Encounter …邂逅…  5
気配を殺す事には慣れていた、そうしなければ山での生活はできなかった。

…クラウド…息をするなと言ってるんじゃない、山の呼吸に合わせて息をしろ、そうすれば、おまえの気配も山に溶けていく…

日が昇りかけた朝靄の森の中、こんもり繁った一際高い枝の上で、露を含んだ木の葉が重そうにゆれる。
ポタリと落ちる雫、それを額にうけながらも、クラウドは微動だにしなかった。
そう、今自分はこの森の気配に溶けている、だから溶けていない奴らの気配が読み取れる、何人いるのか、どこにいるのか…

男達が別れて、自分を捜しているのが解る。
…二人ずつが、二組、そして別にもう一人…
その一人とは、さっき剣を持っていた男だろう、その男にだけは極力見つけられない様にしたほうがよさそうだ…本能がそう告げていた。

…でも、どうする?このままやりすごせるのか?
5人を相手に勝つ自信はない、小さいとはいえ、うっそうと繁った森の中、そう簡単に見つからないだろう…諦めてくれるのを待とう…
そう思ったクラウドだが、次の瞬間、自分の甘さを思い知らされた。

軽い衝撃のあと、森の一か所に火の手があがった、続いて別の箇所にも…
次々に上がって行く炎と煙り、鳥や動物達の静かな活気に満ちあふれていた朝の森の風景は、恐怖と混乱の場に一変した。

…オレを見つけるためか!それだけのために森に火をつけたのか!!
朝露で湿った木に、そう簡単に火をつけることはできない。
聞いた事がある、「魔法」というものを、モンスターが使うそれを、訓練次第で自由に操れる様になる事を。
さっきの男が操っていた雷もおそらくそれだろう、そして、その力で森に火を付けた?
この森がここまで繁るのに、どれくらいの年月がかかると思っているのか!?

…クラウド、森を切り開き、山を削る人間は、自分で自分の首を締めている事に、気付かないんだろうなぁ…

気付くもんか!あいつらは自分たちさえよければそれでいいんだ!!


火の手は衝撃と共にますます広がって行く、おそらく自分を見つけるまでは、火をつける事をやめないだろう、クラウドはギリっと唇を噛んだ。
…ただ捕まりはしない!

「いたか?」
「いや、いないぜ、もう外に出ちまったんじゃないか?」
二人の男が、叫びながらクラウドを探していた。
早くみつけないと、雇い主にどやされる、全くあのガキめ…
一人の男が、ぶつぶつ思いながら手に持った「ボムのかけら」で手近な木に火をつけようとした時、上から何かが降って来た。

一瞬見えたのは少年の華奢な右足、次の瞬間目の前に火花が散り、もんどりうって倒れる。
木の枝の上から様子を見ていたクラウドが、飛び下り様に男の眉間を蹴り上げたのだ。

「あ、こいつ!おーい!ここにいたぞ!!」
気付いたもう一人が、叫んだ。
捕まえようと伸ばされた手をかわし、「しびれ針」を投げ付ける。
ニフル山のモンスターから採れる「しびれ針」は、一瞬で相手を麻痺させる。
人間に使おうなんて思った事はなかった…
…構うもんか!自業自得だ!!
男が硬直して倒れるのも確認せずに、クラウドは森の外に向かって走り出す。

その時、狼タイプのモンスターが火に追われて、群れで逃げるのに遭遇した。
…ヤラレル!
そう思ったが、なぜか狼達はクラウドを避けるかの様に、大きく曲線を描いて走り去った。
…?なんだ?そういえばさっきも…

そして初めて気が付いた、自分の左腕に見なれぬバングルがはまっている事を。
そして嵌っているマテリアから、淡い光が流れて、自分の全身を包んでいる事を。
クラウドは知らない「てきよけ」のマテリアの効果だった。

…あの人がはめてくれたのか?でも、どこに行ったんだろう?まさかあいつらに…

今さら捜す暇はない、さっきの男の声で、すぐに他の奴らがくるだろう。
とにかく今は、一刻も早くこの森の外に出て、どこかに逃げ込まなくては…
でも、無事でいて…
自分を守ってくれる様な不思議な翡翠の瞳を思い出しながら、クラウドは森の外に走って行った。

森の外は一面の荒野だった、ところどころに草が繁ってはいるが、何もないひび割れた大地…
日は高く登り、初夏の日ざしが肌を刺す。
汗が止めどなく流れ、焼け付く様に喉が渇く、でも足は止められない。
さっきから何度あいつらをやり過ごした事だろう、それでも追ってくる奴ら…
リュックは置いて来た、ポケットの「しびれ針」も使い果たした。
…どっちに逃げたらいいんだ?どこに逃げたらいいんだ?


荒く息をする唇が張り付く、もう汗すら流れなくなった。
妙に冷えていく身体…足がもつれる、さっきまで、うるさい程鳴っていた自分の心臓の音が解らない、
急に目の前が真っ暗になり、すうっと力が抜けた…


倒れたクラウドを、男達が取り囲んでいた。
「ようやく、捕まえたか、手間掛けさせやがって…」
一人の男がクラウドを蹴ろうとした。
「やめろ!商売もんだ、傷を付けずに持って帰れと言われてるだろーが!」
「でもよ…このじゃじゃ馬が大人しく客をとるかね。」
「薬付けにすりゃ、いやでも言う事聞くさ。初見世に出したら懲らしめに、オレたちで好きにしこんでいいとさ。」
「へえぇ、そりゃ、楽しみだな。」
男達は、下品な笑いを浮かべてクラウドを抱き上げようと、手を伸ばした。
その時、一陣の風が舞った。

瞬間吹き飛ばされた男達は、何がおきたか解らなかった。
男達を吹き飛ばすと同時にその風は、少年の身体を空高く舞い上げる。

一人の若い男が長い黒髪をなびかせて、いつのまにか立っていた。
少年は、その男の腕の中にふんわりと着地する。

「だ、誰だ?てめぇは!!」
吹き飛ばされた男の一人が叫ぶ。
長い黒髪の若い男はちらっと視線をやるが、無視してそのまま歩き出した。
「このやろう!そいつを返せ!!」
後ろから掴み掛かろうとした男の足を振り向きもせずに、横に払う。

ごきっ…
鈍い音がした、途端にあがる悲鳴、男の足が折れていた。
「このやろう舐めやがって!!」
一斉に他の3人の男が飛びかかる、しかし若い男は事も無げにクラウドを抱き上げたまま、足を一旋した。
悲鳴とともにふっ飛ぶ、三人の男、最初の男と同じ様に片足、あるいは両足を折られていた。
若い男は息一つ乱していない、そして初めて振り返った。
自分をあっけに取られて見つめる、元ソルジャーの男を冷たい視線で睨みつけて。

「お、おまえ何ものだ…」
凍る様な殺気に身がすくむ、どこかで見た様な秀麗な顔…しかし、その流れる様な黒髪と茶色の瞳に覚えはない。
「元第3小隊、グレゴール=ラ−トブルフ軍曹、こんな所で何をしている?オレの顔を見忘れたか?」
「な、なんでオレの名を…」

男は冷たい視線をさらに冷たく研ぎすますと、氷のような声で言った。
「ソルジャーが除隊したあとは、絶対にその能力を悪用してはならない、忘れたわけではないだろう?それとも無益に無関係の民間人を殺したものの、証拠不十分なまま除隊したおまえには忘却の彼方か?」

かっての自分の罪を淡々とならべたてる男、その、人とは思えぬ凄まじい殺気、かつて戦場で遭遇した物と同じ…
「まさかあんた…連隊長…」
髪の色と目の色は違うが確かにその顔は、氷の英雄セフィロス!!
男はがたがたと震えだす、
聞いた事がある、セフィロスはソルジャー連隊1500名の顔とプロフィール全てを覚えていると…

「思い出したようだな、ではこれも思い出してもらおう、『ソルジャーが除隊したあとは、絶対にその能力を悪用してはならない、もし悪用した場合には…』」
絶対零度の声が響くと同時に、男は叫び声を上げて逃げ出した。
その瞬間、走る衝撃と稲光り、あとには何も残っていなかった…元ソルジャーの身体の一辺も…

「『…もし悪用した場合には、その場で死刑』」
それはまさしく死神の声だった、足を折られた他の男達は恐怖で声もでない。
セフィロスは男達を一顧だにせずに、クラウドを抱いたまま立ち去った。