Innovation…変革 1
「な、兄貴、オレ賭けたっていいぜ。」
針金のように硬そうな黒い髪、黒い瞳の青年が隣の机の青年ににそっと囁く。
その瞳はただの黒ではない、白眼はうっすらと青みを帯び、闇夜では燐光を放つ、ソルジャー独特の魔晄の瞳だ。

「だから、何をだザックス。」
応じた青年はライトブラウンの髪、アクアブルーの瞳、そしてその瞳には同じく魔晄の輝きを持っている。
ここは神羅の治安維持部門、ソルジャー連隊の司令部室。
黒髪の青年はザックス=ベンジャミン18才、ソルジャーファースト、ソルジャー連隊主任補佐、作戦、情報担当で少佐である。

応じたライトブラウンの髪の青年は、レオニード=アレクサンドロフ。
いつも寡黙で温和な26才、ソルジャーファースト、ソルジャー連隊主任補佐、動員、兵站担当で同じく少佐だ。

「にーさんだよ、にーさん、絶対あれはいい子ができたんだって。」
小指を立てるザックスに、レオニ−ド…通称レオが呆れた様な顔をする。
「おまえなぁ、執務室で連隊長の事にーさんって呼ぶのやめろよな、又親父に怒られるぞ。」
「兄貴だって、親父って言ってる癖にさぁ、それよりにーさんだよ、怪しいと思わないか?」
「まぁな、確かに定時で最近きっかり帰るし、似合わない所で買い物してるし…」
日頃から調子のいい年下の同僚を、いつもはたしなめるレオだが、今回はつい執務中、しかも残業中だというのに、話に乗ってしまう。
日頃まじめで寡黙なこの青年にしては、めずらしい。
それだけ、話の中心人物の最近の行状が気になってるのだが…

話題の中心は連隊長のセフィロスだ。
神羅のほこる英雄、ファーストの中のファースト、ソルジャー連隊のトップに立つセフィロス。
そのセフィロスの様子が最近変なのだ、まず、業務が終わっても何かと執務室に残っていた彼が、今日もそうだが最近きっちり定時で帰る。
さらに、日頃彼が立ちよりそうでないところで買い物をしてるのを、けっこう目撃されているのだ。

「オレびっくりしたぜ、あのにーさんがケーキ屋にいたんだからさぁ。」
「オレもティーン向けのブテッィクで、服買ってるの見たときは、驚いたけどな。」
「だから、ずばりいい子ができたんだって、ハイティーンか、ローティーンの可愛い子がさ。」
「ローティーンて事はないだろ?あの人20才だぞ、いくらなんでも、もう犯罪だ…」
つい話に熱中していた二人は、背後に立った影に気付くのが遅れた。
ファイルでバンバンと、続けざまに頭をはたかれる。
「何が、犯罪だって?」
「あ、親父!なんでいるの?」
すかさずもう一発ザックスの頭をはたく。
「誰が親父だ、執務室内では役職で呼べ!」

叩いた主はジャック=デヴィッド=トレーバー、36才。
ブラウンの髪、ダークグリーンの瞳、ソルジャーファースト、ソルジャー連隊の連隊長補佐の准将だ。
闊達なその性格は、部下から「親父」と慕われている。

「すみません、副長。」
まじめなレオは、すぐに作成中の書類に取りかかった。
しかし、ザックスはぶつぶつ頭を摩りながら文句を言う。
「なんで、副長残ってるんだよ?とうに勤務時間過ぎてるだろうが。」
「おまえらの書類が終わらないと、ロイドの決済ができないんだと、今日はメシを食いに行く事になってるんだ。」
「えー?オニ主任も残ってたのかよ、ちっ…帰ったと思ってたのに。」
言いかけたザックスをレオが小突くが、時すでに遅し。
「帰りたかったんですけどね、ザックス。特にあなたの書類が必要なんですよ。」

入ってきた気配さえ感じさせない静かな動作、この丁寧な物言いが恐ろしい、にっこり笑顔がさらにそれに拍車をかける。
ぱっとみは、とても軍人に見えない端正な細身の青年は、ロイド=リンクス=トレーバー28才。
アッシュブロンドの髪、ヴァイオレットの瞳、ソルジャー連隊の主任で大佐、通称「オニ主任」「オニ大佐」。

「決済を本部に持って行こうと最終確認したら、とうに出ているはずのあなたの書類がでてないじゃないですか、確か先週までに出す様に言ってたはずですが。」
室内の気温が一気に下がった気がする、ザックスは焦って自分の書類に取りかかる。

まじめに書類に向かった年少の二人を見て、年長の二人はぷっと吹き出した。
「ま、今日はそれくらいにしとけ、急ぐ書類じゃないし、なぁロイド。」
「そうですね、そういう事にしときましょうか。」
年少の二人は顔を見あわせる、こういう時はえてして裏があるもんだ。
「その代わり、ちょっと用事を頼まれて欲しいのですが。」
張り付いた様な満面の笑み、そのココロは、
…イヤとは言わせませんよ…だ。
二人は力なく頷いた。


「なんだよ、結局親父も主任も気になってるんじゃないか!探りいれたきゃ、自分で入れろよな。」
ぶつぶつ言うザックスを、レオがやんわり笑顔でたしなめる。
「まあな、でも確かに、問答無用で隊長の家に入り込めるのはおまえぐらいだ、オレだったら届け物したって、玄関先でサヨナラだからな。」
そう、二人が立っているのは超高級の、セフィロスのマンションの前。
手にはロイドが『うっかり渡し損ねた』今日中にセフィロスに目を通してもらわなくてはいけない書類を持っている。

『いいか、お前達、このミッションの目的は以下に自然かつ、強引にセフィロスの家に入り込むかだ。』
『ザックスの図々しさと、レオのまじめさでうまく探るんですよ、セフィロスの家に“何”がいるのか。』
『オレ達は、少し離れた所でお茶飲んでまってるからな。』
これミッションなのかよ…

神羅のほこるソルジャー連隊司令部、別名「カルテット」。
その「カルテット」のミッションかこれが?
突っ込みたい気分はあれど、やはり下世話な興味が尽きないのは、年少の二人も同じ。
年長二人に送りだされ、年少二人はさぁどうしたもんかと考え込む。
「ま、考えてもしょうがねー!兄貴、あたってくだけろだ!」
「おいおいザックス…」
止める間もなくザックスはロビーに入り込むと、セフィロスの部屋のルームナンバーを押した。

何回か響くチャイムの音、やがて不機嫌そうな聞きなれた声が聞こえる。
「誰だ?」
「にーさん♪オレ、ザックス。」
「帰れ!」
「わー!タンマ!タンマ!!まじに用事があるんだって。」
「そうですよ、隊長。今日中に隊長に目を通してもらわなければならない書類を、うっかり忘れてたからと主任に頼まれたんです。」
慌てて割って入った声を聞いて、セフィロスの声のトーンが若干変わる。
「なんだ、レオも一緒か、上がって来い。」
すっとロビーのセカンドドアが開いた。
「ひでーよな、オレと兄貴と差別し過ぎじゃねーか?あのにーさん。」
「まあまあ、この後はおまえの役目だぞ。」
エレベーターに乗りながら、二人はこそこそと会話を交わす。

二人とも、セフィロスの家には何度も訪れた事がある。
それは主に、会社で話せない密談をするとき…しかし、酒や、メシをたかりに、という時もある…主な犯人はいわずと知れたザックスだ。
それと、気さくな隊長補佐のジャックが酒を持って…と言う事もある。
「このまえ、親父が『いい酒手に入ったから今晩どうだ?』と聞いたら、『しばらくはちょっと都合が悪い』と言われたんだと、隊長が親父の誘い断るのって珍しいからな。」
「そうだな、オレの誘いはすぐ怒る癖に。」
それでも、なんやかやで出入りを許しているセフィロスだ。
ソルジャー連隊1500名のトップに立つセフィロス、そして直属の『カルテット』連隊司令部の結束と信頼は堅い。

玄関のドアの前でインターフォンを押す。
『すぐ出る。』
ちょっと不機嫌かな?と思う事数分、ドアが開いて銀髪美丈夫の彼等の上官が姿を現した。

「わざわざ悪かったな。」
「いえ、隊長、この書類です。」
レオが書類を渡すと、セフィロスはぱらぱらと捲って確認する。
「解った、ロイドにはオレから返事をしておく。でも珍しいな、あいつにしては。」

ちら、と翡翠の瞳で確認する様に見られると、ごまかしきれるレオではない。
あせって返事をする前に、すかさずザックスがフォローする。

「にーさん、オレ喉乾いてるんだよーー!なんか飲ませて。」
「うちは喫茶店ではない!よそに行け!!」
「あー冷たーい!せっかく書類を届けにきた可愛い部下に、その態度はないんじゃない?」
「可愛い部下なら考えるんだがな、帰れ!」
いつもの漫才が始まったが、いつもと違う気がする。

…なんか隊長妙に焦ってないか?一刻も早くオレ達を帰らせたがっている様な…
帰れ!と一点ばりのセフィロスに食い下がるザックス、そんな二人の様子を冷静に分析する事、数分…レオの疑問は氷解した。

「お客さまですか?今お茶いれますね。」
エレベーターのドアが開くと同時に、中から小柄な人陰がおりてきた。
ニコニコと無邪気な笑顔で近付いてきたその人物は、買い物の帰りだろうか?手にはショッピングバックを持っている。

「コーヒーでいいですか?」
真近でみる蒼玉のような大きい瞳に圧倒され、二人はこくこくと無言で頷いた。
磁器の様な滑らかな白い肌、アイドル顔負けの整った顔だち…いや、すれた感じが全くない分、より美しく感じる。
肩口で緩く一つにまとめられた金髪が、ふわりと輝いて二人のまえを掠めていった。

「ごめんね、セフィロス遅くなって、スパイスが見つからなくって隣のストアまで行ってたんだ。今晩シチューでいい?」
珊瑚の様な唇から語られた言葉に、セフィロスは二人の手前、バツが悪そうに答える。
「ああ、何でもいいぞ、おまえの作る物なら…」
言いかけて、あっけに取られた様な二人の視線に気付き、慌てて口を押さえた。

…照れてる…隊長が…
…これって…新婚さんじゃん…

呆然と立っている二人をどう思ったのか、珊瑚の唇がもう一度開いた。
「どうぞお入り下さい、すぐに準備しますので。」
そう言って、すっと玄関の中に入っていく華奢な後ろ姿、膝丈までの水色のパンツからすんなり伸びた白い足が初々しい。

「…げ、激マブ…ねえ、兄貴…あの子どう見ても13、4じゃ…」
「ああ、ローティーンだな…」
「…犯罪だぜ…」
「…犯罪だ…」
うっかり呟いた言葉に、降ってくる冷たい言葉。

「何が犯罪だって!?」
氷の様な翡翠の瞳と、一気に絶対零度まで下がった気温に、二人はだらしなく
「ははははは…」
と、ごまかし笑いをするしかなかった。




      
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