セフィロス先生vv 25



なかなか泣き止まないクラウドを落ち着かせるために、セフィロスは部屋をとった。
ルームサービスで頼んだホットミルクを飲んで、ようやく落ち着いたようだが、
まだ眼が赤いクラウドの髪を漉きながら、セフィロスは優しく…少し心配げに問う。

「何があった?」
クラウドはカップを置くと、セフィロスの胸に抱きついた。
「セフィロス…ありがとう…」
「クラウド…」
「今日、母さんのお墓の前であの人に会ったよ…」
「あの人?」
「父さんの事故の相手…」
「ああ、そうか…」

クラウドの涙と言葉の意味がようやく解って、セフィロスはほっとしたように息をついた。

何か言っていたか?」
「うん、セフィロスに全部聞いたって…」
自分の髪を漉くセフィロスの指に、うっとりしながらクラウドは呟く。



『この前あなたの担任の先生が見えて、あなたのお母様がなくなった事を聞きました。』
『セフィロスが?』
『ええ、そしてあなたがまだお金を返すつもりでいる事も…』
その人はいきなりクラウドの手をぎゅっと握りしめた。
『ごめんなさい、ごめんなさい…』
『おばさん…』
きがつけばその人の眼には涙が滲んでいる、クラウドはわけがわからず呆然としていた。

『私が悪いの…いつまでも意地を張っていたから…ちょっと考えれば解る事だったのに…』
クラウドの手を握るその人の手は小さい、こんなに頼りな気な人だったろうか?もっと恐い人だと思っていた。

『夫を亡くしたあなたのお母さんが、誰にも頼らずあなたを育てながらあの金額を返すのにどれだけ苦労するか…』
クラウドはどう答えていいか解らない、そうだとも、そうでないとも…

『でもあのとき私は周りが見えていなかった…あなたたちが私の見舞いに来たときに、あなたのお母さんを責める私をあなたは庇ったでしょう?』

そう、あの時、自分の母を一方的に責めるこの人が、恐くて恐くてしょうがなかったのだ、でも母のために向かっていった。

『私の息子もね…ちょうど今のあなたと同じ歳だったのだけれども、私が姑に何か言われるとすぐに庇ってくれた…あなたと同じ様に「母さんを虐めるな」って…』

クラウドはその人の背中をそっとなでた。
『だからよけいあのときあなたのお母さんが憎かったのかもしれない、私の息子は死んでしまっているのに、あなたには庇ってくれる子がいると…』

その人は涙で濡れた眼でクラウドを見上げる。
『ごめんなさいね…解っていたの…解っていたのだけれど…あなたのお母さんにはなんの罪もない事を…』

クラウドはようやく口を開いた。
『オレにも解ってます、あなたが歩ける様になるまで2年もかかったと言う事を、今もまだ右足がよく動かないのでしょう?』
それは母から聞いた事がある、その時のクラウドは、母を苦しめるその人の事なんてどうでもよかった。

『あなたの担任の先生がみえて…おっしゃったの「あの子は全てお金を返すつもりです、でもまだ15歳です。これから3年待ってやってくれませんか、あの子が高校を卒業するまで。それがだめなら自分がその間立て替えます」って』

…セフィロス…

クラウドは思わず眼を瞑る。
いつのまにそんな事言いに言ったんだ?あんたはいつもオレをびっくりさせる…

『それを聞いて初めて思った、ああ、私は憎しみに捕われて、何にも考えていなかったと…』
『いいえ、当然です。家族を全て失って、自分自身も後遺症に苦しんで…誰かを憎いと思うのは当然です。』

クラウドの言葉にその人は一瞬眼を見開いたが、すぐに首を振った。
『もういいの…もう…息子と同い年のあなたにこれ以上重たい枷はつけられない、私は今まで頂いた分だけで示談にします。』
『でも…』
『ほんとにいいの、私これでも仕事しているのよ,障害年金もらってるし、夫の生命保険もまだ手をつけていない、ちゃんと一人で暮らしていけます。』
『でもオレは…』
『いいから…私のお願いを聞いてちょうだい、じゃないと私息子にしかられてしまう。ただ年に何回か連絡をちょうだいね、トシをとったせいか最近人と話す事が嬉しいの。』
そうしてその人は、母のお墓に線香を上げて最後に一言こう言った。

『良い先生ね、最初いきなり「御願します」と頭を下げられた時はびっくりしたわ、そしてあなたの事を色々話して下さって…自分でできる事ならなんでもするからどうかあなたの進学の機会を奪わないでやってくれって…最初っから支払いの打ち切りを持ち出されたら私はきっと応じなかったでしょう…でも…お話を聞いていくうちに自分の狭量さがイヤになったの。』

…知らなかったか?オレはおまえのためならなんでもできる…
母の葬式の後にセフィロスが言った言葉が、クラウドの胸の中に熱く蘇った。

…セフィロス…セフィロス…
いつのまにかさり気なくオレを助けてくれるセフィロス…

クラウドは髪を漉いてくれるセフィロスの手をそっと握る。
「セフィロス…大好きだ…」
「オレもだクラウド。」
二人はそのまま口づけを交わした。



そのままベッドになだれ込みたいセフィロスだったが、レストランの予約を優先した。
最初の一杯だけクラウドにもシャンパンをつぐ。

「おめでとうクラウド。」
「ありがとうセフィロス、あんたのおかげだ。」
「いや、オレはなにもしていない、成績を書類にして送っただけだ。」
セフィロスは事もなげに言う、そんなセフィロスが眩しかった。
心の中で言葉を飲み込む。

…もうすぐお別れだね…

セフィロスの側から離れたら、自分はどうなるのだろうか?
自分でも解らない…でもそんな事セフィロスには言えない、困らせたくない…

「どうした?」
「ううん、なんでもないよ。」
少し考え込むクラウドをセフィロスは愛し気に見つめる、そしてゆっくり切り出した。
「実は今日はもう一つお祝いがあるんだ。」
「もう一つ?」