セフィロス先生vv 23
文化祭が終われば、あとは受験シーズンまっさかり、
クラスの雰囲気も変わってくる。

「クラウドおまえマジにあそこの推薦受けるのか?」
休み時間にクラスメイトが聞いてきた。
「うん、セフィロスが十分いけるっていうし、学費も寮費もただで、小使いは奨学金で十分以上に出るし。」
「おまえ、すっごく気安く言うけど、あそこ偏差値一般受験で70以上だぞ。」
「らしいね。」
「らしいねって、おまえ…」
「オレセフィロス信頼してるから、セフィロスが大丈夫って言ったから大丈夫だよ。」
にっこり笑ったクラウドの笑顔にクラスメイトは思わず見惚れてしまう。

「…おまえ変わったな。」
「何が?」
「なんかこう、無理に突っ張らなくなったってのか、肩怒らさなくなったってのか…でも今のほうがずっといいと思うぞ。」
「そう?」
「ああ、やっぱセフィロスのおかげか?なんだかんだであいつは面倒見いいからな。」
「うん、そうかもしれないね。」

クラウドの顔にうかんだ曖昧な微笑の意味を、クラスメイトは理解できないだろう。
セフィロスは担任としては非常に優秀だ。
たとえば自分の担当教科の数学の宿題にしても、全員おなじものは出さない。
基礎が解っていないものには基礎を徹底してやらせ、試験に間違いが多い所にベースを置いた宿題を個別に出す。
さらに全教科の試験の成績をみながら、他の教科も同じ傾向で独自のプリントを作成し、朝のホームルームの15分は、各自でバラバラの教科の課題を行う。
それもとても解りやすく噛み砕いてあって、解きやすい。

当初はその指導の仕方に、父兄や他の教師から差別を生むとか、越権行為とか非難されていたが、クラスの成績がみるみる良くなると、だれも何も言わなくなった。
そして、どうしても勉強が苦手なものには、その生徒が得意なものを否定せずに延ばしてやる。
最初のころ、セフィロスの指導方針に納得のいかない父兄の集団が、文句を言いにきた。

「こんなバラバラの事をされていてはたまらない、できる子に難しい問題をドンドンさせていれば、できない子はおいていかれるだけじゃないか!」

そんな連中に、セフィロスは冷たい一瞥をくれてやった。
「あたりまえだ、Sサイズの子供にも、Lサイズの子供にも面倒くさいからといって、同じMサイズの服を着せる趣味はオレにはない。」

更に何か言おうとしたものは、絶対零度の視線に耐えられず,捨て台詞を残して帰ってしまったという。

どこからともなくそんな話が伝わって、さらにどんな相談事にもきちんと乗ってくれるので、今やこのクラスは、親よりもセフィロスを信頼している。

…オレもそんなふうに、先生として信頼できるだけで、よかったのかもしれない…

…だけど…

クラウドは思う。
…だけどそうしたら、オレはこんなに幸せな気持ちになる事もなかった
…こんなに満たされる事もなかった…

昔の自分は、指摘されるまでもなく、肩を怒らせていた。
周りの誰もたよらない、ただ自分だけで生きていく!

そんな頑な自分に手を延ばしてくれたセフィロス…
人に頼る心地よさ、自分を守ってくれる場所がある安心感、そして唯一無二の存在を肌で感じる甘さと…底に潜む苦さ…
全部セフィロスのくれたもの…

だからこの推薦に合格して、セフィロスがいなくても自活の道をつくり、安心して渡米させてやりたいと思うのだ。
…自分の心が流す血の痛みに、人知れず呻いても…

「…どうした?クラウド」
取り留めのない事を、つらつら思って、ぼんやりしていたのだろう。
目の前のセフィロスに、身体を預けていたのを思い出す。

「ううん、ただこうしてると、すっごく落ち着ける…安心するんだ。」
セフィロスはクラウドの髪を優しくなでる。
「明日が面接だからな、緊張してるのか?」
「うん、やっぱさ、落ちたらせっかく内申書いてくれたあんたに悪いしさ。」
「落ちるわけないさ。」
「どうして?」
セフィロスは、クラウドの顎を右手で持ち上げにっこり笑う。
「お前の内申書には学校の成績や、全国模試の成績以外にTOEFLやSATの成績も入れておいたから。」
「なんだよ、そのTOEFLやSATって。」

「時々受けさせに行ったろ、TOEFLはTest of English as a Foreign Language、留学時の英語力の目安となるものだ。おまえはいつも640点満点だったな。」
「だって、毎日セフィロスの仕事手伝ってりゃ、イヤでも覚えるよ。」
「そしてSATは全米大学入学共通試験、おまえはこれでも800点満点で平均790はいく。」
「オレそんなもんいつやったっけ?」
「何回かさせたろ?全問英語の試験問題。」
「えー?あれそんなんだったの?あんた力試しのテストって言ってなかった?」
「だから力試しだろうが、あの成績を見て断る学校はないさ。」
セフィロスは、クラウドの唇にじぶんのそれを重ねる。
ゆっくりと味わって、おなごりおしそうに唇を離した。
クラウドを包み込む様な、温かいまなざし…

「今日はこのくらいにしておこう、面接の日に、キスマークつきでやるわけにはいかないしな。」
クラウドはじっとセフィロスを見つめる。
たまらなくなる…自分を見下ろす優しい翡翠の瞳を見ていると…
「でもセフィ…お守りに一つ、くれよ。」
だから思わずそう言ってしまった、その後自分の言葉に真っ赤になる。
セフィロスは苦笑した。

「おまえ本当に、オレを誘うのがうまくなったな。」
「誘ったんじゃないよ!」
慌てて叫んでますます赤くなる顔を、心のそこから愛しいと思いながら、セフィロスは優しく尋ねた。

「どこにつけて欲しい?」
「…ここに…」
羞恥で震えながら、シャツの前を開いて、クラウドは指差す。
クラウドの指差したところに…二つの胸の紅点のちょうどまん中に、セフィロスはきつく印をつけた。