Only Pair…比翼… 5
「それで?全員で俺をつるし上げか?」
イライラとあからさまに不機嫌なセフィロスに、ロイドは平然と返した。
「へえ?つるし上げられる自覚はあるんですね。」
「仕事が終わるのと同時に詰め寄られれば、誰だってそう思うだろうが。」
ジロリと見回され、ザックスとレオは思わず首をすくめる。
執務が終わると同時に、三人でセフィロスの机を取り囲み、ロイドが「話があります」と声をかけたのだ。前々からセフィロスとロイドの舌戦は見物だったが、今回は、絶対零度に凍り付く。

「年端もいかない子供に手を出して、後の責任もとらずに、のうのうとしている自覚はないんですか?ゴミ以下ですね。」
「主任ーーーー!」
一段と凍った空気に、ザックスが思わず叫んだ、セフィロスはと見れば、怒りでぶるぶると震えている。

「なんと言った?」
魔晄の瞳が、不気味に光る。
「俺が、のうのうとしていると、本当に思っているのか?」
低い、地響きのような声だ、本当に怒っているのだろう、今のセフィロスを前にすれば、百戦錬磨の勇者も裸足で逃げ出すに違いない。

「思ってますよ。」

すかさず返された答え、凍り付いた室内に、無音のブリザードが吹き荒れる。

「連隊長……」

沈黙を破ったのは、レオだった。
「でもですね、連隊長のお気持ち、確かに、このままではクラウド君には伝わりませんよ。」
真摯な口調に、セフィロスの怒気が少し緩む。
「連隊長が、クラウド君の気持ちが解らずに、不安になる様に、クラウド君も連隊長の気持ちが解らずに、不安になるとは思いませんか?」


「クラウドも、不安に思っているのか?」

その言葉で、ロイドはため息をつき、レオの目は点になり、ザックスの顎は外れそうになった。

「あったりまえだろー!!予告もなくいきなり手を出されて、相手は翌朝いなくって、帰ってきたかと思えば電話一本よこさずに、いきなり自分の荷物を全部送りつけられりゃ、不安どころか絶望的に落ち込むぞ、普通!」
すかさず立ち直ったザックスが、思わず怒鳴る。


「なんでだ?翌日はジュノンで演習だったから、朝早かったし、演習中は私的連絡は禁止だ。」
「だから、そういう事じゃねーんだよ!俺が言いたいのは!」
痛む頭を押さえつつ、ザックスはまくし立てた。

「クラウドの身になってみろって、言いたいんだよ!ただでさえ不安で一杯なのに、あんたは未だに電話一本もよこさない。『ああ、自分はその程度の相手なんだ。』と思うんだよ、普通は!」

「そんなわけないだろう!どうしてそう思うんだ?俺はクラウドの事をないがしろにした事は一度もない!」
思わず立ち上がったセフィロスに、ザックスがたたみ掛けるように叫ぶ。

「だから、それをクラウドに直接言えよ!」


ぴくっと、顔色が変わり、だらしなく視線を逸らす。こんな姿のセフィロスを、誰が想像出来ただろうか。
情けない、いや、弱々しい、ザックスとて、英雄に憧れた1人だ。こんなセフィロスは見たくない。

一瞬の沈黙に、レオが静かに割り込んだ。
「連隊長、クラウド君に向き合うのが怖いのは解ります。だけど、連隊長の気持ちを伝えなければ、何も始まりませんよ。」

「嫌われたかもしれないのにか?」
ぽそりと呟かれた言葉に、ぷつんと何かが切れた音がする。

「いい加減にしませんか?」
口火を切ったのは、意外にもロイドだった。
「あなた15才の頃、私になんて言いましたか?『おまえがそんなに臆病だとは思わなかった、想いは言葉にしないと伝わらないぞ、なぜ伝えない?』そっくり返しますよ、あの言葉。」

思い切りの侮蔑の眼差しを向けられ、セフィロスは呻くように言った。

「悪かった。」


こんな情けない声で謝るセフィロスは、初めてだ。

「俺は何も知らなかった、人と向き合うのがこんなに怖いとは……」
セフィロスはぐっと拳を握りしめると、弱々しい声で続ける。


「この甲斐性なし!何が怖いですか!!私の方が、どれだけ分が悪かったと思ってるんです!?」
「主、主任?」
突然ロイドが切れた。

「あの時、私がどれだけ怖かったと思ってるんです!?相手は家庭持ちで、おまけにノン気だと思っていたし、一番気の合う同僚なのに、告白なんかしたら、いっぺんで嫌われる。それくらいなら胸に秘めていよう、そう思っていたのを、あなたが焚きつけたんですよ!」
「だから、悪かったと……」
「私に悪いと言うのなら、先にクラウドに謝りなさい!」
「クラウドには、ちゃんと謝ったぞ『すまなかった』と、置き手紙して……」

「このバカ!!」


三種類の声が、ハモった。セフィロス以外の三人は、互いに顔を見合わせてため息をつく。


「だーめだこりゃ……」
「何が駄目なんだ?ザックス。」

むっとした声のセフィロスに、ロイドが冷たく言った。
「もういいです、勝手になさい。考えてみたら、クラウドの為には、このままの方がずっといいですからね。」
「主任……」
「そうでしょうレオ、このままセフィロスから離れれば、クラウドは多少傷ついてもまともな道を歩めますよ。まだ若いんだし、すぐに可愛いガールフレンドを見つけるでしょう。」
「それは、そうですけれど……」
「心配しなくても、クラウドの面倒は私とジャックで見ます。明後日から、寮に入れるそうですが、入学しても保護者代わりに力になってやりますよ。」

ロイドは、とどめを刺すように言った。
「こんな情けない男よりも、よっぽど力になりますよ、ええ!」



無言のセフィロスを振り返りもせず、バンとドアを閉めて、ロイドは出て行く。
残されたレオとザックスは、人形のように固い顔をしたセフィロスに、どうしたものかと、互いに顔を見合わせた。

「連隊長、俺はやはり、クラウド君と会うべきだと思いますよ。」
しばしの沈黙の後、レオが口を開く。
「だから、解ってはいるんだ、だが、会うのが怖いのもあるが、俺は……」
ため息をついて、セフィロスは答えた。

「俺は……クラウドに、どう言ったらいいのか、解らない。クラウドを前にしたら、何を話していいのか解らない。」
「言葉というのはね、自然と出てくるもんですよ、頭で考えるから解らなくなるんです。」
ゆっくりと、言い聞かせるようなレオの口調。ザックスが頭を掻きながら、それに続ける。


「あのな、にーさん、クラウドは言ったんだぜ『セフィロスは、悪くない。俺がいいって言ったんだ。セフィロスは悪くない』ってね。レイプされたと誤解した俺に、クラウドは、一生懸命弁護したんだ、あんたを悪者にしたくない一心で。嫌われてなんかないと、俺は思うぜ。」
「クラウドが?」
そう呟いて、考え込むセフィロスにザックスは言った。

「ゆっくりでいいから答えをみつけろよ、後はあんた次第だ。俺達が関知する事じゃない。」
レオも大きく頷く。

「じゃあ、俺達はこれで帰るけど、そういや、あんたの問題は片づいたのか?クラウドの話しだと、あの日、えらく落ち込んでいたみたいだったけど。」

「俺の問題?」

セフィロスは、ちらりと視線を向けると、どうでもいいような口調で言った。

「今更ながらに思う、なんであんな事で悩んだのだろう、実にくだらない事で我ながら落ち込んだものだ。クラウドの事に比べれば、とるにたりない事だった。」





「怖かったよな、あの時の主任。」
「兄貴、おかげで俺が怒るタイミング、逃しちまったよ。」
数日後、二人きりの司令部で、レオとザックスは書類を片づけていた。

「まあ、主任にしてみれば、歯がゆくてしょうがなかったんだろう。」
「気持ちは解るけど、にーさんぐうの音もでなかったな。ところで、今日はなんで皆さんお留守なんで?」
「ばーか、今日は神羅兵学校の入学式だろ、副長と主任はクラウドの保護者として、出席するって、年休とってお休み。」
「ああ、そうすると、にーさんは来賓で出席か。あ、兄貴、次の演習の計画書、チェックしといて。」
ザックスが書類を渡しながら、ボリボリと頭を掻く。

「そういや、クラウド、トップで合格じゃなかったけ?新入生総代じゃん。親父、嬉しいだろうな、あの人自分の息子のこんな席出た事ないからさ。」
「ところがだ、ザックス、一つ問題がある。」
にやっと笑うレオに、ザックスはきょとんとして聞いた。
「問題?何が?」
「クラウドは新入生総代だろ、兵学校の入学式の恒例行事、果たして連隊長は覚えているのかな?どうも俺は忘れている気がするんだが。」
「恒例行事……?ああーっ!あれか!」


セフィロスは、戸惑っていた。
こういう事態を、予測しないわけだはなかったが、今日は、遠目から彼を見るだけだと思っていた。
クラウドが新入生総代だという事を、完全に失念していた。覚えていれば、心の準備をしていたのに。

「新入生代表、クラウドス・トライフ、英雄セフィロスの前へ。」

目の前に、クラウドがいる。




       
back           top          next