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非時香果
…ときじくのかのみ… 6 |
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結局、これ以上参考人として拘置する理由がないのをセフィロスが主張し、ザックスは一旦釈放された。 しかし、疑いが晴れたわけではない、すぐに連絡が取れるようにしなければならない、つまりは出頭要請があれば拒否できない。 「つー事は、犯人が見つかるまでこの島からでれないと言う事?」 「ほー、お前にしてはよく解っているじゃないか。」 「じょーだんじゃないぜ、せっかくの休暇がよぉ。」 ぱくぱくと魚のムニエルを食べながら、セフィロスと軽口を叩くザックスを見て、クラウドはようやく安心した。 セフィロスに頼まれた事を終えて部屋に帰ると、ザックスが戻って来ていた、いつものような人のいい笑顔を浮かべて。 そして腹減ったーと言い出すもので、ルームサービスを取ったのだが、まあ食べる事食べる事。 それでもそれがあまりにザックスらしく、クラウドは心底ほっとしたのだ。 「ザックス、あと何頼む?」 「うーんとな…」 「クラウド、もうそいつはほっとけ、メニュー渡しとけば勝手にホテル中の食い物を食い尽くすぞ、それより頼んでいたやつはどうなった。」 「あ、ごめん、これだよ。」 憎まれ口をたたきながらも、セフィロスがあの後どれだけ一生懸命情報収集していたのか知っているクラウドは、頼まれたファイルを渡しながらくすっと笑った。 「どうした?」 「ん?なんでもない、それよりセフィロス、一体あの病院で何を頼んだの?」 「ああ、あそこは病院じゃない、あの病院に付設されている神羅の研究所だ。」 「え?なんで病院に?」 「この島は魔晄が豊富だ、しかし魔晄炉は建設されていない、火山が多く地盤がぜい弱で、建設に適さないとの理由だ。しかし、この島の魔晄は『ヒーリング』つまりは『癒し』『回復』に非常に効果がある事が解った、そこで長期療養型の病院を建てて、治療の傍ら魔晄の研究をしているんだ。ものが『回復』のせいか魔晄の研究所にしては、珍しくまともなとこだぞ、出世街道からは外れているらしいがな。」 「そういえばウォルター先生が『士官学校お払い箱になったら、ミディールでのんびり暮らしたい』って言ってた。」 「あいつの場合は、会社が許さんだろうがな。」 セフィロスの瞳に、わずかに憂いの色が重なった。 「いったいあなた達は、どういうつもりなんですの!?いきなり人の家に押し掛けて来て!」 室内に響くヒステリックな母親の声に、エレが脅えてクラウドの手をぎゅっと掴んだ、何かを感じたのか、大人だけの大事な話だと言っても動かない。 セフィロスはちら、と横目で見ながら話を続けた。 「ですから公平をきすために、こうやって署長においで願いました、続けてよろしいですね。」 より冷たさを増したセフィロスの口調に気付いてか、署長は大きくせき払いをした。 「まあ奥さん、ここにいるザックスさんも是非にとおっしゃいますので、一緒にお話を聞いてもいいではないですか、アーサー・セフィック氏は神羅法律事務所のれっきとした弁護士さんですので、おかしな事はおっしゃらないでしょうから。」 捜査の主導権を、なかば強奪されたと思っているのだろう、『アーサー・セフィック』に対して嫌みの一つも言いたいらしい。 しかし、とうのセフィック=セフィロスは全く気にせず、話を続けた。 「私が調べた所、殺されたナターリア・ボルトンニャンスカヤはここ2年、ずっと愛人関係にあったあなたのご主人、ジョルジュ・フェルフューズを必死に探したようです。」 「何度も言いました様に、ジョルジュはあの女と別れるためにこの島を出ました。」 「…そしてようやく探り当てた、ジョルジュ・フェルフューズがこの島を出ていない事を。」 「そんなはずはありません!」 ヒステリックな声を際立たせる様に、冷たいセフィロスの声がしんとした室内に響く。 「この島から出るための飛行船、その搭乗記録には確かにジョルジュ・フェルフューズの名前はありますが、搭乗したのは本人ではない。」 室内の空気が一瞬ぴんと張りつめた。 「ご存じですか?神羅の営業する飛行船や旅客船は、テロ対策のため、乗客に内緒で顔写真と指紋をとっている事を、あの時帰りの船にのったのは、急にミッドガルへ帰る予定になったここの観光客、空港で困っていたらアッシュブロンドの美人にもらったそうで、これはあなたですね、うちの事務所の者がその時の観光客に確認をとっています、ではジョルジュ・フェルフューズはどこに行ったのか?」 …事務所の者って…親父達かよ、帰ったらさんざからかわれるな… ザックスは心の中でため息をつきながら、エレの母親の顔を見る、気の毒なくらい蒼白な顔、小刻みに身体が震えているのは罪が暴かれる恐怖なのか。 「ここにデーターがあります、この家のオレンジの木の根元の土のデーターです。」 「オレンジの木の土?」 それまで流れるような口調のセフィロスの説明に、気圧されていた署長がおずおずと口を開いた。 「はい、昨日クラウドに採取してもらいました。」 その言葉でじっとエレに見つめられ、悪い事をいたわけではないのに、クラウドはいたたまれなくなった。 セフィロスは横目でちら…と視線を送りながらも言葉を続ける。 「この家で一本だけ甘いオレンジの木、他の所の土に比べて異様に窒素分とリン分が多い。」 「リンと窒素?」 「そうです、果物を肥え太らせるのは窒素、そしてより甘くさせるにはリンが必要なのです、ところでザックス、リンと窒素が共に多量に含まれているのはなんだ?」 いきなり話をふられて、ザックスは目をパチパチさせた。 「リンと窒素?窒素はアミノ酸の分解物だろう?でリンは…骨…あ、動物の死骸か。」 「そう、何かの死骸があの下に埋まっていると考えざるをえない、この場合埋まっているのは…」 かたんと音がする、エレの母親コリンヌが椅子から立ち上がっって絶叫した。 「知らないわ!私は何も知らない!!何の証拠があって!!」 「そうですね、たとえあそこにあなたのご主人が埋まっているにしろ、あなたがやったという証拠はない。」 セフィロスは淡々と事実のみを突き付けた。 「…しかし、ナターリアはあなたが殺しましたね。」 「それこそ、言いがかりだわ!何を証拠に!!」 ザックスは、コリンヌを容赦なく追いつめるセフィロスの話術に舌を巻く、これは一種の誘導だ、確証は何もない、しかしセフィロスの冷静な口調と冷たい瞳は、相手にもう全てを知られていると思わせるものを持っていた。 …追いつめられた美人てのもそそるもんだねぇ、そしてもう一人の美人もますますクールに、ヒートアップしてやがる… 母親を追いつめるほど、クラウドにしがみついていくエレ、それに比例する様にセフィロスの口調はますます冷たいものになっていく。 こりゃあ、後のフォローが大変かな… ザックスの心の呟きが聞こえたわけでもないが、セフィロスは少し口調を緩めてにっと笑った。 「証拠はね、あなたのその怪我をした腕ですよ。」 コリンヌは顔色を変えて、包帯をした腕を押さえた。 「こ、これは昨日転んで…」 「ナターリアの検死書には、マニキュアを塗った左手の爪が何本か折れていたとありました、そして爪の間からは血液反応がでたと、と言う事は順当に考えれば、殺害時に犯人ともみ合って折れたと言う事ですよね、しかしザックスには何の傷もない、と言う事は犯人ではないと言う事だ。」 ちらと視線を送られ、署長は居心地の悪そうな顔をする、いかにいい加減に検死書を見ていたか証明された様なものだからだ。 …ついでに言えば、ソルジャーの肌に爪を立てられる女はいないがな… 言葉を飲み込みながらセフィロスは続ける。 「あなたが犯人です、その傷をよく調べれば、マニキュアの砕片も見つかる事でしょう。」 セフィロスがそう言い放った瞬間、コリンヌは絶叫した、ひらりと白いレースのスカートが翻る。 彼女が走った先には、ベランダがあった、強い波が打ち寄せる断崖に張り出したベランダが。 「だめだ!」 絶叫するクラウド。 白いレースのスカートが再び翻り、ベランダの手すりのむこうに消える。 その時、黒い影が一緒に飛んだ。 一瞬何が起きたか解らなかった、誰もが動きを止めていた、セフィロスがため息まじりに呟くまでは。 「お人好しめ…」 わずかに手すりにかかった左手、慌ててクラウドが駆け寄ると、手すりの下でザックスが片手にコリンヌを抱えてぶら下がっていた。 「まぁね、美人の損失は世界の損失だって、にーさん。」 いつもと同じニカッとした笑いを浮かべるザックスに、クラウドは泣き笑いの表情を浮かべて手を伸ばした。 「うーん、やっぱうちの部所のコーヒーはうまいんだねー。」 ザックスがまずそうに紙コップのコーヒーをすすった。 「そりゃあ、ジャックがこだわって豆を選んでるからな、あれであいつは中々にうるさい。」 「ほんと見かけは、あんななのにな、食いもんに関しては、うるさいうるさい。」 セフィロスはちらと時計を見る、そろそろ約束の時間ではなかろうか、こんな警察署の一室でまずいコーヒーをすするくらいなら、とっとと帰って、クラウドと甘い時間を過ごしたいのだが、これも乗りかかった船だろう、それにホテルに戻ってもクラウドはいない、エレを一人きりにしておけないと、結局あの屋敷に泊まったのだ。 クラウドはセフィロス達も一緒にと言ったのだが、それはエレが承知しなかった。 あの後、セフィロスの推論どおりにオレンジの木の下から遺体がみつかり、行方不明だったジョルジュ・フェルフューズ、自分の夫だとコリンヌは認めた。 その間じっとクラウドの手を握り、セフィロスを睨みつけていたあの少女… 嫌な目だ、あれは母親を追いつめた男に対してだけではないな… セフィロスが飲み干した紙コップをぎゅっと握りつぶした時に、昨日とはうってかわった態度で、署長が部屋に入って来た、かなり腰が低い。 「お待たせしました、こちらにどうぞ。」 取り調べ室に案内されながら、セフィロスは隣を歩くザックスの横顔を見つめる。 つくづく妙な男だ… 「何?にーさん。」 ザックスがいかにも人のいい、ニカッとした笑顔をむけた。 「いいや、おまえもたいがい、お人よしだなと思って。」 「オレは博愛主義者なんだって言ったろ?」 そしてもう一度ニカッと笑う。 「ただの博愛主義者だったら、ふつう自分をはめた女を助けようとはしないと思うぞ。」 「だからあ、オレあんまし深く考えるの苦手なわけよ、あ、博愛主義者じゃ変なら人道主義者ね。」 「おまえには今度、国語辞典というものを買ってやろう。」 「あ、ひでーー!」 軽口を叩いているうちに取調室の前まで来た。 「どうぞ、ザックスさんになら全てを話すそうです。」 開けられたドアの中、憔悴しきったコリンヌ、しかし彼女はどこかすっきりした表所で、ザックスを見ると、かすかに笑った。 「クラウド、ご飯美味しかった?」 「ああ、エレはお料理上手だね、きっといいお嫁さんになれるよ。」 「うん、ママと一緒によく作ったの、パパが帰ってくる時はすっごく張り切って…」 あの後、エレの母親は連行され、オレンジの木の根元が掘り返された。 遺体が見つかり、穴の周りには縄が張られ、事件の少ないこの島ではあっという間に噂は広がり、通いのお手伝いさんは臨時の休みを取ってしまった、いずれ辞めるつもりなのだろう。 「エレ、おばあさん達いつ迎えにくるって?」 セフィロスが事の次第をミッドガルにいるエレの祖父母、コリンヌの両親に連絡していた。 「…明日には迎えに来るって…でも私この島からでたくない、パパやママと暮らしたこの家から出たくない、だってパパはあのオレンジの下にいるのよ、ずっといるのよ。」 「エレ…」 「ね、クラウド、私をクラウドのお嫁さんにして、そしてずっとここで暮らそうよ、私クラウドが大好き。」 いきなり話をふられて、クラウドは焦った。 「そんな無理だよ、オレもエレもまだ子供だし、結婚なんてできないよ。」 「じゃあ、ここに居てくれるだけでいい、ね、私と一緒にずっとここで暮らして、ねえクラウド。」 甘えるように抱きつくエレの頭をなでながら、クラウドはどう答えたらいいのか迷っていた。 父親を母親に殺された少女に、あまり厳しい事を言う事はできない、だがしかし… 「ね、クラウドお願い『うん』って言って。」 クラウドは決心した様にエレの腕をそっと外した、そして両肩に手を置いてゆっくり口を開く。 「…ごめんエレ…オレ…帰らないと、学校が始まるんだ。」 「クラウド…」 悲しみの色に染まったエレの瞳、しかしクラウドはもう一度言った。 「ごめんね、エレ、オレは帰らないといけないんだ。」 「それはあのセフィって人のとこ?」 「エ、エレ…」 真正面から聞かれてクラウドは大いに焦る、そして慌てて聞き返す。 「ど、どうして?」 「この間クラウド迎えに行った時、クラウドあの人とキスしてた、喧嘩する前のパパとママみたいに。」 真っ赤になるクラウドに、エレは泣きながら抱きついた。 「お願い、クラウドここにいて、あの人私をすごい恐い目で睨むんだよ、あんな人クラウドにふさわしくないよ、私といるほうが絶対クラウド幸せになれるよ。」 「エレ…」 「ね、私の方がずっとクラウドを好きよ、あの人よりもずっとずっと…だからねえクラウド、私を好きになって。」 しばらくエレの訴えを大人しく聞いていたクラウドは、やがて静かな口調で、ゆっくりとエレに答えた。 「エレ…オレにはセフィしかいないんだ…」 「クラウド、私だって…」 「ごめんエレ、セフィにふさわしくないのはオレの方だよ、それなのにオレにはセフィしか見えない。」 「私よりも!?」 「ごめん、オレはセフィしか見えない、セフィしかいらない。」 エレはクラウドから離れると、しばらく嗚咽をあげていたがやがて泣き止んだ。 「お茶入れて来るね。」 涙を拭きながらキッチンに向かうエレを見て、クラウドの胸がきりりと痛んだが、こればかりはどうしようもない。 だって…オレは本当にセフィだけしかいらないから、セフィだけしか… クラウドは思う、エレの母親コリンヌの気持ちを…… もしセフィロスが自分よりも他の誰かを選んだら…考えたくはないがそんな時が来たら… きっとセフィロスを殺したいと思う…殺して自分だけのものにしたいと、殺してしまえば決して他の人のものにはならないから… まだ子供のくせにと言われるかもしれない、しかしクラウドには確信があった、もう生涯、セフィロス以外は愛せないという確信が。 あの銀色の髪、翡翠の瞳、甘く優しく自分を呼ぶ心地よいバリトン、大人なふりをしながら、時には呆れるほど子供っぽくて、そして底に潜む深い孤独… 自分には見せてくれるその孤独を…教えてくれるその哀しみを… そして耳元でそっと囁く甘いバリトン… 『クラウド、おまえが欲しい、お前だけしかいらない』 セフィロスしかいらない、セフィロスしか見えない だからそのセフィロスが他の人を選ぼうとすれば、きっと自分はセフィロスを殺すだろう。 …まあ、セフィがオレなんかに殺されるわけないけどね… クラウドが自嘲ぎみに微笑んだ時、お茶のいい香りがした。 「はいクラウド、ミルクティ好きでしょ?」 「ありがとう、エレ。」 「ねえクラウド、一つお願いがあるの、これを聞いてくれたらもう『ここに居て』なんて我侭言わない。」 クラウドは少しほっとして答えた。 「いいよ、何でも言ってよ。」 「あのね、おばあ様とおじい様、今度の事ですごくパパの事を怒ってるの、それでパパにもらったものを全部捨てちゃうかもしれない、パパの大事な思い出だから捨てたくないの、だから隠すの手伝って、お願い。」 「いいよ、エレ、どしたらいい?」 「穴をほってクラウド、地面に埋めて隠すわ、そして何年かしたら会いに行くの。」 「いいよエレ、おやすい御用だ。」 エレを傷つけたと思ったクラウドは、エレのお願いにほっとして、ミルクティを飲み干した。 それをじっと見つめる少女の瞳の意味に気付かずに。 back top next |
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