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A Stellar Sonata 4
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| 翌朝、晴れ渡った空にクラウドは大きく伸びをした、泣くだけ泣いたらすっきりした気がする。 酔った挙げ句に醜態を晒してしまった、何も知らないロレンツォは、きっと、自分は酔っぱらう毎に男を口説いて回るいい加減な奴に見えたのだろう、婚約者までいるくせに。 そう…ティファがいるくせに… 「ねえ、だからあたし、もう少しここにいていいだろ?邪魔しないからさ。」 「ユフィ、私はここに遊びに来ているわけじゃないんだ、君もおやじさんに頼まれた仕事があるだろう?」 後ろから聞こえる声に、思わず身体が強張った、どういう顔をしたらいいのだろうか、何を言ったら…… しかし、戸惑い、立ち尽くすクラウドより早く、ロレンツォが声を掛けた。 「おはよう、夕べはすまなかった、私は言い過ぎたようだ。」 クラウドは表情を消すと、ゆっくりと振り向いた。 「別に気にしてないさ、それより今日はどこを回るんだっけ?早めに打ち合わせしておかないとスケジュールに遅れが出る。」 「解った、今日は山の入り口までの道路の点検と地盤の調査だ。それと、ニブル山にロープウェイを通す件で、今日からロケット村の技術責任者が来る。」 クラウドの態度がいつもと変わらないので、ロレンツォは少しほっとするが、やはりどこか居心地が悪かった、その理由が、決して自分の目を見ないせいだと、すぐに気づき、少し落ち込む。 やはり、自分はこの青年を深く傷つけていたのだ。 「ねえ、なんかあったの二人とも、変だよ。」 ユフィが疑わしげに二人を見る、クラウドは興味無さげに言った。 「何もあるわけないだろ、おまえ、いらない事にまで気を回し過ぎ。」 「べーっだ、クラウドに言われたくないよーだ、ねえロレンツォ。」 わざとクラウドの前で腕を組み、ロレンツォに甘えてみせながら、ユフィは昨日自分の放った嘘が、二人の間に大きな溝を作った事を確信する。 「今日のお仕事終わったら、又一緒にご飯食べようね、ロレンツォ。」 後ろからべったりと抱きつきながら、ユフィは、飛びきりの笑顔を浮かべた。 宿舎のミーティングルームで、ロレンツォは地図を広げながら、工事の担当者に何やら指示を出していた。 土地カンもないはずのこの地で、その指示はいつも的確だ。モンスターよけの防御柵の位置、強度、そしてその地形に合う建造物、その設計から素材まで。 毎日、自分で真っ先に現場に足を運び、その地を徹底的に調べて、又クラウドに情報を聞きながら、的確な判断を下すロレンツォ。 この仕事ぶりには、いつもクラウドは、感心している。 「ロケット村の工事責任者はまだつかないのか?話が進められないじゃないか。」 ロレンツォが、イラただしげに時計を見た時、陽気な声が響いた。 「いやぁ、ワリィな、道が途中崖崩れで塞がっていてよ、社長さん、やっぱ先に道路整備をしといた方が無難だぜ。」 「シド!」 クラウドが笑顔で立ち上がる。 「よお!元気そうじゃねーか、相変わらず細っこいがな。」 ロレンツォが、苦笑しながら言った。 「シドさん、それなら、早く知らせてくれれば良かったのに。」 「連絡してどかしてもらうより、てめえ達でやった方が早かったからな、どうせ機材も持って来てたしよ。」 豪快に笑う男に釣られて笑うクラウド、その笑顔に少しロレンツォは安心する。 どうして自分はこんなに、この青年が気になるのだろうか? ゲイの性癖はないはずだった、しかし、気がつけばか彼の事ばかり考えている。 黙々と仕事に打ち込む顔、時折見せる切なげな思い詰めた顔、そして昨日、自分が泣かせてしまった顔…… あれは、本当に酔った弾みの遊びだったのだろうか? あの後、ドアの外に響いていた悲痛な泣き声は、とてもそんなものには思えなかった。 捕われたのか?……まさか…… 「社長さんよ、ロープウェイの支柱の建設場所なんだが…」 その日の終わり、設計図を抱えて、シドがロレンツォの仕事部屋にやって来た。 「最初このA地点に2本目の支柱を立てるという事だったが、 オレとしてはこっちのB地点の方がいいと思うぜ。」 「しかし、そうすると距離が出て、もう一本支柱を立てないといけなくなるが。」 「地盤と強度を考えたら、もう一本支柱を立ててもこの位置にすべきだ、この山は以外に脆くて崖崩れも多いしな。」 地図と、地質データーを交互に指しながら、シドが説明を続ける。 「なるほど、解った、噂どおり優秀だな。」 「あんたも優秀だぜぇ、最初にこの全体の図面ひいたのあんただってな、よく細部まで考えてある。」 破顔するシドに、ロレンツォは少し言いづらそうに口を開いた。 「ところでシド、少し聞きたい事があるんだが。」 「おー、なんでぃ?」 「クラウドの事なんだが、あなたも付き合いが長いと聞いた。ユフィに英雄セフィロスと、クラウドとの事を聞いたんだが……」 「何を聞いたんだ?」 シドが、少しきつい顔でロレンツォを見る。 「いや、酔ったクラウドが私をセフィロスと間違えたんだ、それで…」 ついしどろもどろになるロレンツォに、シドはため息をついた。 「社長さん、クラウドの事を悪く思わないでくれよ、奴だってつらいんだ、ようやく忘れようとした所に、こんなにそっくりなあんたが現れたんだからな。」 「クラウドは酔うといつも?」 「いや、昔からめったに酔わねえよ、あいつは決して人前で自分を晒そうとはしねぇ、酔ったのはあんたの前だからだろう。いくら別人と思っても、目の前にかつて、自分が手にかけた恋人と、瓜二つの男がいれば、やつのガードだって甘くなるだろうさ。」 その言葉にロレンツォは、驚きに目を見開いた。 「恋人?手にかけた?どういう意味だ?」 シドは、ヤバいという顔をする。 「あんたひょっとして聞いていなかったのか、悪い、今のは忘れてくれ。」 慌てて出て行こうとするシドの手を、ロレンツォはぐっと掴んで離さなかった。 「教えてくれ、私は、クラウドにとんでもない事を、言ったのかもしれない。」 「ねえ、ロレンツォ、向こうにさ、すっごく景色のきれいな所があるんだよ。」 仕事部屋から出て来たロレンツォにユフィがまとわりついて来た。 甘える様に腕を組もうとするユフィを、ロレンツォは邪見に振払う。 「ど、どうしたの?なんか怒った?」 戸惑うユフィに、冷たい声が響いた。 「なんで嘘をついた?」 「え?」 ユフィの顔色が変わる、自分に注がれる鋭い視線、こんな恐い顔は初めてだった、今までどんな我侭だって、笑って許してくれたのに。 「解っているんだろう?クラウドの事だ、何が『男にフラフラ声をかけるので困っている』だ、セフィロスはクラウドの恋人だったんだって?」 さっさと歩き出すロレンツォの後を、ユフィが慌てて追いかける。 「嘘じゃないよ、クラウドがなんて言ったか知らないけど、クラウドは憧れていたセフィロスに振られたくせに、昔自分はセフィロスと付き合っていたって言いながら、似ている人口説くんだ。」 「いい加減にしろ、ユフィ、これ以上嘘を重ねるな。」 ロレンツォは、この上もない不機嫌な顔をユフィにむけた。 「さっきシドに全部聞いた、二人の間にかつて何があったか、二人がどういう関係だったか、それなのに私は、おまえの言葉を鵜呑みにして……」 そう鵜呑みにして、傷つけた……ひどい言葉で傷つけてしまった…… 再び歩き出したロレンツォにユフィが、泣きながらすがる。 「ごめんよ、だってクラウドに取られると思ったんだもん、あたしロレンツォの事本気で好きだから、取られたくなかったんだもん。」 すがる腕をぱしっと振払って、ロレンツォは冷たく言い捨て、歩き出した。 「ユフィ、おまえの子供っぽい所が可愛いと思っていたが、自分のためなら、大切な友人を傷つけてもいいと思う程子供とは思わなかった、ミッドガルにもどれ。」 「ロレンツォ!」 「ミッドガルに戻って、オヤジさんに任された仕事をきちんとやり遂げろ、これ以上私に軽蔑されたくなければ。」 ユフィの目から大粒の涙が流れていく。その後どれだけ呼んでも、ロレンツォは振り向く事はなかった。 「明日から、旧魔晄炉の調査を行おうと思う。」 夕食の時に、ロレンツォはクラウドに切り出した。 「あそこの建物を、展望施設のあるホテルにしようと思うんだ、南側の緩やかな斜面はきちんと整備すれば冬はスキーができそうだし、夏は星が綺麗なんだろう?」 あの建物をホテルに?あの呪われた場所がホテル……クラウドは少し呆然とした顔をした。 「どうした?地質調査で温泉が出るらしい事も解っているんだ、この上もなくいい立地条件だ。あそこまでロープウェイを通せば不便さもなくなるし、ゴールドソーサで遊んだ観光客を呼び込めるぞ。」 陽気な笑顔を自分にむけるロレンツォ、この男には自分の感慨など解らないだろう。 「解った、調査に行くのは何人だ。」 「私とおまえの二人だけだ、まだ道が整っていないから、大勢で行くと、警備の者も増やさなくてはならなくなるだろう?」 「そうか、じゃあ明日は早起きだな、装備はきちんとしといてくれよ、ニブル山はけっこう厳しいぞ。」 「解ってる、これでも少しは鍛えているつもりだ。」 胸を張るロレンツォに、クラウドは少し聞きづらそうに聞いた。 「それと…あんたユフィと喧嘩した?なんか泣きながら出て行ったって聞いたけど。」 「あまり我侭を言うので、叱ってミッドガルに帰したよ、あの子は子供過ぎる。」 「ユフィはああ見えても結構脆い所があるんだ、あんたに怒られてしょげただろうな、今度会ったら許してやってくれ。」 その言葉に、ロレンツォは微笑む。 「解った、そうしよう、明日は頼んだぞクラウド。」 そうして、クラウドの頭をくしゃくしゃと軽くかき混ぜて、ロレンツォは食堂から出て行った。 食事を続けようとして、クラウドの手が止まる。 どうして、違う人間だと解っているのに、こんなに心が騒ぐのだろう。 かつてのセフィロスがよくやった、クラウドの髪をかき混ぜるクセ、掛ける言葉のイントネーション、どうして他人なのにこんなに似ているんだ、他人なのに…… セフィロス、オレをいつまで縛り付けるの? セフィロス…… クラウドは思いと一緒に、無理矢理食事を飲み込んだ。 空は晴れ渡っていた、ニブル山の中腹にある旧魔晄炉の建物に向かって、二人は黙々と歩く。 途中何度かモンスターにあったが、この山のモンスターはクラウドの敵ではない、あっさり魔法で蹴散らして行った。 「相変わらず凄いな、ドラゴンクラスでも一瞬だ。」 「別に、この山のモンスターくらいなら、そう強力じゃない。」 そう言いながらクラウドは十三年前を思い出す、まだ少年だった自分は、目の前でドラゴンを次々に倒すセフィロスを見て、感嘆の声をあげたのだった。 その時セフィロスに言われた台詞を、ついロレンツォに返してしまう。 「魔法は使えば使う程強くなって行く、あんただって、鍛えればドラゴンくらい倒せる様になるさ。」 「あいにく私はマテリアと相性が悪くってね、軽い魔法でも使うと頭痛が中々止まらないんだ。小さい頃、身体が弱くて、病気がちだったせいかもしれないが。」 「へえ、あんたいい身体してるか、らそんな風に見えないけど。」 「大人になって体力がついてきて、なるだけ鍛える様にしているからだ、おかげで最近はめったに病気しないが。母は、今でも過保護に身体の事を心配するんで、まいっているよ、いい大人なのにな。」 そうかこの男には母親がいるのだった、きっとこうして離れている間でも彼の身を案じ、心配する母親が。 「お母さんどんな人?」 「母は息子の私が言うのもなんだが、若くて奇麗だよ。私を産んだのが18だと言っていたな、医者のクセに心配性で、しょっちゅう私の身体の事を心配する。なんでも一度死にかけた事があるそうなんだが、ありがたいと思っているよ。」 セフィロスに母親はいなかった、いや、母親どころか普通の人間に、当たり前にあたえられる家庭すらなかった。 もしセフィロスがこの男の様に、あたりまえの家庭で母親に愛されて育ったのだったら、同じ様に、穏やかに笑いながら、普通の人生を生きていたのだろうか? オレの隣で、笑っていてくれたのだろうか? 感傷を打ち切る様に、クラウドは急に黙り込み、頭をあげて道を歩き出した。 ロレンツォは黙々とそれに従った、青年の魔晄の瞳に映った哀しい色に、気付かない振りをして。 稼働する事を何年も前にやめた魔晄炉は、建物自体はそう傷んではいなかった。 「これなら中を改装するだけでよさそうだ、建物の形自体面白いしな。」 中の壁や柱を触りながら、ロレンツォは図面をチェックして回る。 暗い内部は、巣食っていたモンスターを一掃させると、動いているものの気配は何もなく、空の魔晄ポッドが冷たく光りながら列を作っていた。 クラウドも周囲に気を配りながら、建物を見て回る、久しぶりに来た、最初にセフィロスを殺した場所。 今でも鮮明に、あの日の事が思い出される…… あの日この場所で、血を流し魔晄ポッドの上に飛ばされたザックス。 『セフィロスが…止められない…』 血と一緒に吐き出された悲痛なザックスのつぶやき…… 悲鳴とともに切り捨てられ、落下して来るティファの身体。 その身体を受け止め、優しく隅に寝かせた時に、もう殺すしかないと思った。 自分が、自分が殺すしかないと…… 夢中でザックスの刀を掴み、階段を駆け上がり…… あの階段の向こうの小部屋で、鎮座したジェノバに向かって、狂った瞳で、朗々と語りかけるセフィロスに、思い切り斬りつけた……泣きながら。 どうしてあの時、ただの兵士であった自分に、セフィロスが斬れたのだろう? 自分の気配に、セフィロスが気付かなかったはずはない、いくら狂っていたとはいえ、あのセフィロスなのだから。 ただ、振り向いたセフィロスの、縦に裂けた翡翠の瞳を見た時、この人はオレの知っているセフィロスではなくなったと、漠然と思ったのだった。 そして、愛するセフィロスの為にも、今この場でこの男の命を絶ってしまわなければと…… 胸が苦しい、身体中の血が逆流しそうだ、あの時の悲痛な決意、悲壮な想い…… そして、最期に魔晄炉に突き落とした時、落ちる瞬間、確かにセフィロスは笑った、微かに笑った。 『クラウド…』 身体が落下する同時に放たれた声、以前と寸分変わらぬ愛する人の声。 叫び声を上げ、伸ばした手は既に届かず、あとを追おうとして気を失った。 あの時、気を失うのがもう少し後だったら、一緒に魔晄炉の中に落ちていたら…… あの人はどうして最期に笑ったのか、あの時、元のあの人に戻っていたのか…… ただ、クラウドの耳には、あの時に呼ばれた声が今も残っている、満足げな微笑みとともに。 「クラウド…クラウド?」 「え?あ、あ…なんだ?」 「どうしたぼんやりして。」 「いや、何でもない何か用か?」 心配げに覗き込む男の顔を、クラウドは切ない瞳で見返す。どうして今、ここにいるのがこの男なのか。 あの人と同じ顔で、同じ声で。 「外がかなり吹雪いて来た、収まりそうもないぞ。」 言われて慌てて窓から外を見る、いつのまにか雪が激しくなって来ていた、とてもすぐには収まりそうもない。 「しまった、天気には気をつけていたつもりだったんだが、こうなるとたぶん明日の朝までこのままだ。」 「とすると、ここで夜明かしか、まあ、万が一のために食料は持って来ているしな。」 「あっちに、警備員が寝泊まりする部屋があったはずだ。」 しばらく使われていなかったその部屋は、ホコリ臭かったが一晩寝泊まりするには十分だった。 机と椅子とベッドが、一つずつしかない殺風景な部屋、昔誰かが使っていたのか壊れた携帯ラジオが転がっていた。 机の上に荷物を置くと、クラウドは炎のマテリアの力を解放した。部屋の気温が上昇し、コートを脱いでもいいくらいの所で収まる。 「これで、明日の朝まで大丈夫のはずだ。」 「器用だな。」 感心するロレンツォにクラウドは笑う。 「このくらいできないと、何でも屋なんてやってられないのさ。」 「では私は食料の用意をするか、キャンプなんて久々だ。」 楽しそうに準備をしだす男の背中を、懐かしい姿と重なる背中を、クラウドは、憂いに満ちた瞳でじっとみつめていた。 back top next |
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