sensation…波紋 5

「どうした?クラウド。」

じっと自分を見つめるクラウドの蒼い瞳、いつもは一点の曇りもないその鮮やかな蒼に、揺らめくような暗いかぎろいを感じるのは気のせいだろうか?
今までセフィロスは、こんな思い詰めた目をしたクラウドを見た事がなかった、さっきまで、楽しそうにゲームをしていたのに、何かあったのだろうか?

だから思わずそう聞いたのだが、クラウドは黙ったままだ。
「クラウド?」
具合でも悪くなったかと、本気で心配になったセフィロスが一歩踏み出した時に、クラウドがぽつりと呟いた。

「セフィロスって、煙草吸うんだ…」
「あ?ああ、たまにだが…」
「何がたまにだよ、以前は一日2箱は開けていた、ヘビースモーカーの癖してさ。」
戸惑った様に答えるセフィロスに、ザックスが混ぜっ返す。
「クラウド、にーさんはな、おまえと住むようになって煙草を吸うのやめたんだぞ、いや愛されてるね。」
「余計な事をいうな!関係ない。」
「きゃー助けて!クラウド!」
ザックスが笑いながらクラウドに抱きついた、だが、反応がおかしい。

「クラウド?」
クラウドは少し硬い表情で俯いていた、さすがのザックスが、いぶかしげな顔でのぞき込む。

「気を遣わなくていいのに…」
「あ?」
暗い、小さな声、困惑したザックスは思わずセフィロスを振り返った。セフィロスはわけが解らず、もう一度クラウドに問いかける。

「何がだ?クラウド。」
「俺、ただでさえセフィロスの家にお世話になって迷惑かけてるんだよ、どうしてそんな気を遣うの?そんなにされたら、俺悪くってあの家にいられないじゃないか。」
「別に俺は迷惑だとは思ってないぞ、おまえは何を言ってるんだ?」
「じゃあ、俺のために煙草をがまんしたりしないでよ、俺セフィロスが煙草を吸うなんて全然知らなかったよ。」
「俺は我慢しているわけではないぞ、ただおまえの健康によくないだろうなと思って、吸っていないだけだ、元々そんなに好んでいるわけではないし。」
「そういうのを我慢してるって言うんだよ、俺そんな気、遣って欲しくない。」
「クラウド…おまえは何を怒っているんだ?」
「別に怒ってなんか…」

微妙な空気が流れ出した時、ジャックがクラウドの肩をぽんと叩いた。
「クラウド、すまないが喉が渇いたんでコーヒーを買ってきてくれないか?みんなも乾いたろうから人数分。それと少し腹が減ったな、ナゲットとポテトも頼むか。」
ジャックが財布を握らせる。
「食べたかったらソフトクリーム買ってもいいぞ、何か好きなものを…あ、一人じゃ持てないな、ロイド一緒に行ってやってくれ。」
「はい解りました、クラウド君、行きましょう。」
急に言われて焦ったクラウドが返事をする前に、ロイドは、とっととクラウドを連れ出した。

「何かあったんですか?」
チョコボの縫いぐるみをいくつもぶら下げたレオが、心配げに近づいてきた。
「さて、レオに説明するのとセフィロスに教えてやるの、どちらが先だと思うか?ザックス。」
「うーん、俺としては兄貴に状況を説明するのを聞いて、にーさんが自分で気づくってのを期待したいけどね。」
「…そうだな、そうするか。セフィロス、なんでクラウドが怒ったのか、よく考えてみろよ。」
まだ憮然とした顔のセフィロスの肩を、ジャックはぽんと叩いた。



クラウドは軽い自己嫌悪に陥っていた、なんであんな態度を取ってしまったのだろう、セフィロスは何も悪くはないのに、悪くないどころか、自分を気遣ってくれての事なのに、どうしてこんなにイラついてしまったのだろう。

「で、他に何か頼みますか?」
「え?いえ、いいです。」
慌てて答えながら、つい、ロイドの顔をクラウドは凝視した。
薄いアッシュブロンドの髪が色とりどりの照明の光を受け、美しく輝いている。カバー用のコンタクトレンズを通して見える瞳の色は、珍しいヴァイオレットだ。整った顔立ちはどこか育ちの良さを感じさせる品の良さ…貴族的とも言うのだろうか?物腰の優雅さとも相まって、とてもこの人がソルジャーだなんて思えない。

セフィロスは、こんな人が好きなのだろうか?


「どうしました?」
「いえ…」
ぶしつけな事をしてしまったと顔を赤らめるクラウドに、ロイドは笑顔でもう一度聞いた。
「バニラとチョコとどっちが好きですか?」
「え?ええーっとバニラ…」
「すみません、バニラのソフトクリーム一つ追加してください。」
きょとんとした顔に、店員から渡されたソフトクリームが差し出される。
「どうぞ、頼んだ数が多かったから、ちょっと待たされるみたいですからね。」
「え…ありがとうございます。」
どぎまぎしながら受け取って、すなおにぺろりとなめてみた。

これヒンヤリして甘い…アイスクリームみたいだけどもっと滑らかで美味しい…

実はクラウド、ソフトクリームを食べるのは初めてだ、故郷の村ではアイスクリームはあっったが、ソフトクリームを売っている店はなかった。

初めて食べるおいしさに、思わず顔がゆるむ。少年らしい笑顔に、ロイドは穏やかな口調で話し出した。
「すみませんね、クラウド君、嫌な思いをさせて。」
「え…別に俺は…」

言いかけて、クラウドが俯く、どう言ったらいいのか解らないのだ。
ゲームでジャックに勝って、いい気分で振り向いたらセフィロスがロイドと楽しそうに話をしていた、それを見て、何かもやもやとした嫌な気分になった。
そしてセフィロスが煙草を受け取り、ロイドから火をもらって吸う…近づく秀麗な顔と顔、くっつく煙草の先端、人差し指と中指で煙草を挟み、目を細めて2、3度吸うセフィロス、数センチ先にあるのはロイドの形のいい唇。
やがて煙草に火がつき、大きく吸い込み煙を吐いたセフィロスの唇に、かすかに浮かんだ笑みを見て、嫌な気分どころか、クラウドの心はすっかり冷え込んでしまった。

だが、どうしてそうなるのかが解らない、どうして嫉妬してしまったのか…

嫉妬?…


「聞いたんでしょう?私とセフィロスが昔付き合っていた事を。」
クラウドはこくんと頷く、考えてみればあのもやもやとした嫌な気分はそれからだ。

「だから嫌なんでしょう?あなたが知らないセフィロスを、私が知っている事を。」
「え?」
「例えば『煙草を吸っているセフィロス』を。」
クラウドは弾かれた様な顔をした、そうだ、無性に悲しかったのだ、セフィロスが煙草を吸う事を知らなかった事が、自分だけが知らなかった事が。

「言っておきますが、私とセフィロスの関係は、恋人だったのではありませんよ。」
「え?でも、付き合っていたんでしょう?」
どぎまぎしながら、クラウドが尋ねると、ロイドはにやりと笑った。
「あのころ私は22歳、セフィロスは確か…14歳かな?恋愛感情はまるでなし、身体だけの関係ですよ。」
「え…それって…」
直接的な表現に、クラウドの顔が真っ赤に染まった。
「強いて言うなら、私たちの関係はそうですね、『大人の仲間入りをしかけた少年に悪い遊びを教えるオニイサン』ってとこですか。」
ロイドは淡々と続ける。

「あの頃私は少し荒れてましてね、まあ長年愛している人が自分の物にならないという自暴自棄だったんですが、それで14歳でファーストソルジャーに入ってきた生意気な少年に、ちょっと、ちょっかい出してみたというだけなんです。」
クラウドはぱちぱちと瞬きをした、いいのだろうか?こんな話を聞いて。
「で、彼も興味のあるお年頃だったのか、しばらく関係は続いたのですが、見破られましたね、ある日言われましたよ『いいのか?こんな事を続けていて、想いは口に出さなければ伝わらないぞ。』と、それで彼の言葉に背中を押されて長年の思い人に告白しました、それがジャックですよ。」
ロイドの瞳に少し暗い影が差す。

「ジャックは結婚していて、息子も一人いて、とても可愛がっていた。だからどんなに好きでも、この想いは通じないと思っていた…受け入れてくれた時には、天にも上る気持ちで…でも私を受け入れた事で、ジャックは全てを失った。世間で認められている、まともな家庭も、愛する息子も…離婚して以来一度も息子に会わせてもらえません。」
「どうして?」
「彼の奥さんにしてみれば、自分を裏切った上に、男に走ったなんて、もう許す許さないの範疇を超えているのでしょう。面会権は保証されているのですが、ジャックは自分の方に負い目があるので、それを無理に行使しようとはしません。ただ、会うどころか、誕生日やクリスマスに送ったプレゼントまで、そのまま送り返されてくるのを見て、ため息をついているジャックを見ていると、どうしようもなくやるせなくなる…全て私のせいなのにね。」
ロイドはふっとクラウドに笑いかけた。

「話がそれましたね、で何が言いたいかというと、私はジャックしか目に入っていないので、誤解をしないで欲しいなと。当然、セフィロスの目にも私は入っていませんよ。セフィロスはあなたといる時、とても柔らかい顔をする、私が初めて見る顔を、私はセフィロスのおかげで幸せになれた、だから彼にも幸せになって欲しい、だから…」
「ロイドさん。」
「さん付けはやめてもらえませんか?ああ、私が『クラウド君』と呼ぶせいですね、クラウド、セフィロスを頼みますよ。」
「そんな、俺なんかが頼まれたって…」
焦るクラウドにロイドは優しい口調で答える。

「今に解りますよ、それともう一つお願いします、ジャックの息子とあなたは歳が一緒なんです、たまにはジャックとも遊んでやってもらえませんか?」
「はい、俺でよければ。」
笑顔で答えるクラウドにロイドは穏やかに微笑みかけた。
「ありがとう、ところで、できるの遅いですね、ちょっと煙草を買ってきてもいいですか?」
「いいですよ、その間に、これ食べちゃいます。」

煙草を買いに、通りの向かいにの店に走るロイドを見送りながら、クラウドは複雑な気持ちでいた。
ロイドとセフィロスの関係は解った、でも自分はどうして嫉妬なんてしたんだろう?
居心地のいい場所を取られたくなかったからか?それとも?
それにどうして自分なんかに、セフィロスの事を頼むのか、セフィロスの家に居候して、迷惑しか掛けていない自分に。

注文を待っているバーガーショップは店の入り口付近にあるため、人の出入りが結構多い、ぼんやりとソフトクリームを舐めながら、考えを巡らせていると、なにやらどやどやと、騒がしい喧噪が聞こえてきた。

乱暴にドアが開けられ、一人の男が飛び込んでくる、何度か殴られたらしく、顔は腫れ上がり、服はあちこちに裂け目が入っている。

「助けてくれ!」
転がるように入ってきた男のあとから、5、6人の人相の悪い男達がドアを蹴破るように駆け込んできた。
「てめー!逃げようったって、そうはいかねーぜ!」
「払うもんきっちり払ってもらおうか?遊ぶだけ遊んで、ただってわけにはいかねーんだ!」
たちまち男を締め上げ、殴りつける。

「最初の話と違うじゃないか、ぼったくりだ!」
「あーん?あれは基本料金だけだよ、それ以上遊べば高くなるってのはあたりまえじゃねーか。」
「そうそう、早く出す物出しやがれ!」

周りの客は関わり合いになるのを恐れて、一斉に逃げ出した。
クラウドも一瞬あっけに取られたが、それに習おうとして、いきなり乱暴に腕を捕まれる。

振り向いたクラウドの血の気が一斉に引いた。

「ああん?こんなところにいやがったのか、このガキ!今度は逃がさねーぞ!」


それはクラウドが二度と会いたくなかった相手、クラウドをだまし、売り飛ばそうとした、あの男だった。



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