Pure love…純愛3
「……だから私は今、大事な実験中で手が離せないと言っているだろう、後日連絡するからと帰ってもらえ……」
「……確かに今日と指定はしたが、君も知ってのとおり、私は本来ならばケガで病欠中なんだ、今日わざわざ出てきたのは、実験が気になるからであって、人に会うためではない……」
「……相手がスティン博士でもかまうものか!今ではただの士官学校勤務ではないか!そんな奴にどうしてこの私が実験の手を休めてまでして、会わねばならないんだ!いいか、もう一度言う、後日連絡する!それだけだ!」
叩き付ける様に電話を切ると、ビューニングは忌々しげに側のゴミ箱を蹴り上げた。


何が『でも、お待ちになっているのは、スティン博士博士ですよ』だ!あの受付の女!
この私が、いかに前任者であろうが、たかが士官学校の校医に会う必要があるか!
人を見下しおってあの女!
どうせ私に今の地位が回ってきたのも、スティンが辞めてくれたおかげだとでも思っているのだろう!
だが見ていろ、今に私の方がスティンより優れていると、証明してやる……

ひっくり返ったゴミ箱をもう一度蹴り、散らばる紙くずを踏みつけながら、検査台
にむかうと、ビューニングは満足げに笑った。

検査台の上に横たわる美しい少年。雪の様に白い肌と、鮮やかな金色の髪、まだ大人への階段を上り始めたばかりの身体は、細く、柔らかく、汚れを知らない。
ビューニングの理想をまさに具現した様な存在は、そこですーすーと寝息を立てていた。


「おお、早く続けなければ、ゼリーが乾いてしまう。」
滑らかな肌にたっぷりと、専用のゼリーを落とし、三次元エコーのプローベ(探触子)を滑らせる。
モニターに浮かぶ不明瞭なエコーの画像、ゆっくりとプローベを滑らせながらキーボードを操作する。数カ所のエコー象が結び合わされ、少年の瑞々しい心臓をまるでそこにあるかの様に、くっきりと浮かび上がらせた。

「美しい……君は外見だけではなく、中身も実に美しい。」
自分の目を楽しませるために、普通披験体に着せる検査衣さえ着せられずに、全裸で眠る少年に、嬉しげにビューニングは話しかける。

それにしても本当に美しい、衣服をハサミで裂いていく時に、現れたあまりの肌の滑らかさに、思わず手が震えたものだ……

妙な感慨をいだきながら、まだ未発達なラインを描く胸に手を這わせる。

絹の様な手触りの心地よい質感、ゼリーを塗り広げたことで汗をかいた後の様に、艶めかしく輝いていた。
ぬめるその肌は、手にぴったりと吸い付き、温かな体温を伝えてくる。呼吸に合わせて上下する感触も、掌を通して伝わってくる鼓動すらも、ビューニングの欲望を煽り、興奮させた。
そのまま、手を下の方に滑らせる、急に肉が落ちる腹部は柔らかい。

ああ、早くこの掌の下の小腸も写し取らねば……

そう思いながらも、まだ淡い金色の茂みに目を奪われ、未成熟なそれに指を絡ませる。ぴくんと手の中で動くその感触に、たちまち好色な笑みが浮かんだ。

この少年は精通はすんでいるのだろうか?とうにセフィロスに汚されていると思っていたのに、先ほど話した限りでは、清らかなままらしい。全ての検査が終わったら、そこの所も十分に見聞してやるからな。

清らかな少年の身体に、最初に踏み入れる事が出来る喜びに、ビューニングは欲望の笑みを深くする。

「おまえは清らかなままで、ジェノバと私の架け橋になれるのだ、光栄に思うがいい。何、大丈夫だ、もし、廃人になっても、ちゃんと面倒をみてやるよ、今までもそうしていたのだから。」
胎児性魔晄投与実験で先天性知的障害を起こした披験体に、他の職員に見つからぬ様、性的虐待を加えていた事を少しも悪いと思わずに、そう口に出す。
気に入った披験体は、廃棄処分が決まっても、独自の実験を行うと称し、自分の部屋に連れ込んでは、欲望の限りをつくしていた。

10歳前後の、何をされているかも解らずにいる少年の身体を好きに貪りながら、自分はなんて慈悲深いのだろうと、この男は心の底から思っている。もし、人に見とがめられても、平気な顔でこう答えるだろう。
「廃棄処分に決まっているものを、どう扱おうがいいだろう。むしろ私は廃棄の時間を伸ばしてやっているのだよ、感謝されてもいいくらいだ、この役立たずどもに。」


形のいい両の脚を大きく開き、覗き込み、ビューニングはほくそ笑む。
今まで手に入れた披験体の中でも、極上の獲物、自分の為に神が与えたもうた物。

「あとの計測を急がねば……楽しみは、それからだ。」
下半身に欲望を感じながらも、プローブの操作を再開する、色も出世も、この少年を手にした自分は、全ての欲望を満足させられる気がしていた。




「申しわけありません、スティン博士、ビューニング博士はどうしても手が離せないそうです。」
「いや、気にしなくていいよ、又来よう。」
恐縮する受付の栗色の髪の女性、コレット・ロバンにウォルターは笑顔で言った。
「でも、あんまりですわ、スティン博士は元はビューニング博士の上司ではないですか、それなのに!」
「今の僕は士官学校の校医だよ、又来るよ、じゃあ、本当に気にしないでくれコレット。」
いつも人好きのする笑顔を絶やさない彼女が、顔を歪ませるのを見て、ウォルターは逆に自分が恐縮する。昔から優しい人だった、周りに気を配れる優しい人だった、彼女と違って……

出口に向かおうと振り返りかけた背中に、コレットがおずおずと聞いた。
「博士、もう、ここには戻って来られないのですか?」
「ここにいた頃の僕は、頭でっかちのただの子供だった、今の職場でそれをつくづく実感している。信じられないかもしれないが、今の方がよほど充実しているんだ。」
「博士……クリスが、クリスティンが、もう一度話したいって、言ってましたわ。」
クリスと聞いた時、ウォルターの顔が一瞬強ばる。

「クリスは、今どうしてる?」
「コンドルフォートの魔晄研究所に……」
「そうか……」
ウォルターは少し間をおくと、静かに言った。

「クリスに伝えておいてくれ、僕は流行のファッションや映画には、相変わらず興味がない。宝石は鉱物名でしか知らないし、研究所に戻ってエリート街道を進む気もない、君が欲しい物は何も持つ気はないと。」
「博士……すみません。」
「コレット、友達思いなのもいいけど、もう僕とクリスは終わったんだ。あまりにも違いすぎたんだよ、価値観が、じゃあね。」
今度こそウォルターは出口に向かう、エレベーターに乗り、ドアが閉まっった時、ようやく小さなため息をついた。

金色の髪のクリスティン、今でもその名を聞くと胸が抉られる思いがする。初めて愛した女性、そして人はなんの悪意もなく、無邪気に人を傷つけられるのだと、思い知らせてくれた女性……

物憂げな顔で、ぼんやりとエレベーターのドアを見ていると、ピン、と停止を告げるベルが鳴り、開いたドアから、見知った男が乗り込んできた。

「セフィロス、今帰りかい?」
「ウォルター、本社に来るのは珍しいな、どうかしたのか?」
もう十数年来の付き合い、人によっては幼なじみとも言うらしい銀髪の英雄は、少し驚いた顔をして聞いた。

「ビューニング博士に、新入生の健康診断時に行う項目の再チェックをね。」
「そんな事、電話かメールですむだろうに、わざわざお前を呼びつけるのか。」
ウォルターは苦笑する。
「もう何度も呼び出されているよ、今は自分が上の地位にいるということを、周りに見せびらかしたいらしい。何度もすっぽかされるしね、あの男もやる事が子供っぽいったら。」
「今日も、もしかして、すっぽかされたのか?」
「ああ、そうだが、どうして?」
「いや、浮かない顔をしているからな。」

セフィロスが他人の事を気にかけるなんて、ああ、あの子のせいか……
金髪の少年の笑顔を思いだして、ウォルターはふっと笑った。

同じ色の髪をしているのに、あの子は人を和ましてくれる、クリスと違って……

「すっぽかされたのは事実だけど、受付の子にね、クリスからの伝言を聞かされた。」
その名を聞いて、セフィロスの瞳に気遣う色が浮かんだ。

「なんて?」
「会いたいそうだ、僕に。」
「会わないのか?まだお前に未練があるんだろう?」
「会わないよ、彼女が未練があるのは、僕の地位と名声と、都会での華やかな暮らし。彼女が一番大事なのは自分だ、それ以外はどうでもいいんだ、その為なら何を犠牲にしてもいいんだ……例え、自分の子供でも……」

淡々と続けるウォルターの話しを、セフィロスは黙って聞いている。

「でも、彼女には感謝している。おかげで人として、あるべき姿に気がついた。あの事が無かったら、僕は到底気がつく事はできなかったろう。」

それが何の事を意味するか、セフィロスにはよく解っていた。
「そうか……」
「ああ、後悔はしていない、ラボ(研究所)から離れたことをね。」


エレベーターが地下駐車場に着いた時、セフィロスの方から口を開いた。
「ウォルター、今日は夕食を食べに来ないか。」
「いいのかい?じゃあ、ご馳走になろうかな。」
「クラウドに電話する、喜ぶだろう。」

神羅本社の地下駐車場は、携帯電話が繋がる様になっている。セフィロスは自分の電話を取り出すと、ナンバーをプッシュした。

「……買い物かな?」
「出ないのかい?」
「ああ、携帯の方にかけてみる。」
クラウドに渡した携帯にかけてみる、すぐに聞こえてきたのは無機質な機械音声。

『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない範囲内に……』
セフィロスの顔色が変わる、クラウドが行動する範囲に、携帯の電波が届かない所はないはずだ。
「まさか!」

慌てて自分の携帯を操作する。GPSの画面を開き、クラウドの位置を特定すると、画面には無個性な文字が、最悪の事態を告げていた。



『対象の位置が特定できません』




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