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前略 母さん元気ですか?
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五番街は賑やかな街でその中心部にバスのターミナルは存在する。ミッドガルの中心に近づくとかえって象徴である神羅ビルは見え難くなる。 シェリルは街の賑やかさに目を奪われていた。街中が緑色で溢れているのは何か意味があるのだろうか?不思議な気持ちで眺めているとターミナルに着いたと車内アナウンスが流れた。 ハンドバッグの中から荷物の引換券を取り出して、降車の順番を待つ。その間に窓から外を覗き、迎えに来てくれているだろうかとクラウドの姿を探してみる。もし迎えがなかったら自力でブラウン家にたどり着かねばならないのだが、この街でそれが可能なのだろうか不安がよぎる。 バスを降りてもクラウドらしい姿は何処にも見当たらない事にすくなからず落胆したのだが、仕事中なのかもしれないと思い直し、バスの運転手が荷物を取り出しているところで引換券を渡しバッグを受取った。 「ストライフさんですね。」 その時、背後から女性が話しかけてきた。 「はい?」 荷物を受け取ってから振り向くと落ち着いた感じの女性がニコニコと微笑みながら立っていた。 「シェリル・ストライフさんでしょ? はじめまして、ヒルダ・ブラウンです。」 女性が名乗りながらさり気なくシェリルの手からバッグを受取背中に手を回して歩き始めるように促した。 「あ、あの……。」 シェリルはこの女性がブラウン夫人かと納得したが、何故、彼女がここにいるのか理解出来ずに戸惑っている。 「クラウドが仕事で迎えにこれませんので、代理ですわ。それに彼では車も運転出来ないすし。クラウドの言っていた通り本当に良く似てらっしゃるのね。直ぐにわかりましたのよ。……さぁこちらへ、そのネイビーブルーのセダンです。」 ヒルダはトランクを開けてバッグを入れるとシェリルを助手席に座らせた。 「お疲れになったでしょ? 観光はあとにしてまずは落ち着きましょうね。」 ヒルダは車を発進させた。 四日ぶりに柔らかなベッドに身を横たえシェリルはヒルダの言葉を反芻していた。 ブラウン夫人、いやヒルダは手紙の印象よりもさばけた感じの女性で直ぐに打ち解ける事が出来た。出会って直ぐにヒルダと呼んで欲しいと言い同時に自分のこともシェリルと親しげに呼んでくれる。それが旧知の仲のように感じるほど自然であった。 クラウドが神羅で働いている。それも将来のソルジャーとしてセフィロスの元で訓練を受けながら神羅の本社に勤務しているとヒルダは言っていた。そして夕食には訪ねてくるとも言っていた。 訪ねて来るって……ここに住んでいないの? セフィロスは、覚えていないのかしら? そしてあの忌々しい科学者はクラウドの名前に心当たりは無いのかしら? 不安がシェリルを支配する。そして思い出がその不安にすり変わっていく頃、シェリルは眠りに落ちていた。 目が覚めると室内はすっかり薄暗く日が落ちているようであった。四日間の移動とその中での仮眠しかとっていなかったシェリルは疲れからいつの間にか眠ってしまっていたらしい。慌てて起き上がり、鏡を覗いて寝癖を整えて部屋を出ようとしたとき、ノックの音がした。 「はい。」 「かあさん? 俺……クラウド。」 懐かしい声に急いでドアを開けると2年前から見ると随分と大きくなった息子がそこに立っていた。 奔放に跳ねている髪は見事に父親譲りで、ますますその面影を強くしたように思える。 「……すっかり大きくなって…。」 シェリルはクラウドを想いっきり抱きしめた。母の腕の中でジタバタと暴れている息子を解放して、じっくりと見詰める。 「なんだか、綺麗になったわね。」 シェリルは微笑みながらそう言った。 「な、なんだよ。その綺麗になったって…。大きくなったとか、逞しくなったとか言えよな。」 母の言葉にドッキとしながらも憎まれ口を返す。 「あぁ、そうね。本当に背も伸びたのね。」 取ってつけたかのように今更な感想を言う母に脱力しながらも夕食の時間だと告げるクラウドであった。 クラウドに案内されてダイニングルームへ行くとセフィロスが座っていた。 十数年ぶりのセフィロスはすっかり大人の男の顔をしている。時の流れを感じたシェリルは賢明にも微笑んだだけで何も言わずに席に着こうとしたところ、もう一人室内にいた黒髪の、やはりソルジャーだろうと思われる人物がエスコートして椅子を引いてくれた。 「ありがとう。」 軽く礼を言って腰掛ける。 「どーいたしまして。」 おどけた調子がかわいらしい、とシェリルは思った。 席は主賓の席にシェリルが座り、その右にクラウド、セフィロスと座り反対側にヒルダとザックスが座っている。< 「少しはお休みになれたかしら?」 ワインを注ぎながら尋ねてきた。 「ええ、とてもグッスリと眠ってしまったようです。」 「ニブルヘイムからは、遠いもん。疲れただろう?」 クラウドが心配そうに覗き込んでいる。 「大丈夫よ。」 「シェリル、ようこそミッドガルへ。」 ヒルダの言葉に皆が乾杯をする。 「ご紹介しましょうね、クラウドの隣がセフィロス。そして私の隣にいるのがザックス。二人とも神羅のソルジャーよ。」 シェリルはじっとセフィロスの様子を観察していたが懐かしいというような表情は見えずに、どこか緊張しているのを感じていた。それに比べるとザックスというソルジャーはどこか浮かれた様子が見える。なんとなく違和感を覚えるシェリルである。 多少の緊張を含んだ雰囲気で食事は進み、ワインのボトルが次々と空になって行く。それと比例するかのように徐々に会話が弾んでいるくが、主な会話はヒルダとシェリルとザックスである。 ヒルダが旅の様子やミッドガルの印象を尋ね、ザックスが相変わらずズケズケと突っ込んだ質問をしているが、シェリルは笑いながら機知に富んだ答えで適当に切り替えしている。そんなシェリルを見てセフィロスはクラウドの性格はこの母親譲りである事を理解していた。ますます、正直に話してしまったほうが今後のためだろうと確信するが、一体いつどうやって切り出せばよいのか。きっかけを探ってしまう事に気を取られすぎて上手く会話に乗れずにいた。 クラウドにしてみればもっと深刻である。ザックスは先ほどから話題をクラウドの幼少の頃に絞っている。最後におねしょをしたのは幾つの時だとか、初恋は誰だとか。 「ザックス、いい加減にしろよ。」 とうとう堪りかねたクラウドがザックスに噛み付いた。 「あら、クラウド。目上の人にむかってそんな口の利き方、かあさんは恥ずかしいわ。」 「気にしなくていいって。ザックスはね、敬語は嫌いだって言って、使うとデコピンするんだ。」 「まぁ。……本当なのかしら?」 「ホントっす。クラウドの奴は堅っ苦しくっていけねぇ。ここにいる旦那なんかクラウドの敬語が嫌で『罰』と言っ………ってぇな〜、あにすんだよ!」 「少し黙って食え。」 ザックスがテーブルの下で足をさすっている。どうやらセフィロスから蹴りが入ったようである。 『罰』と称して抱きしめたりキスをしたりしていたのは事実だが、それをザックスのように後先を考えずベラベラと喋られては堪らないのはセフィロスである。クラウドも真っ赤になって俯いてしまっている。 ザックスはセフィロスに文句を言いながらも、クラウドの表情を見て『拙ったな。』と思っていた。 実はザックス、少々酩酊してる。クラウドも上戸だが、その母もかなりの酒豪である。そして、クラウドと同じで勧めると進め返されるのである。この二人を相手に注いだり注がれたりをしていたら、普通ならとっくに潰れている量をザックスは飲んでいるのだ、酔っていても無理は無いだろう。 シェリルもクラウドとセフィロスの様子から『罰』の内容に想像がつかないわけではないが、この場は笑って誤魔化す事にした。 「まぁ、クラウドったらセフィロスさんにもそんな口の利き方をしているの?」 「プライベートではね。」 ぶすっと答えるクラウド。 「仕事中も気にするなと言っても、『勤務中です』と言って譲らないのだ。」 「当たり前だろう。公私ははっきり分けたいんだ。」 「下らんな。」 「セフィロスには下らない事でも俺には下るんだ。」 「頑固者。」 「我が侭なセフィロスに言われたくないね。」 つい何時もの調子で言いあってしまっているが、傍目にはどうしたってこれではじゃれあっているようにしか見えない。 シェリルは目を丸くして二人を見ているし、ザックスはヤレヤレまた始まったと言わんばかりに肩を竦めてデザートに専念する事にしたようである。 ヒルダはさり気なく皿を下げ始めてデザートとコーヒーを用意していた。 シェリルはクラウドが文句を言いながらもセフィロスに甘えている事に気がついていた。そして『公私を分けたい』と言う台詞から、クラウドがセフィロスと一緒に住んでいるのではないかと見当をつけていた。 デザートも済みリビングに移動して食後酒を飲み始めたのを見計らってシェリルがクラウドに尋ねたのだった。 「士官学校はどうしたの?」 「卒業したよ。」 「まだ2年も経っていないのに?」 「そのことは俺から説明しよう。」 セフィロスがシェリルに士官学校とソルジャー候補生の説明を始めた。そして説明が終わるとシェリルはセフィロスに尋ねたのだ。 「それでクラウドは指導担当者であるセフィロスさんと一緒に住んでいるのね。」 「あぁ、本来ならば一般兵舎に住むのだが避けたかったのでな。」 「何故かしら?」 「明日、兵舎の見学を予定している。自分の目で確かめて欲しい。」 「……そうなの。でも私にヒルダの家に住んでいると嘘を言った理由は?」 「それは、書類上の住所は此処だからだ。クラウドが俺と一緒に住んでいると知られたくは無い。神羅から何処に漏れるとも限らない。安全のためだ。」 「でも通勤は一緒なのでしょ?」 「俺がクラウドの送迎をしている事になっている。たまにザックスやヒルダにもカモフラージュを頼んでいるが。」 「随分と気を使っているのね。」 「充分に気を配っておいても充分すぎる事は無いと思っている。」 暫くの間、シェリルはじっとセフィロスを正面から見据えてから、ふわっと柔らかい微笑を浮かべるとクラウドに向き直り 「大事にされているのね。安心したわ。」 と言った。 「今夜は遅いし、シェリルも疲れたでしょ。もう休んだ方が良いと思うわ。明日の晩はセフィロスのアパートにお邪魔することにしましょう。」 ヒルダがそう言うとシェリルはにっこり笑って頷いたのだ。どうやらセフィロスの正念場は明日に持ち越されたようである。 back top next |
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