A Stellar Sonata 7
「ではロレンツォさん、土地の買収の件はこれで完了です。」
「どうもお手数をおかけしましたリーブさん。」
神羅の本社の一室で、ロレンツォはリーブと書類を交わしていた。

「こちらこそ、例の『巨大小惑星接近』の時に一部書類が紛失してましてね、もっと早くに完了するつもりだったのに、2週間もかけてすみませんね、早く戻らないといけないでしょうに。」
「いえ、現場の指揮はシドさんが取って下さってるので、何の心配もしていませんよ。」

正直言うと、あまり早く戻りたくはなかった、クラウドと友人に戻る自信がなかった。

「ところでリーブさん、お願いがあるんですが。」
「何ですか?」






 目の前をひょこひょこと跳ねる様に歩く、黒い猫型のアンドロイドの後を、ロレンツォはついて来ていた。


「こっち、こっちですわ、ロレンツォはん。」
「リーブさんもつくづく器用ですね、よくこんな二重生活が。」
「この姿の時は『ケット・シー』と呼んでくれなはれ、色々便利なんでっせ、こっちの身体の方が。」

とてもあの実直なリーブが操作しているとは思えない剽軽さに、ロレンツォは思わず肩をすくめる。


「ボクだって羽根を伸ばしたい時があるんや、そんな時はこっちの方がうんと楽なんでっせ、あ……つきましたわ、ここですわ。」
着いたところは高層マンションの最上階だった。

「このマンションは運良く、あの災害から倒壊を免れたんですわ、都市の中心部から離れていたせいやと思うんやけど。セフィロスはんは、都市部を嫌ってはったから……」

案内してもらったのは、かつてクラウドがセフィロスと暮らしていた、今はもう住む人も居ない部屋だった。


「この部屋に連れて来たのは、クラウドはんには内緒でっせ。クラウドはんは、今でもここには絶対に近付かんのや、つらすぎるんでっしゃろ、この部屋で過ごした思い出はあまりに……」


リーブは、いやケット・シーは、クラウドとロレンツォがミッドガルに来る時に、シドからだいたいの事情を聞いていた。
そしてバレットから受けた、ティファとクラウドの結婚式の日取りが決まったとの連絡と、目の前の男の憔悴ぶりに、『クラウドが、セフィロスと暮らしていた部屋を見たい』という願いを、快く引き受けたのだ。



部屋の中は荒れてはいなかった、きちんと掃除がされ、たまに空気を入れ替えてあるのだろう、ホコリ臭さもかび臭さも全く感じなかった。持ち主がいつ帰って来てもいい様に、きっちり整えられている。



ケット・シーが、ひょこひょこ歩きながら呟く。

「ボクはな、セフィロスはんは神羅の犠牲になったんやと思うてるんや、確かにとんでもない罪を犯しなはったわけなんですけど、セフィロスはんは、ああする事で、やっと神羅の呪縛から逃れたんやてね。だからボクにはあの時、なんにもできんかったから、せめてセフィロスはんが一番幸せだった、クラウドはんとの思い出の残る部屋を、こうして綺麗にしておこうって……欺瞞やと思うんやけどな。」

よいせとリビングのソファーに座り、ケット・シーは、あそこがセフィロスの使っていた書斎だと、一つのドアを指差す。


部屋に入ったロレンツォは、広い書斎の、大きな机の上の写真立てに、手を伸ばした。
写っているのは笑っている少年のクラウド、夏の陽射しの様な明るい金髪と、晴れ渡った空の様な一点の曇りもない蒼い瞳。
こんなにくったくなく笑っていたのだ、今のどこか影のある笑い方でなく。そしてクラウドに、こんな笑顔をさせていたのは、隣に写っている自分と瓜二つの男。


長い銀色の髪と、魔晄に輝く翡翠の瞳を持つ、比類なき神羅の英雄セフィロス。


今まで何度もセフィロスの写真を、雑誌などで見た事はあったが、こんなふうに柔らかく微笑む顔をみたのは、初めてだった。
その顔を見て、確かに自分に似ていると思う、雑誌などで見る固い無表情な顔とは全然違う顔、この男はきっとクラウドの前でしか、こんな顔をしなかったのだろう。


おまえ、幸せだったんだろう?ならどうして、クラウドを悲しませる真似をした?


写真の中の英雄にそう呟いてみる、当然答えは返って来ず、そっと写真をもとの場所に戻す。
何故かここの空気は温かい、ずっと前から知っている気がした、二人の優しい思い出が残っていると、感じるせいだろうか。

クラウドの使っていた部屋も、見たくなった。ケット・シーに確認して、入ってみる。落ち着いた配色の室内、セフィロスが使っていたのより、ひとまわり小さな机と椅子。置いてあるステーショナリーは、いかにも少年が使いそうな、そのころ流行りだったろうロゴが付いている。

机の上に置いてある、先ほどと同じ写真の入った写真立て。あまりの幸せそうな写真の笑顔に、もう一度手に取ってみる。

カタカタと写真立ての中で音がした、不審に思って裏蓋を明けてみると、中には音声再生式の薄いメッセージカード。『to Cloud』とある所をみると、セフィロスからのメッセージだろうか。いけないと思いつつ、その声を聞いてみたくなり、そっとそのカードを開いてみる。



『クラウド、誕生日おめでとう、初めて祝ってやれるはずのおまえの誕生日に、側にいてやれなくて申し訳なく思う……』
響いて来たのは優しいバリトン、どこか照れくさそうな甘い口調で。

『珍しいマテリアを手に入れた、小さなものだが緑と青の二つのマテリアが、長い時をかけて二つにくっついた物だ。このマテリアを切り離してピアスにしてもらった…青い方をおまえに送る、緑の方はオレが使う。どんなに遠くに離れていても、長い時をかけて一つになったマテリアは、きっとお互いに呼び合うだろう、オレとお前の様に。もう少しでこちらの仕事は終わる、帰って来たら写真を撮ろう、おまえの14の誕生日を祝して……』


聞き終わってもう一度写真を見る、二人の耳の片方づつに嵌った、緑と青の不思議な輝きを持つピアス、そうかそれがその時の写真なのかと思う。
一人寂しく留守番をしていたクラウドは、思わぬプレゼントに、どれだけ喜んだ事だろう。


『駄目だよセフィロス、キスは後、もっとちゃんとして写ってよ。』
『いいじゃないか、キスしている写真でも。』
『オレはせっかくのピアスを、きちんと写したいの、ほらまじめに。』


ふとそんな会話が聞こえた気がした、聞いた事もない様な、明るい少年のクラウドの声で。今のクラウドはこの写真のピアスをしていない、きっと大事にどこかにしまっているのだろう。

ここに決してクラウドは近寄らないという、いや、近寄れないのだ、二人で暮らしていたこの部屋、以前と元のままのこの部屋に来れば、嫌でもセフィロスがもういない事を実感する。認めたくないのだクラウドは、もうセフィロスがこの世にいないという事を。

改めてその存在の大きさに、彼の孤独を思う。そして、もうそれを癒してやれない、自分の不本意な立ち位置も。



リビングに戻り、壁にかけられている尋常でない長さの剣に気がつく。
「これが、英雄が使っていた剣か。」

数々のセフィロスの伝説の中で、あまりにも有名な英雄の剣『正宗』、思わずロレンツォは手に取ろうとした。
ケット・シーは陽気に笑う。

「だめでっせ、その剣一人で持てるのはクラウドはんぐらいや、ここに持ってくるのでも男三人がかりでえらく苦労して……」

言いかけたケット・シーの口が止まる、ロレンツォがいとも簡単に、片手でその剣を持ち上げたのだ。

「別にそんなに重くはないが……」
「その剣は、星を救ったライフストリームの最後の流れが引く時に、いつの間にかクラウドはんの手の中にあったんや、見ているのがつらいからって、ボクが預かってた本物の『正宗』なんや、セフィロスはん以外に使えないはずの……」


セフィロス以外に扱えない?では、何故これだけしっかり、自分の手に馴染むのだろう、まるで昔から持っていた物の様に

ロレンツォは、何気に正宗を抜こうとした。


「やめろ!」

鋭い制止する男の声に、二人は、びっくりして振り向く。いつの間にか後ろに男が立っていた、その男は二人ともとても知っている男で……


「ヴィンセントはん……」
「父さん!どうしてここに?」

同時に声を出し、お互いの言った言葉に顔を見会わせる。

「父さん、ケット・シーと知り合いなのか?」
ヴィンセントは、あいまいな顔で答えた。
「ああ、昔からのな。」

ケット・シーはきょろきょろと二人の顔を見ていたが、ぴょこんとヴィンセントの前に飛び出すと、納得するかの様に言った。

「ボクもバカですな、なんで気が付かなかったんや、『ヴァレンタイン』と『ヴァレンチーノ』読みが違うだけでつづりは一緒やないか、そういや昔のタークスは、全部ミッドガル式の発音、で登録してたんやったな。」
「ケット・シー、おまえには後で連絡して説明する、必ず。だからこの場はひきとってくれ。」
「わかりました、あんたはんがそんな顔をする言う事は、ボクの考えている通りと思っていいんですな。」
ヴィンセントはゆっくりと頷いた、ケット・シーは何も言わずに部屋を出て行く。


「ロレンツォ、ルクレツィアもミッドガルに来ているんだ、お前の事をずっと心配していたぞ。」
「母さんまで来ているのか、ほんと心配性だな。解ったよ、今晩一緒に食事しよう久しぶりに親子三人で。」

そう言いながら、ロレンツォは、何か隠しているだろうヴィンセントに、疑問をぶつけた。

「でも、その前に教えてくれ、なんで父さんがここに居るんだ?ここはセフィロスの家なんだろう?セフィロスとクラウドの、それなのに何故?」

ヴィンセントは、無言でじっとロレンツォの顔を見る、愛する息子の顔を。

「瞳の色が薄くなったな、その眼鏡でカバーするのも限界かもしれない。」
「父さん……どうして私に『正宗』が持てるんだ、『セフィロス』にしか持てない『正宗」が……まさか、まさか……父さん、私は、私は……」

ヴィンセントはゆっくりと口を開いた。
「ホテルに戻ろうロレンツォ、そこで話す……全部話す。」





「もうこれ以上隠すわけにはいかないだろう、そうだおまえは『セフィロス』だ、『英雄セフィロス』だ。」
母の待つホテルの一室で、父であるヴィンセントは、淡々とその事実を告げた。



ロレンツォは驚愕に目を大きく見開く、自分が『セフィロス』?そんな、では今までの記憶は?小さい頃から母と各地を点々として、年に何回か帰って来る父を楽しみに待ち、珍しいお土産に目を輝かせた思い出は?


思わず両親の顔を見る、黙り込み蒼い顔をしてうつむく母、なるだけ表情をださない様に努めている父。


「じゃあなんで私は『ロレンツォ』なんだ?瞳の色や髪の色がどうして違う?第一私は戦争に参加した記憶どころか、マテリアも剣も使えない……」

今までの自分の人生の記憶が、間違っていると言うのか?ロレンツォは、信じられずに戸惑いを口にする。


「ロレンツォ……いやセフィロス、頼むから彼女を責めないでやってくれ、全ての責任は私にある。」
「いいえ、悪いのは私よ、全ての始まりはこの私……」
それまで黙っていた母が口を開いた、哀しい顔で息子の顔をみる。

「始めから話しましょう、あなたがどうやって産まれたか、から……」





長い話を聞き終わり、ロレンツォは愕然とする、自分が『ジェノバ』とかいう『宇宙から来た厄災』の細胞を人為的に宿された存在?

ずっと研究室で実験動物なみの扱いを受け、やがて英雄として神羅に祭り上げられた存在?
ずっと父だと信じていた目の前の男は、本当の父ではなく、本当の父は最後まで自分を、モルモット扱いして死に……


「それで、私に偽物の記憶があるわけは?」
まだ、どこか焦点の合わない抑揚のない声で、ロレンツォは聞いた。

「おまえはあの事件の事を、どこまでシドに聞いた?」
「蘇った英雄が異形の怪物になり、自ら神になろうとして『メテオ」を呼んでこの星を砕こうとした、それを直前で阻止し、クラウド自ら英雄を斬り捨てた……と……」
こうやって話しても、他人ごとにしか思えない、その英雄が自分?本当に?


「その戦いの後、もう一度ルクレツィアに会いにいった……」
「私は、私はヴィンセントに頼んだのよ、最後にセフィロスと戦った場所に、連れていって欲しいと。セフィロスが生まれてから、罪の意識に怯え、何もしてあげられなかった私だけど、せめて最後に弔ってあげたかった、愚かな自己満足だったのだけれど……」



そしてたどりついた北の大空洞の最深部で、二人は、マテリアに包まれたセフィロスの身体を見つけたのだ、微かに鼓動のする、セフィロスの身体を。

セフィロスの身体を構成するジェノバが、再生するために周囲のライフストリームを引き寄せ、バリアの様に身体を包んだのだろうとルクレツィアは言った。こうして、身体を包むライフストリームの結晶であるマテリア全てを吸収した時に、セフィロスは復活するのだろうと。


最初ヴィンセントは迷った、今の内にセフィロスが動けない今の内に、星の扼災であるこの男にとどめを刺すべきではないのか。
しかし、固いマテリアはどんな武器でも歯が立ちそうでなく、第一、失ったはずの息子が生きていると知り、喜びの涙を流す愛しい女性の前で、そんな事はできなかった。


二人は、ルクレツィアの潜んでいた洞窟まで、苦労してセフィロスを運んだ。
ルクレツィアはその洞窟に潜みながらも、医者のいない不便なその土地で、医者として住人の病気を治療しており、周りに感謝され信頼されていた。そのため幾人もの人が喜んで、秘密を守る事に協力してくれた。

セフィロスが蘇るまでに半年かかった。ルクレツィアの言った通り、徐々に薄くなるマテリア。
卵の殻の様に軽くヒビが入り、身体を包むそれがぱらぱらと落ちたあと、ゆっくりと目を覚ましたセフィロス。

しかしセフィロスには記憶が全くなく、ほっとした二人は、セフィロスに新たな記憶を植え付け、『ロレンツォ』としての人生を与えたのだ。
かつてのセフィロスに与えられなかった、普通の家庭の温かい思い出とともに。


「……ジェノバの特性でね、相手の想いを読み取って姿形を変えるの、それを利用して、強烈な暗示であなたの髪の色と目の色を変える事に成功したの。ただ、暗示が解けない様に、その眼鏡のレンズにも、暗示を促すサインを埋め込んでいたのだけれど。」
「今までそれで、おまえの記憶が蘇る事はなかった。私たちは、このまま、全てを隠し仰せると思っていた。」
ヴィンセントが深い溜息をつく。

「だが、おまえはクラウドに会ってしまった、おまえと同じジェノバを宿し、おまえを倒したクラウドに。かつてお前を、人間として唯一愛したクラウドに……」
「彼のあなたを思う想い、それが暗示の効果を薄れさせている。ほら瞳の色もそうだけど、髪の色も薄くなって来ている、このままでは暗示が全て解けてしまう。」

じゃあ、それでなのか、初めて会った時からクラウドに惹かれたのは、好ましく思っていたユフィを泣かしてまでも、クラウドが気になったのはそのせいなのか。

「今さら言える事ではないけど、嬉しかった、やっと私の手にあなたが帰って来てくれて。あなたが生まれたあと、私は一度もこの手に抱く事はできなかった、きっと会う事ができても恨み言しか言わないだろう、そう思っていた。そのあなたが、私に笑いかけてくれる『母さん、母さん』って……」
「私も嬉しかった、過去の私にもう少し勇気があったのなら、得られていたはずの幸せな家庭、それを手に入れる事ができたのだから……おまえの過去を、勝手に取り上げた私達を恨んでいるか?」


ロレンツォは……いやセフィロスは、少しの沈黙の後にゆっくりと首を振った。

「恨んでないよ……父さん。」


どういう事情があったにせよ、両親が自分にむけていた暖かいまなざしは、本当の物だったと自分には解っている。二人ともたえず自分を気にかけ、何を置いても優先してくれ、そして愛してくれた。


ただ、クラウドの事が、クラウドと暮らしたであろう日々の記憶がない事が悔しかった。
かつて自分を人間として愛してくれたのはクラウドだけだったという、それなのに自分にその記憶はなく、クラウドは未だに一人で苦しんでいる。


「セフィロス、おまえが選んでいい、このまま『ロレンツォ』として生きるか、元の『セフィロス』に戻るか、おまえが選んでいい。」
「え?」
「どちらにしろ暗示は解けかかっているわ、もう一度暗示をかけるか、このまま解けるにまかせるか、あなたが選んで言いのよ、セフィロス。」

哀しみに満ちた両親の顔、ずっと自分を愛してくれた…この秘密を守るために、今まで二人はどれだけの苦労をしたのだろうか。
『ロレンツォ』でいれば、ずっと『ロレンツォ』でいれば二人の今での苦労に報いる事ができる……しかし……

「考えさせて、しばらく考えさせてよ、母さん、父さん。」







 ティファは、買い物を済ませるために、久しぶりに街の中心部に来ていた。


クラウドが帰って来てくれた喜びで、すっかり治った身体、来月には結婚する。
ショーウインドウにならぶ、流行りの小物を見るティファの目に入った、ガラスに映った懐かしい顔。

ヴィンセント!

長い間行方不明であったかつての旅の仲間、伸ばし放題していた髪は、きっちりと短く整えられ、落ちついた色のコートを着ているが、確かに彼だった。

通り過ぎようとする彼を呼び止めようとして、隣にロレンツォがいるのに気がついた。二人は親しげに話している、そしてロレンツォの呼びかけた小さな声が、ティファの耳に届いた。


「父さん……」


どうして?どう言う事?


ティファは、こっそり二人の後をつけていく。

二人向かって行っていたのは、リーブが趣味で週末だけやっている喫茶店。当然マスターはケット・シーで、奇妙なしゃべりかたをする猫型アンドロイドがマスターだと評判で、店は結構繁盛している。

『本日休業』の札がかかっているドアを、ヴィンセントが叩くと、中から黒い猫型ロボットが文字どおり飛び出して来る。

「ようこそヴィンセントはん、セフィロスはん、お待ちしておりました。」



セフィロス?セフィロスですって!?


耳に入った瞬間ティファは飛びだしていた。



「どう言う事!?」

「ティファはん!!」
「ティファ!」


「どう言う事!?ケット・シー!ヴィンセント!その男はセフィロスなの?私達をだましていたの!?」
「ティファ、違う。そうじゃない、そうじゃないんだ。」
「じゃあ、どう言う事よ!どういう事なのよ!!」
「説明する、とにかく中に入ろう。」

ヴィンセントに押さえ付けらる様にして、むりやり店の中に入れられた、ティファの瞳に映る憎悪の炎。ロレンツォ、いや今のセフィロスにはその意味は解らない。しかし、その激しすぎる憎悪は、ただの恋敵に対する物だけではないように思えた。





「それで、あなたはどうするつもり?」
「え?」
「『セフィロス』に戻るの?それとも『ロレンツォ』として生きるの?」
「それは……」
激しい口調で畳み掛ける様に問われ、セフィロスは戸惑う。記事を読んでも、なんの感慨も呼び覚まさない『英雄セフィロス』よりも、両親が無心の愛を注いでくれた『ロレンツォ』としての生活の方が、今の自分にはよほど大事だ。

……しかし……しかし……


「言っておくけど、あなたが『セフィロス』に戻ると言うのなら、私があなたを殺すわ。」
「ティファ!おまえ……今さら……」
「黙っていてヴィンセント!クラウドのためにも私があなたを殺す、クラウドをこれ以上苦しませない。」

その怒りに燃えたきつい瞳に、おずおずとセフィロスは問い返す。

「なんでクラウドのためなんだ?クラウドは『セフィロス』を未だに忘れられないんだろう?」
「あなた、ひょっとして何も聞いていないの?」
ティファは冷たい目でセフィロスを、次いでヴィンセントを見た。無言で目を伏せるヴィンセント、ティファは瞳に蔑んだ様な光を宿らせると、唇を歪ませた。

「セフィロスが、いいえ、あなたがクラウドに何をしたのか、何も聞いていないの?」
「私が聞いたのは、狂ったセフィロスがニブルヘイム火を放ち、それを止めるために、クラウドが魔晄炉の中に突き落とした。セフィロスは死んだと思われていたが、数年のうちに復活し、『メテオ」を使って神になろうとしたが、それもクラウド達に阻止されたと……」

クスクスとティファは笑う、しかしその笑いは、歪んだ暗い物を秘めていた。


「あなた肝心な事を聞いていないのね、いい!?あなたは、ニブルヘイムに火を放っただけじゃない、虐殺したのよ、住民全員を、クラウドの母親ごとね!」
「なんだって!?」

セフィロスは驚愕で大きく目を見開いた、思わずヴィンセントの顔を見る。すっとそらされた視線は、それが事実だという事を物語る。冷たい物がすっと、背筋に流れていった。

「本当に忘れてしまったのね、なんて都合のいい!あなたは殺したのよ!ニブルヘイムの住民を一人ずつ、笑いながら!あの長い刀と、魔法の炎で!大人も子供も……そして私のパパ、クラウドの母親さえも、クラウドの目の前で!」
「そんな……そんな……」
呆然とするセフィロスに、ティファは容赦のない言葉を浴びせかける。


「それだけじゃない、一緒に旅をした仲間、エアリスもあなたは斬り殺した、クラウドの目の前で、容赦なく!そして、あの災害でどれだけの人が死んだと思う?その全てをあなたが引き起こしたのよ。さあ、今さらどんな顔をして『セフィロス』に戻れて!?それら全ての罪を背負って『セフィロス』として、クラウドの前に出る事ができて?」


「私は……私は……」


「ティファはんやめなはれ、今のセフィロスはんには、全ての記憶がないんや。」
「じゃあどうしろって言うの?本人が忘れているからって、全てをなかった事にしろと言うの?私にはできない、私にはできないわ!今この人の髪が銀色だったら、私は何も言わずにこの人を殺している。」

ティファの深い憎悪、それは当然自分が受けるべき物なのだろう。ではクラウドもそうなのか、自分にむけるのは愛情だけではなく、憎悪の視線でもあるのか。


「ティファはん、あの旅の途中、クラウドはんが操られて、エアリスはんを殺そうとした事がありましたな、あんたはん、クラウドはんを憎めましたか?」

ぽつりとケット・シーが言った。

「何を……憎めるわけないじゃないの、仕方がなかったのよ、あの時クラウドは、セフィロスに操られて……」
「セフィロスはんも一緒や、セフィロスはんは『ジェノバ』に操られてはったんや、『神羅』の醜い欲望がセフィロスはんを狂わせたんや。」

それまで黙っていたヴィンセントが口を開く。
「ティファ、責めるなら私を責めてくれ、セフィロスの記憶がないと知った時、やり直せると思ったんだ、私は……だから私を……」


ティファは俯き黙っていたが、やがて立ち上がると冷たく言った。

「あなた達がどうしようと私達には関係ない、ただ二度とクラウドに近付かないで!二度と!!クラウドを苦しませるのは私が許さない。」

言い放って出ていくティファを、セフィロスは無言で見送った。







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