sensation…波紋 4

食事が終わって店を出たのは、もう9時を回っていた。

「えー?にーさん達もう帰るのかよ?せっかくの週末の夜だっていうのによ。」
不満げなザックスにセフィロスが冷たく言った。
「馬鹿を言うな、クラウドはまだ子供だぞ、これ以上遅くまで繁華街にいていいわけないだろう。」
そんなセフィロスにクラウドが気を遣う。

「あ、俺一人で先に帰るよ、だからセフィロスはみんなといたらいいよ。」
「それこそ馬鹿を言うなクラウド、ここからおまえを一人で帰せるものか。」
「セフィロス、そんなに子供扱いしないでよ、帰り道くらい覚えているよ。」
「そうではなくて、ここは物騒なんだ、ダウンタウンなんだぞ。おまえ一人でウロウロさせるわけには…」
「だから子供扱いしないでっていってるだろう?一人で帰れるってば。」
微妙にずれた二人の言い争いをロイドが笑って止めた。

「まあ確かに物騒でないとはいいませんが、せっかくの週末にここで終わりというのもなんだし、ゲームセンターにでも行きませんか?」
「ゲームセンター?」
きょとんとしながらも興味津々なクラウド、もちろんニブルヘイムの様な田舎にはそんな物はない、雑貨屋にこじんまりとしたおもちゃのような機械がいくつかあったが、クラウドはそれで遊んだ事もない。

「過保護な保護者じゃ、連れて行ってもらった事ないでしょう?せっかくミッドガルにいるのに行った事がないなんてつまらないですよ。」
「勝手に決めるな、ゲームセンター自体あまりいい環境じゃない。」
セフィロスが即座に反対するが、すかさずジャックがわざと聞こえるようにクラウドに耳打ちした。

「気にするなクラウド、あの過保護なオニイサンはおまえを独り占めしたくてしょうがないだけだから。」
「ジャック!俺はただクラウドに悪影響を与えるような所に…」
「ねえ、にーさんてってさ、ゲームセンター行った事なかったよな、じゃあどんなとこか知らないわけじゃん。ほんとに悪影響かどうか今後の為にも行って確かめたらいいじゃん。」
セフィロスはジロリと3人を睨んだ。

「おまえら…最初からそのつもりだったな!?」
さらに何か言おうとした時つんつんと袖をひっぱられ、振り向くとシュンとした顔のクラウド。
「セフィロス、帰ろう、俺もう眠くなっちゃったからね、みんなもゴメンね。」
いかにも気を遣ってますと言わんばかりのセリフ。ぐっと詰まったセフィロスに、レオが笑いをかみ殺した顔で言った。
「連隊長、あきらめた方がいいですよ、3人とも最初から予定に入れてみたいだし、このままだと悪者にされちゃいますよ。」
前を見れば、してやったりとニヤニヤ笑っている3人。後ろにはハラハラした、それでいて少し期待を込めた顔のクラウド。
両方をしばし見比べてセフィロスはため息をついた。

「解った、行けばいいんだろう?ただし12時までだ。」
「え?いいの?俺セフィロスがイヤなら…」
「別にイヤじゃない、せっかくミッドガルにいるのに家の周りしか知らないのでは、おまえが可哀想だしな。」
とたん、ぷっ…とザックスが吹き出し、セフィロスはぶすっとした顔で睨みつけた。



もう夜も遅いというのに、どこから人が集まってくるのだろう?
まばゆい室内、うるさいぐらいに響く音楽と、いろんな機械が出す電子音。
時が経つに連れ少なくなるどころか、どんどん増えていく人々、楽しそうに片手にジュースやスナックを持って。
最初は、あまりの賑やかさに唖然としていたクラウドだが、色々なゲームをしてみるうちに、時間を忘れて夢中になった。

「ほら、そこですかさずスティック一回転して、ボタン連打!」
派手な音楽と共に画面に現れる『YOU WIN!』の文字、クラウドは思わず歓声をあげた。
「すごーい、おもしろいね、ザックスは慣れてるの?このゲーム。」
「たまにな、時間つぶすのにはいいぜ、ミッドガルに来たばかりのガキの頃は通い詰めたがな。」
「まあ誰でも一度は、嵌るながな、クラウド、ザックスの悪いところはまねするなよ。こいつはゲーセン嵌りまくって、遅刻の常習犯だったんだからな。」
「ちょっと親父、そんな事バラすなって!」
「有名だったからな、おまえは。ところでクラウド、慣れてきたなら俺と対戦やらないか?」
「うん。」

無邪気な、子供そのものといった笑顔でゲームを楽しむクラウド。少し離れた所からそんな姿を見ながら、セフィロスはもやもやとした気持ちを押さえきれないでいた。

どうして?クラウドが楽しんでいるのならいいじゃないか、何故こんなに不快になるんだ?

クラウドの笑顔を見るのは好きだ、くだらない会議や、いやな奴と会ったあとでも、家に帰ってクラウドの『お帰りなさい』の笑顔に癒される。
朝出かける時に送り出してくれる笑顔、何か失敗した時の照れ笑い、ああして声を上げて楽しむ笑顔…見ているとふわっと優しい気持ちになれる、温かい何かに包まれているような柔らかい気持ちになれる。
それなのにどうしてだろう?クラウドのあの笑顔が他人に向けられているだけで、心が冷えてくるのだ。


「どうしました?仲間に入ってくればいいのに。」
「あの手のゲームは苦手だ、反応速度が鈍すぎる。」
「そりゃあ一般人用ですからね、吸いますか?」
差し出された煙草を無言で受け取るセフィロスを見て、ロイドはにやっと笑った。
「まあそんな嫉妬丸出しの顔では、クラウド君が気を遣うだけとは思いますが。」
「…ところでレオはどうした?」
「あっちでクレーンゲームに嵌ってますよ、クラウド君にチョコボを全色とってやるそうです。」
見れば珍しくあの寡黙な青年が、夢中な顔をしてぬいぐるみをとっている。

「昔アーニャに、よくとってやってたそうですよ。」
「アーニャか…」
その名を聞いてセフィロスの顔が少し曇る、かつて起こったテロに巻き込まれたレオの恋人、現在では精神に異常をきたしミデェールの療養所にいる。

「あの時レオは、よく神羅を辞めなかったな…」
「責任感の強い男ですからね、もっともそれが裏目にでたんですが…」

楽しそうにゲームの興じるクラウドの笑顔が、レオと重なる。かつてその隣に、同じように笑いながらゲームを楽しむ恋人の姿があったのだろう、これから幸せになる事を疑わない笑顔が…

どうしてだろう?
以前は思いもしなかった色々な感情が、胸に渦巻いている。
歓喜、憐憫、嫉妬、そして、そして…

「ありがとうセフィロス。」
いきなりそう言われてセフィロスは戸惑った、思わずロイドの顔を凝視する。
「今夜の事ですよ、ジャックがクラウド君と遊びたがっていたの、知っていたんでしょう?」
「別に礼を言われる様な事はしていない、たまにはいいかと思っただけだ。歳が一緒なんだろう?奴の息子と、相変わらず会わせてもらえないのか?」
「ええ、向こうも意地になってるんでしょうね、だから余計にクラウド君と遊びたいんだと思いますよ、ありがとう。」
「おまえに殊勝にされると、なんだか気味が悪い。」
「あなたに、言われたくはありませんが。」
この冷静な男がことさらに、この件に関しては弱気になる、普段は冷徹とすら言えるほどの決断を下せるこの男が。
以前はその弱さがどこからくるのか不思議だった、しかし、どうしてだろう?今はそのわけが解るような気がする。


セフィロスはそんな感情を無視するために、煙草に火をつけようとして、ポケットを探り気がついた、クラウドと住むようになって、煙草を吸ってはいなかったのだ。
ロイドがくすっと笑って、吸っている自分の煙草をセフィロスに指さす。無言で煙草をくわえて先端をくっつけ2,3度吸い込むと、久しぶりの苦みのある、しかし落ち着く煙が肺の中に染み渡ってきた。


まあ…今のこの訳のわからない感情の揺れを、もう少し分析してみよう。

冷静にそう判断した時に、ゲームをしていたはずのクラウドが、じっとこちらを見ているのに気がついた。



セフィロスが初めて見る、思い詰めた瞳で。



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