Pure love…純愛8
 ひやり、とした感触に、セフィロスは我に返った。触れている肌が冷たい、あれ程熱かった内部までも。

何度目の絶頂を迎えた後だろうか、いや、そもそもどれだけの時間、交わっていたのか、この幼く細い少年と。

慌てて頸動脈に触れると、弱々しい拍動が伝わってきた。
しかし、いつも薔薇色に輝いていた頬は、青ざめ、唇の色も紫色に近い。息をするために上下する胸郭の動きは微かで、今にも途切れそうな浅くゆっくりとした呼吸。

急いで身体を離し、先程脱ぎ捨てたジャケットのポケットを探る。回復マテリアを取り出し短く呪文を唱えると、柔らかな緑色の光が満ちあふれ、クラウドの身体を優しく包んだ。
それと共に、蒼く感じていた肌の色が、薄紅く染まっていく。胸郭の動きもしっかりと大きくなり、すーすーと穏やかな寝息が聞こえてきた。脈に触れると先程は弱々しかった拍動が、規則正しく力強く伝わってくる。

ほーっと安堵の息を吐くと同時に、猛烈な後悔がセフィロスを襲った。

限界を超えた交わりのせいで、クラウドを殺しかけたのだ、いくら途中から自分を見失っていたとはいえ。
ソルジャーである自分が、手加減なしにこの子を抱けば、こうなるのは当たり前の事だった。それは十分に解っているはずだった、解っているはずだったのに……


それでも、止められなかった、自分を止める事ができなかった。


細い身体を抱き上げる。ぐったりとしたクラウドの肌は、まだ少し冷たい。
そして、全身汗と体液にまみれてべたべたと汚れ、足の間から残滓に混じって流れる赤い筋。傷自体は先程の回復魔法で塞がってはいるのだろうが、どれほど激しくこの身体を犯したのかよく解る。

犯した……そう、最後の方はレイプに近かった、意識をとうに無くしたクラウドの身体を、執拗に何度も犯したのだ。
この細い身体で、自分を受け止めてくれた。怖くてたまらなかっただろうに、無理に微笑んで、自分の哀しみを全て包み込んで溶かしてくれた。

愛しさが急激にこみ上げ、セフィロスはぎゅっとクラウドを抱き締めた。そっと唇を合わせる、ひんやりとした柔らかな唇は、少し乾いていた。


愛しい、愛しい。


汚れた金色の髪を掻き上げ、セフィロスは頬ずりをする。
今まで自分は知らずにいた、自分の全てを受け止め、包んでくれる存在がある事が、どれだけ救いになるかという事を、それがたとえどんな絶望の中にあっても。


「綺麗にしてやるからな。」

額にキスを落とすと、セフィロスはクラウドを抱き上げてバスルームに向かった。




短い眠りから目を覚ました時、腕の中の小さな身体は、すっかり元の体温を取り戻していた。
ただ、極度の疲労のせいで、深い眠りに落ちているのか、ぴくりとも動かない。風呂で身体を洗い、温めた時もぐったりと動かなかったクラウド。

もう少し強い回復魔法をかけるべきだろうか?いや、まだ十分に魔法に耐性のついていない身体では、代謝を上げすぎてかえって害になる時がある。クラウドを拾った時に発熱したのも、自分がかけた回復魔法のせいだったかもしれない……

ガラにもなく、おろおろしている自分に気付いて苦笑する。
本来ならこれくらいの状態は、休ませておきさえすれば回復するのは解っている、解っているはずなのに。

つい悪い事ばかり考えてしまうのは、何故だろう?頭では大丈夫だと解っているのに、心配せずにはいられないのは何故だろう?


「これが『愛しくて愛しくてたまらない』という事か、クラウド?」

返事をしない少年の唇に、優しくキスをすると、セフィロスは穏やかに微笑んだ。眠りは短かったが、頭はすっきりと冴えている。そして心も晴れ晴れと、まるで昨日の嵐は嘘だったと言うように、カーテンから漏れる朝日の様に。


壁の時計が目に入り、出勤準備をしなければならない時間だと気がつく。
もう少し寝顔を見ていたいが、今日からジュノン演習の出張だ、サボるわけにはいかない。

もう一度キスを落としながら、自分にそう言い聞かせると、セフィロスは、お名残惜しそうにベッドから降りた。
そして、柔らかな微笑みを浮かべて、キッチンに向かう。自分の朝食と、何よりも、目を覚ましたらすぐに空腹を覚えるであろう、クラウドの食事を用意しに。






深い水底から、ゆっくりと浮かんで来る様な感じがした。柔らかく温かなブランケットの手触りと、自分を包み込む優しい香り、全てをゆだねるほどに安心できる、セフィロスの匂い。そう、いつしか自分はこの匂いに包まれていないと、安心して眠れない様になってしまった。

目覚めのぼんやりとした頭で、クラウドは無意識にその匂いの本体を探そうと、ブランケットの中を探る。しかし、そこにクラウドの望む、優しい腕の持ち主はいなかった。
不審に思って目を開ける、真っ先に壁の時計が目に入り、それが3時を差しているのを見て、一瞬呆然とする。


自分はセフィロスを待っていて、先に寝てしまったんだろうか?


瞬きをしたクラウドは、カーテンから漏れる光に、今が夜の3時ではなく、昼の3時であることに気がついた。

驚きで跳ね起きようとして、気がつく、身体が鉛の様に重い。それでも無理に起きてみると、身体のあちこちに残る鈍い痛み、そしてそれは、身体の奧にも……

頭が瞬時に覚醒する、夕べセフィロスは帰ってきたのだ、帰ってきたセフィロスはなぜかとても憔悴していて、それで自分は、自分は……



クラウドは急にガチガチと震えだした、呼吸は急速に速くなり、もがく様に、はあはあと息を吸い込む。しかし、一生懸命息をすればするほど息苦しくなり、指先が痺れてくる。
思い出したのだ、あの灼熱の熱さと衝撃を。この年の少年が受け止めるには、あまりにも大きかったセフィロスの情熱を。


一つ思い出せば全てが思い出せる、何よりも自分の身体が覚えている。額に、唇に、胸に、そして身体の中にまで……

全てを焼き尽くし、駆け抜けていった熱い、熱いセフィロスを。

最初は恐怖、そして信じられない羞恥、その後は……
熱さしか覚えていない、自分の身体が燃えてなくなるとまで思った、熱さしか覚えていない。
あの熱に焼き殺されるかと思った、最後の一片まで、貪り尽くされると、最後の一片までも……


でも、でも……
それでもよかった自分がいた、俺は自分からそれを望んだ、だって俺はセフィロスの為に何もできないから。
セフィロスの為ならなんでもしたい、セフィロスが望むならなんでも。

だって、俺は、セフィロスを、セフィロスを……



愛しているから。



パニックが徐々に収まってきた、落ち着いて呼吸をゆっくりすれば、息も苦しくなくなってくる。
震えも止まり、クラウドはぼんやりと辺りを見回した。

ひどく喉が渇いている、それに痛い。試しに声を出してみると、案の定しゃがれた様な声しかでない。そして起き上がって自分の目で確認した、いたるところに残る、セフィロスの唇の跡。

あの時の感触が急激に蘇り、ゾクリとしたものが背筋を走る。思わず声が出そうになり真っ赤になった。
身体中がセフィロスを覚えている、髪の毛の一筋までをもセフィロスを。


そういえばセフィロスは、どうしたのだろうか?
ちゃんと会社に、行ったのだろうか?


俺は少しは、セフィロスの役に立てたのだろうか?



よろよろとベッドから降りかけた時に、ベッドサイドテーブルに、食事がのったトレイがあるのに気がついた。

籠に盛られた、柔らかそうなバターロール。コールドチキンには、ポーチドエッグとマスタードが添えられている。これにウータイから伝わったという、ソイソースをかけて絡めながら食べるのが、クラウドの好物だ。
アスパラガスとレタスのサラダには、カリカリに焼いた刻んだベーコンが、トッピングされ、クラウドの大好きな、ヨーグルトベースの刻んだタマネギが入ったドレッシングが、一緒においてあった。
そしてポットが2つと、ミネラルウォーターの大瓶。一つのポットにはコーヒーが、もう一つのポットには、セフィロス特製の野菜スープが、たっぷりと入っていた。
料理が盛られている皿は、どれも丁寧にラップで覆いがかけられ、フォークやスプーンは、紙ナプキンで先端がくるんである。


セフィロスが作ってくれたんだ、じゃあ少しは元気になったのかな。


喉が渇いていたクラウドは、ミネラルウォーターの瓶に直接口を付けると、一気に煽った。乾いた身体に染み渡った水は、びっくりするくらい美味しい。
一息つくと、お腹が鳴った。考えてみれば昨日は夕食を摂っていない、セフィロスが帰ってくるまで、心配で食べる気がしなかった。

ポットからスープを器に注ぐと、いい臭いが漂ってくる。皿のラップを外していたクラウドは、一枚のメモに気がついた。


『二週間後に帰ってくる、昨日は、すまなかった』


手にしたクラウドは、一瞬呆然としたが、次第に涙がポロポロと溢れてくる。

謝ってなんか欲しくなかった、謝ってなんか欲しくは……


クラウドは、泣きながらスープを飲んだ。野菜だけで作ったスープは、柔らかな優しい味で、クラウドの胃袋はもっと次をと持ち主をせかす。ポーチドエッグをつぶし、どろっと流れ出した黄身にソイソースをかける。絡めて食べたチキンは、ほどよく胡椒が効いていて、とても美味しい。

どうしてこんなに悲しいのにお腹が空くんだろう、どうして俺は食べているんだろう。

クラウドは涙を流しながら、パンをかじる。


あれは俺でなくてもよかったはずだ、あの時のセフィロスは尋常ではなかった。
他の誰かがいればセフィロスは、その人にすがったはずだ。むしろ子供の俺だったから、セフィロスは罪悪感を覚えなければならなかったんだ。

あれが他の誰か、大人の人だったら、セフィロスは……



その数行のメモを書くのに、セフィロスがどれだけ頭を悩ましたか、クラウドは知らない。
愛の言葉を書くのは、まだ憚られた。クラウド自身の、自分に対する気持ちを聞いていないのに、一方的に書いてはいけないような気がした。何よりも昨晩の自分の狼藉が、この幼い少年にどう受け止められたか、それが怖かったのだ。

帰ってきてから、自分の気持ちを打ち明け、ゆっくりとクラウドの気持ちを確認しよう。

だから、結局は、謝罪を含めた数行のメモにとどめたのだが。



謝ってなんか欲しくなかった、俺は役に立ったと思ったのに、俺は嬉しかったのに、セフィロスが俺なんかにすがってくれた事が、本当に嬉しかったのに。

結局は余計に、セフィロスを益々落ち込ませた。



セフィロスがどんな思いで、この消化によさそうな食事を作ったのか、考えると、クラウドは申し訳なさで、たまらなくなった。

それでも、空腹な胃袋が、貪欲に食事を続ける事を主張する。ポロポロと涙を流しながら、クラウドは食事を続けた。


もう、ここには居られない、もうここには居られないと、思いながら。





演習場の設営状況を視察しながら、セフィロスは空を見上げる。晴れ渡った空には雲一つなく、まるで今の自分の心の様だ。
クラウドはもう目を覚ましただろうか?演習中は一切外部と連絡がとれない、よほどの緊急事態以外では。
何度今度の演習を恨んだかしれない、普通の業務なら、今日は飛んで帰ってゆっくりとクラウドと、これからの二人の事が話せたのに。


「どうしました?連隊長。何か気になる事でも?」
レオが穏やかな口調で聞いてきた。
「別に、どうしてだ?」
無表情に返すと、悪戯っぽい笑顔が返ってくる。
「いえ、朝から妙に機嫌がいいかと思ったら、急にソワソワされるのの繰り返しのご様子なんで、クラウド君と、何か約束でもしたのかなと思いまして。」

セフィロスはぎろっと睨みつけるが、レオは涼しげな表情で平然としている。


「俺にも覚えがありますよ、早く帰りたいんでしょう?」
図星を突かれて、無表情を装おうとしたセフィロスだが、そんなのはお見通しですよと言う、温和な笑顔に諦めた。バツが悪そうな顔で、ため息をつく。

「レオ、おまえ段々と、ジャック達に毒されてきていないか?」
「いえ、いえ、小官ごとき、まだまだあのレベルには、達していませんよ。」
からかわれていると思うのに、その事が心地よい。まるで、自分とクラウドの事を応援してくれている様で。


勝手な物だな、人間というものは。同じ言葉をかけられても、昨日までの俺ならば、こんな風にはとらなかっただろう。不思議だ、今は何もかもが嬉しい。


セフィロスはふっと笑うと、レオに聞いた。

「レオ、おまえジュノンの出張帰り、何をアーニャに買って帰った?」
「そうですね、ここの特産は真珠ですから、ピアスとかリングとか。」
「そうか、ピアスとリングか……」

真面目に考え込むセフィロスに、レオは今度はおかしげに笑う。

「連隊長、クラウド君に買って帰るなら、そんなものより、基地の売店の1/35神羅兵シリーズのジュノンバージョンか、ジュノンガード・ガンキャリアーのプラモデルの方がいいと思いますよ。」
「それは、そうだとは思うのだが……」
歯切れの悪いセフィロスの返事に、レオはしれっと囁いた。
「一大決心をして告白するなら、それにケーキと薔薇の花束を、俺ならつけますが……」

突然見破られて、セフィロスは本当にぶすっとした顔で、諦め気味に呟く。
「訂正する、ジャック達よりお前の方が数段人が悪い。」
「お褒めにあずかり、光栄です。」
にっこり笑って、答えるレオ。

その日演習部隊は、憧れの英雄が朗らかに笑う声を聞いたという、世にも珍しい経験を語り合った。





荷物をまとめ終わったクラウドは、机に座って短い手紙を書いていた。今までの事を感謝する旨と、自分に使ってくれたお金は必ず返すという事と……
昨晩の事には触れられなかった、どう書いても、セフィロスに罪悪感をもたせそうで。



手紙をダイニングのテーブルに置き、その上にカードキーを載せて、クラウドはゆっくりと立ち上がった。
元々の自分の荷物は少ない、セフィロスが買ってくれた服は、たくさんあるけど持って行くわけにはいかない。

この数ヶ月が、自分にとっては夢の様だった。セフィロスと一緒に暮らして、セフィロスが、憧れていた英雄ではなく、本当に一人の人間だと感じられた。


世間では、セフィロスは近寄りがたい英雄で、士官学校の入学試験の時に、周りの少年が『ひと目でもセフィロスが見れないかな、そしたら自慢できるのに』と言っているのを聞いて、不思議に思った物だった。


だからこそ自然にセフィロスを、愛してしまった。本当に、いつの間にか。


だけど、ミッドガルに居ればいるほど、自分なんかには、手の届かない存在なのだと思い知る。テレビで、新聞で、報道されるセフィロスは、神にも等しい存在だった。そんなセフィロスを愛するなんて、具の骨頂だ。

この気持ちをセフィロスに悟られてはならない、セフィロスは優しいから、俺の気持ちを知ったら、困るだろう。それでも気弱になっていたとはいえ、子供に手を出したという罪悪感で、俺を拒絶はしないだろう。



そんなのは嫌だ!絶対に嫌だ!



それに俺はきっと望んでしまう、解っていても俺を愛してと、きっと望んでしまう。そうしたらセフィロスは益々困るだろう、たった一晩の過ちのことで、セフィロスに後悔なんかさせたくない。


我が儘で、醜くなっていく俺を、見せたくない。



クラウドの瞳には、じんわりと涙が浮かんでいた。

ずっとここで、セフィロスと暮らしたい。だけど、俺にはこの気持ちを隠す自信がない。だから、もうここには居られない、もうここには……


手で涙を拭うと、クラウドはナップザックを肩にかけ、玄関のドアを開けた。





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