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A Stellar Sonata 1
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思い出はいつも優しかった 思い出はいつも温かかった 冴え冴えとした銀の色と、吸い込まれそうな翠の色 しなやかな長身、よく通る声 思い出すのは笑顔、穏やかな笑顔 甘く、優しく、オレを呼ぶ声 そこにはいつも、あなたがいた 春も夏も秋も冬も…春も夏も秋も冬も… そこにはいつも、あなたがいた あなたが世界の全てだった 世界のすべてがあなただった もう一度呼んでよ、オレの名前を もう一度呼んでよ、オレの名前を 甘く、優しく…もう一度呼んでよ…ねえ… 抱きしめて… あのメテオの災害から5年が過ぎ去った、街が復興して行くと同時に、人々の記憶から、次第にあの日の事が忘れ去られようとしている。 多くの人は、あの日本当は何が起こったのか知らされていない。 知らされているのは、異常接近し過ぎた巨大隕石が、星の引力に引き込まれて地表に衝突しそうになり、大災害になったと言う事。 隕石が接近するにしたがい磁場の乱れが発生し、地中や海底深くに眠っていた巨大モンスター『ウエポン』が地表に現れ、世界を荒した事。 巨大隕石はそれ自体の引力で、星自体のもつエネルギー『ライフストリーム』を集める事になり、その結果、偶然にも『ライフストリーム』のクッション効果で、地表に衝突寸前で回避できた事。 しかし、隕石接近による重力で、その最接近位置である『ミッドガル』を中心に、甚大な被害がでたと言う事。 『蘇ったかつての英雄』も『空から来た厄災ジェノバ』も『古代種』も一般の人に知らされる事はなかった。 人間の慢心から起こった『ジェノバ』の悲劇を再び繰り返したくないと言う、皆の思いが、自然に真実を伏せさせたのである。 人々は災害を嘆きつつも、より多くの被害が出なかった事に安堵し、日々の生活を送り、街を復興させる。 そして、次第に過去のものになって行こうとしている。 一部の者をのぞいては… 『クラウド…』 懐かしい声で呼ばれた気がして、振り向いてみた。 もちろん、そこには自分を呼ぶ者などおらず、解っていながらそうする自分に、自嘲ぎみに軽くため息をつく。 まだ慣れていない、まだ慣れそうもない、あれから5年の月日がたったと言うのに。 そう、5年…もう5年もたってしまった。 あの日、あの場所で、あの人をこの手にかけた時からもう5年もたってしまった。 その時の手応えも、顔に浴びた返り血も、最期に見せた驚愕のような不思議な微笑も、全て昨日の事の様に覚えている。 あのまま、あそこに留まりたかった… 北の大空洞の最深部『星の胎内』… もの言わぬあの人の身体と一緒に、夢とも、うつつともつかぬあの場所で、二人きりで留まっていたかった。 全てが終わり呆然とする自分に差し伸べられた手…あれは誰の手だったのか。 どうしてあの時、あの手を取ってしまったのか… 「よう、どうしたクラウド、ぼんやりして。」 肩を叩かれてクラウドは、はっとする、これは現実の声、そうここはロケット村だ。 「やあ、シド久しぶり、ちょっと疲れたのかな。」 「あんまり無理して仕事するなよ、ティファが泣くぞ。」 クラウドは今、「何でも屋」をしている、と言っても主な仕事は、人や物の移動の際の護衛だ、自分で運べる品物なら荷物も運ぶ。 「大丈夫だよ、身体だけでは丈夫だからね、それに稼げる時にかせがなくっちゃ。」 「そういや、例の大きな仕事引き受けたんだって?…その…おめぇ…もういいのか?」 言いにくそうにいうシドに、クラウドは笑って答える。 「シド、あれからもう5年もたってるんだよ、オレいい加減吹っ切れているよ、それに村が生まれ変わるのなら協力したい…あのままだと哀しいしね。」 シドの言う大きな仕事とは、ニブルヘイムの再開発事業の事だ。 あれから神羅はかなり事業を縮小した。 不必要な部門は切り捨て、巨大になりすぎて身動きができなくなりつつあった会社をスリム化させた。 主な功労者はリーブだ、それと重傷をおいながらも助かったルーファウス。 その結果、ニブルヘイムに村人として雇われていた人たちは解雇され、住む人のいなくなった村はすっかりゴーストタウンと化してしまった。 今度その村を、リゾート村として再開発する計画が持ち上がったのだ。 名乗りを上げたのは、最近急激に台頭してきたベンチャー企業「SAPHIR」 しかし、すっかりゴーストタウンと化したニブルヘイムはモンスターが跋扈し、再開発にはかなりの危険が伴う。 再開発に協力する「神羅」は、事業が終了するまでの護衛の責任者として、クラウドを推薦した。 ニブル山の地形を知る上での輸送のルート、モンスターに対峙した時の戦闘などに、確かにこれ以上の人材はいなかったのだが… 「リーブも気を使ってくれたけど、大丈夫だよ、第一報酬が破格にいいしね、それに今の内に資金貯めとかないと、オレかっこつかないから。」 にっこり笑うクラウドに、シドも笑ってヘッドロックをかける。 「そういや、やっとティファと婚約したんだって?この甲斐性なしが!待たせやがって!!式はいつだ?」 「ちょっと痛いよシド!今度のニブルの仕事が終わってからだよ、大した式は挙げられないけど、招待するから是非来てくれ。」 「ああ、行かせてもらうぜ、こんちくしょう!ようやく本当にふっきれたみたいだな。」 「そのまえに仕事だよ、ロケット村の技術者にも協力してもらわないといけないから、よろしく。」 「ああ、オレにできる事なら何でも言ってくれ。」 バイクを走らせながらクラウドは思う。 そう、もう5年もたったんだ、ニブルヘイムも生まれ変わる、自分もいい加減過去とは決別しなければ。 シドは知っている、クラウドとかつて英雄と呼ばれたセフィロスの関係を。 セフィロスを倒したあと、クラウドは見る見る憔悴した、食欲は落ち、眠れなくなり… 心配した仲間達が何を聞いても理由を答えず、日がな一日、食事もせずにぼんやりと過ごす。 怒ったシドが無理矢理、構えたばかりの自分の新居に引っ張って行き、三食きちんと摂らせる生活をおくらせたのだ。 結婚したばかりのシドとシェラ、なにげない日常のそれでいて甘い新婚家庭の会話、さりげない思いやり、たわいもない喧嘩… いつの間にかクラウドの目に涙が溢れていた。 止まらなかった、あとからあとから溢れて来る涙を、止める事ができなかった。 驚く二人の顔に気付いても、どうしても止める事ができなかった。 ひとしきり泣いて、話ができる様になったクラウドは、話しだした。 神羅にいた頃、セフィロスとずっと一緒に暮らしていた事を、セフィロスを愛していた事を。 それがシドに話せたのは、他の仲間達と違い、シドがセフィロスに直接的な恨みを持っていなかったからかもしれないが。 二人は淡々とその事実を受け止めてくれた、それからクラウドは二人にセフィロスとの思い出を一つ一つ語る事で、ようやく自分を再構築する事ができたのだ。 ミッドガルにたどりついたのは夜だった、以前の様にとはいかないまでも、この街はすっかり元の賑わいを取り戻しつつある。 馴染みの駐車場のオヤジにバイクをまかせ、クラウドは足早に歩き出した。 歩く事数歩、頬に冷たさを感じ、ふと見上げれば空からちらほらと、白い物が舞い降りる。 初雪か、今年はいつもより早いな… 『セフィロス初雪だよ、奇麗だね、まるでセフィロスの髪みたいだ。』 『クラウド、はしゃぐのもいいが、風邪を引くぞ。』 そう言って後ろから抱きしめられた温もりは、いつの記憶だったか… クラウドは思いをふっ切るように頭をふる、今日はティファの店でバレット達が二人の婚約を祝ってくれるのだ、少し戻るのが遅れてしまったから急がなくては。 行き交う街の人々は、どの顔も明るい、破壊から復興へ、ようやく軌道に乗りはじめた世界では自分の技量が物を言うのだ。 そして世界が復興に回りだしている今、みんなせわしそうに歩いている。 大通りに出たクラウドも人込みの間を縫う様にして、ティファの店『セブンスヘブン』に急ぐ、通りを渡ろうとした時、ふと、何げに振り向いた。 ちらほらと雪が舞っていた、その雪を楽しそうに時折見上げながら歩く、長身の若い男の姿。 その髪は短かった、その髪は茶色だった、眼鏡をかけた瞳の色はよく見えなかったが、暗い色だった、しかし…その顔は…その顔は… セフィロス! 時間が止まった、呆然として動く事もできないクラウドに気付く事もなく、男は人込みの中に消えて行く。 ハッとした時には、男の姿は人込みの中にまぎれてしまっていた。 見間違い?いや、そんなはずはない、オレがセフィロスを見間違うはずがない! クラウドは慌てて男の歩いて行ったあとを追う、そんなはずはない、そんなはずはないと言い聞かせながら。 「遅いわねクラウド、みんな待ってるのに。」 ティファが時計を見上げて心配げにため息をついた、パーティの用意はとうに出来上がっているのに、主役の一人が来ないのだ。 「雪が降って来たからな、どこか道が悪くて難儀してるんじゃねーか?」 バレットが、窓を見ながらティファを気づかうが、その口調はいらついている。 ロケット村のシドからさっき祝いを兼ねて電話があった、村を出た時間から考えると、とうにこちらに戻っている時間なのだが。 「あの野郎、こんな時まで待たせやがっって。」 膝の上であくびをしているマリンを見て、バレットはチキンを一つ持たせてやった。 しかし、もらったマリンは食べようとせず、じっとティファを見上げる。 「あ、ごめんねマリン先に食べてていいわよ、遅れたお兄ちゃんが悪いんだから。」 笑顔でそう言われ、マリンは安心してチキンにかぶりついた、先ほどからお腹がすいてたまらなかったのだ。 その様子を微笑みながら見ていたティファは、明るく笑った。 「あ、もう始めましょうよ、きっとそのうちクラウド来るから、来たらみんなでいじめちゃお。」 その笑顔で少しいらついていた周りの空気も和む、早速グラスを回して乾杯が始まった。 「おめでとうティファ、初めが肝心だからな、しっかり手綱ひいとけよ。」 「はいはい、帰ったらこっぴどく怒ってやるわ。」 「そうだ、そうだ、クラウドの奴、どこかフラフラしてやがるから、お前さんがしっかりしてねぇとな。」 「ほんと、ほんと、クラウドったらいつまでたってもどこか子供みたいなのよね。」 「まあ、今からこれだけ尻にしいとけば大丈夫だろう。」 「えー?ひどーい、尻になんて敷いてないってば。」 ひとしきり客の相手をしたあと、ティファはバレットの隣に座る。 「バレット今日はありがとう。」 「全くあいつはよ、5年もおまえさんを待たせておいて、こんな日まで待たせる事ねーじゃねーか、携帯は?」 「繋がらない、ずっと鳴らしているけどでないのよ、きっと何か遅くなる用事ができたんでしょう。」 「それならそれで連絡くらい、入れやがれ。」 「いいわ、5年も待ったんだもの…クラウドの心の傷が癒えるまで5年もかかったんだもの、あと少し待つくらい平気よ。」 少し遠い目をするティファに、バレットはさりげなく話題を変えた。 「リーブはもう少し遅くなるから、代わりにケット・シーをよこすとさ、あいかわらず器用で働き者だなあいつは、それとユフィが一週間後にミッドガルに来るとさ、ヴィンセントは相変わらず連絡がとれねえ。」 「懐かしいわね、一緒に旅してたのがまるで昨日の事みたい。」 ティファは感慨深げに目を閉じる。 「さっき私、『5年も』って言ったけど、考えてみたらまだ5年なのよね、あれから…」 そう、まだ5年しかたっていない、星の未来をかけた戦いから、まだ5年しか。 人の身でありながら、神になろうと愚かな野望を抱いた堕ちた英雄セフィロス。 セフィロスに対してはティファの心には憎しみの気持ちしかない。 狂気の中でニブルヘイムを焼き払い、目の前で、父を、友を住民の全てを虐殺した、そして大切な旅の仲間エアリスの命をも奪い…クラウドの心すら奪っていた… 最初聞いた時は嘘だと思った、あのセフィロスとクラウドが愛し合っていたなんて。 しかし、最期の戦いのあと見る見る憔悴していくクラウド、見兼ねてひきとったシドから聞いた衝撃な事実。 『おめぇにだけは話さないわけにはいくめぇな、クラウドは神羅にいた頃、セフィロスの恋人だったんだとよ。』 何かの冗談だ、信じない、自分がクラウドに確認する、とパニック状態のティファにシドはきっぱりと言った。 『やめろ、クラウドはきっとおまえさんにだけは知られたくねぇだろう、これ以上奴の傷を広げるな。』 リーブに頼み込んで、否定して欲しくてクラウドの神羅時代の事を教えてもらった、しかし… 『ああ、有名だったよ、『英雄のお相手がとびきり奇麗な金髪の少年兵』だってね、詳しくは知らないが、はた目にはとても幸せそうだった、あの二人は…だからクラウドが記憶を取り戻した後、セフィロスを殺す決意をしたのは、断腸の思いだったのだろう、狂気に駆られる前のセフィロスは、本当に『英雄』そのものだったから。』 憎い仇が愛する人のかつての恋人…その事実をごく自然に受け止められる様になるまで、ティファにも又、5年の歳月が必要だったのだ。 でも、もう私達はいいかげんその呪縛から逃れてもいい頃よね、クラウド早く帰って来て… ティファは窓越しに降る雪を見上げて、そっと心の中で呟いた。 ポケットの携帯が、何度も着信を知らせていた、しかしクラウドの耳にはその音は響いていない、求めるのはただ一つ、かの人の姿だけ。 セフィロス! セフィロス! どこにいるの?セフィロス!! 消えてしまわないでよ、勝手に消えてしまわないでよ! 気温はすっかり下がりきり、舞い落ちる雪はクラウドの髪に、肩に、白く降り積もって行く。 それを振払う事もせず、クラウドは行き交う人々の間を縫いながら、狂った様にセフィロスの姿を探す。 今日が何の日だったのかも、誰を待たせているかも、もうクラウドの中には何もなかった。 セフィロス! セフィロス! どうして答えてくれないのか、どうして姿を見せてくれないのか。 あれは幻だったのか? いや、そんなはずはない、オレは確かにセフィロスを見たんだ。 夜がふけ、すっかり人が少なくなった通りを、幽鬼のように彷徨うクラウド。 舞い落ちる雪がその姿を隠す様に、次第に激しさを増して行った。 top next |
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