セフィロス先生vv 10
「…いえいえ、本当にお世話になりました。…えーえ、私の方はもう大丈夫です… 」
…母さん電話長いな…誰と話してるんだ?
食べ終わった食器を片付けながら、クラウドはため息をつく。
母さんが退院して嬉しいはずなのに、心が弾まない…

…昨日セフィロスは帰ってきてるはずだ…
家に帰ってきてからも、考えるのはセフィロスのことばかり…

オレの書いた手紙読んだかな…怒った?呆れた?…だから何の連絡もない?…
一方的に電話を切った後、何度も鳴ったベルの音…
それにでなかったのは自分なのに…
留守録も切って、セフィロスの匂いのする毛布に潜り込んで…嗚咽をかみ殺していた。

…だめだよ、今セフィロスと話したらオレ、とんでもない事言っちゃう…
…帰ってきて!早く帰ってきて!!
…オレ家に帰りたくない!ずっとセフィロスと暮らしたい!!
…その女誰だよ!オレよりその女の方が大事なのか!!

全部言ってならない事…叫びたかった本当は!!

オレ以外の人と一緒にいないで!抱き締めないで!

それを全てかみ殺して、ベッドの中で声を殺して泣いていたのだ。

…会いたいよ、セフィロス…会いたい…
たった10日程しか離れていないのに、何年も離れている気がする。
あと何日かで夏休みも終わる、そうしたら学校で毎日会えるくせに。
でもそれは生徒と先生としてだ…自分が望んでいるのはもっと別の…

…ああ、ダメだ、ダメだ…
クラウドは頭を振って自分を諌めた。
堂々回りの思考は、いつも同じ所で止まってしまう。

「…はい解りました、それで御願します。…クラウド、クラウド、あなたに代わってって。」
突然母親に言われてびっくりした。
「だれ?その電話。」
「あなたの担任の先生よ、良いかたね。」
笑顔で受話器を渡す母親の声をクラウドは聞いていなかった。

…セフィロスから電話〜!?なんだよあいつ人の気も知らずに!今まで延々母さんと長電話してたのかよ!!
なんだか無性に腹が立ってきた。
さっきから30分以上話しているのを知っている、てっきり母さんの職場の人と思ったのに…

ひったくるように受話器を受け取った。
「…もしもし?」
「クラウドか?良かったなお母さん退院できて。」
懐かしいセフィロスの声、でもわざとぶっきらぼうに答える。
「おかげさまでね、ところで何の用?」
「ああ、おまえ仕事は片付いたつもりだろうが、あれで終わりじゃないぞ。」
「終わりじゃないって…オレ全部したよ。」
確か完璧だったはずだ。

「おまえ、解ってないなオレはおまえの雇い主だ、お前とかわした契約書を読んでやる。」
契約書?そういやなんか最初の日に、いくら払ってうんぬんという書類に、サインをした記憶がある。
「『クラウド=ストライフは上記報酬を得る契約を一年に渡って結ぶ事とする。』つまりまだ契約は終わってない」

えーとそんな文章あったっけ?

「まだ続きがあるぞ、『なおこの契約をクラウド=ストライフが一方的に終了する事はできない、もし終了するならば違約金として…カラダで支払う』」
「何ーーー!!」

「オレとしてはそっちでも一向に構わんぞ、どうする?」
「ちょ、ちょっと待ってよセフィロス、母さんも家にいるし今までのようには無理だよ。」
「だから、家に仕事に来い!他のバイトを探そうと思うなよ、じゃあな!」

最後にクラウドが何か叫んでいたが、セフィロスは電話を切った。
視線を走らせた先には、クラウドに似合うだろうと買ったピアスの箱がある。
それを手に取りふたを開ける。
ティファニーの特注、今はもう産出してないカシミールブルーサファイヤだ。
クラウドの瞳と同じ澄んだブルー…

…クラウド、オレはしつこいぞ、そう簡単に逃げられると思うな…
母親との会話で、よからぬ事態が起こったわけではない事を知ったセフィロスは、臨戦態勢に入った。
…オレはおまえを離さない。

「ストライフを知らないか?」
「ああ先生、クラウドならメシ食った後どっか行っちゃいましたよ。」
「そうかありがとう。」

セフィロスは、屋上に向かった。
ここ数日クラウドに逃げられている。
あのあとかかってきた電話で、しばらくは猶予を持たせると言う事になったが、
昼休みはもとより、帰宅時も脱兎の如く逃げられ、 ここしばらくプライベートでは全然話していない。

…クラウドなぜオレから逃げる?
「ストライフを見なかったか?」
「いーえ、見てませんよ先生。」
「あ、オレ見ました。なんか図書室の方に行ってたような。」
「ありがとう。」
こうして昼休みは学校中を捜しまわるはめになるのだ。

…オレがいったい何をした?
クラウドが自分から逃げ回る理由が解らない、渡米するまでは確かに心を許してくれていると思ったのに…
いや、渡米してからも電話に出る声は、いつも自分を待っていた。
それなら何故?

思い当たるのは、あの帰宅が伸びる電話をした時だが…
…帰りが伸びたから怒っているのか?

いや、あの日は最初から変だった。
じゃあ、あの日に、自分もクラウドの母親も知らない何かがあったのか?
いくら考えても思い付かない。
直に聞くしかないのだが、こうして毎日逃げられている。

授業は普通に出ている。
しかし前のようにからかっても、本気で食って掛かってこない。
何か思いつめた様な暗い顔…
そして授業が終わるとすぐに姿を消すのだ。
…もうそろそろ限界だな…オレが…
もうすぐ中間試験、それが終わったら非常手段に出る時だ…と
セフィロスは考えていた。

「おい、クラウド、セフィロスが探してたぜ。」
「うん。」
「おまえなんかしたのか?ここしばらくずっとだろ?」
「別になにも…」
もう何人に聞かれた事だろう、新学期になってからずっとだ。

…セフィロス!少しはオレの立場も考えろよ!!
ひょっとして、学校中の人間に聞いて回ってるんじゃないかあいつは!!
おかげで毎回逃げ込む場所に苦労する。
今日は体育倉庫の中、カビと汗と石灰の混じった独特の匂いの中で息を潜めて隠れなければならない。

あのあと散々そんな話は知らない、横暴だ!!
母さんもすぐには仕事に行けないし、しばらく家の事をしなきゃならないと言ったら、猶予期間をくれたけど…
学校でいざ姿を見ると、とてもじゃないけど二人っきりですごせないと思った。

セフィロスに触れたい…
抱き締めて欲しい…
オレだけを見て欲しい…
だけど、セフィロスはきっとオレに本気じゃない。

いっそ本当にカラダで支払おうか?
そうしたら自分のこの気持ちに、決着がつくのだろうか?
そう思いもしたが、セフィロスに抱かれる…
思っただけで頭が真っ白になってしまう。

最初のころのような、同性同士の性行為に対する嫌悪感ではない。
むしろそれを望んでいる自分に唖然とするのだ。
あの腕に直に抱かれ、唇が肌を滑り、そして身体を開かれ…

そうしたらきっとオレはもう二度と忘れられなくなってしまう。
今でさえこんなに、恋しくて、恋しくて狂いそうなのに…
セフィロスは大人だから、遊びでそういう事もできるのかもしれないけど、
オレはダメだ…
ビジネスライクに抱かれて、契約終了なんて…イヤだ…

じゃあ自分はこれからどうしたいんだ?
解らない…解らないから逃げ回ってるんだ…
セフィロスに会っても、何を話したらいいのか解らないんだ…
あなたが好きって叫びそうになる自分が恐いんだ…
そうしたらきっとあなたは笑って言うんだ。
『おまえはオレの生徒だ、その事を忘れないならいいぞ、ここにいる間いい退屈しのぎになる。』
そうして3月、セフィロスが辞めるのと同時に終わる…
そんなのはイヤだ!!そんなことになる位なら一生オレの想いなんて伝えたくない。
セフィロスのバカ…

そして中間テストが終わった日、校門の外で車を停めるセフィロスの姿があった。
…クラウド…今日こそおまえを捕まえてやる…