Je te veux…
    
ずっと一緒に…
2
湯船の中で後ろから抱きしめられて、クラウドは子猫の様に頭をすりよせた。
「セフィ…気持ちいい…」
セフィロスは満足げに笑うと、濡れて艶をました金色の髪を優しく撫で付ける。
「そうだな、今日の予定がなければずっとこうしていたいくらいだ。」
「あと、なにしたらいい?」
「買い物が残っているから、まずそれをすませないといけないな。」

今日はこの家に、初めて人を正式に招くのだ、それも来るのはセフィロスの知り合いばかり、ガスト博士一家や、仕事関係…要するにクラウドのお披露目なのだ。

「オレ、何を話したらいいんだろう、きっと頭のいい人たちばかりなんだろ?」
ちょっと緊張ぎみのクラウドに、セフィロスはからかう様に額にキスを落とした。

「大丈夫だ、こんな席で堅苦しい話をしたい奴はいないし、おまえが9月から通う講座の連中の来るから、顔を覚えるいい機会だと思えばいい。」
「でも…」
「ただのホームパーティだ、あんまり固くなるな、オレが側にいるだろう?」
「うん。」

そうは言われても、やはり色々と考える、第一セフィロスは自分をなんと紹介するつもりなのか…
自由を歌うこの国でも、同性愛者に対する偏見は根強い、だからそれを大っぴらにする事はかなりの物を犠牲にする事だと、2か月の滞在でクラウドは学んだ。
自分はなくす物は今さら何もない、しかし、この国に来て、いかにセフィロスが雲の上の存在であったかを、この短い期間で思い知らされていた。

セフィロスはほとんどメールでしかビジネス相手とは接しないが、一度リストを見せてもらった事がある。
その相手は政府の高官、大会社のトップ、学会のトップなどのそうそうたるメンバーばかりだった。
そしてどこから知ったのか、この家にまで押し掛けてくる連中も、セフィロスは煩わしげに応対しているが、あとで聞くとクラウドですら名前を知っている巨大コンチェルンのトップばかりだったりした。
そしてセフィロスがその人たちから「ミスター」ではなく「プロフェッサー」と呼ばれている事もクラウドの驚きを誘った。

『ハーバードがな、いらんと言うのに客員教授のリストから外してくれんのだ。』
笑いながら言うセフィロスが一瞬とてつもなく遠い存在に感じたのだ。

だから…セフィロスがカミングアウトするという事は、ものすごいリスクを背負う事になるわけで…
「オレ、もうあがるよ。」
「そうだな、そろそろあがるか。」
クラウドはバスタブからあがると、バスタオルで身体を拭きながら鏡を覗き込んだ。
白い肌のそこここに、花びらの様にセフィロスの唇の跡が残っている、それが全て衣服の下に隠れる場所なのを確認するとクラウドはほっとして、バスローブに袖を通した。
「どうした?自分の裸に見とれていたか?」
後ろから、ぬっと顔を出すセフィロスの腹を思わず小突く。
「んなわけないだろう!貧弱な身体だなって思っただけだよ。」
「そうか?出会ったころに比べると肉付きがよくなったぞ。」
「ほんと?」
「ああ、抱きごごちが格段によくなった。」
からかう様に笑うそう言われ、クラウドは全身真っ赤に染まる。
「あんたはすぐにそう…このスケベ!」
「おまえ限だ。」
ちゅっと頬にキスをして、セフィロスは自分もバスローブに袖を通す。

…ったく…いつもこうなんだから…
それでもクラウドは内心嬉しくてしょうがない、セフィロスが欲情するのは自分にだけと、明言してくれているわけだから。

洗面台の上にクリスタルのトレイがおいてある、それは二人が入浴する時にリングをおく場所だ。
サイズの違う二つの金のリング、内側にはブルーダイヤがセットされ、二人のイニシャルとフランス語の刻印がある『Ju te veux』…おまえが欲しい…と…
風呂上がりにこのマリッジリングを嵌める事も、もう習慣になってしまっている。

クラウドがいつもの様に自分のリングを手に取ろうとすると、セフィロスが後ろからそれを取った。
「セフィロス、それオレのだよ。」
「ああ、解ってる、ちょっと貸しといてくれ。」
自分のリングも手に取り、セフィロスがリングケースにしまう。

…そうだよね、今日はあのリングをしてお客さまの前になんてでれないよね…
クラウドはセフィロスに聞こえない様に、小さなため息を一つついた。




「買い物って言ってたけどセフィロス、どんどん郊外に出てない?」
「ああ、郊外にあるんだ。」
車を運転しながらセフィロスは答える。
景色を目で追いながら、クラウドは沈んだ気持ちを少しでも引き上げようと、わざと明るくふるまっていた。

左手の薬指がすーすーする。
あの日セフィロスにもらって以来、ずっと身に付けていたリング、それが今この指にないだけで、こんなに心細い気持ちになるなんて…
セフィロスはそうは思わないんだろうか?
ちらっと隣を見るが、その横顔はいつもとかわらない、いや少し浮かれている気がするのは気のせいか?

「オレ、ここいつか通った気がするよ。」
「そうか?」
何故だか既視感を感じる、まだそんなにあちこち行っていないのに…
そういえば、渡米してすぐに行った所は、エアリスの結婚式だった。

一面の花畑の中にある教会、そんなに大きい教会ではないが、少し古めかしい作りの、あちらこちらが丁寧に磨かれた教会だった。

「この教会はね、牧師様と奥様がお花が大好きなんで、どの季節に来てもお花が絶えないんだよ。」
色とりどりの花々の中で、一際鮮やかに笑うエアリス。
白いウエディングドレスに身を包み、幸せそうに傍らに立つ青年を見上げる。
「結婚式は絶対この教会であげるんだって、もう耳にタコ!オレ、休みの度にボランティアの花の世話につきあったんだぜ。」
明るく笑う黒髪の青年は、ザックスという、初めて紹介された時から、ざっくばらんにクラウドに話しかけ、人見知りするクラウドにしては珍しく、すぐになじんでしまった。

「そのくらいつき合えばいいじゃないか、憧れのお姫さまを射止めたんだからな。」
セフィロスがからかう様に言う。
「まぁな、そのくらいお安い御用だ、なんせやっと博士のお許しがでたんだし。」
「大事な妹だ、不幸にしたら許さんぞ。」
「あたりまえだっての、にーさんに言われなくてもそうするって、一生オレが幸せにしてやるよ。」
快活に笑うと青年はエアリスの頬に軽くキスをした、エアリスもくすっと笑うとキスを仕返す。

「うっふっふ、やっぱりジューンブライドっていいね、月並みだけど憧れだったんだ、お花一杯の結婚式、キャホー♪」
「エアリス、あんまりはしゃぐと、化粧が落ちるぞ、ほら、牧師様が式を始めると呼んでいるぞ。」
「いっけなーい!、じゃ、又あとでね。」
手をふりふり牧師の元に向かうエアリスを、クラウドは少し寂しげな笑顔で見つめる。

「どうかしたのか?」
それに気が付いて、セフィロスが尋ねると、クラウドはううん、と首を振る。
「ん?こんな教会で結婚式をあげるなんて、ほんと女の子の夢なんだろうな、って思っただけ。」
セフィロスはこつんと額を小突いた。

「おまえも挙げたいのか?こんな教会で。」
「オレ女の子じゃないよ、そんなんじゃないけど。」
「そうか惜しかったな、お前のドレス姿はエアリスよりも似合うと思ったのに。」
「セフィロス!」
「きっとそのまま寝室にお持ち帰りしたいくらいだろうな、今晩どうだ?」
「セフィロス!!」
そのあと真っ赤になってセフィロスを追いかけ回したわけだが、クラウドは内心エアリスが羨ましかった。

教会で式を挙げる事ではない、きちんと式を挙げて周り中に結婚したと認めてもらう事が、とても羨ましかったのだ。

セフィロスは自分にはもったいない位素敵で…現に今この瞬間でもセフィロスに声をかけたくてしょうがない視線を、あちこちに感じる。
奇麗な大人の着飾った女の人たち、だれもがセフィロスと子供の様にじゃれる自分を嫉妬と羨望の混じった視線で見ているのだ。

その人たちに言ってやりたい、セフィロスはオレの物だ!そんな目で見たって無駄だよ!と
だけど言えるわけがなく、いつかその視線の一つにセフィロスが引かれていく日がこないという保証もない。
お揃いのマリッジリングはしてるけど、決して公にはできない二人の関係。
それに比べて、もう二人はこの世で離れがたい一対だと公言できるエアリス。
皆に祝福を受けて、幸せそうで…

あんな笑顔を自分もしたい、皆の前で幸せそうに笑って、隣のセフィロスにキスをして…セフィロスが自分だけの物だと公言したい。
誓いの言葉をのべる二人を見ながら、クラウドはどうしようもないほど切なくなったのだ。



「クラウド、クラウド。」
「え?何??」
かなりの時間ぼんやりしていたのだろう、いつの間にか車が止まっていた。
「着いたぞ、あまり時間がないから急ぐからな。」
「えーっとセフィロス…ここに何を買いに来たの?」

クラウドが目を丸くして尋ねると、セフィロスはにやっと笑った。
「解らないのか?」

夏の日差しがセフィロスの銀髪を一際鮮やかに輝かせていた。




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