Encounter …邂逅…  3
「その泉はこんな色をしてなかったか?」

淡い様な、深い様な不思議な翠の瞳…それ自身で発光しているかの様な…
それは、クラウドが老人に見せてもらった泉の色…
…奇麗だ…オレ…こんな奇麗なもの初めてみた…

幼い日に呟いた言葉をそのまま呟く…
「…綺麗だ…あの泉と一緒だ…」
「綺麗?呪われた色だがな…」
自嘲ぎみに呟かれた言葉に思わず顔を凝視する。

男は袖を捲ると、色とりどりの宝石がついたようなバングルを見せた。
「マテリアだ、お前の言う『魔法の泉』とはおそらく魔晄泉だろう、あれを人為的に凝縮させると、
  このマテリアになる、魔法の源だ。」
「へえ…」
クラウドはしげしげとマテリアを眺めた、
そういえば、村の雑貨屋で時々信じられない値段で出ていた宝石だった。
…どおりで爺ちゃんが誰にも内緒と行ったはずだ…
人に知られればあの場所は荒らされてしまうだろう、ふと疑問に思って聞いてみる。
「あの、あなたの目、さっきと色が違うノ」
「コンタクトレンズだ…」
男は又目に手をやった、瞳の色が茶色に戻る。
「…この目は目立つからな…見るのは初めてか?」
こくんと頷くクラウドに男はふっと笑いかけた。
…綺麗だ…この人…
艶やか…としか言い様のない笑みに思わず顔が赤く染まる、
そして続けざまに自分の腹がぐーっと空腹の悲鳴を上げたがために、本格的に真っ赤になってしまった。
「なんだ、腹が減ってるのか?」
男はクスクスと笑い出した。
「あ、オレ食べ物持ってます。」
慌ててリュックからくすねたパンやハムを取り出す。
「用意だけはいいようだな。」
「あ、あの…よかったらどうぞ。」
おずおずと差し出したパンとハムを、男は笑顔で受け取った。
その顔に思わず又見惚れてしまう。
「ありがとう、でもいいのか?」
「はい、火の側で休ませてもらったお礼です、それに、どうせオレのじゃないし…」
言いかけて思わず口をつぐむ。
…まだどんな人か解らないんだ、喋っちゃいけない…コワイめにあったばかりじゃないか…
急に黙り込んだクラウドに男は何か尋ねるでもなく、そのままもらった食料を食べはじめた。
ぱちぱちと枯れ木が燃える音、食べ終わるとクラウドの瞼が自然に閉じてくる、
慌てて首を振るが、重い瞼はいうことをきかない、酷く疲れていた。
「まだ夜明けには間がある、少し寝たらどうだ?」
「でも…」
「休めるときに休むのはどんなときでも鉄則だぞ。」
正直追っ手が気になった、でもこの人の側にいると酷く安心できる。
…ああ、爺ちゃんと話し方が似ているんだ…
そう思ったとき、不意に腕が伸びてきて抱き込まれた、そのまま草地に押し倒される。
「な、何するんですか!」
この男も同じか!?焦ってクラウドはじたばた暴れた、男はくすっと笑って囁く。
「いいからこのまま寝ろ、何の心配をしてるのか知らないがオレは子供を抱く趣味はない。
  まだまだ冷える、こうした方が風邪をひかんぞ。」
そういわれて顔を見上げると、優しい何の邪気もない翡翠の瞳が見下ろしていた。
…爺ちゃんの目と一緒だ…
世の中から自分を切り離した老人、瞳の奥に見えかくれする孤独の影…
まだこんなに若いのにどうしてだろう?
クラウドの身体からゆっくり力が抜ける、懐かしい様な、温かい様な妙な安心感…
やがてゆっくり安らかな寝息を立てはじめた。

…不思議な子供だ…
正面から見据えても少しもおびえる事がなかった…
腕の中の少年の温もりを感じて男…セフィロス…は思う。
どうして腕に抱いて寝てみよう等と思ったのか…
自分の事を知らないとはいえ、髪を黒く染め、瞳の色を変えた姿でも、
人は何かを感じて自分を遠巻きにする。
それがまったく物怖じせずにたんたんと話す子供…
最初は少女かと思った、よくみたら少年と知れ、何かに追われている様に感じた。
魔晄の瞳を知らない所をみると、この辺の人間ではあるまい。
近くで見る鮮やかな金色の髪と、一点の曇りもないような蒼い宝玉のような瞳、
磁器のような白い肌につややかな赤い唇…
何かよからぬ事に巻き込まれたであろうことはすぐに想像が付いた。

人買いから逃げてでも来たか…
それが的を得ていることを知らず、少年の髪を撫でてみる。
…柔らかい…
この柔らかさと温かさに不思議と覚えがあった…
それはこの少年よりもっと幼い時の記憶、まだあの白い研究室に閉じ込められていた頃…
幼いセフィロスに、研究員の一人が愛玩用にモルモットの子供をくれた。

初めて生き物の世話をした。
まだミルクが必要なモルモットにミルクを与え、糞尿の始末をし、夜は抱いて眠った。
モルモットの子供はセフィロスの懐に潜り込むのが好きで、柔らかい身体を甘える様に擦り付ける、
その柔らかさと温かさ…甘い様な、くすぐったい様な…
孤独の中での初めて覚える幸福感…それが突然奪われるまでは…

…オレはまだそんな事を覚えていたのか…

『ああ、あれは病気になったから、処分したよ。又別なのをやろう。』
一番嫌いな男から事も無げにそう言われ、
一言『いらない』と呟いて自分の部屋に閉じこもって声を殺して泣いた…

腕の中で安心した様に眠る少年…
ある日突然、ゲージからいなくなってしまったモルモットの子供…
不思議とイメージがだぶる。
…何をバカな事を…
だが…今度は守ってやりたい…
何故だかそう思う自分がいた。
Back Next