非時香果
…ときじくのかのみ…
5

「だから、オレは関係ないって言ってるでしょうーが。」
ザックスが不機嫌そのものという顔で答える。
「おまえが二人で会っていた事は解ってるんだ、別れた後どうしたのかきちんと証言できる人はいるのか?」
対する初老の男は、みかけからしてまじめで融通が利きそうにない頑固そうなオヤジだ、この島で唯一の警察の署長だという点をさしひいても。
「証言ってあのあとは、ナンパした女の子と夜のビーチでデートだったし…」
「その女の名前は?」
「たしかジェニーだったっけ。」
「住所は?」
「知らねーよ、あんたいちいちナンパの相手の住所尋ねる?」
「ふざけるな!」
「ふざけてねーって、当たり前だろーがおっさん。」
ひょうひょうと答える黒髪の青年に、署長はもうぶち切れ状態だ、事件らしい事件がめったに起こった事のないこの島で、久しぶりの大事件、はりきっているこっちがバカみたいではないか。
しかも殺人事件の容疑者にされているのに、この青年はまったく焦る様子もない、

まったく今時の若い奴は…

不機嫌な様子を知ってか知らずか、青年はいかにも人事の様にのんびらーっと尋ねる。
「おまわりさん、だいたいどうしてオレがあの人を殺さなきゃならないの?動機ってもんがないでしょうが。」
「被害者ナターリア・ボルトンニャンスカヤはフェルフューズ夫人を恐喝していたそうだな。」
「誰?そのフェルフューズ夫人って?」
署長はバン!と机を叩いた。
「コリンヌ・フェルフューズ!おまえが通っている岬の館の主人だ!!」
「あ、オレ名前しか知らなかったからさ。」
「ふざけるな!!」
「ふざけてねーよ、おっさん血圧上がるよ。」
ザックスはにっと笑った、そしてテーブルの下でぐっと拳を握る。
余裕を持ってはぐらかしているように見えるが、実は内心イライラしているのだ。

やっぱ田舎の警察だな、簡単な状況証拠だけで決めつけやがって…

この間エレの母親コリンヌと言い争いをしていた赤毛の女…ナターリアの死体が島の岩場に打ち上げられたのだ、ご丁寧にザックスのシャツを首に巻いて。
前の日の夜コリンヌに頼まれてザックスは、コリンヌの夫が2年前に島をでてから連絡がとれない事、その際にナターリアとはきっぱり別れると言った事等を伝えに行ったのだ、自分では何度行っても平行線で終わるからと。
正直こんな煩わしい役はごめんだったが、そこは、何度か寝た相手から涙ながらに頼まれれば、断りきれるザックスではない、渋々伝えるためにホテルのバーに呼び出し、そこで案の定逆切れされて、ゲン直しに別の女の子をナンパして朝帰りしてみれば殺人容疑者と相成っていたわけである。

ザックスが容疑者になったのは、ホテルのバーでの言い争いの声がかなり人目を引いていた事、その際はおっていたシャツで、被害者の首が締められていた事による。

「じゃあナターリアの首に、巻き付いていたシャツはどう説明するんだ。」
「だからあのシャツは、あのバーに忘れて来てたんだっていってるだろーが。」
「そういう白々しい言い訳が通じると思うか!!」
署長がバン!ともう一度机を叩いた時、ドアが遠慮がちにノックされた。

「なんだ!」
「あのう署長、その容疑者の弁護士という方が見えてますが。」
イラただしげに取調室を出て行く署長を見て、ザックスはにっと笑った、どうやら助けがきたらしい。

「セフィックと申します、神羅の顧問弁護士事務所のものです。」

淡いブルーグレイの麻のソフトスーツを涼しげに着こなし、穏やかな言葉使いとは裏腹に自分に冷たい視線を送る青年弁護士は、極優雅な動作ですっと名刺を差し出した。
背中まで届く長い茶色の髪なのに、後ろで緩く一つに結び、きっちりセットされているせいか、少しもジャンクな雰囲気を感じない、それどころか眼鏡の奥から覗く茶色の瞳は理知的に輝き、いかにもエリートという風情だ。
女性でもめったに見れないほどの整った容姿、おまけに背が高く、足がすばらしく長い。

モデルや俳優としてでもやっていけるのではないかこの男は、うちの娘どもがきゃーきゃー言いそうだ、おまけに「神羅」の関係者だ。

差し出された名刺を署長は尊大な態度で受け取ったが、内心かなりびくびくしていた。
「神羅」という名前がどれだけの権力を持っているか、子供でも知っている、その顧問弁護士…焦る心をみすかされまいと、一つ大きなせき払いをして、署長は尋ねた。

「今は面会できません、取り調べが一通り終わったのならできますが。」
青年弁護士は表面上は穏やかな笑みを浮かべた…あくまで表面上は。
「おや、おかしいですね、まだ参考人の段階で面会ができないのですか?そもそも彼は任意同行だったはずですが、私の記憶違いだったでしょうか。」
穏やかな口調できっぱりと返され、署長はぐっとつまった。
「朝の7時からそろそろ3時ですか、もう解放されてもよいころでしょう、それとも何かほかにありますか?」
「いや、それが先ほど検死の結果がとどきまして、参考人から被疑者に変更するよう書類を作成中です。」
しどろもどろに答える署長に、眼鏡の奥の瞳がきらりと光った。
「ほう、その検死の結果とはどのようなものです?」
「捜査上の秘密ですのでお答えできませんな。」
「捜査上の秘密?検死の結果がですか、初めて聞きましたが。」
署長はぐっと詰まる、それを見透かす様に冷たい声が響いた。

「私はこれ以上の拘束の必要を認めません。」
「ですから今申し上げた通り…」
「検死の結果を見せて頂きますか?それで私が彼を被疑者とする事に納得させる証拠になるのでしたら、諦めましょう、しかし見せて頂けないとあれば、こちらにも考えがあります。」
丁寧な言い方だが有無をいわせない口調に、署長は渋々検死結果を見せる事を承諾した。

セフィロック…言わずとしれたセフィロスは、ぱらぱらと検死書のページを捲る。
最初縊死と思われた死因は溺死だった、検死結果では首を締められ気を失った所を海に落とされたのだろうという見解がなされている。
そして首に巻き付いていたシャツは、ミッドガルで今流行の自分の顔をシルエットにして、モザイク配置にしたオーダーのシャツ。

あのバカ…こんなものを着てくるからだ。

その目立つシャツでさっさと犯人扱いされたのだろう、しかし、あまりにでき過ぎている。

はめられたな…

ページを捲りながら思考を巡らせていたセフィロスは、ある一点の記述に目を止めた、そして心の中でにやりと笑う。

「ザックス・ベンジャミンに面会させて下さい、拒否権はありませんよ、彼はあくまで参考人なのですから。」



「どうしたの?クラウドぼんやりして。」
「え?何でもないよ、ただちょっとザックスの事考えちゃって…」

今朝、いきなり警察がやってきて、ザックスを殺人犯として連れて行ってしまった。
慌てる自分に当のザックスは落ちついて、片目をパチンとつぶった。
『すぐに帰ってくるから心配するな、あと頼んだぜ、にーさん。』
無言で頷くセフィロス。

ソルジャー達は勤務時以外では、魔晄の瞳を隠すコンタクトをしている、ソルジャーであるという事を無闇にさらすと、多かれ少なかれトラブルに見舞われるからだ。
ソルジャーである事を伝えれば、警察の対応も違っただろうが、それはそれでもっと厄介な事を背負い込む事になる。
そうしてザックスが連行されていった後に、あちこちになにやら連絡を取り、持って来たノートパソコンでなにやら情報収集したセフィロスは、昼食を終えるとクラウドにこう切り出した。

『今からザックスを迎えに行ってくる、いいか、今からオレの名前は、アーサー・セフィックだ、神羅の顧問弁護士事務所の弁護士。』
「え?セフィロスが??」
「このホテルもその偽名で泊まっているから問題はない、おまえは『セフィ』と呼べば周りには解らないからな。」

ソフトスーツに身を包み、インテリ然とした眼鏡とヘアスタイルに変えたセフィロスは、どこからみても、エリートの若手弁護士。
ただ、弁護士にしては顔立ちは整い過ぎ、スタイルはよすぎ…と、俳優が演じている様にも見えるのだが。

『どうした?ぼけーっとして。』

あまりの変化とかっこの良さに、ついぼけーっと見とれてしまった。
『だっていつもとあんまり違うんだもん、なんかセフィロスじゃないみたいだ。』
赤い顔をして呟くクラウドが可愛くて、抱き寄せて顎をとらえる。
『オレはオレだ、証明してみようか?』
有無を言わせず唇を合わせ、深く貪りだす。
舌で丹念に上顎を撫でると、それだけで感じるのか自分から腰をすり寄せて来た。
ランニングにトランクスのクラウドの身体は、実に無防備だ、片手で楽に巡りあげ、探りだした紅点を指で挟んで揺らしてやると、ますます腰を擦り付けてくる。
やんわりソファーに組みしいて、ゆっくりと唇を外すと、すっかり息の上がったクラウドが控えめに抗議した。

『駄目だよ…ザックスが待ってる。』
『少しばかり待たせてもいいさ、あいつにはこの間、邪魔をされたことだし。』
『セフィ…スーツ…皺になる…』
『じゃあ、暴れるな。』
セフィロスの大きな掌が、ゆっくりとトランクスの中に忍んでくる。
ちょっぴり罪悪感を感じながらも、クラウドはその波に溺れて行った。


思わず余計な事を思い出して、真っ赤になったクラウドをエレが不思議そうな顔で見つめる。
「ザックスのお兄ちゃん、心配だね。」
「あ…うん、心配なんだ。」
どぎまぎと返事するクラウドをどう受け取ったのか、エレは笑顔で返した。
「大丈夫よクラウド、あの恐い女の人が悪いんだもん、悪い人をやっつけたんだから警察も解ってくれるよ。」
「エレ…」
どう言ったらいいのだろう、エレにしてみれば恐くて嫌な女の人だろうが、悪人ではないのだ。
セフィロスの調べた所によれば、本当にエレの父親をこの島に探しに来た様なのだ。

『おまえに一つ頼みがある、あの娘の家でな…』
そしてセフィロスに頼まれたおかしな事…

「二人とも、お茶にしますよ。」

エレの母親がテラスから顔を出した、トレイを持つ左の手の甲から手首に目立つ白い包帯…

ケガしたのかな?

走って行くエレのあとを、クラウドはゆっくりと追いかけて行った。




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