天網恢々粗にしてもらさず
序章:出会いは神のうち?





…つっっ…
寝返りをうとうとして、身体に鈍い痛みが走る。
痛み?…オレ、何して…
はっと気が付く、
確かオレ、学校帰りにあいつらに絡まれて…

オレは、クラウド=ストライフ、高校生。
金髪、碧眼、女顔、身体発育不良!
おかげで、昔っからやたらイジメの対象になりやすい。
何が『ちゃらちゃら女みたいな顔しやがって!』だよ!!
好きでこんな顔に生まれたわけじゃないぞ!
だけど、見くびるなよ、女みたいな顔してたって、身体小さくったって、オレは負けないからな。
その証拠に、高校入学してから、外見で勝手に弱いと判断して、イジメに来た奴はことごとく返りうちにしてやった。
中学のときの連中は、オレは見ために似合わず手が早いって知ってるから、さすがに誰も手を出してこないが、まだ入学して一月だからな。

しかし、今日の奴らは卑怯だった、6人だぜ、6人。
中の一人は、オレがこのまえコテンパンにのした奴、一人で勝てないからって、情けない奴だな、おまけに鉄パイプや、金属バット持参かよ。

「そんなにオレみたいなチビに、やられたのが悔しかったのか?」
挑発したつもりはなかったが、無意識に口調が生意気なんで、一気に頭に血をのぼらせたらしい、一斉にかかってきやがった。

振り上げられた金属バットが降りおろされる前に、持ち主の急所を膝で思いっきり蹴り上げる。
返す足で反対側の奴の足を払い、顔面に肘撃ち!
ごめんな、オレって、手加減できないんだ、特にお前達みたいな卑怯者相手にはね。
「このやろう、チビの癖に!気をつけろ!すばしっこいぞ!!」
転がった仲間をみて、残った奴が叫ぶ。
わかってないね、チビだからすばしっこいんだよ。
鉄パイプで殴ろうとした相手の懐に潜り込み、左手でアッパーカット。
オレは、右手も左手もパンチ力は変わらないんだ。
「へっ、6人もいるくせにだらしねーの!」

あまりに相手が、多勢に無勢の有利を過信しているばか達なんで、オレはつい調子に乗って油断していた。
地面に転がった奴らの一人が、オレのズボンの裾をつかんだ。
バランスを崩して、倒れるオレに、一斉に殴り掛かってくる。
顔面を蹴られ、鼻血が吹き出る、口の中も切れたみたいで、鉄の味…
思う間もなく、腹を蹴られ、うずくまった所に容赦なくケリが浴びせられる。
キラッと光った金属パイプ、
もうダメかなオレ…
そう思ったとき、冷たい声が響いた。

「何をしている?やめろ。」
オレを蹴っていたやつらがぴたっと止った。

「なんだよ、このオヤジ、じゃますんな。」
オレは、顔面蹴られて流れた血が目に入り、目をあけても辺りがぼんやりとしか見えない。
ただ、真っ赤な視界の中にキラキラと奇麗に銀色に輝く物が映っていた。

「オヤジだと?」
冷たいが低くて通りのいい、めったにない美声だ。
はっノこんなときにオレって何考えてんだ、ばっかじゃなかろうか。

「オヤジはオヤジだろうが、なあ、あんたも痛い目に会いたくなかったら、とっととあっちに行きなノあっと、見物料はちゃんと置いていけよ、財布ごとな。」
「バカなガキどもめ。」
酷薄な声が響いた。
「我が結界内で、勝手な事をした酬いをうけるがいい、行け!式神ども!!
セフィロスコピー達よ!!」

とたんに辺りが真っ暗になった、聞こえるのは奴らの悲鳴だけ。
いったい何が起こってるんだ?
無理に起き上がろうとして、オレの意識はそこで途切れた。


はっと起き上がろうとして、痛みに呻いた。
「いきなり動くな、あちこちやられてるからな。」
耳に心地の良い美声、びっくりして声のする方を振り向く。
「気が付いたか?やんちゃなガキめ。」

立っていたのは手に水を持った銀色の髪の麗人…えーと、でもそのかっこは…
どこかで見た事あると思ったら、さっき喧嘩してた神社の宮司さんだ。

「あ、あのオレ…」
「喧嘩も程々にしておくんだな、最近のガキは限度を知らん、ヘタすりゃ死ぬぞ。」
差し出された水を飲む、くーしみる…そういや口の中切ってたんだ。

顔をしかめたオレをみて、その人は面白そうに笑った。
「しみるか?大きな怪我はなかったみたいだ、打撲と切り傷な。」
みるとオレはパンツ一枚に脱がされて、あちこちにガーゼや包帯があたっている。
「手当てしてもらったんですね、すみません。」
「まあ、当然の事をしたまでだが、ふむ…おまえ、名は?」
いきなり顎を持ち上げられた、秀麗な顔が間近に迫る。
蒼とも翠ともつかない怪しい翡翠の瞳…
ああ、底なし沼の色だ…誰も訪れない森の奥深く、神秘に水をたたえながら、うっかり足を踏み入れた物を容赦なく引きずり込む底なし沼…
まだ少し、ぼんやりする頭で答える。


「クラウド=ストライフです。」
「そうか、オレはセフィロス、奇麗な顔だ、これは絡まれるのも無理はないな。」
そう言われて、思わず頭に血が上る。
「女顔だって言いたいんだろ!うるさいよ!!…つっっ…」
思わず両手を握りしめてしまい、痛みに呻いた。
やつはふっと笑うとオレの手を持ち上げた。

「誰もそんな事は言っていない、奇麗な物を綺麗といって何が悪い?」
そう言って、ぴちゃ、と音を立てて、オレの人さし指を口に含む。
「な、何する!」
「傷をなおしてやる、だてに奈良時代から連綿と続いたセトラ神社の宮司をやっているわけではない。」

そういや、こいつ、式神がうんぬんって言ってたな、じゃあ今はやりの陰陽師ってやつ?(違います!!)
やっぱ、さっきは術かなんか使ってあいつらをやっつけたのかな?
きっとこうやって、舐めて、傷なんか一瞬のうちになおしちゃうんだ、凄いな…

オレはしきりに感心したが、その間に奴の舌は、人さし指から指の間、そして手のひらへ…
あの…そこ傷ないんですけど…
なんか嘗められる度に、背中にぞくっと感じるのは気のせいだろうか?
その間にも奴の舌は、手のひらから二の腕の裏側へ…時々、強く吸われる気がするのも、気のせいだろうか?

「ちょ、ちょっとくすぐったいんだけど。」
「我慢しろ、もう少しだ。」
「もう少し?」
「もう少し。」

なんかぞくぞくがシャレにならなくなってきた、身体が熱い…
唇が脇の下に来たとき、耐えきれなくなった声が漏れる。
「や、っあん…」
自分のあげたとも思えない、甘い声に呆然とするオレに、奴はにやりと笑った。
「ふ…もう少しだ。」
「な、何が…もう少し…」
首筋を舐めあげられ、大きく震える、その時に初めて気が付いた、奴の手のひらが、胸の上を這い回っている事を。

「唇まで、もう少し。」
あっと思う間もなく、唇が重なった、やすやすと舌を捕らえられ、奴は縦横無尽にオレの口腔内を蹂躙する。
背中を支えている右の手のひらは、背筋を辿って、腰を何度も撫で上げる。
胸を這い回っていた左手は、胸の紅点を摘まみ上げ、焦らす様に揺すられていた。
漏れる吐息は全て奴の口に飲み込まれ、籠る熱が、オレの思考を奪う。
やがてすっかり力がぬけ、目までとろんとする頃、ようやく唇が外された。
荒く息を繰り返しながらオレは、ぼんやりと奴の唇が胸を這い出したのを見ていたが…

「おい、ちょっと待て!」
「なんだ?今忙しい。」
「オレの傷、全然治ってないんだけど。」
そう、奴が舐めたあとの傷口は、全くもって治っていない。

「あたりまえだろ、そう簡単に治るか、一週間はかかるぞ。」
「あんた治してやるって言ったよな。」
「小さい時に習わなかったか?唾液には殺菌作用があるんだぞ…」

ばこっ!!オレは思いっきり鳩尾を蹴り上げた。
「何をするんだ、痛いじゃないか。」
すかさず片手で受け止めた奴を、少し感心しながらもオレは叫ぶ。
「それは、オレのセリフだこの変態!何してるんだ!!」
真っ赤になって怒るオレに、奴はニィーっと笑う。
「味見のつもりがあんまりお前の肌が気持ちいいんでな、本格的に頂こうかと思ってたとこだ。」
頂くって何をだ!何を!!

「オレ、帰る!!あっち行け、この変態!!」
慌てて服を身につけるオレを奴はニヤニヤ笑って見ている。
わー!気持ち悪い!!こいつホモかよ!!さっさと帰ろう!!

飛び出しかけたオレの手を奴がしっかり捕らえた。
「何しやがる!離せ!このホモ!!」
「心外だな、オレは由緒正しく代々の宮司を見習って、男も女も両方イケルだけだ。」
何だよ!この神社代々変態だったのかよーー
「でも、マジにイイ身体だな、オレとつき合ってみないか?天国を見せてやるぞ」
「やめろーーー!!」
背筋を駆け登る悪寒にオレは思いっきり、奴の顔をグーで殴った…
しかし、あっさりかわされる。
「ふふん、クラウド、今日は帰してやろう。だが、そのうちに解る、オレの手からは逃れられないと言う事をな。」
なんだよ、その凶悪な笑顔は!!
思いっきり振払ったオレの目に映ったのは、いつのまにいたのか部屋いっぱいの真っ黒なカラス…
「オレの式神だ、どこに行こうと逃がしはしない。」
こいつ、マジに術を使えるのか?
得体の知れないものを感じて、オレは振り返りもせずに部屋を飛び出した。


あれは、悪夢だ忘れよう…
散々自分に言い聞かせて、翌日何でもなかったような顔をして登校する。
「おハヨ!クラウド。」
幼馴染みのティファが声をかけてきた。
「ああ、オハヨ!」
「ねえクラウド知ってる?」
「何を?」
「あんたにこないだからちょっかいかけてきた上級生のグループいたでしょう。」
そいつらとは、昨日喧嘩したよノとはこの面倒見のいい、おせっかいな幼馴染みには言えず、軽く流す。
「ああ、あいつらがどうかした?」
「なんか昨日神社の裏で、ズタボロになって発見されたんだって。」
「え?」
「なんでも、口々に『式神が…』『カラスが…』てぶつぶつ言って、酷く怯えてるんだって、あの神社結構古いでしょう?何か悪い事してバチが当たったてもっぱらの噂よ。」


まさかあいつが…

クラウドは心底ぞっとした…そしてその耳に一際大きく聞こえたのは…
「カア」
びくっとして見上げると、1羽の大きなカラスがじっとクラウドを見おろしていた。

『オレの式神だ、どこに行こうと逃がしはしない。』
蘇る凶悪なまでの美麗な笑顔…
「わー!!」
突然叫んで逃げ出したクラウドを、ティファはあっけにとられて見送った。


「くっくっく…オレの式神達よ、昨日はご苦労だった、あ、ナンバー3はクラウドの見張りか、ご苦労だな。」
「もう、兄さんやめてよ。」

ベランダで、カラスに餌をやってるセフィロスをエアリスが嗜めた。
「ご近所から苦情が出てるンだよ、カラスの餌付けは神社だけでやってよ。」
「何を言う、オレの可愛い式神、セフィロスコピーをその辺のカラスと、一緒にするな。」
のんびらーーーと答えるセフィロスの頭をエアリスがはたく。

「何が式神、セフィロスコピーよ、神社で巣から落ちたヒナが増えただけのくせして。」
「痛いぞ、おまえ本気で殴ったな。」
「あたりまえ、『エアリスさんちのお兄さんかっこいいけどカラスと話す変人よね』って言われてるんだよ、いい加減にしといてよ。」
「言わせたい奴には言わせといておけ、オレの高尚な趣味が解ってたまるか。」
「何が高尚よ、単なる鳥好きのショタコンのくせして!はやくそのカラス追い出さないと兄さんの秘蔵のコレクション『クラウド君の一日』捨てちゃうぞ」
ひらひらと差し出されたアルバムを見て、セフィロスの顔色が変わる。

「おまえそれどこから…」
エアリスはにんまりと笑った。
「兄さんの隠し場所くらい解るよー、可愛いよねクラウド君、兄さん小学校のうちから目を付けてたもんね。」
「返せ!苦労したんだぞそれ。」
「カラス追い出すのが先!」
渋々セフィロスはカラスを追い出した。


そしてその頃クラウドは…
「先生!オレ今日休みます!!式神が、式神がどこに行くにも追い掛けて来るんです!」
「何を言ってるストライフ、あれはただのカラスじゃないか。」
「違うんです!式神なんです!!休ませて下さい!!」
何も知らない担任を心底困らせていた。


                       


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