STIGMA 2
 クラウドが寝返りを打った時、ドアが勢いよく開いて、テンゼルが興奮気味に飛び込んできた。
「クラウドお帰り、俺、昨日ずっと待ってたんだよ。」
エアリスの教会でクラウドが拾った少年は、いつもクラウドと話すことを楽しみにしている。

「ああ、ごめん、帰ってきたのは12時すぎていたからな。」
「聞いたよ、今回の届け物大変だったんだって?すごく強いモンスターが出没するから、今まで誰も引き受け手がなかったって聞いたよ、すごいな、クラウドは。」
きらきらした瞳でクラウドを見つめるテンゼル、クラウドは微かに笑顔を浮かべた。

「前に行った事のある所だからね、出現するモンスターの習性と能力が解っていれば、そう大変でもないよ。」
「それはクラウドが強いからだよ、他の人ならできないよ。」

自分をさかんに称賛するテンゼルに、面映ゆいような不思議な気分、かつて自分もこんな瞳をしていた事があった。

「いいなぁ、クラウドは、俺もクラウドみたいに強くなりたいな。」
「なれるさ。」

こんな瞳で話しかけていた頃があった。

「本当に?俺なれると思う?」
「おまえは、真っ直ぐな心を持っている、きちんと鍛えれば強くなれる……」

こんなセリフを返された事があった。

「クラウドよりも?」
「ああ、俺よりもな……」

同じ事を笑顔で答えた人がいた……


「テンゼル、悪いけど、もう一眠りしたいんだ、あとでいいか?」
「うん、疲れているとこ、ゴメンね、あとで今回の届け物の話、聞かせてね。」

ドアの閉まる音、そして、ぱたぱたと階下に降りる小さな足音、それが聞こえなくなった時、クラウドは仰向けに寝ころび、きつく唇を噛んで小さく呻いた。


寂しい、寂しい……


胸の奥にぽっかりと穴が開いている、それを埋めようとすればするほど、それに気づかないふりをしようとすればするほど、大きく開いた空洞に、びょうびょうと冷たい風が吹いていく。


強くなんてなりたくなかった、あの人をこの手で葬れる程、強くなんてなりたくなかった。


『えー?俺セフィロスより強くなんて、なれっこないよ。』
『いいや、おまえは俺より強くなれる。』


何も知らなかったあの頃、あの人の本当の寂しさにも、心の闇にも気づいていなかったあの頃。俺はきっとそれだけで、罪を犯していたのだ、あの人の側にいながら、それに気づかなかった罪を……

自分を慕うテンゼル、あの頃の自分と同じように、理想の姿を持つ人に、さかんに称賛の声を送り、一歩でもそれに近づきたいと、無邪気に口にするテンゼル、その姿を目にする度に思う。

おまえは、俺の心の闇を知っているか?
この日常を壊してしまいたいと思う、俺の心を知っているか?


いつかおまえを手ひどく裏切ったなら、おまえはどうするのか?


どさりと横を向きながら、クラウドは思う、あの頃のセフィロスもこんな事を考えてはいなかったのかと。


あの頃のセフィロスも……





光が……眩しい……カーテン占めなきゃ……


気怠げに目を開くと、目の前に流れる幾筋もの白い光の糸、それには見覚えがあった。
思わず大きく目を開く、真っ先に目に入るのは、月の光を編んだような硬質な銀色の髪、そしてその間から自分を覗く翡翠の瞳。

セフィロス!

飛び起きようとすると、しっかり腕の中に、抱き込まれているのに気がついた。

「どうした?今日は休みだから、まだ起きなくてもいいぞ。」
穏やかに話しかける、懐かしいバリトン、クラウドは声を上げる。

「なんであんたが、ここにいるんだ!?」
言われてセフィロスは怪訝な顔をする。
「なんでって、昨日から一緒にいるだろう?何を寝ぼけているんだ?」
「昨日?」
「覚えてないのか?ああ、今日から休みだからといって、夕べ無理をさせすぎたか?」
セフィロスは微笑むと、クラウドの前髪を掻き上げて、おでこにキスを一つ落とした。

夕べ?

記憶を逡巡しながら部屋を見渡す、細かい彫刻の施された、落ち着いた色彩の高い天井。広い室内の四方からふりそそぐ、明度を落とした間接照明の柔らかい光。
見慣れた風景、そう、ここはいつもの家の寝室だ。高層マンションの最上階、その1フロア全てを占めるセフィロスの家……俺の家。
そして、黒檀のベッドサイドテーブルには、夕べ二人で飲んだワインの空き瓶とグラスが2つ。

夕べ?





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