セフィロス先生vv 7
どのくらい時間がたっただろうか?

無意識に飲み込んだチーズケーキは苦かった…
無言でパソコンに向かって、最後のまとめを作成しだす。
…そうだよな…あんなにハンサムでかっこよくって、頭がよくって、強くって…
そういう相手がいない方がおかしい…とクラウドは思う。

あたりまえだと思うのに…心が沈む…
鉛を飲み込んだかのように…重い。

セフィロスが帰ってきたらなんて聞こう?
…だれ?この人?…聞けるわけないよな…オレにはそんな権利ないし…
所詮ただの生徒だし…クラウドはため息をひとつついた。

「…おい、風邪をひくぞ。」
その声で目が覚めた。
…いつのまにかうたた寝してたのかオレ…
机の上から顔を上げ、ぼんやりとした頭で答える。
「お帰りなさい、せんせ…」
言いかけて不意に唇を塞がれる。
ちょろっと舌が差し込まれ、軽くタッチしたあとすぐ離れた。
セフィロスが片目をつぶる。
「ペナルティだ♪」

最初同居する事になったとき、
この家の中では先生と呼ばない事、読んだらペナルティでキス一つ 、と宣言していた。
ソレを忠実に実行してきたセフィロスだが…クラウドの様子がおかしい。
唇を噛み締め、なにかを我慢しているような…

「どうかしたのか?」
肩を優しく抱く。
クラウドはゆっくり首を振った。
「何でもないよ、それより電話かかってたよ。」
「本当に?なんか変だぞ。」
「なんでもないってば…留守電に入ってるから。」
そうは言っても、明らかにおかしいクラウド …
…まるで泣くのを我慢してるような…泣く?

セフィロスはクラウドの様子を伺いながら留守電を再生し…
あちゃーという顔をした。
困った顔のセフィロス。

…この人がこんな顔するの初めて見た…
こんな顔をさせる事ができる電話の向こうの女性はどんな人なんだろう。
クラウドの胸がズキリと痛む。
それは今まで時々感じていた、甘さを伴うツンとした痛みとは全然違う
…まるで胸の中を鉛の棒でむりやりかき回されるような…

…トテモ…トテモ…ニブクテオモイイタミ…

「…なかなかうまくまとめているが、ここの推論が甘いな。」
クラウドのまとめたレポートを見ながらセフィロスが添削した。
それをぼんやりと、他人事のように聞いているクラウド…
…オレちゃんとさっき普通に言えただろうか?…電話あったよって…
流れる銀の髪、冷たく光る翡翠の瞳…でもその底に優しく真摯な色が隠れているのを自分だけが知っている
…そう思っていた…今までは…

「…クラウド…クラウド!」
「え、あ、ごめん…何?」
セフィロスは、クラウドの金色の髪をかきあげた。
不安に震え、どことなく精気がない蒼天の瞳…
「本当にどうしたんだ?変だぞおまえ…」
イヤじゃない…触れられるのはイヤじゃない…
そのまま身体を預けてみた。
子猫のように自分に身をすり寄せるクラウドに、 セフィロスは少しびっくりしながら優しく髪をすく。
「…何があった?」
耳もとで優しく問われ、身体が震えそうになる。
「別に…ただ寂しくなっただけ…母さんいつまで入院してるのかな?」
「寂しいか?」
「うん寂しい…」
セフィロスは膝の上に抱き上げると、包み込むように抱き締めた、そのあと唇に触れるようなキス一つ。
クラウドは目を閉じて、されるがままになっている。

…本当は母さんには悪いけどちっとも寂しくない。
抱き締められて、キスされて…自分を優しく包む腕の中、オレは安心して甘えていられる。
…でもそれはオレのものじゃなかったんだ…

「セフィロスどうしてオレにレポートまとめさせたり、口述筆記させたりするんだ?自分でした方が断然早いじゃないか?」
気分を変えるために無理やり話題を変えてみる。
「いやだったか?」
「いやじゃないけど…おもしろかったけど…。」
優しく背中を撫でられて泣きそうになるのをぐっと堪えた。

「おまえならできると思ったから。」
甘く響くセフィロスの声…
「オレなら…?」
「おまえは頭がいい、だからオレならもっとお前を、のばしてやる自信があった。」
「オレ…特別なの?」
真摯な青い瞳がセフィロスを凝視する。
…愛しい…この上なく愛しい存在…だが…
「ああ、おまえは特別だクラウド…」
こんどは頬に落とされる優しいキス。
…セフィロス…オレあんたの特別の生徒なんだね…それだけで…十分だよ…

…やっぱりまだ14いや、15才なったばかりだからな…
腕の中で安心したように眠るクラウドを見てそう思う。

…母親が恋しくなったか…
自分にはその感情は解らない…
かってはあったのかもしれないが、今はもう解らない。
母親だけではない、
全てのものにおいて執着や感情を持つ事はなかった。

『君は特別だから』
その言葉は自分を縛る鎖…
幼い頃から天才と呼ばれ、
あらゆる分野にその才能を示すだけではなく、 身体能力にも恵まれ、気まぐれに行った各種のスポーツでも周囲を驚かせ、未だにスカウトされる。

『君は特別だセフィロス』
そういわれる度に苦痛を感じるようになったのはいつからだろう?

『特別なんだよセフィロス』
それが人間として持つべき感情を欠落させてると聞こえるようになったのは…

『パパこのお兄ちゃん変よ、顔は笑ってるけど、何も感じてないよ』
今でも耳に残る少女の声…
その時ぼんやり思った…
ああやっぱりオレは人間として欠けているのか…と

そうだな人間としてなにかが欠けていなければ、
実の母親が白血病と聞いて、心配するでなく、
これでこの退屈な研究室から離れる口実ができた… とは思わないだろう。
ましてや、その母親から側にいて欲しいとすがられ、
『今さら何の冗談ですか?お母さん』
と冷たく答えて振り切ったりはしないだろう。

それなのにどうしてこの少年には心動かされるのか?
…この腕の中どうにでもなる無力な少年を
どうしていまだに抱いてしまわないのか…
ただ、抱き締めてその温かさを感じるだけでどうして満足してられるのか…
クラウドが怒る度、すねる度、笑う度…
心の中に暖かい火が灯る。
何かがじんわりと融かされていく…
肉欲を感じないわけではない、無性に欲しくなるときがある。
しかし、それを今一歩でちゅうちょさせているのは…

この子を傷つけたくない…
恨まれたくない…
二度と会えないような事にはしたくない…
今まで相手に感情があるなんて事は少しも思いやれず、

好き勝手に口説き、付き合い、あきれば捨てた。
縋り付くもの、泣きわめくもの、憎悪のまなざしを投げ付けるもの…
クラウドが自分にそんな感情をむける…
考えただけで世界が凍り付く。

…それくらいならぎゅっと抱き締めて、その温かみを感じるだけで満足だ…
この温もりを手放したくない…が、しかし…

…やはり、母親の方が必要なのだろうな…なあ?クラウド
セフィロスは自嘲ぎみに微笑むと、クラウドのまぶたにキスを一つ落とした。