Encounter …邂逅…  2
時計が3時を回った頃、階下の騒ぎが聞こえなくなった。念のため、焦る心を押さえ、あと30分待つ…

『…ん?…』
背中に振動を感じる?
久しぶりにいい酒を飲んで見張りながら眠り込んでいた男は、ぼんやりと目を開けた。
か細い声が聞こえて来る。
「…すみません、誰かいませんか?すみませんか…」
『なんだ閉じ込めてたあのガキか…』
うっとおしげに返事をする。
「なんだよ、外にはださねーぞ。」
「いえ、お水下さい。喉が渇いてどうしようもないんです。」
「水?がまんしろ。」
「からからで、とても我慢できないんです、お願いします。お願いします。」
必死に哀願する声に、男はさっきの少年の裸身を思い出した。
そんじょそこらの女じゃ、かないそうもないような滑らかな陶器の肌…
好色そうな笑みが浮かぶ。
『…なかなか色っぽいガキだったな、どーせ売られちまったらオレなんか手が出ないんだろうな、今のうちにちょっとつまませてもらうか…』
「解った、ちょっと待ってろ。ただしオレの言う事きくんだぞ。」
階下におりると誰もいない、みんな酒盛りを終わってそれぞれの部屋に戻ったのであろう。
『好都合じゃねえか、たっぷりあのガキで楽しませてもらうかノ』
水をコップに注いで2階へと上がる、鍵を開けて中に入るとクラウドが心細気に立っていた。
月の光の中で儚気に立ち尽くす少年…
『やっぱ色っぽいガキだぜ、こりゃ役得だな…』
「ほら水だ。」
「ありがとう。」
クラウドは水を受け取るとこくこくと飲み干す、
一筋の水がクラウドの唇からあふれ、
首筋から胸へと伝う…滑らかな磁器の白肌…
男はゴクリと唾を飲み込むと、ふらふらと誘われる様に手を延ばした。
ぱりん!
男の眼に火花が散る。
クラウドが、持っていたコップで男の眉間を思いっきり殴りつけたのだ。
もんどりうって倒れようとする身体を必死で支え、音がしない様にゆっくり床に引き倒す。
「う…」
がすっ!
意識が戻りそうになった男の鳩尾にすかさず膝でケリを入れた。
「…ぐぅう…」
呻いたまま動かなくなったのを確認すると、さっき作った縄で縛り上げた。
「はあ、はあ…」
息が切れるが休んではいられない、荷物を手に取るとそーっとドアを閉め、
足音を忍ばせながら階段を下りる。
階下に誰もいないのを確認するとそのまま外に出ようとしたが、ふと思い付き、
カウンターの横から調理場に行った。
手近にあったパンや、チーズ、干し肉、ハムをぽんぽんと荷物に放り込む、
ミネラルウオーターも3本程入れると、そのまま裏口からそっと抜け出した。
「ふーーっっ…」
やっと息がつける、しかし早くこの場から離れなくてはノ
窓から見て目をつけていた古い自転車に幸運にも鍵がないのを見て取ると、
さっさと乗ってカームの外に漕ぎだした。

蒼い月の光の中、夜明け前の冴え冴えとした空気が頬をなでる、
時折遠くでモンスターの咆哮が聞こえる、
が、その声でニフル山に生息しているものよりずっと小型だと知る。
夜明け前とはいえまだ暗い、月の光があるせいで夜道には困らないが、
モンスターとのエンカウント率はどうしたって増える。
ただこのあたりのモンスターは魔晄が枯渇しているせいか、そこまで強力ではない、
ミスリルマインのほうに近付きさえしなければ大丈夫だと昼間聞いた。
バッグの中に入れている旅人用の武器で十分に対処できるだろう。
ミッドガルまでは西に向かって歩いて3日…
とにかく今は一刻も早くカームから離れ、ミッドガルに向かわなくては…

ミッドガルへ向かう道は一面の荒野だった。
魔晄の使い過ぎで土地が枯渇してきたせいと、聞いた事がある。
クラウドの故郷のニフルでも、昔に比べて動物やモンスターの数や種類が変わってきた、
と老猟師が嘆いていた。
…あんなものを作るから…神聖なるニフルの山に…
魔晄炉の建設に従事したその猟師の息子は、稼いだ金でさっさと寂れた村を出て行った。
名人と謳われていたその老猟師は、自分が培ってきたもの全てを息子に伝えるつもりであったのに、
伝える相手を無くしてしまった。
それは元々人付き合いが苦手だった老人をますます偏屈にし、人の輪からはみ出させた。
そして、そんな彼が同じ年頃の子供からはみ出て、
禁忌のニフル山で遊ぶ事の多かったクラウドと親しくなったのは、自然の成りゆきかもしれなかった。
色々な事を習った、銃の扱い方、罠の仕掛け方、簡易武器の作り方、山の中での野宿の方法、
水の探し方…
言葉少なに、無器用に、でも根底に流れる優しさをクラウドはいつも感じていた。
…おまえもいつかこの村を出るんだろうな…
皺だらけの節くれだった固い掌で頭を撫でられる。
…ううん行かないよ、爺ちゃんが一人になっちゃうじゃない…
寂し気に笑う老人…本当の孫のように可愛がってくれたその老人が亡くなった事も、
クラウドに村を出る事を躊躇わせなかったのかもしれない。

どのくらいたっただろうか?周囲が明るくなりかけた頃、ふと気が付くと前方に炎が見えた。
大きな岩影、だれかが野宿をしている。
このまま通り過ぎようか…でもミッドガルまでの道を確認しておきたい…
迷った末クラウドは声をかける事にした。
…変な奴なら殴って逃げればいい…

たき火の側でライダースーツを着た黒髪の長身の男が横たわっていた。
側にはクラウドが一人で起こせそうもないようなでかいバイク、
男の子には目がないそれに、思わず気を取られたとき、低い声が響いた。

「やめとけ、ソレはお前には無理だ。」
はっと気が付くといつの間にか男が起き上がっていた、ひどく秀麗な顔をしている。
「泥棒か?にしては貧弱な…」
「ち、違う…オレ道を聞こうと思って…」
しどろもどろに答えるクラウドを見て、男はゆっくりと尋ねる。
「道?なんの道だ?」
「ミッドガルまでの道…」
「おまえ一人で行く気か?こんな真夜中に?」
あきれたように呟くと男はクラウドを手招きした、どうやら火の側に座れといっているらしい。
…悪い人じゃ無さそうだけど…
真正面からクラウドを見据える茶色の瞳…
…クラウド、まずそいつの目を見ろ、すぐに目をそらせる奴はろくな事考えてない…
思い出す老人の言葉、そういえばクラウドを騙したあの男は、気持ちの良い言葉を並べ立てていたが、
クラウドがまっすぐ見つめると自然に瞳をそらせていた。
…オレそんなことも忘れていたよ爺ちゃん…
そろそろとクラウドは男の側に座る、気が付けば足が悲鳴を上げかけていた。
数時間全速力で自転車を漕いでいたのだ無理はない。
男はそんなクラウドをちらりと横目で見ると呟いた。
「2日以上だ。」
「え?」
「少なくとも丸2日以上かかるここからミッドガルまではな、その自転車では…」
「2日…」
「その前にお前の足が潰れなければの話だが…何をそんなに無茶をしている?」
ため息をつくクラウドに、男はぽんと水とタオルを放りやった。
「オレ、水持ってます。」
反射的に受け取ってクラウドは慌てて答えた。
「飲めとは言ってない、それで冷やせ。」
言われて自分の足が熱を持っている事に気が付いた、じんじんと痺れる感じもする。
ズボンをめくると色もすこし紫がかり腫れ上がっていた。
「少し無理をさせ過ぎたようだな、冷やすぐらいじゃ無理か…」
男がふいに足首を掴んだ、抗議しようとして不意に薄緑色の光に包まれた。
「え?」
懐かしい感覚…温かい何かに全身包まれて、ふっと身体が軽くなる様な…
「回復魔法と言う…知らないか?」
「…知ってる…魔法の泉だ…」
クラウドはほうけた様に言った。
「魔法の泉?」
「昔山で怪我したとき、爺ちゃんが掛けてくれたどんな傷でも治す魔法の泉の水…
  誰にも内緒の場所に湧き出ていた…どうしてあなたが?」
男はふっと笑うと両方の目に手をやった、その手が外されたとき男の瞳の色が変わっていた。

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