリルという女性は見た目の幼さとは程遠い豪胆さを持ち合わせているようだ。クラウドの性格が形成された理由の一端が見えるようだ。 「いつも『セフィ』って呼ぶのかしら?」 「あぁ、プライベートでは…いや、二人でいるときだけ。普段はザックスの前でも呼ばない。」 「じゃあ、さっきのアレは……酔っていたってこと?」 「多分。…寝惚けていたのだろう。」 「……本来の姿ね?」 「……」 セフィロスはそれに返事をする事無く、立ち上がるとダイニングボードの上から結納飾りを持ってダイニングテーブルの上に置いた。 「これはウータイの結納飾りというものだ。」 「意味があるのね。今日の食事とおんなじね。」 セフィロスは頷くと、一つ一つの飾りの意味を説明し始めた。一通りの説明が終わるとシェリルは首を傾げながらセフィロスに尋ねた。 「要するに、これは婚約とか結婚が決まったときに新郎側から新婦の家に贈るものね?」 無言で大きく頷くセフィロスである。 「それを用意してるってことは……私にこの飾りとこの目録を用意したと考えていいかな?」 再び、無言のまま大きく頷くセフィロスである。 「でも、目録って……クラウドと物々交換したみたいな気になるわ。」 「……物々交換といった意味合いでは無いが……。」 「判ってるけど。……それでも、やっぱり……。今、読んでもいい?」 「ニブルヘイムに帰ってから読んで欲しい。……ミッドガルは同性婚が合法的に認められている。」 目録に目を通すことを止め、ミッドガルの同性婚の事実だけを淡々と話しているセフィロスだが、その意味する内容は間違いようも無い。 「……。」 シェリルは無言のままグラスを傾けている。セフィロスも同じようにワインを流し込んでいる。一本目は軽く開いてしまった。冷蔵庫から二本目を取り出してグラスへ注ぐ。シェリルはそのワインを眺めながらポツンと呟いた。 「孫は諦めなきゃいけないみたいね。」 シェリルはセフィロスを見据えながら呟いた。 「クラウドはソルジャーになりたいと願っている。そして能力からいってもその願いはかなうと思われる。……その場合、クラウドに子供が出来る事は無い。」 「どういうこと?」 「ソルジャーになるとDNAの一部が変化をするために精子に繁殖能力が無くなる。」 「いやだ〜、種無しになっちゃうの?」 「……まぁ…そうだ。」 種無しと言われるとなかなか情けないものがあるのだが、事実であるのだから仕方があるまい。セフィロスは憮然とした様子で事実を認めた。 そして目の前でケラケラと笑い転げるシェリルを見てセフィロスは『おきゃん』という形容詞を思い出した。ズケズケと言いたい事を言う割には嫌味にならず、カラッとした明るさと可愛さのある女性につける言葉だ。 「どう転んでも孫はできないのね。」 笑いの虫が落ち着いたのだろうかシェリルが静かに諦めの言葉を口にした。 「そう言う事になる。」 シェリルはグラスを弄び、揺れるワイン越しにセフィロスを眺めている。 「クラウドがあんなに甘えることができるなんて思ってもみなかった。小さい頃は本当に甘えん坊だったのに、いつの間にか甘えることも泣くことも無い無表情な子供になってしまってとても苦しかったわ。……セフィロスのお陰ね。」 まるで喉が渇いて仕方が無いというようにグラスを呷ってから言葉を続ける。 「一つだけ確認したいことがあるの。……噂のお相手、クラウディってもしかしてクラウドなのかしら?」 「あぁ、夏休みに住み込みで仕事を頼んだときに安全のためと身元を隠すためにした事が段々と……。」 「あの子が承知したのね?あのパーティーのときも?」 あのとは11月に行われたエミリアの誕生パーティーの事だろう。 「それをどこで?まさかニブルまで…」 「違うわ。今日、行った美容院で見た週刊誌の特集に『貴方の遍歴』があったのよ。そこでクラウディの写真を見て、ちょっと驚いたわ。だって、あんまり息子にそっくりなんですもの。……でも信じられなかったの。あの子は本当に女装するのが嫌いだったから。村で祭りのときに頼まれたことがあったのよ。でも頑として引き受けはしなかった。……そのクラウドがセフィロスのためにはするのね。恋のなせる業かしら?」 ケラケラと笑い転げながら大胆な台詞を吐くシェリルである。 「……。」 これになんと返事をしてよいのやら、流石のセフィロスにも判らない。恋の業と言われても肯定も否定も出来ない。その上、いくら週刊誌ネタといえども『遍歴』というからには過去の女性達が一通り乗っているのだろう。今更、誤魔化しようも無い。 一頻り笑い転げた後、大きく息をついて正面から真剣な面持ちでセフィロスを見詰めてきた。セフィロスはその視線を受け止めながら、既視感に浸っている。 (そうだ、この視線。クラウドも初対面のときから気後れする事無く俺を見詰めてきたが、シェリル、クラウドの母も同じだ。……そしてこの視線を知っていると感じるところまで。何故だ……。) そんなセフィロスにお構い無くシェリルが言い放った。 「もう一人、息子が増えたと思っていいのね?」 今までの会話から、反対されるとは思ってはいなかったがこの台詞には驚いたが、そんな事はおくびにも出さず 「薹(トウ)のたった息子だが……。」 「頼りがいがありそうでいいんじゃない?それにクラウドは頑固なくせに流されやすいところもあるから、年上でグイグイ引っ張ってくれる人のほうが良いと思ってたし。」 (それに、クラウドがミッドガルへ…神羅の士官学校へ行くと言ったときに思い出しのかと思ったのよ。) シェリルは心の中の言葉を口に出さずにワインで押し流した。 セフィロスは思い出しては無い、クラウドも幼すぎて覚えていない。今は一人、自分の胸の中にしまって愉しむ事にしよう。いつかきっと笑いながら話せるときがくるはずだから。シェリルはそう自分に言い聞かせているようだ。 一方のセフィロスも戸惑っていた。いくら料理上手で年上でグイグイと引っ張ってくれるといっても所詮は男性同士だ、こんなにあっさりと認めても良いものだろうか? 母親として同性愛になんの抵抗も無いのだろうかと? セフィロスがかえって考え込んでいると追い討ちをかけるようにシェリルが止めを刺した。 「不束な息子ですが末永くよろしくお願いします。」 頭を静かに下げたのだった。 (クラウドがミッドガルに行くと言ったときに、いつかはこうなる予感があったのかもしれないわ。) 自分自身が余り冷静に受け入れている事実をシェリルそう分析していた。 「………。」 なんと返事をするべきなのだろうか、『本当によいのか?』とか『後悔しないな?』とか念を押してしまいたいがそれでは藪蛇だろう。セフィロスが戸惑っていると後頭部を軽く叩かれて声がかかる。 「此方こそ、不束者ですがよろしくお願いします、って頭さげんだよ。」 ザックスが立っていた。 「お前に言われる筋合いは……。」 「俺が言わなきゃ、判んないくせに。大体だな、旦那、ちゃんと『息子さんを下さい。』って言ったのか?言ってねぇ〜だろう。」 どうやら書斎に逃げ込んでもまだ諦めずに耳をそばだてていたようだ。 「話が通じているのだから問題はあるまい。」 開き直ったセフィロスである。 「あるだろうよ。筋がとおってねぇよ。シェリルも旦那に甘すぎるぜ。」 「でも私の息子になってくれるのでしょ?いいじゃない、甘やかして。」 「まぁ、良いけどな。つまんねぇ〜よ、楽しみに待ってたのによぉ。」 ザックスはワインボトルに手を伸ばすとシェリルとセフィロスのグラスに注いでから、グビグビと直接口をつけて飲み始める。 「馬鹿、もったいない飲み方をするな!」 「あんだよ。まともに申し込みもできない不甲斐無い奴に文句言われたかねぇや。」 「貴様に、不甲斐無いなどと言われる筋合いこそ無い。大体、貴様こそクラウドとシェリルを間違えて抱きつくなど情けない。」 「うるさいね。後姿がそっくりなんだよ。……良く考えればチョコボの鶏冠はなかったけどな。」 ザックスとセフィロスがいつもの調子で騒ぎ出した。シェリルはそれを眺めながらクラウドの表情が豊かになった理由を知った。セフィロスだけでなくザックスやヒルダなど沢山の人に見守られているのだと判ったからだ。 ミッドガルに出てきて良かった、シェリルは二人の他愛の無い言葉の応酬を眺めながら微笑んでいた。 back top next |
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