非時香果
…ときじくのかのみ…
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「うー…」
ザックスは呻いていた、書類の訂正が終わらないのだ。
「だいたい新年早々こんな事やってられるかってーの!」
時計を見ると7時になろうとしている。
一人執務室でキーを叩いていると、非常に空しくなって来た。

「あー!もうやめた、やめた!!」
書類を放り出して、パソの電源を落とす。
ここでやめれば、明日セフィロスにどやされるのは確実なのだが、そこはザックスだ。
「明日は明日の風邪がふくさ、帰ろっと…」
そうと決めたらあとは早い、ファイルをぽんと机の上に置き、制服の上着を脱いで肩にかけると、鼻歌を歌いながらドアを開けた……

「…えーっと…皆さんお揃いで…」
思わずだらしない笑いを浮かべて後ずさりする、開けたドアの向こうにはセフィロス、ジャック、ロイド、レオそしてクラウド。

「ザックス、オレは今日中に直せと言わなかったか?」
抑揚のないつめーたい声のセフィロス、ザックスはもう笑うしかない。
「だってよー、初出勤の日から超勤なんてしたくねーじゃん。」
「ザックス…きさまどうしてやろうか…」
「わー!にーさん!!かんべん!!!」
セフィロスの迫力にザックすが思いきり後ずさりした時に、堪えきれなくなったクラウドが、笑いながら言った。
「セフィロス、もう勘弁してやってよ、みんな人が悪いよ。」
「そうですね、そろそろからかうのは止めにしますか、で1時間50分ですか、私の勝ちですね。」
「ち!オレはもう少し早く飽きると思ったんだがな。」
「副長、いくらザックスでも怒られた早々にはもう少しこなしますよ、2時間10分のオレが2番ですね。」
「というと1時間のオレは3番か、ジャックいくらザックスでも30分ではなかったな。」

ザックスは呆気にとられて会話を聞いていた、どうやら自分の残業時間、正確に言うなら飽きるまでの時間が、賭けの対象になっていたらしい…
「オレってひょっとしなくても遊ばれてたわけ?」
拗ねたザックスの声にレオが笑いながら答える。

「悪い悪いザックス、今から新年会をするんだ、おまえが年末がんばってくれたから、オレたちで支払いをしようと言う事になったんだけど…」
「まあ、等分に出してもいいんですが、それじゃ面白くないんで、ちょっとした賭けをしたんですよ。」
「そういうわけだ騙して悪かったが、その分今日は御馳走するぞ。」
「よかったね、ザックス。」
ザックスはたはは…と笑いながらもちらりとセフィロスを見上げた。

「新年早々やられたか…でもにーさん書類はいいんすか?」
「おまえに今日中にできるとは、最初から思っとらん、今週中に仕上げろ。」
「やった!にーさん話が解るわ、愛してるーーー!」
「おまえの愛はいらん。」
「そんな、冷たいわ英雄様。」
シナをつくってふざけるザックス、クラウドが吹き出したのをきっかけに、みんな腹がよじれるほど笑い出した。

「しっかし、ほんと人が悪いぜ、オレ本気に正月早々びびったじゃん。」
さかんに酒と食べ物を口に押し込みながら、ザックスが今さらながらに文句を言う。
「すみませんね、最初は素直におごってあげると言おうかと思ってたんですけど…」
「おまえがクラウドに、仕事を押し付けたりなんかするからだぞ、副長がいたずら心起こしたのは。」
「オレはもう少しいじめてやりたかったがな、クラウドはまだ学生なのに年末休みなしだったんだぞ。」
セフィロスがじろりと睨むと、クラウドが慌ててザックスをかばう。
「もういじめないでやってよセフィロス、オレ別にいやじゃなかったよ仕事…それに…」
クラウドはちょっと赤くなって呟いた。
「…セフィロスの側にいれたしさ…」
ひゅーっとザックスが口笛を吹くと、クラウドが慌てて口を押さえた。
ジャックが笑ってセフィロスの肩を叩く。
「ほれ、どうした英雄、さすがのおまえも今の一言が効いたか?」
セフィロスは、握りつぶしそうになったグラスを片手に固まっていた。

どんな表情をしたらいいのか…解らない。
嬉しいのだが、確かに嬉しいのだが…真っ赤になったクラウド、こんな時にどう返したらいいのか…

「何やってるんですか、肩を抱いて『オレもそうだぞ』って言ってやるんですよ。」
耳元でいじわるく囁かれ、ばつの悪い顔をしながら、クラウドを抱き寄せた。

「オレもだ。」
そして頬に軽いキスをする。
クラウドはびっくりしてセフィロスを見上げた、人前でこんな事をあまりするセフィロスではないのに。
「セフィロス、酔ってるの?」
「おまえに酔ってる。」

みしばし見つめあう二人に、ジャックがつんつんとセフィロスをつつく。
「続きは家に帰ってからだ、お二人さん。」
「ま、不粋ですが片割れが未成年ですしね、公衆の面前ではしょうがないでしょう。」
その言葉にクラウドは、ますます赤くなってセフィロスの胸に顔を埋めてしまう。
「にーさん、よくまあそれだけ歯の浮くような台詞が言えるな。」
あきれた様にいうザックスに、セフィロスが平然と答えた。

「ふふん、羨ましいか?」
そうして愛しげにクラウドの金髪を優しく撫でる。
「はい、はいごちそうさま、クラウド今晩は寝かせてもらいそうにないですね。」
「ロイドーーー!」
口を尖らせるクラウドにロイドが笑って言った。

「すみませんねクラウド、つい英雄が可愛いもんで…」
そこでぶすっとしたセフィロスを無視しながら続ける。
「ところで年末年始がんばってもらったんで、クラウドにもご褒美をあげようと思ってるんですが。」
「え?オレに?」
「そうだ、休み返上で頑張ったからな、セフィロスと旅行でもどうだ?」
言われてクラウドはびっくりした、そして慌てる。

「そんな、オレいいですよ、第一冬の休暇終わっちゃったし。」
「あなたは前期で今年の必修科目、終わってるんでしょう?少し位いいじゃありませんか。」
「でも、その分オレ次のクラスの科目やりたいし、欠席はあまりしたくないし。」
まじめに答えるクラウドに、ジャックの頬が緩む。
「そう言うと思ったぞ、だから仕事扱いだ。」
「仕事?」
「ミディールの新種のモンスターのサンプル採取の依頼が来ているんだ、2週間でね、あそこは高級リゾート地でもあるから目立たぬ様に少人数での依頼だから、ファーストを数人出そうという事になってね。」
「セフィロスが行くなら、従卒のあなたもついて行かなくてはね、会社の保養施設が空いてなさそうですから、ちゃんとホテル、予約しましたよ。」
「仕事扱いだから出席日数には問題ない、いいじゃないかクラウド、何よりセフィロスが行きたがってるんだから、な!」

びっくりしたクラウドが、セフィロスの顔を見上げると、涼しい顔をしてグラスを煽っている。
しかし、セフィロスの胸に抱き込まれる様にしているクラウドには、セフィロスの胸の鼓動がしだいに早くなるのが、はっきりと聞こえていた。

「うん、オレも行きたい、セフィロス。」
にっこり笑うクラウドの髪を、セフィロスは満足げにくしゃりとなでた。
「じゃあ、決まりだな。」

「よかったなクラウド、ミディールはいいぞ、なんせ海あるし、温泉あるし、いいなぁ。」
ザックスが心底うらやましがった時、ロイドがすまして言った。
「何言ってるんですザックス、あなたも行くんですよ。」
「え?」
「ちゃんとホテルのスイート2つとってますからね、あなたも仕事を兼ねて彼女といってらっしゃい。」
「えーー?まじ??やったぜ、新年早々いい年になりそうだな。」

「ただし、ちゃんとサンプル採取はさぼるなよ、期間内に終わらなかったら全額費用持たせるぞ、セフィロス達の分までな。」
「そりゃあないよ、親父ーーー!」




ソルジャー達の新年はこうして始まったのだった。



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