「どうしておまえは保護者を連れてこないんだ?何のための三者面談か解らないだろうが!!」
長い銀色の髪をうっとうし気にかきあげて、セフィロスは目の前の少年を見た。
「オレの母さん働いてるから忙しくて時間とれないんです。」
「それは知ってる、だから休みの日にわざわざオレは出てきてるんだ。」
ほーっとため息をつく。
目の前のとびきりきれいな金髪の少年は、何度いっても保護者を連れてこない。
決して成績は悪くない、むしろトップに近い、それなのに中学を出たら働くと言いはる。
「ストライフ、お前の成績なら奨学金もとれるだろう?オレはそういう話をおまえの保護者としたいんだ。」
「先生、オレは早く働いて早く母さんを楽にしてやりたいんです。」
「だから、そう急がなくてもいいじゃないか?」
「母さん、身体が弱いんです、もうこれ以上無理させたくないんです。」
他人行儀な少年の口調にセフィロスはつい、いらついた。
「生活保護とか色々あるだろうが。」
思わず口を滑らせ、しまったと思う。
案の定、少年は突き放したような笑みを浮かべた。
「生活保護?それを昔申請しにいった母さんがどんなイヤな目に遭ったと思う?
貯金はいくら以上あったら駄目だとか、家が持ち家なら先に家を売ってこいとか…
所詮先生は高校に行ける成績の生徒が、行かないのは自分の都合が悪いからじゃないか!!もういいです。オレはオレで決めます。」
とたん教室を飛び出していこうとする少年の手首をとっさに掴む。
「違う!ストライフ!!」
「信じない!あんたの言う事はもう信じない!」
じっとセフィロスを見つめる蒼い瞳…
初めてあったときから彼を捕らえて放さないもの。
「解らないのかクラウド…オレは、オレはお前が心配でたまらないんだ。」
いつのまにか腕の中に抱き込んだ少年にセフィロスはそう呟いた。
初めてあったのは、2月の終わり、まだ春の気配すらしない雪の日だった。
…中学の先生?それも公立の?おまえもたいがい物好きだな。
アメリカから帰国してすることもなく、ぶらぶらしていた毎日。
ふと思いつき知り合いに頼んで中学の臨時教師の職に着く事にした。
…お前がなんで今さら中学の教師に?おまえならもっと他にいい職があるだろう?
というよりお前の能力を、どれだけの所が欲しがってると思うのだ?
そんな事は知らない、興味がない。
ただ…強いていうならば、普通の学校生活にある種の興味…
憧れに近いものが無意識にあったのかもしれない。
セフィロスは普通の学校にいったことがなかった。
幼い頃より英才教育を受け、天才と呼ばれ、10歳でハーバードに入学、
そのまま大学院に残って研究を続けていたが、
母の体調不良の報を受け、とめる大学を振り切って帰国した。
…おまえがそんなに肉親の情があるとは思わなかった。
『あるわけないだろう』
自分の父親づらする男にそう毒づく。
親子の情等しらない、与えられた事等ない。
わが子を天才と知った三流学者は、その能力を開花させるために、
幼いセフィロスを世間のすべてから隔離した。
むろん母親とも…
だから知らない、母親なんて知らない。
今さらオレに涙ですがるくらいならどうして、もっと昔に、この男の手から自分を奪い取ってくれなかった?
おかげでオレは何かが欠落したままだ。何かが…
今回帰国したのだって、母親の事は口実にすぎない。要は大学院にいる事に、いいかげんあきていたのだ。
挨拶に訪れた中学校、うっすらと雪の積もる校庭で行われていた体育の授業、
1000メートルの記録測定が行われていた。
生徒達はみなれない飛び切り目立つギャラリーをちらちらと見、小声で何やら囁きながらながら汗を流していた。
何人めの生徒が自分の前を横切って行っただろうか。
ぼんやりと自分に縁のなかった情景を見ていたセフィロスに誰かがぶつかって…いや倒れ掛かってきた。
思わず両手で受け止める。
飛び切りきれいな金髪と白磁のような肌を持つ少年…しかしその顔色は青ざめ、瞳は力なく閉じられていた。
「ストライフ!」
教師が慌てて走ってくる。
「あなたは?」
「オレはセフィロス、4月からの臨時教師だ。この生徒は?」
「この子はよく貧血を起こすんですよ、顔色が悪いなとは思っていたのですが。」
「気付いていた癖に走らせるとは無能だな、何かあったらどうするつもりだ。」
あまりの台詞に見る見る怒りで顔を赤くした教師をしり目に、セフィロスは少年を抱き上げて歩き出した。
「ど、どこへその子を?」
「普通こういうときは保健室だろう?」
軽々と少年を運ぶセフィロスを教師はぽかんと見送った。
…軽いな、こいついくつだ?
ちらちらと空から舞う雪が少年の髪に降り掛かる。
髪と同じ金の睫毛にも…
…こいつの瞳をみてみたい…
なぜかぼんやりとそう思った。
…最初の出会いが偶然なら2度めは当然?
教室に入ってきた新任教師を見て、クラウドはため息をついた。
女の子達が頬を赤らめて囁きあう。男子生徒ですら視線をはずせない。
長い月の光を集めたような銀の髪、冷たく輝く翡翠の瞳、
何よりも見るものを圧倒させる白皙の美貌、
チョークで自分の名前を書く動作ですら、一部の隙もなく優雅に…
「オレはセフィロス、今日から君たちの担任だ。専門は数学、一年間よろしく頼む。」
耳に心地よく響く期待を裏切らないバリトンで短い自己紹介をされると、
教室は一瞬静まり返った。
そして次の瞬間どよめきが走る。
『ええーー!!ホント?信じられない!!』
『ラッキーだぜ!!このクラスでよかった!!』
騒ぎ回るクラスメイトをしり目に、クラウドは2度めのため息をつく。
…あんな悪趣味な奴が担任かよ…
考えてみれば当然だった。
この中学校は受験を理由に2年から3年に上がるときにクラス替えをしないし、担任もかわらない。
このクラスの前の担任は、遠方に転勤になる夫に着いて行くため、やめたのだ。
新任教師がくるのならば、当然自分の担任になるではないか。
頭を抱えるクラウドを見て、セフィロスは心の中でクスリと笑う。
…思ったより楽しめそうだな。
少年の途方に暮れたような蒼い瞳を見て、ほくそ笑む自分に少し驚きながら
「…だから何も深く考える必要はない、こういう数式を見たらまずxとyに分ける。そうすると筋道が見えて来る。」
…スマした顔して授業しやがって…
不機嫌な顔をしてクラウドはノートをとる。
セフィロスの授業は解りやすい。数式の解き方だろうが、証明問題だろうが、いとも簡単に教科書よりも理解しやすく解き方を教えてくれる。
ポイントを教えてくれるので、応用問題になっても全然困らない。
「たかだか中学の教科書だ、必ずこの公式にあう問題しか出ていない。だから公式を3つ覚えておけば、100の問題が解けるわけだ。」
セフィロスが教えるようになって数学は参考書がいらなくなった。
クラスのみんなが言っていた、それはクラウドもそう思う。
難しくて手が出なかった問題もセフィロス流に解いて行くと、スラスラとおもしろいように解けるように解けて行く。
…頭いいんだろうな、でもそれとあれとは別だ!
あのときの事を思い出すと急に体温が上がる…
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