Innovation…変革 2




…変わったよな…
…変わっちゃってるよ…
リビングに通されて、目と目で語り合う。

部屋の雰囲気が変わってる、以前はもっと無機質な印象だったのに…
無人だったモデルハウスが売りに出されてようやく人が住み着いた様な…
生活感が漂っているのだ。

それは例えば、窓辺におかれた花瓶に野の花が生けられてたり、またその花瓶がよく見れば、ジュースの空き瓶だったりする、その横に、おまけの人形が、ちょこちょこと列を作って並んでる。
リビングのソファーの上に、以前はなかった赤いリボンをしたネコのキャラものの大きなクッション、このシックな雰囲気の部屋に、真っ白な巨大なネコの顔型のクッション…

どんな顔して買ってきたんだ?
同じネコが、ソファーに座った形の、どピンクのティッシュカバーつきティッシュをうっかりテーブルの下に見つけ、ザックスはもう踊りだしたかった。

更に、コーヒーとアップルパイをトレイに載せて、にっこり笑顔の主は、ぱきんと折れそうな細い身体にお似合いの、同じネコのついたピンクのエプロン、華奢な足下はネコのついたスリッパ…
思わずこれを売ったであろう、ファンシーショップの店員に同情したくなった。
目の前で仏頂面をしているこの男が、これらの物を買うのは、ミスマッチどころの騒ぎではなかったろう。

ミスマッチ?レオも思考が停止していた。
まだ耳の奥に残っている、ソルジャーの聴力で無理なくナチュラルに聞こえてきた、先ほどのキッチンでの会話。
ミスマッチという言葉を、これだけ如実に現した例も珍しい…

『エスプレッソの方がいいかな?』
『いや、普通に入れていいぞ、豆はこの間のいいやつがあったな。』
『アップルパイでいいよね、昨日セフィロスが作った奴。』
『いいのか?とってもうまいって言ってたじゃないか、お前に食べさせたくて作ったんだから。』
『いいよ、一人で食べきれないよ、今度又作って♪』
『うん、今度はチョコレートケーキを作ってやるぞ、ストロベリータルトの方がいいか?』
『わーどっちも食べたいvv嬉しいな。』
飛び交う見えないピンクのハート…

…隊長、あんな甘い、蕩けるような声、出せたんですね。
おもわず顔を見上げれば、ぶすーっとした目の前の顔に拍車がかかる。

奇妙な沈黙が支配する事数分、まっ先に切れたのは予想に反せずザックスだった。

「だーーー!オレもう我慢できねー!!」
いきなり雄叫びを上げたザックスは、ミルクポットを置こうとした華奢な手首をつい掴んだ。
「ねー!君、なんて名前?いくつ?いつからにーさんとつき合ってんの?」
「え?えーと」
びっくりする細い身体を、セフィロスがすかさず奪い返す。
「やめろ!怯えてるだろーが!」

一発頭をはたかれ、ザックスは頭を押さえながら叫んだ。
「だってさ!気になるじゃんか!こーんな可愛い子、どこで引っかけたん?」
「誰も引っ掛けたりなんぞしとらん!」
「じゃあ、押し掛けられたん?いいなぁ!!さすが神羅の英雄!でもこの年は犯罪だぜ!犯罪!!解ってんの?にーさん?」
「何が犯罪だ?」
地の底から響く様な殺気を含んだ声にも、ザックスは動じない。
「まーたしらばっくれちゃって、ローティーンに手をだしちゃイカンて、いくら英雄でも!しっかし、こーんな可愛い子なら無理ないかな?ね、ね、なんて言ってにーさんに口説かれたん?にーさんキスうまいっしょ?最初っからこんなテクニシャンとつき合うとあとが大変…」

くわーーーーん!
音とともにさっきまでカップが乗っていたはずの、シルバーのトレイがザックスの頭にめり込んだ。

さすが隊長、見事な早業…
カップとシュガーポット、パイの乗った皿はきちんとテーブルに乗っているのを見て、レオは妙な感心をする。

「何を勝手に誤解している!こいつとはそんな関係じゃない!!」
「いてーー…じゃぁどんな関係だよ。」
ぺっこりと頭の形のついたトレイを外しながら、ザックスは頭を摩る。
「オレ、神羅の士官学校の試験受けにきたんです、試験には受かったけど、新学期までいるとこなくて、ここに置いてもらってるんです。」
おずおずと割って入った可愛らしい声に、ザックスはちっちっちと人さし指を振ってにかっと笑う。
「ダメだぜ、女の子が『オレ』なんて、でも、知らなかったぜ、今年から女の子も取るんだ、楽しみ♪」
思った事をすぐに口に出す事がこの男の長所でもあり、短所でもあるのだが、この場合は後者だろう。

くわーーん!
さっきまで、ザックスの手にあったトレイが、再びザックスの頭にめり込む。

おおっと、この子も素早い、そして隊長、見事な連係です。
一人コーヒーを啜りながら、レオは気の毒気な顔で正直すぎる後輩を見る。
逃げられない様に首根っこを押さえ付けているのはセフィロス、そして思いっきりトレイを叩き付けたのは…

「何が『女の子』だ!オレはちゃんとした男だ!!どこ見てるんだ!!」
「え?男?マジに?嘘だろ?だってどこをどう見ても…」

くわーーーん!
ザックス…少しは学習能力を身につけろ。

三たび響いた音に、レオはため息をつく、そしておもむろに口を開いた。
「ごめんね、君が『子猫ちゃん』のエプロンしてるから、うっかり間違えたんだよ、それ女の子用だから。」
してなくても、おそらく間違えただろう…と言う事は置いといて、温和な笑顔にその場の雰囲気が一気に和む。

「え?そうなんだ、セフィロスが買ってきてくれたんだけど…」
不満げに見上げられ、セフィロスは慌てた。
「こいつの物をどこで買っていいか解らなかったから、ジャックに聞いた店で一番似合いそうな物を買ったんだが…いけなかったのか?店員は女物なんて言わなかったぞ。」
「別にいけなかありませんが、隊長、なんて副長に聞いたんです?」
「『13、4の金髪碧眼の子に似合いそうな日常生活品はどこに売ってるんだ?』って聞いたぞ?」

なるほど、その時点から副長は、怪しんでいたわけか、それにしても隊長、今年の士官学校の合格者名簿を、発表前に早々に取り寄せていたのはそういうわけですか…

納得顔のレオに、不満顔のザックス。
「ちぇーっ!ずるいぜ親父!見当つけてたんなら自分たちで探れよ!!」
セフィロスの目がきらーんと光る。

「なるほど、あいつらもグルか、おまえにこんな物がついてるわけだ。」
いきなりザックスの上着を掴むと、襟の裏から1センチ四方の薄いフィルム状の物を取り出した。


「ロイド!どうせおまえの企みだろう!?人のプライバシーに首突っ込むな!!」
フイルムに向けて怒鳴ると、指先で折り曲げる、パチッと音がして、小さな火花が散った。

「でー!!主任!!いつの間に!!」
「気付かないおまえがバカなんだ、ちゃんと電波音がしてただろうが!」
「あんたじゃないから、そんな音聞こえないって!!兄貴は知ってた?」
「そりゃ、主任が『いってらっしゃい』とおまえの背中叩いたときだろう?」
「知ってたら教えてくれよ!」
「おまえならそんな恐ろしいマネできるか?」
ザックスがぐっと詰まった時、来客を告げるインターフォンが鳴った。

「誰だ?」
『よお!セフィロス、いい酒持ってきたぞ、オレ達にもべっぴんさん紹介してくれ』
『そろそろ、ばれる頃だと思って、近くまできてたんですよ、試作品の盗聴器のチェックも無事に終わったみたいだし。』

「…ったく、食えない奴らだ」
セフィロスは忌々し気につぶやくと、ホールのドアを開けるボタンを押した。




      
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