非時香果
…ときじくのかのみ…
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「わー奇麗だね、こんな花オレ見た事ないよ。」
クラウドは、ベランダから鮮やかな色の花に手を伸ばした。
南国の花独特の、きつい香りが鼻腔をくすぐる。
その香りに酔った様に、クラウドがうっとりと目を閉じると、後ろからいきなり抱きすくめられた。

「気に入ったか?」
他の人には絶対に聞かせた事のない、あまーいバリトン。
髪を黒く染め、茶色のカラーコンタクトで変装したセフィロスが満足げに問いかける。
「オレには贅沢すぎるよセフィロス。」
「気にするな、どうせ会社の金だ、日頃苦労させられているんだからこの位いいだろう。」
「でもさ、オレ、スイートって言うからホテルの部屋だと思ったら、まるで別荘なんだもん。」
クラウドが言うのも無理はない、このホテルのスイートは一戸づつのコテージ形式、しかも専用のプールとプライベートビーチ付きときては、高級別荘と言った方が早いだろう。

「たまにはいいだろう?こんな所でゆっくりするのも。」
セフィロスがくいと、クラウドの顎を持ち上げて覗き込む。
降ってくるのは染めあげられた漆黒の髪、コンタクトでカバーされても、瞳は蕩ける様に甘い。

「でも…」
クラウドが口ごもると、セフィロスの唇がやんわりと降って来た。
軽くあわせるだけのキスをして、にっこりと笑う。
「もう言うな、オレはすごくいい気分なんだ。」
ここについてからはしゃぎっぱなしのクラウド、蒼い瞳を輝かせ、頬を紅潮させて…
少年らしいクラウドを堪能できて、セフィロスは上機嫌だった。

こんなに喜ぶのなら、もっと早く色々なところに連れて行けばよかった…

もう一度、今度は深く唇を合わせる。
むせ返る様な南国の花の甘い匂い、その香りよりもさらに甘いクラウドの唇。
舌を絡ませながらゆっくりと堪能する、時々吸い上げ、さらに絡ませ、蝶が花の蜜を吸う様に丹念に。

クラウドの身体からはすっかり力が抜け、ほとんどセフィロスにすがりつく様にして立っていた。
「…ん…んん…」
クラウドが鼻から抜ける様な声を出す、その声に煽られ、セフィロスはクラウドの柔らかい臀部を優しく包む様に揉み出した。
「ん…」
クラウドの身体がぴくんと跳ね、掌がゆっくりと内股に移動しようとした時に、控えめな声が響いた。

「あのーお二人さん、そろそろ荷物を片付けませんか。」

その声でクラウドは慌ててセフィロスを突き飛ばす、セフィロスの機嫌が急降下で下がり、じろりと横目で声の主を睨んだ。

「おーこわー!いいじゃんそんなに睨まなくったって、早く片付けないと飯食いにも行けんでしょ?」
「一人で食いに行け、ついでに適当なのをナンパしてきたらどうだ、この甲斐性なしが。」
「んな冷たい事言わないで、ふられたばかりの哀れな男に愛の手を。」
「二股掛けてたおまえが悪い、一人じゃ寂しいからってコテージの予約一つ取り消しやがって。」
慌てて腕の中から逃げ出した小柄な身体を横目で見ながら、ぶつぶつセフィロスが文句を言う。

こっちにくる直前にダブルブッキングがばれたザックスは、両方に振られたあげく、一人では寂しいからとセフィロス達のコテージに潜り込んで来たのだ。
「だってさ、いいじゃん寝室は別だから、お邪魔はしませんて。」
「十分に邪魔だ。」
せっかく二人きりで甘いバカンス…のあてが外れたセフィロスだが、そこまで機嫌が悪いわけではない、リゾート地で誰かと楽しむと言う事をセフィロス自身、初めて体験するからかもしれないが。

ばたばたと荷物を片付けるクラウド、いつも家で見なれている姿なのに何故だかとても新鮮に写る。
新種のモンスターのサンプリング、ミディールの奥地で行うやっかいな作業だが、通常で2週間と言われる作業でも、自分なら1週間もあれば…いや、三日で終わらせてみせる。

「ザックス、三日以内に終わらせるぞ、解ったな。」
「でーー!にーさんマジっすか!」
「終わらなかったら、おまえ一人に任せるからな。」
セフィロスが氷の微笑で静かに威圧する、ザックスは首をすくめながらも、そんなセフィロスを微笑ましく思っていた。

にーさんが時々可愛く思えてくるぜ、主任じゃねーけどよ…

「おーいクラウド、片付けたらメシ食いにいこーぜ、ホテルのメシじゃなくて下の村のメシ!獲れたてのシーフードがうまいらしいぜ。」
せっかく来たからには十分に楽しまなくてはね、それにはまず仕事を片付けねーとな!

ザックスも三日で仕事を片付ける事を、きっぱりと決めていた。


翌日、もうとうに日が高くなってからクラウドは目を覚ました。
セフィロスとザックスは早朝から出かけている、本当は起きて見送りたかったのだが…
のろのろと起き上がって、シャワーを浴びれば嫌でも目に付く胸に散った一面の赤い跡。

『セフィロス、そんなに付けたら、オレ外で泳げないよ。』
慌てるクラウドにセフィロスがきっぱりと言った。
『泳ぐならプライベートビーチかプールで泳げ、オレの目の届かないところで肌を晒すのは許さん。』
つい、そこでじたばた抵抗したために、今日は朝早く起きれなくなってしまった。

ま、動けるだけ良しとしよう。

ランニングを着れば、みんな隠れてしまうあたり、少しは考えてくれたのだろう、そんなセフィロスの独占欲が内心は嬉しくてたまらないのだが。

タイミング良くコールされた、豪華なブランチのルームサービスをすっかり平らげて、クラウドはホテルの外に出かけた。

この島は魔晄が豊富なせいで温泉があちこちに湧きく、又、1年中温暖だと言う事で、高級リゾート地と病院の保養地との二つの顔を持つ。
治安は安定しており、奥地には強力なモンスターが出現するが、標高差の関係で町までおりてくる事はない、島民の収入は高く、みな親切だ。
それでも心配性のセフィロスは、クラウドに釘を刺した。

『いいかクラウド、町の外にはでるな、知らない人にはついて行くな。』

オレは幼児じゃないんだけどな…

クラウドは少しふて腐れていた、おまけにここのモンスターは強力すぎるので、
連れて行ってはもらえない。
最初は見るもの全てが珍しく、うくうきしていたのだが、やはり一人はつまらない、自然と足が人気のない方に向いていた。

気がつくとまるで知らない所にいた、いつの間にこんな高台にきたのだろう。
眼下には、温暖なミディールの海が、きらきらと眩い光を反射している。
風にのって運ばれてくる甘い香り…これは何の花の匂いだろうか?

「ねえ、そこで何しているの?」
いきなり頭上から声が振って来た、見上げればどこかの大きな屋敷の門、その門の内側の一本のオレンジの木の枝に、女の子が座っていた。
「一人だったら私と遊ばない?ずっと退屈だったの。」
自分より少し年下の少女だった。

「どこから来たの?一人なの?パパやママは?」
「友達と来たんだ、ミッドガルから、友達が仕事で出かけたから、今一人なんだ。」
「だったら入ってこない?私ママと二人きりなの、お客さまは嬉しいわ。」

一瞬躊躇したクラウドだが、木の上から女の子の姿が消え、やがて門の入り口から駆け出してくるのを認めると、迷う事なく門の中に入って行った。

それは女の子が本当に嬉しそうな笑顔で駆けて来たのと、その髪の色が懐かしい故郷の少女を思い出させたせいかもしれないが。




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