セフィロス先生vv 9
「…でね、クラウド、先生がそうおっしゃるのよ…クラウド、クラウドってば!」
言われてクラウドはハッとする、ここは母親の入院している病院だ。
…だめだ…ついセフィロスの事考えてしまう…

「ごめん、母さん何か言った?」
「どうしたの?何か無理でもしてるんじゃないの?ここしばらく元気がないわね。」
母親が心配そうな顔で聞く。
「ううん、何でもないよ母さん、無理もしてない。」
「そう?担任の先生の家に住み込んでまでしている資料整理のバイトが、大変なんじゃないの?」
クラウドは精いっぱいの笑顔で懸命に答えた。
「ううん、そんな事ないよ。」
「それとも先生が厳しいとか?」
…優しすぎるくらいだよ…母さん…

「ううん、そんな事ない、それに今、先生いないんだ。アメリカの実家 に帰ってる。」
…だから寂しいなんて母親に言えるわけはない。

「そう?お前の事だからきっと気を使っているのね、でもいい先生ね、そこまで親身になってくれるなんて、母さんからも退院したらお礼を言いに行かなきゃね。」

退院?そうか、母さんが退院したらオレ、家に帰らなきゃならないんだ…
今まで考えもしなかった …
…オレ、もともとセフィロスと、ずっと一緒にいられるわけじゃ
なかったんだ。
改めてそう思う…何か重く苦いものが込み上げてくる。

「で、さっきなんて言ったの母さん?」
「あ、そうそう主治医の先生がね、来週の中頃退院していいって、 ゴメンねクラウド今まで心配かけて、もう大丈夫だからね。」

一瞬返事に詰まる、セフィロスはいつ帰ってくるんだったっけ…
哀しい事にまっ先に浮かんだのは喜びではなかった。

「よかったね、母さん。」
作ったような笑顔で返事をしながら、クラウドは冷たい塊が胸に降りていくのを感じていた。
…セフィロス…早く帰って来てよ…

静かな室内、ただ時計の音とパソコンのキーをうつ音だけが響いていた。
ため息をつきながらクラウドは時計を見る。
…もう11時近いのに…

セフィロスからの定時連絡がまだない。
…いつも10時にはかかってくるのに…

母親が退院することをセフィロスに言わなくてはならない。
セフィロスが帰ってくるのは火曜日だ、母親の退院は金曜日、二日時間がある。
…セフィロスに今までありがとうっていわなくっちゃ…
そして最後の夜を楽しく過ごそう…
そう思う度に胸が苦しくなる。
押さえ付けられる様な…締め付けられる様な…
…セフィロス…オレあんたの何…?
…オレあんたの特別な生徒…?それだけ…?
こんな想いは初めてだった。
哀しいよ、セフィロス…苦しいよ…セフィロス…声が聞きたい…
…ア.イ.タ.イ…

電話のベルが鳴ると同時にクラウドはとびついた。
『クラウド?元気にしていたか?…』
ずっと聞きたかったセフィロスの声…

ぐっと込み上げてくるものを飲み込みながら返事をする。
「うん元気だったよ、よく毎日オレに電話する用事があるね。」
『用事?一日一回おまえの声を聞かないと、オレは何もする気がせんからな、おまえに電話するのも大切な用事だ。』

電話のむこうのセフィロスの表情を思い浮かべる…
きっと、少しからかったようなイタズラっぽい優しい笑顔…
…好きだよセフィロス…好き…?
…そうかオレあんたに恋してるんだ…
漠然とクラウドはそう思った。

だから会いたい、だからそばにいたい…帰りたくない…
母さんよりもあんたの側がいい…
胸をおそう灼熱感、一度自覚したらもう後には戻れない。

『…クラウド…クラウドどうした?』
はっと気が付いてあわてて返事をした。
「あ、ごめん何?」
『すまん、帰りが少し伸びる、土曜日になりそうだ。』

土曜日?母さんが退院する翌日だ…
もう一緒に住む事はないだろう、あの腕に包まれて眠る事も…
重い気持ちを気付かれないようにクラウドは言葉を絞り出そうとした…

「セフィロスあの…実はね…」
その時、受話器の向こうから声が聞こえた。

『…ねーセフィロス!!待ちくたびれてるよーー早くー』
『解った、解ったからもうちょっと待て。』
『あ,その電話クラウド君?ね、ちょっと代わってよ。』
『だめだ!!関係ないだろおまえには』
『だってセフィロスの大事な秘蔵っ子でしょ?』
クラウドの背筋に冷たいものが走った。

…あの電話の女性だ…
もう夜の11時を回っている。
こんな夜遅くセフィロスと家にいるのかあの人は…
…ずっと一緒にいるのか…
そしてセフィロスはあの人に話しているのか…オレの事を…
…オレの事を…大切な生徒…と…

『クラウドすまん、すまんちょっとうるさいのがいてな。』
セフィロスの声が遠くで聞こえる…
『おまえの食事は又頼んでおくから…』

クラウドは冷たい声で答えた。
「いいよ!セフィロス必要ない、オレ母さんが金曜日に退院するから、家に帰らなきゃ、今までありがとう、じゃお休みなさい。」
『え?クラウド?クラウド?…』

一方的に電話を切る。
そして留守録も切ってしまった…
…セフィロス…さよなら…
熱く込み上げてくる何かを、クラウドは無理やり飲み込んだ。


…ったくどうしたって言うんだ?

帰国して予想どおりの室内の様子に、セフィロスはいらついていた。
きちんと片付けられた室内、置いてあったクラウドの私物は全て無くなっている。
そして、書斎の机の上にはセフィロスが頼んだ仕事がおさめられているディスクが置いてあり、 ちょっと神経質そうな字でメモが置いてある。

『セフィロス先生、色々ありがとうございました、仕事は全部できました。
母さんも退院したのであとの事はご心配なく。
                   クラウド・ストライフ』

そっけない事務的な文章、何度もそれを読み返しながらセフィロスはため息をつく。

…いったいどうしたって言うんだ?

ベットに腰をおろして、あの日の会話を思い出す。
最初電話に出たときからクラウドの様子は変だった、 何か思いつめた様な、泣くのを我慢している様な声…
だから冗談めかしてみせたのに、 それで少しは明るくなったと思ったのに…
…何かあったか?

あのあと何度電話しても、クラウドは電話に出なかった。
しかも留守録まで切ってあった。

…何があったクラウド…そんなにオレは頼りにならないか?

自分が電話をかけている間中、今自分が座っているベットで少年が、毛布に包まって泣いていた事等 セフィロスは知る由もない。

セフィロスはもう一回ため息をつく。
部屋の空気が違う、温度が違う…
…お前がいないから…帰ってこいクラウド、オレの腕の中に…
こんなに人を欲したのは初めてだ…恋しい…オ・マ・エ・ノ・ス・ベ・テ・ガ…