セフィロス先生vv 6

「クラウド、おまえの弁当最近豪勢だな。」

言われて、クラウドはぐっと詰まる。
お昼休みの教室、前の席のクラスメイトがうらやまし気に覗き込んでいた。
「ははは…最近母さんが妙に凝っちゃって、一つ食う?」
「やりぃ!!…うまーい!お前の母ちゃん料理うまいな、それにオシャレ!!うちの母ちゃんこんなの作れないぞ。」
…オレの母さんだって作れないよ…

クラウドは広げた自分の弁当をじっと見る。
今日は若干イタリアン、パ二−二にハムとルッコラ、モッツラレラチーズを挟んだサンドイッチと、スモークドサーモンのムースをたっぷりぬったサンドイッチ、バジル風味のトマトカップサラダに、バルサミコで味付けしたサイコロステーキ、デザートのオレンジは飾り切りが施されている。
もちろんこれはセフィロスが持たせた弁当だ。
今頃職員室で同じものを食べてる事だろう。
最初持たせられたとき、かなり抵抗したら耳元で低い声で囁かれた。

…襲うぞ
素直に有り難く頂いてきたのは言うまでもない。

…たく、同居してるのがバレたらどーすんだ、でもあいつ料理うまいよな、レパートリーも広いし…
昨日はアジアンティスト、鶏肉のサテにナシゴレンとミ−ゴレン…その前はフレンチ…
弁当だけでなく、夕食も朝食も、休みの日なんて朝からパンケーキを焼いてくれる。
おかげでクラウドの食生活は非常に充実していた。
…なんでこうオレにかまうのかな…

「…好きだからだよ、いいなぁ…」
「え!そんなわけないじゃないか!!」
きょとんとして、級友はクラウドの顔を見る。
「え?クラウド数学好きだろ?だから成績いいんじゃないか?嫌いなのか?」
我に返ったクラウドはあわてて言った。
「嫌いってわけじゃないけど、特別好きなわけでもないよ。」
「それで成績いいからいいな。おまけに英語苦手だって言っていたくせに、最近英語の成績いいよなぁ、先生にもほめられてたし。」

…それは毎日、英語の口述筆記させられてるからだよ!!

ホントの事が言えずにははは…と笑ってごまかす。
セフィロスの発音は、奇麗なキングスイングリッシュだ。
あたふたとパソコンのキーを叩くクラウドに、、セフィロスは簡単な英語講座を始める。
数学といっしょで非常に解りやすい。
「文法はあとまわし、まずは耳から慣れる事。」
英語で言った論文を一章節ごとに日本語で訳してくれる。
交互に繰り返される英語と日本語、気が付けばおぼろげに意味が解るようになり、
しっかり聞き取れるようになり、簡単な会話ができるようになり、今では日常生活会話は不自由しない。
そうなって改めて気付いた。

「あんた数学の先生だよな。」
「そうだが?」
「これなんの論文?」
「『戦略的マーケティングとCRM経営戦略』」
「それひょっとして経営学?」
「ああ、ある企業に頼まれた企画だ。」
企業に頼まれた企画って…ふつうそんなもの頼まれるか!?
「あんた何もの?」
うさん臭気にたずねるクラウドに、にやっと笑ってセフィロスは答えた。
「おまえの担任の数学教師。」
そんな教師がいるもんか!
「ただし趣味でやってるだけだが。」
「趣味?なんで…」

セフィロスは笑いながら、クラウドの唇にちゅっと音がするキスを落とす。
クラウドは逃げない…もうこのくらいは慣れっこになっていた。
「お前がいるから…じゃ答えにならないか?」
真っ赤になったクラウドにもう一つキスを落とす。
「お前がいなかったらとうに飽きてやめていたな。」

…それはどういう意味なんだ…
時々胸がツンと痛くなる…からかわれてると思うのに、胸がツンと痛くなる…
…オレ、へんだ…

毎晩セフィロスの隣で眠る。
最初抵抗してソファーで寝ていたが、寝てる間にベッドに移されるので諦めた。
夜中にフト目を覚ますと、セフィロスの腕の中に包まれている。
それはちっともイヤな事じゃない。
暖かく安心させてくれる腕の中…それはとても心地いい。
何かあってもこの腕が必ず助けてくれる、守ってくれる…そう思いたいのは何故だろう…
セフィロスは、急に黙り込んだクラウドを、不思議そうにそっと後ろから抱き締めた。

…うーんむずかしいな…
クラウドはセフィロスから渡されたデーターとにらめっこしていた。
今日から夏休み、去年は年令偽って、市場でバイトしてたっけ、その後は炎天下でビルの窓ふき…
それが今クーラーの効いた涼しい部屋でパソコンとにらめっこしてる。
…なんか変なの。
セフィロスはいない、おそらく数学の何かと思うが何種類かのデーターをわたし、仮説をわたし、返ってくるまでに結論づけてまとめろと言われた。
もちろん全て英語だ。
あせるクラウドに、セフィロスは笑顔で答えた。
…大丈夫だおまえなら十分にできる。

最初はびびったが、ゆっくり一つづつ読んでいくと意味は解った。
意図する事も汲み取れた。
あとは解りやすくまとめるだけだ。
全て英語で書かなくてはならないが、それはそんなに苦痛ではない。
…英語の先生が英検の一級受けろって言ったっけ…
ぼんやりとクラウドはとりとめもなく思う。

結論は出ているのにさっきから進まない。
まとめ方も、数式も、グラフも決めた…でも進まない。
…いつ帰ってくるんだよ、バーカ…

隣でいつも時には意地悪く、時には厳しく、そして信じられないくらい優しくちょっかい出す相手がいない…
…寂しい…寂しがっているのか?オレ…
戯れに自分に触れるセフィロス。
その様は、からかってるようにしか思えなくって…
それなのに、だんだん触れられるのがイヤじゃなくなってきて…

…寂しい…触れられないと寂しい…声が聞こえないと寂しい…いないと…寂しい…

クラウドはぷるぷると頭を振った。
大きく深呼吸する。
「あーあーひと呼吸いーれよ!」
独り言を言って冷蔵庫へ向かうと、セフィロスお手製のチーズケーキを無造作に取り出した。
…つくづく器用なやつだよな、おまけにウマイし
大きく一切れ切り取って、ぱくっと一口食べた所で電話が鳴った。
もちろん出るわけにはいかない、留守電に切り替わるまでそのまま待つ…


…その電話の相手が用件を言って切るまで…時間が止まった…と思った。
自分が青ざめてくるのが解る…身体が小刻みに震える…

「…ハロー!セフィロス私よ!やっとパパのお許しが出たから日本に来るわね!すっごく会いたいから覚悟してなさいよ。」

電話の声は英語で…若い女性の声だった…