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sensation…波紋 3
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「連隊長、夏期休暇の司令部のシフトの事なんだが。」 定例の司令部での報告会が終わり、ジャックがスケジュール帳を片手に、セフィロスに声をかけた。 「8月の終わりにジュノンでの演習があるから、それまでに交代で入れる様に組んでみたんだが、何か予定はあるか?」 「いや、いつもどおりだ。お前達の予定を優先してくれてかまわんぞ。」 そっけなく答えるセフィロスに、ジャックはやれやれという顔をする。 「せっかくの休暇なのに、どこかに連れて行ってやらなくていいのか、クラウドを。」 「どこかにって…何故だ?」 「解ってないな、あの年頃ってのはな、色んなところに遊びに行きたいもんなんだよ。」 考え込むセフィロスという珍しい光景を前にして、ジャックは楽しそうに話を続ける。 「なんなら、俺が連れて行ってやるが。」 「それが目的か?いらん世話だ。」 「いいじゃないか、たまには俺とも遊ばせろ…あいつと…歳が一緒なんだ。」 セフィロスは、はっとした顔で笑っているジャックの顔を見た。それが誰の事を指しているのか、聞かずとも解る。 「…どこに遊びに連れて行けば喜ぶのか、教えてくれれば、考えてみよう。」 表情を瞬時に戻しながら、返事をするセフィロス。この類い希なる才能を持った青年が、実は意外と世間の常識を知らない事を、彼が少年の頃からのつきあいのジャックはよく解っている。ちゃんと自分の事を気遣ってくれている事も。 「OK、OK、とっときのプランを考えてやるよ。ところで、今週末の約束覚えているか?」 「今週末?」 「先月の6番魔晄炉の爆弾騒ぎの時に、ザックスが無事人質全員救出したんで、表彰されたお祝いを開いてやるって、言っていたじゃないか。」 そういえばそうだった、あの月は忙しかったので、お祝いは翌月のばしにしたのだった。 「そういえばそうだったな…」 別に祝ってやるのはかまわない、しかし、今家にはクラウドがいる。クラウドを一人にはしたくないセフィロスだ。 「ジャック悪いが俺は今回は…」 言いかけるセフィロスをジャックが制した。 「解ってるって、クラウドに留守番させたくないんだろ?連れて来いよクラウドも、ザックスのご指名でダウンタウンの安くてうまい店だぞ。」 「…クラウドも一緒に?…ダウンタウンかあそこは少し治安が…」 「何箱入り娘の親父のような事を言ってるんだ?」 ジャックがからからと笑う。 「俺たちが一緒なんだぞ、それにあの店の周りにはいかがわしい店はないしな。いいじゃないか、せっかくミッドガルにいるのに、おまえの家の周辺しか知らないのも可哀想だぞ、いくら安全のためとはいえ。」 セフィロスの住んでいる高級マンションのある一角は、常にパトロールが巡回し、監視カメラが至る所に設置され、セキュリティは最高だ。だからクラウドが一人で近所のストアに買い物に行っても安心していられた。しかし、その他の場所となると決して安全なところばかりではない、都会になれていないクラウドが心配で、その一角からは出ないように厳重に言い渡していたセフィロスだが、考えてみれば学校に入れば普通に色々なところに外出するのだ、ならば今のうちにもっと色々なところにも外出させるべきだろう。 俺の家を出て、生活するときの為に… なぜか胸がちくんと痛んだ…クラウドが入学したら寮に入るために家を出て行く。 当たり前の事だが今まで失念していた、当たり前の事なのに… 「わぁ、これも美味しい、なんて言うの?初めて食べた。」 「この店の名物メニューだ、『エビのチリソース、溶ろけるチーズかけ』美味いだろう?俺の大好物。」 ザックスおすすめの店は、店構えは古く小さいが、きちんと洗濯した手作りのテーブルクロスが掛けられ、店のあちこちにはさりげなく花が飾られた、掃除の行き届いた店だった。 メニューはほとんど無国籍状態で、どの料理も安くて美味い。店は満員で、予約していなかったら、6人で同じテーブルに座るのは無理だっただろう。 「ザックスって、食いしん坊だね。」 「そりゃあ、食べるなら美味い物が俺の信条だ、でも俺より親父の方が食いしん坊だぜ、なんせ気にいった料理はあとでちゃんと作っちまうんだから。」 「へえ?じゃあ、ジャックはこのエビのチリソースって作れるの?」 話をふられて、ジャックは笑って答える。 「もちろんだ、なんなら教えてやろうか?簡単だぞ、まずネギみじん切りにして炒めて…」 初めてミッドガルの町で食事してはしゃぐクラウド、珍しい料理と楽しい雰囲気が嬉しくてたまらないのだろう。 セフィロスはワイングラスを傾けながら、さりげなくクラウドの顔を見る。 クラウドが笑うと自分も嬉しい、クラウドが楽しければ自分も楽しい…そのはずだったのに、ザックスやジャックと楽しそうに話している姿を見ていると、胸が重苦しくなるのは何故だろう? クラウドは故郷ではずっと孤独だった、それはクラウドの父親が、その頃建設が決まった魔晄炉の誘致に反対し、村の有力者とぶつかっていたからだとセフィロスは聞いた。 クラウドの父親は反対運動のリーダーで、仲間と神羅と話し合いに行った帰りに、落石事故で車もろとも崖から転落して死亡したのだ。賛同した村の若者6人と共に。村の有力者は、クラウドの父親が考えなしに行動したせいだと非難し、6人の家族からは息子を返せとののしられ、自然クラウドは子供達からも仲間はずれにされた。 だからクラウドの話し相手は、孤独な漁師の老人と母親だけ。ミッドガルに来る途中に人身売買に巻き込まれそうになった事も手伝って、ますます人と接する事が苦手になりかけていたのだ。こうして自分に何の屈託もなく話しかけてくれる、好意を向けてくれると思うだけでも嬉しいのだろう。 だが、それを快く思わない自分がいる、クラウドが自分以外に笑顔を向けるのを不快に思う自分がいる、これはどうした訳なのだろうか? 「どうしました?進んでないようですが。」 ロイドがセフィロスのグラスにワインを注ぐ。 「いや、別に…」 さりげなさを装って、料理をよそうセフィロスに、今度は小さな声で囁いた。 「想いは口にしなければ、解らない。」 ぴく、とセフィロスの動きが止まる。 「覚えていますか?これはあなたが私に言ったセリフですよ、もっともまだ自覚は無いようですが。」 「どういう意味だ?」 少し剣呑な目つきになったセフィロスに、ロイドは肩をすくめた。 「やれやれ、こんな坊やに、あの頃の私は説教されていたわけですか。」 「何が『坊や』だ、そんなんじゃない、おまえ歳をとったらお節介になったんじゃないか?」 「そりゃあ、あなたが『英雄』と呼ばれるくらい、歳をとりましたからねぇ。」 二人の奇妙なやりとりに気づかぬふりをしながらも、さりげなくザックスはレオに耳打ちする。 「あそこなんか妙な雰囲気じゃん、親父は妬かねえのかね?」 それにレオが答える間もなく、ジャックがにやりと笑った。 「当たり前だ、俺の方がいい男だ。」 「はい、ザックスの負け。」 とたんあきれ顔のザックスに、レオが可笑しそうに笑う。 一人話について行けず、不思議そうな顔をしているクラウドに、ザックスが囁いた。 「おまえ知らなかったな、あの二人、昔付き合っていたんだよ。にーさんがおまえ位のころにさ。」 ずん… クラウドの胸に、冷たい氷の固まりが落ちてきた。それは、初めて味わう重苦しい冷たさで… クラウドの表情が変わったのに気がついたレオが、慌てて言った。 「昔の話だよ、今はただの部下と上司だし、ね親父。」 「馬鹿ザックス!昔の話を聞かせるな、もう関係ないだろうが。今では俺の大事な伴侶なんだぞ。」 「いや、ついさ、ごめんクラウド気にするな。」 気にするなって、何を? 二人が昔付き合っていたからと言って、自分が何を気にするって言うんだ? クラウドは自分で自問、自答する。 しかし、その答えが出る前に、冷えていく自分の心… クラウドはセフィロスという存在が、自分の中でとてつもなく大きな物になっている事を初めて自覚した。 back top next |
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