天網恢々粗にしてもらさず 壱
I Love Youから始めよう 1
どこだ…どこにいる…

ダレ…ダレ…

行かないでくれ…オレを置いて行くな…

イルヨ…オレハココニイルヨ…

いらない…おまえがいない世界なぞオレはいらない…

ココダヨ…ココダッテバ…

滅びてしまえ!このような世界!!

マッテ!…マッテ…!


熱い!熱い!熱い!!
吹き荒れる熱風、一面の炎、生あるもの全ての命を奪い尽くす地獄の業火。
その中心に立つ悪鬼にも似たその姿は…

ヤメテーーー…………っ!!




「うわーーーー!!」
「どうしたの?クラウド?」

「え?」
はっとして辺りを見回すと、平和な昼休みの教室のど真ん中、幼馴染みのティファが顔を覗き込んでいた。

「もうすぐ昼休み終わるから、起こそうと思ったら急に叫びだすんだもん、変な夢でも見た?」

…夢?そう夢だ…幼い頃から何度も見た悪夢…最近は見ていなかったのにな…

「うん、ちょっと変な夢…もう昼休み終わり?」
「あと10分、次体育だよそろそろ着替えに行かないと、間に合わないよ。」
「そっか、サンキュー、ティファ!」
まだぼんやりしながら、世話好きの幼馴染みの顔を見る、キュートでナイスバディの彼女はオレの家のお隣さんだ。
幼稚園の頃からずーっと一緒、昔はよく遊びに行ったりしてたけど、今はほとんど家同士の付き合いはない、まあそれにはちょっとした事情があるんだけど…

「よ、お二人さん!熱いね!!」
からかわれて、きっ、とオレがにらみ付けるのを察して、ティファがにっこり笑顔で返した。
「あら、うらやましいの?」
「うらやましいよ、オレもティファちゃんに優しく起こして欲しいよ。」
自分の身体を抱き締めて、身悶えする真似をするクラスメイトに、オレはケッとした顔をする。
美人で、元気がよくて、面倒身のいいティファは男子にものすごく人気があるのだ。

「残念でした、クラウドだから起こしてあげるのよ、ねえ、クラウド。」
肩に掛けられた手を、オレはじゃけんに振払った。
「よせよ、オレ先に行くぜ。」
さっさとスポーツバッグを片手に教室を出るオレに、わざとらしいクラスメイトの声が聞こえる。
「なんだいあいつ、せっかくのティファちゃんの好意を!人殺しの息子のくせして!!」
途端にパーンと威勢のいい音が聞こえた。
振り向くと、頬を腫らしたクラスメイトを前に、ティファがわなわなと震えていた。

…あちゃ、又やったな、オレもたいがい手が早いけどな…
「もう一度言ってごらんなさい、クラウドが許しても、私が許さないから!」
さらに何か言おうとしたティファをオレは軽くたしなめる。
「よせよ、オレ気にしてないから、あまり騒ぐなよ、迷惑だ。」
すたすたと歩き出すオレの後を、ティファが慌てて追い掛けてくる。
「待ってよ、クラウド、クラウド!」

追い掛けてくるティファを振り向きもせずに、オレは歩く足を止めない。
…オレは全然気にしてない、だからお前も気にするなよ…
どうしてそんな優しい言葉がかけてやれないんだろう?

「クラウド、気にしないでね、あんな馬鹿の言う事気にしちゃダメよ。」
「興味ないね。」
「クラウド…」

ゴメンティファ、オレ気にしてないっていったら全く嘘になる、むちゃくちゃ気にしてる。
だって、オレの父さんが殺したのはティファのお母さんなのに…

「あれは事故なんだから、誰のせいでもないんだから。」

事故?そうかもしれない、だけどあの日、10年前のあの日、なぜかオレの父さんは、ティファの母さんを車に乗せて、遠い海沿いの街に出かけたらしい、誰にも内緒で…
そして二人を乗せた車がみつかったのは、崖下の海の中。

不倫の果ての心中だとか、失敗した逃避行だとか、口さがのない連中の声がまだ小学校にも通っていない、オレの耳にまで届いてきた。
だけど一番悲しかったのは、それまで可愛がってくれた隣のおじさん…ティファの父さんに罵られた事…

『うちの娘の側によるな!この人殺しの息子!うちのやつはお前の親父に騙されたに違いないんだ!!』

悲しくなって母さんに聞いてみた。
『父さんは人殺しなの?』
母さんは、泣き腫らした目でじっとオレの顔を見て首を振る。
『違うわ、きっとね…きっとなにか事情があったと思うの…だからクラウドも父さんの事をそんなふうに思っちゃダメよ、約束して。』

「ね、気にしちゃダメよクラウド。」
悲しそうに笑った母さんの顔が、心配そうなティファとだぶる。

…本当に、本当にそう思っているのか?ティファ…母さん…

今なら解る、あの時の世間の哀れみを含んだ冷たい視線が何を意味していたのかを。
隣の人妻を誘惑した挙げ句に、殺した男の息子…

「クラウド…」
「興味ないって言ってるだろ?」

オレに構うなよティファ、おまえの親父さんは今でもオレを、いやオレの父さんを恨んでいる。
そして、おまえがオレを構うと、周りの奴らはおもしろがっていらない詮索をするんだ、オレはそれに耐えられる程強くないんだよ。

オレの機嫌が悪くなったと思ったのか、ティファは慌てて話しを変えた。
「ねえ、クラウド、そういえば今日地鎮祭だって。」
「…なんの?」
「今度体育館建つでしょう?今あるのは武道館にするから、裏山を少し削って新しいの建てるんだって、その地鎮祭。」
「ふーん。」

地鎮祭ね、全くもって興味ないけど…
さっきのオレの態度も悪かったから、話しに乗ってやらなきゃ。

「でね、昼休みに宮司さんが来てたのが、窓からちらって見えたんだけど、すっごいハンサムなのよ。」
「そりゃ、よかったね。」
「うん、女子みんなで騒いじゃって、地鎮祭見に行ったのよ。」
「あ、だから教室に女の子達いなかったのか。」
「そうそう、そろそろ始まるころじゃないかな、でもホントハンサムなのよ、まるで人間じゃないみたい、ハンサムっていうより、どちらかというと綺麗なのよね、本当に…。」

ハンサム?人間じゃないみたいに綺麗な宮司!?…
いやーな予感がしてオレはおそるおそるティファに聞いてみた。
「ティファ…もしかしてその宮司って…」

言いかけたオレの耳に聞こえたのは…
「カア!カア!」

「わー大きな烏が屋根の上に一杯、見て、クラウドすごいよ。」
渡り廊下の屋根の上の烏の大軍にティファが喜んで声をあげるが、オレは思わず後ずさった。

宮司?烏?…ろくなもんじゃない!!

ぼすっと誰かにぶつかった。
「あ、すみません。」
謝って振り向こうとしたオレの身体をいきなり抱き締められた。
「え?あの…」
もがくオレをその腕はさらにぎゅっと抱き締める。

「クラウド。」
さらりと落ちる銀の髪、微かに香るコロンの臭い、そして耳に心地よい甘いバリトン…
「又会ったなクラウド、あの夢の様な日から1日たりとも忘れた事はなかった
ぞ。」
くい、と器用に後ろから顎を持ち上げる長くて形のいい指。
オレの視界一杯に広がる秀麗な顔、翡翠の瞳。

ぎゃーあの変態だーー!!






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