Innovation…変革 4




「…だからな、主任は親父にベタ惚れなんだよ。」
なぜか、喧嘩の途中から、そういう話になっているザックスだ。

「なんせ、主任の方から親父に迫り倒したって話だから、あんなにコワイ主任でも親父の前では可愛いネコちゃんだそうだから。」
「ネコ?」
「あ、ネコっていうのは…」

くわーん!
言いかけたザックスの頭に、先ほどからさんざん変形させられた銀のトレイが再度叩き込まれた。
「おまえの石頭のおかげで、もうそいつは修復不可能だ、弁償しろよザックス。」
「ひでーよにーさん!さっきからそれでオレを殴っているのはあんたじゃねーか!」
「文句をいうならこいつは食わさん。」
セフィロスがローストしたスペアリブの大皿を、リビングのテーブルにおいた。

「うまそー!あんたが作ったん?」
「他にだれがいる?クラウド、おまえの作りかけのシチューも味付けしておいたぞ。」
「え?わーゴメンなさい!オレ忘れてた。」
慌てて立ち上がろうとするクラウドの肩をセフィロスはやんわりと戻す。
「気にするな、もうジャックと二人で作ってしまった、あとは食うだけだ。」
「そうだぞ、坊主、遠慮するな、ほら食った事ないだろう?ウータイ風のシーフードサラダ『カツオのタタキ』だ。」

大皿に豪快に、美味しそうに盛られた初めて見る料理にクラウドのお腹がぐーと鳴る。
「ははは、たくさん食わんと大きくなれんぞ、あとスペイン風オムレツと、スパゲティな、ペペロンチーノと、ジェノベーゼ、ロイド運ぶの手伝ってくれ。」
言われていそいそと立ち上がるロイドをみて、ザックスが、な!とウインクする。

クラウドは、なんだか楽しくなった。
最初はびっくりしたけど微笑ましいかも…

その後始まる陽気な宴会、よく食べ、よく飲み、よく笑う。

「ソルジャーって、もっと堅苦しい人達だと思ってた。」
思わずもらした言葉にザックスが突っ込む。
「規則は厳しいんだぜ、『神羅の規範たれ』てんで、飲酒運転厳罰だろ、喧嘩も厳罰だし、あと社会風気を乱す行為は絶対禁止。」
「ザックス、よくおまえ今まで捕まりまらなかったな。」
「親父、そんなドジしねーって、それに飲酒運転や、喧嘩はともかく、オレ、エンコーも無理強いもした事ないし。」
訳の解らない会話にクラウドが目をぱちぱちさせる。

「ようするに、未成年者や女性にわいせつ行為をしてはダメと言う事ですよ。」
「破ったら軽くて一ヶ月の謹慎と減棒、あとクビだな。それと社内報に写真付きで載るからいい恥だし、ザックス気をつけろよ。」
「兄貴まで、ひでー!オレにじゃなく、にーさんに言えよ、クラウド気をつけろよ、にーさんこう見えて結構手が早い…」

くわーーーーん!
銀のトレイがその本来の役目を完全に忘れられた事はいうまでもない。


「疲れたか?」
シャワーを浴びたクラウドに、セフィロスが優しく尋ねる。
「うん、少し、でも楽しかった。」
「いい連中だがな、少々強引なんだ。」
ブランケットを捲り上げ、手招きするセフィロスをクラウドは不思議そうに見上げた。

「ん?どうした?」
「ジャックさんがね、『セフィロスの本気の笑顔を、久々に見せてくれてありがとう』って、どういう意味かな?て考えただけ。」
隣に潜り込むクラウドを見て、セフィロスは軽く舌打ちする。

…見破られていたか…
今までどんなに和気あいあいとした雰囲気をつくっていても、セフィロスは決して部下の前で本気で笑ったり、怒ったりした事はなかった。
…それなのに…

どうしてお前がいると、オレは本気で笑えるんだろうか?

じっとクラウドの顔を見る、もうこの子を抱き締めて寝る事が当たり前になってしまった。
いや、このぬくもりがなくなったら、眠れなくなっているかもしれない。

「どうしたの?」
「いや、なんでもない、もう寝ろ。」
そっけなく言うセフィロスにクラウドはにこっと笑うと、いきなり首に手をまわした。

「クラウド?」
頬に触れる柔らかい感触、そこからじんわりと何かが広がって行く。
「おやすみのキスだよ、ロイドさんに『ちゃんとしてる?』って聞かれてそういえばしてないなと思って。」
「あいつめ…」
絶句したセフィロスにクラウドが心配げに問う。

「イヤだった?」
「そうじゃないが…オレはそういうものをあまりした事がなくてな。」
困った様なセフィロス、クラウドは又にこっと笑った。
「イヤじゃなかったら、セフィロスもして、オレいつも母さんにしてもらってたんだ。」

お休みのキス…今まで自分にそんなものを望んだ者がいただろうか?

「イヤだったらいいよ、おやすみなさい。」
黙り込んだセフィロスが気を悪くしたとでも思ったのだろう、慌てて言うとクラウドは、ブランケットをかぶって向こうを向いてしまった。
その肩がとても寂しそうで、思わずセフィロスはゆっくりブランケットを捲ると、クラウドの顔をこちらに向けた。

不安げに揺れる青玉の瞳…
…綺麗だ…まるでこぼれ落ちそうだ…どうしてこんなに心に染みる青なんだ…
それはおそらく初めて見たときから、自分を捕らえて離さないもの…

「イヤじゃない、クラウド…イヤじゃない…」
セフィロスは柔らかく微笑んだ、そうして、柔らかな頬にゆっくりと口付ける。
「おやすみ、クラウド。」

それは彼が生まれて初めて行ったお休みのキスだった。
たったそれだけの行為で、温かいような、甘酸っぱい様なものがセフィロスの胸を一杯にしていく。
そして、それはクラウドの胸も同じ様に満たしていく。

自然にセフィロスはクラウドを抱き締めた。
当然の様にその胸に顔を埋めるクラウド、もうずっとこうするのが当たり前になっている。
同じ寝室で同じベッドで抱きあって眠る、まるで生まれる前からそうしていた様に…

「お休みクラウド、良い夢を。」
もう一度キスをしたセフィロスに、クラウドは天使の微笑みを浮かべると、安心した様に心地よいまどろみの中に落ちて行った。

温かい…柔らかい…

セフィロスの胸の何かが、ゆっくりと少しづつ融けていく…彼自身未だ気付いてはいない…



「セフィロス達はもう寝たでしょうか?」
「お子さまと一緒だからな、おまえのおせっかい通じてるといいな。」
「セフィロスには借りがありますからね。」
「…そうだな…」

ミッドガルの夜はふけていく…





      
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