STIGMA 4
 苦痛に呻き、その度にクラウドは笑う、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった、
解放されるのだ、やっと、やっと……

激痛のあまり、床を転がり回るクラウド。闇の中に、さっき箱ごと落としたピアスが、淡く輝く。


『どんなに離ればなれになっても、必ず互いを捜し出す……』


懐かしい声が聞こえる、懐かしい優しい声が。


うん、俺……俺、あんたの側に行ける、あんたの側に……


痛みのあまり、身体は意識を手放そうとしていた、反比例するように、しだいに、はっきりと聞こえる懐かしい声。

……クラウド……オモイダセヤクソクヲ、ソシテオレヲ……

感じる……セフィロスを、俺の中のセフィロスを……

……そして、俺を……殺しに、来い……愛しい、クラウド……


泣きたくなるほどに懐かしい声……ああ、又、あの優しい夢が見れる……


蒼い光を見つめながら、やがてクラウドは気を失った。






 階段を下りてきたクラウドに、気がついたのはティファだった。めずらしく長袖のシャツを羽織っている、ミッドガル周辺はニブルヘイムに比べ暖かい。今くらいの季節では、ティファもクラウドもまだ長袖を着ないでも大丈夫なはずだが、風邪でも引いたのだろうか。

「クラウド、夕飯は?」
「ああ、なんか適当に……」

そう言って、カウンターの角に座ったクラウドの顔色が、やけに青白く見える。店はもうすぐオーダーストップの時間だが、今日はやけに客が多い。

今、気にしてもしょうがないので、ティファは簡単で栄養のある物を作ろうと思った。
ささっと、野菜を炒め、肉と卵を合わせる。

パンをちぎって食べているクラウドの前に、チャンプルーと、スープを置くと、クラウドは顔を上げて「ありがとう」と言い、黙々と食事を続ける。どうやら食欲はあるようだ。
そういえば最近、クラウドと、まともな会話を交わしていない、元々積極的に、自分から話す方ではなかったが、特に最近は話していない気がする。

しょうがないか、私もお店が忙しかったし、今晩お店が終わったら、久しぶりに話してみよう、クラウドの事だから、何か勝手に思い詰めているのかもしれないし、やっぱり私から話してあげるべきよね。


そんな事を思いながら、ティファが注文を受けていると、ドアが開いて、客が一人入ってきた。

「いらっしゃいませ。」
ティファの声に、マリンと、テンゼルの声も重なる。

「相変わらず繁盛してるね、ここは、あ!居た!」

その男は彫金師の男だった、昨日クラウドが夜遅く、頼まれた荷物を届けた男。クラウドを見つけると、嬉しそうに声をかける。

「いや、助かったよクラウド、おかげで、いい銀が手に入った。あんたじゃなかったら、あの山は越えていけん。あんたになら安心して頼める。」
「それはどうも、又、次も引き受けますよ。」
「そうだな、次も頼まなくては、そのピアス、してくれているんだな。似合ってるよ、あんたのイメージで作ったからな。」

クラウドは少し苦笑する。
久しぶりに見たクラウドの笑顔に、ティファは少しほっとして愕然とした。ほっとする程クラウドの笑顔を見ていなかったのだ。

「ありがとうございます。」
「いや、いいって事よ、でさ、今回えらく早く届けてくれたお礼にな、これを作ってみたんだが。」

男は袋から、ころりと指輪を2つ取り出した、クラウドのピアスと同じモチーフの狼の指輪を。
「どうだい、いいできだろ?ペアリングだ。2つともやるよ、あんたも、たまにはカミさん孝行したいだろうって、思ってさ。」
隣に座っていた男が、それを聞いて身を乗り出す。
「お!おまえ気が利くじゃねえか、そうだよな、こんなに働き者の嫁さんに感謝しないとな。」
「だろうが、ティファちゃん嵌めてみな、サイズは合ってるはずだ。」
「まあ、いいんですか?」

少しうきうきした気持ちで、ティファは指輪を手に取ると、一瞬考えて、ちらりとクラウドの顔を見た。


目に入ったのは、人形のように表情のない蒼い顔、視線の先にあるのは、テーブルの上のもう一つの指輪。


クラウドは、私を見てくれてはいない……

浮かれた気分が一気にしぼみ、ティファは右手の薬指に、指輪を嵌めた。
「まあ、ぴったりです、ありがとうございます。」
「おい、おい、ティファちゃん左手だろう?」
客の一人がそう言った時、クラウドが、テーブルを拭いていたテンゼルを呼んだ。

「テンゼル、こっちに来い。」
「何?クラウド。」
側に来たテンゼルに、テーブルの上の指輪を渡す。
「いつもよく手伝ってくれるな、これやるよ。」
ティファの顔が凍る、回りの客が驚きの声を上げる。

「え?でも……」

テンゼルだって、さっきまでの会話を聞いている、思わずティファの顔と見比べた。

「よかったわね、テンゼル。」
寂しく微笑むティファを見て、テンゼルは首を振る。
「貰えないよ、第一俺にはサイズ合わないしさ。」
彫金師の男が、何か言いたそうに口を開こうとした時、クラウドが作ったように優しい声で言った。

「もらってくれ、じゃないと俺もティファも困るんだ。」
「困る?どうして?」
「夫婦でも、恋人でもないのに、ペアのリングをする訳にはいかないよ、ますます回りを誤解させるしね。」
「え?あんたら夫婦じゃなかったのか?」
彫金師の男が驚いた様に聞くと、クラウドは笑顔を浮かべる。

「違いますよ、皆さん勝手に誤解されている様ですが、俺はここの下宿人件用心棒ってとこです。マリンの父親に頼まれたんですよ、女所帯は物騒だからって。」
「クラウド!」
抗議の声を上げるマリンに、クラウドはたしなめる様に言った。
「そうだろうマリン、おまえの父ちゃんがしばらく帰らないからって頼まれたの、おまえだって知っているだろう。」
口をとがらせるマリン、客達は、ざわざわと話し出す。

「えー?そうだったのか、そいつは知らなかった。」
「幼なじみでもあるんですよ、なあ、ティファ。」
「ええ。そうなんですよ。」
クラウドは、服の袖の革ひもを外して指輪を通し、テンゼルの首にかけてやった。

「その指輪がちょうどよくなるまで、そうしていたらいいさ、じゃ、ティファ、ご馳走様。」
席を立ち上がり、張り付いた様な笑顔をティファに向け、続いて彫金師の男に向ける。
「どうもありがとうございました、又次のご依頼を待っております。」
そのどこか晴れ晴れとした笑顔に、ティファは胸騒ぎを感じた。




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