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非時香果
…ときじくのかのみ… 7 |
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「…ええ、あの日ナターリアがザックスさんと話をした後に、バーの外で待ち伏せして、東の岬に誘い出しました、そして彼女が忘れ物だと言って渡したザックスさんのシャツで、首を絞め…突き落としました…この腕の傷はセフィックさんのおっしゃった通り、その時についた傷です…そうです、はじめからザックスさんに罪をかぶせるつもりでした。」 ザックスはなんとも言えない顔をした、セフィロスは全く表情を変えない、淡々とコリンヌの訴えを聞いていた。 「ナターリアが言ったんです『ひょっとしてあなたジョルジュを殺したの?あなたの思いどおりにならないからってあの人を殺したの!?』って…そんな、私があの人を殺すわけない…あんなに愛したあの人を…でも、でも…思い出したんです私…でも悪いのはナターリアよ!」 コリンヌの目に涙が浮かぶ、両肩はぶるぶると震えていた。 「ナターリアが悪いのに、あの女が誘惑したからジョルジュは迷ったのに、じゃなかったら、永遠に私だけを愛してくれるって約束したあの人が、約束をやぶるわけないわ!」 嗚咽を漏らす女にザックスは哀れみの視線を送る、きっと彼女はその現実を受け入れられなかったのだろう。 「思い出したんです、最後にジョルジュが帰って来た日、何があったか…あの日、彼は言いました『もう、ここには来ない、君とは別れてナターリアと結婚する、エレは連れて行く、君の我侭にこれ以上あの子まで犠牲にする事はできない』と…」 「それでジョルジュを殺した?」 署長の問いに、コリンヌはこっくり頷いた。 「あの人はエレにミッドガルで教育を受けさせたいと思っていました、そしてエレが村の子供達になじめない事も知っていました、だから帰る時にエレを連れて行くといったのです。」 コリンヌははうつろな目で語り続ける。 「あの女が、ジョルジュばかりかエレまで私から取り上げる!?そんな事承知できるはずありません、私は夫と娘の3人でここで平和に暮らしたかっただけなのに…でもジョルジュは…」 自分に向けられていたはずの夫の愛が、もうどうしようもないほど失われてしまったと、気付いた時、もう彼女のとる道は一つだったのだろう。 「私はジョルジュに言いました『もう二度と来ないのなら、あなたがくれたものを全部埋めて処分して行って、二度と私の目に触れさせないで、そうしないとエレを殺して一緒に死ぬ』と…」 「どうやって殺したんだ?」 「ジョルジュに睡眠薬をこっそり飲ませました、そうとは知らないジョルジュは、あのオレンジの木の根元に大きな穴を掘って…」 「エレ、このくらい掘ればいい?」 「ううん、まだ深く掘らないとだめよ、もっとクラウドの背が隠れるくらい。」 「そんなに大きなものをうめるの?」 「うん、大きくて大切なものを埋めるの。」 「徐々に薬が効いてきます、ジョルジュはその穴の中で眠りこみ…」 穴を掘っていたクラウドは、不意に軽い目眩に襲われた。 変だな、なんだか眠い… 「どうしたの?クラウド。」 「何でもないよ、エレ…」 言いながらもクラウドはがっくりと膝をつき、やがて穴の中に倒れ込む。 「クラウド?クラウド?」 「夫が眠り込んだのを確認すると、私は上から土をかけました…泣きながら…あの人の名を呼びながら……でもこれでようやくジョルジュを自分だけのものにできると、安心してもいたのです…そうして私はナターリアに会うまでは、その事を綺麗に忘れていました…自分でも夫は今度こそ3人で暮らすために、戻ってくるのだと信じるほどに…」 何度呼んでも、穴の中のクラウドから返事がないのを確認すると、エレはにっこりと笑った。 「やっと効いたのね、クラウド、私見てたの、あの日ママがパパを埋めるとこ、でもねママったら泣きながら埋めてたのよ、変でしょ?やっとパパを独り占めできるのに泣く事はないのにね。」 少女は愛しげに、穴の中のクラウドに語りかける。 「クラウド、ここにずっと居てね、私の宝物と一緒に大事に埋めてあげるから、ちゃんと会いに来るからずっとここに居てね、私ママみたいに忘れたりなんかはしないから。」 何も知らず、安らかな寝息を立てるクラウド、さらさらと頬にこぼれる金色の髪… 「綺麗ねクラウド、ほんと綺麗、初めて会った時から決めてたの、クラウドは私だけのものだって、だから安心してね、ずっとここに居させてあげる。」 エレは無邪気にもう一度笑った。 「どうしたザックス?思い詰めた女は恐いだろう?」 「ああ、しかしどうしてああなるのかね。」 コリンヌの話を聞き終えたザックスは、外の明るい陽射しの中で大きく背伸びをした。 「あの女は少しパラノイアの気があるらしいな、思い込みが強くて自分の要求が聞き入れなければ、すぐにそれが身体不調として現れる、そして都合の悪い記憶を消して行く、病弱と言うのはそう言う意味だろう、それで今まではよかったのだろうが。」 「それが通じなくて、切れちゃったわけね、まあ旦那はお気の毒だけど…残された娘がね。」 言いながらザックスは、前を見ないで走って来た少年を受け止めた、3人で追いかけっこをしていたらしい、後に二人の少年が続いていた。 「おい気をつけろよ、ケガするぞ…あ、おまえは…」 「ごめんよ…あ、あの時のにーちゃん。」 セフィロスが興味深げに覗き込んだ。 「知り合いか?」 「ああ、ああの時エレを虐めていた悪ガキだよ、いいか、男なら女の子虐めたりするんじゃないぞ、卑怯だろうが。」 少年はむーっと口を尖らせた。 「にーちゃん、何も知らないくせに余計な口を出すなよ。」 「余計な口?」 「悪いのはエレだぜ、あいつ変なんだ。」 「変?どんな風に?」 セフィロスが少し声を低めて聞くと、それまで黙っていた他の少年も口を開く。 「オレ達最初はあいつと遊んでやっていたんだ、だけどあいつ我侭で、そしてすぐに人の大事なものほしがるんだよ。」 「そして、あいつが欲しがったものがすぐになくなるんだ、最初はあいつが盗ったなんて思わなかったんだけど…」 「オレの妹が買ってた子猫、あいつが殺して持って行ったんだ。」 「殺した!?」 セフィロスとザックスの声が重なった。 「そうだよ、妹にちょうだいって言って、駄目だって言ったら無理に持って行こうとして、子猫が嫌がって暴れてあいつの手を引っ掻いたら、あいつ子猫の首絞めて殺しちゃったんだ『これで私だけのものよ』って言って、あの後あいつの母親が来てお金払って行ったけど。」 「その後もさ、女の子達が遊んでいると、大事にしているものを勝手に持って行くんだよ、だから追い返してたんだ。」 「殺したのは猫だけじゃないよ、オレのうちの小鳥も篭ごといなくなった、あいつの家からでたゴミに、その篭だけあったんだよ、でもあの家に小鳥はいない…オレ達が言っている意味解る?」 「大人達は金持ちの家の子だからって、知らないふりをしてるんだ。」 セフィロスは最後まで聞かずに、飛び出していた。 「おい、待てよにーさん!」 ザックスも慌てて後を追う、追いながらもザックスは、さかんに自分の考えを否定しようと叫んだ。 「まさかな…まさか…エレがクラウドを殺すなんてな…そんな……」 走りながらセフィロスは叫んだ。 「あの女に育てられているんだぞ!欲しいものを手に入れるにはどうすればいいか、あの女に教わっているんだぞ!」 「あ…でも…」 「あの娘はクラウドの心が手に入らない事が解っている、ホテルに来た日、クラウドを抱きしめるオレを見る目は夜叉の目だった。」 「夜叉?」 「女の目だ、嫉妬に狂った女の目、自分のものにするためならば殺す事も厭わない、狂った女の目だ!」 クラウド!クラウド!無事でいてくれ!! ぱしっ、ぱしっと頬を叩かれた。 誰だよ、眠いのに… 誰かが耳元で、自分の名前を大声で何度も呼んでいる。 うるさいな、オレ眠いって言ってるでしょ、セフィ… セフィ?ああ…この声セフィだ…帰ってきたのかな… 「…お帰り…セフィ」 ぼんやり目を開けると、恐い顔のセフィロスが自分を覗き込んでいた。 「クラウド…大丈夫か?どこか痛くないか?」 「ん?どうしたのセフィ、どこもどうもないよ、ただ眠いだけだよ…」 言いながらクラウドはぼんやりと周りを見回す、眠る前の記憶がない。 あれ?ここどこだっけ…え?なんでオレ泥だらけ? 目に映るのはオレンジの木、ああエレの家の庭だ、そういえばオレ頼まれたんだ…とようやくクラウドは思い出した。 そしてもう一度あたりを見回すと、ザックスが背中でエレをかばっていた。 「ザックス、そこをどけ!オレをこれ以上怒らせるな!」 「駄目だにーさん!クラウドが悲しむ、この子に手を出しちゃだめだ!」 「じゃあおまえは、その娘がクラウドにした事を許せと言うのか?オレにはそんな事はできん!」 クラウドを抱き上げながら叫ぶセフィロス、その響きはあたりを凍りつかせるような極低温の声だった、さすがのザックスもいつもの軽口を叩けない。 …あ、セフィ怒ってる…もう本当に子供っぽいとこあるんだから… まだぼんやりとした頭で何も解らず、クラウドはいきなりセフィロスの顔を、両手でゆっくりと包んだ。 「だめだよセフィ、そんなに怒っちゃ…エレが脅えてるよ、早く帰ろう、オレすっごく眠いんだ…きっと夕べセフィと一緒じゃなかったから、良く眠れなかったせいだね…早くホテルに帰ろう、ね、セフィ…」 そう言って、にっこり笑顔のままクラウドはもう一度眠り込んだ、その天使の笑顔が、セフィロスの犯そうとする罪を未然に防いだ事も知らずに。 その病院は緑の中にあった。 「あの子に今君が会うとね、治療にとってあまり、よくない事になってしまうんだ、だから会わせるわけにはいかない。」 エレの主治医がクラウドに説明をしてくれた、お見舞いに来てやんわりと、許可ができない旨を伝えられたのだ。 「あの子はね、心の病気なんだ『自分がこうなって欲しい』という願望がね、全てこの現実の世界での真実だと思い込む病気なんだ。」 「オレはエレに、殺したいほど嫌われたのかな。」 「そうじゃない、そうじゃないんだ、『私を選ばないクラウド』はあの子にとっては『あってはいけない事』なんだよ、だから『正しい世界』に戻すために君を殺して自分の世界を守ろうとしたんだ、あの子にとってはそれが自然な事なんだよ、いい悪いは全く関係なくね。」 「エレはよくなるの?」 「この土地の魔晄は独特で、長年の研究で、心のケアにも確実に効果がある事が解っているんだよ、大丈夫、ミッドガルからでもここに長期の治療に来るんだから。」 心配げなクラウドに医者は言う、モニターでエレの治療の様子を見せてくれると。 エレは今プレイルームにいるらしい、示されたモニターのむこうでは、エレが明るい広い室内で、笑顔で看護婦に話しかけていた。 『だからね、クラウドは私の事だけを愛してくれるのよ、だから殺されちゃったの、あのセフィって人に、私を守って死んでしまったの。』 『可愛そうね。』 『そう、可哀想なの、だけどいいのよ、クラウドはずっと私のもの、私を守って死んだんだから私のものよ、ずーっと。』 今きっとエレは幸せなのだ、彼女の物語の中で幸せなのだ… 「エレはエレはどうなるの?」 あの後、もう一度目を覚ましたクラウドは、事の次第をセフィロスに全て聞いた。 「あの娘は、この間おまえが行った研究所の病院に入った。」 「病院?」 「ああ、あそこには精神科もある、あの娘はそこでゆっくり治療を受ける。」 「どうしてエレは、あんな事…」 「おまえを手に入れるためだろう、永遠にな……」 その言葉を聞いた時、クラウドは一瞬惚けた目をした。 ああ、一緒だ…オレと一緒なんだ… 「どうした?クラウド。」 目の前の銀色の髪、優しい翡翠の瞳、心地よいバリトン… クラウドはぎゅっとセフィロスを抱きしめた、力の限りぎゅっ…と。 「クラウド?」 「セフィ、オレもし殺されるなら、あなたがいい、あなたになら殺されてもいい…」 「何をバカな…」 「本当だよ、あなたがいい、あなた以外の奴に殺されてなんかやらない…」 セフィロスはもう一度バカなと呟きかけたが、その言葉の裏の意味に気付くとふっと笑った。 「じゃあ、オレも約束しよう。」 そっとクラウドの手を外し、優しく顎を持ち上げる。 「オレもお前以外の奴には殺されない、オレを殺していいのはおまえだけだ。」 二人はゆっくりと唇を合わせた、お互いの言葉を神の前に誓約するかのようにおごそかに… この誓約が果たされる事があるのだろうか? 人の心は移り行くもの、永遠なんて決してない、だからこそ人は永遠を追い求めるのだろうか? 永遠なんて信じてない…でも… オレはセフィロスしか愛せない、この先もずっと… だから… もしも…もしも、誓約が果たされたら…自分もきっと夢の世界の住人になる… 抱きしめられたセフィロスの腕の中は、温かかった、泣きたくなるほどに温かかった。 モニターの中で少女が楽しげに笑う。 『私だけのもの、ずーっとずーっと私だけのもの。』 無邪気に笑う少女の後ろには、この病院のシンボルの聖母の象が優しく微笑みかけていた。 back top next |
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