非時香果
…ときじくのかのみ…




「…でね、クラウド、私ママとずっとここにいるのよ。」
クラウドは少女とオレンジの木に登っていた、さっきまでずっと二人で遊んでいたのだ。
「ママが身体が弱いから、ここには静養に来たの、お友達もいないし寂しかった。」
エレと言う名の少女は、少し寂しげな瞳をクラウドに向けた。

違う…ティファはこんな寂しげな瞳はしない…

クラウドより二つ年下のこの少女は、幼なじみの少女にどこか面影が似ていると思ったのだが、違う…
あの少女はいつも人の中心にいた、黄金色の笑顔を振りまいて、あまりの眩しさにクラウドが近付くのも憚られるほどに。

「エレは島の子達と遊ばないの?」
何気なく聞くと少女の顔が曇った。
「…だって、私が近寄るとみんないやがるんだもん。」
クラウドははっとした、この子も仲間はずれになっているのだ。
子供はあるいに大人より残酷だ、自分達と異質なもの、劣るものを排除しようとする傾向がある。
都会から来て、習慣や言葉の違いが、自然と少女を孤立させたのだろうか。
クラウドは、ぽんぽんと少女の頭を軽く叩いて微笑んだ。

「エレはこんなに可愛いのにな、きっとみんなうらやましいんだよ。」
「クラウドは、ママと同じ事をいうのね。」
にっこり笑う彼女は、やはり幼なじみの少女と似ていると思う。
「エレがもう少し大きくなったら、みんな仲間はずれにした事後悔すると思うよ。」
「ありがとう、クラウド。」
少女はクラウドのほっぺに軽くキスをした、思わず赤くなるクラウド。
「ば…何するんだ…エレ!」
焦るクラウドにエレがクスクス笑い出す。
「クラウドったら純情ー!」
二人ではしゃいでいると下から声が響いた。

「二人とも危ないわよ、そろそろお夕食にしましょう。」
柔らかいアッシュブロンドのエレの母親が、心配げにこちらを見上げている。
クラウドはその声で我に返った。

「え?夕飯てもうそんな時間!?帰らないと。」
エレの顔がみるみる曇る。
「クラウド、ご飯一緒に食べようよ、ねえお願い。」
「ごめん、明日も必ず来るからさ、夕食は一緒に食べるってセフィ達と約束したんだ。」
エレはしばらく黙っていたが、心配そうに顔を覗き込むクラウドを見て渋々承知した。
「解った、でもクラウド、必ず明日も来てよ、待ってるから。」
「うん、必ず来るよ。」
クラウドはスルスルと木から降りた。

「あら、お帰りになるんですの?せっかく用意しましたのに。」
エレの母親が、非難を交えた目でクラウドに問いかけた。
「すみません、友達と約束しているんです。」
「エレは友達じゃありませんの?」

なんなんだ、この人は…
母親の身体の静養に来ていると、エレは言ったが、初対面の人間にこんな言われ方をされる覚えはないぞ、奇麗だけど、なんか神経質そうな…

クラウドが返事に詰まった時、木の上から声が響いた。
「クラウド!オレンジあげる、明日必ず来てね、約束よ。」
ぽんぽんと木から放り投げられるオレンジを受け取って、クラウドは大きな声で返事をした。
「うん、必ず来るよ、じゃあね。」
心の中で助かったと思いながら、母親の方に軽く会釈して、クラウドは屋敷を後にした。





「で、これがそのオレンジなわけね。」
「うん、甘いでしょ?」
「うん、甘くてうまいぜ…にーさん何ぶすっとしてるんだよ、せっかくクラウドちゃんがもらって来たオレンジだぜ、食いなよ。」
セフィロスはじろりとザックスを睨んだ。
「今、食いたくない。」
帰って来て、留守中に何をしていたか聞かれて、エレの話をしてからセフィロスはずっと不機嫌だ。
レストランで食事いている最中も、ずっと不機嫌オーラを出しているので、ウエイターが怖がって寄ってこなかったほどだ。

「セフィ?お仕事大変だったの?」
部屋に帰って来てからも不機嫌なセフィロスに、クラウドが心配げに問いかける。
「いや、別に…」
セフィロスは口ごもる、まだ幼い少女にすら嫉妬している滑稽さを、自分でもよく解っているのだ。
しかもどうやら相手が、クラウドの初恋の少女に似ていると聞けば、心穏やかではいられないセフィロスである。

こんな事なら外に遊びにやるんじゃなかった…しかしあまり大人げない事を言うと、クラウドに嫌われるかもしれない…

そんなセフィロスの心を見透かせたように、ザックスが、かんらかんらと大声で笑った。
「にーさん、焼き餅焼きはみっともねーぜ。」
「え?セフィ、妬いてるの?エレってまだ12の子供だよ。」
真顔で問われてセフィロスが返事できるわけがない、ぎろっとザックスをひと睨みするとできるだけ優しい口調でクラウドに言った。

「今日のサンプルの整理をするから、先に休め。」
そう言いながらも不機嫌そうなセフィロスに、クラウドは困ってザックスの顔を見る。
ザックスは、ぱちんとウインクをした。
「クラウド、ちょっとこっち来てみろや、面白い魚がな…」
ずるずるとクラウドを引っ張っていって、なにやら耳打ちするザックス。

「じゃな、にーさんオレちょっと飲みにいってくらぁ!あ、鍵持っていくぜ。」
わざとらしく声をかけられ、セフィロスはかなり罰が悪い、ザックスがクラウドに何を耳打ちしていたのか解るだけに余計に。

ザックスがドアを閉める音が聞こえると、クラウドがそーっと後ろから甘えるように抱きついた。

「ねえセフィロス。」
「なんだ?」
「大好き…」
持っていたカップを思わず落としそうになるが、自然顔が緩んでくる。
くるりと向きを変えて膝の上に抱き上げると、へへ…と照れ笑いするクラウドが愛しくてしょうがない。

「クラウド、今日は楽しかったか?」
ちょっと聞きにくそうに問いかけるセフィロス、言外に何を聞きたいのか、さっきザックスに耳打ちされたクラウドは、にこっと笑う。
「うん、楽しかったよ、でもセフィロスがいないから、ちょっぴり寂しかった。」
言いながら顔を赤らめるクラウド。
セフィロスは華奢な身体をぎゅっと抱きしめ、ゆっくり唇を合わせた。
柔らかい唇を堪能しながら、たったそれだけの事が聞けなかった自分を、歯がゆく思う。

改めて思い知る、それだけ大事なのだ、この少年が…たった12の少女に嫉妬するほどに…

ちり…と身体の奥に火がともる、この不安をかき消したい、そうするために一番手っ取り早い方法を、セフィロスの身体が強く求めていた。

唇を外すと、すっかり力が抜けたクラウドが、潤んだ瞳でセフィロスの胸にもたれかかってくる。
極上のキスで蕩かされたクラウドの吐く息は甘い。

「先に風呂に行くか?それともベッドに直行するか?」
「…どっちでもいいよ…セフィロスが一緒ならどっちでも…」
セフィロスはもう一度唇を重ねた。




ザックスは、そーっと音を立てない様にドアを開けた。
しんとしたリビングで、セフィロスが一人ブランディを煽っている。

「早かったな。」
「な、なんだよにーさん、クラウドはもう寝たのかよ。」
「ああ、昼間遊び過ぎて疲れたらしい。」
そう言ったセフィロスが、さっきとは打って変わって上機嫌なのを、ザックスは見逃さない。
「とかなんとか言っちゃって、相当疲れさせたんと違う?」
「うるさい。」
そう言いながらも、セフィロスはザックスにもブランディを注いでやる。

ひょっとして、にーさんお礼ののつもり?可愛いねぇ。
思わず口笛を吹きたくなるザックスだが、さすがにそんな命知らずな真似はしない。
ありがたくグラスを手にとり、かちんとセフィロスのグラスに合わせる。

「明日も早いしな、さすがのオレも早めに切り上げて来たんだぜ。」
「そうじゃなきゃ、ソルジャーはあ勤まらん。」
「はいはい、ところでさ、酒場で気になる話を聞いて来たぜ。」
「気になる話?」
「クラウドが遊びに行ったて家な、ミッドガル金持ちの別荘らしいぜ、5年前からこの島に、静養にきてるんだと。」
「ああ、クラウドがそんな事を言ってたな、母親が身体が弱いとか。」
「でさ、亭主は半年に一回くらい、様子を見にくるんだってさ、美人らしいぜ、その病弱の奥さん。」
「だから何だ?」
セフィロスが興味無さげに答える。

「まあまあここからが問題なんだが、その奥さん、もう身体はすっかり治ってるんだが、ミッドガルに帰りたがらないんだと、で、亭主が迎えに来て、毎回帰る帰らないで大げんか。」
「それで離婚でもしたのか?」
「それが元々奥さんの方が金持ちのお嬢さんで、旦那は婿入りだったらしいのね、気位の高い奥さんに嫌気がさした亭主は、愛人と駆け落ちしたんだってよ、それが2年前の話。」
セフィロスの眉がわずかに上がる、さっき腕の中でクラウドが言っていた言葉を思い出す。

『エレ、お父さん待ってるんだって、ミッドガルにいるお父さん。家の前のオレンジの木に登ると、坂の下から登ってくる人がすぐに解るから、いつもお父さんが帰って来ないか登っているんだって、オレも昔、帰って来ない父さんを待っていたから…可哀想でさ。』

クラウドは幼くして事故で父親を亡くしている、そんな記憶がよみがえったのだろうか。

「その話、クラウドに聞かせるなよ。」
「ああ、当たり前だ、でさ、その奥さんそれから色んな男を引っ張り込むんだと、亭主の名を呼びながらさ。」
「…ますますクラウドには聞かせられんな。」
セフィロスは渋い顔をして、グラスの残りを煽った。






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