それすらも快い日々 1
 「あー疲れた。」
クラウドはタイを緩めると、どかっとソファーに座り込んだ。
「大丈夫か?」
セフィロスが、ぽんと頭の上に手を置くと、心配げな顔で問いかける。
元々人付き合いの苦手なクラウドが、連日知らない人達の間で、お愛想笑いを強制されているのを苦々しく思い出していたのだが、当のクラウドは、じっとセフィロスに見つめている。

「どうした?」
じっと見つめるクラウドに、セフィロスは不思議そうな顔をした。
「ううん、セフィロスって何着てもかっこいいなぁ……って、思っただけ、今日のランチパーティでもみんなセフィロス見てたしさ、それだけだよ。」
いつ見ても整った顔、隙のない身のこなし。
黒のスーツと、シルクのリボンでまとめられた長い銀髪のコントラストは、つい見ほれてしまう。
そう、見とれてしまうのだ、自分だけでなく誰もが……

何故だが寂しくなって、つい、自信なげに俯いてしまった細い顎を、形のいい長い指がそっと持ち上げる。

「じゃあ、どうしてそんな顔をしてるんだ?」
どこか甘さを含んだ優しい響きに、クラウドは背筋を震わせた。翡翠の瞳が温かく自分を見下ろしている。


どうして、こんな凄い人が俺の側にいてくれるんだろう……

華やかなパーティの席、豪華に着飾る紳士淑女が集まる中で、シンプルな黒のスーツのセフィロスは、誰よりも人目を引いていた。
圧倒的な存在感、華麗としか言いようのない身のこなし、誰もがセフィロスを見ていた、誰もがセフィロスを……

「……ったく、お前は自覚がなさすぎる。」
「え?……」
きょとんとしたクラウドの唇を、つんつんとセフィロスは突く。
「今日のパーティで俺がどれだけヤキモキしていたか、お前は知らないだろう?」
「え?ヤキモキって……」

ますます、きょとんとしたクラウドに、セフィロスは、やれやれと言う様に、ため息をついた。

「みんなが、お前を見ていたのに、どうして気付かないんだ?」
「みんなって、あれは、ただ、子供の俺が、あんな席で真ん中に居たからだよ。」
「バカ、みんなお前に見とれていたんだ。」
本当に解っていないと、セフィロスは思う。

輝く黄金の髪に、こぼれ落ちそうな蒼天の瞳、性別を感じさせない整った風貌。
けぶる様な黄金の睫毛が、恥ずかしげに伏せられるたびに、周り中の視線を独り占めしていたのに。

二人は今、神羅製菓の新製品特別キャンペーンの協力するため、コスタ・デル・ソルのホテルに泊まっている。
今日のパーティも神羅製菓主催だ、今年のバレンタインとホワイトデイ用に、クラウドとセフィロスは、コマーシャルに駆り出された。『中世的な美貌の王子に付き従う騎士』というシチュエーションがえらく評判になり、この度新製品のキャンペーンに再びお声がかかったのである。
セフィロスはもちろん知らない人はいないが、相手役の少年については一切の情報が隠され、又、ルーファウス直々に少しでも探った会社には、一切の縁を切ると言い切ったので、マスコミは実質手を出せなくなった。謎の王子様の正体は、色々な憶測を呼んでいたのだ。

そんな中、このキャンペーンでは王子役の少年が、初めてマスコミの前にその姿を現すと言うので、大変な注目を浴びていた。
そして、現れた少年は、大層な恥ずかしがり屋で、世俗の垢に染まった様子を全く見せず、その透明な美しさと儚げに微笑む様は、まさに天使の再臨と、こぞって書き立てたのだ。

だから2週間のキャンペーンの間、クラウド(もちろん名前は出されていない、便宜上『プリンス』と呼ばれている)は、注目の的で、特にパーティの時は、誰もが話しかけようと必死だった。

おかげで、セフィロスはクラウドの後ろから、始終睨みをきかせる羽目になったのだ。

「違うよ、あれは俺の後ろのセフィロスを……」
言いかけた可愛らしい唇を、セフィロスは有無を言わさず塞いでしまった。
だいたい、今日もイライラしていたのだ、親切めかして飲み物を勧めに来る奴、話しかけるついでに肩に手を置こうとした奴、正宗を持っていたら一刀両断にしてやったのに。

柔らかな唇を何度も啄みながら、次第に口づけを深くするセフィロス。背中に回した左手でゆっくりと背筋をなぞると、華奢な身体がぶるっと震えた。
上着が、ウエストまでしかない紺色のシルクビロードのスーツ。漆黒のカマーベルトは細いウエストをより強調し、ぴったりとしたパンツは、独特のぬめった艶を放ちながら、クラウドの腰から脚の美しいラインをくっきりと浮かび上がらせていた。
男女を問わず、どれだけの視線を惹きつけていたか。

見とれる連中の目を潰してしまいたかった、この魅惑的なラインを愛でていいのは自分だけだ。

セフィロスは、焼け付く様な嫉妬を感じながら、柔らかな双丘を揉みしだく。
しなやかなシルクビロードの布地は、直に触っているかの様なまろやかな弾力を掌に感じさせた。
ふと、あることに気がついて、セフィロスはゆっくりと唇を外す。

「クラウド、ひょっとして『あの下着』をつけているのか?」
はふっ、と悩ましげな息を吐きながら、クラウドは少し頬を染めて頷いた。
「うん、だって副社長が、この生地は身体にぴったり吸い付いて、ラインがくっきりでるから、普通の下着だとみっともないって、言ったから……」

「ルーファウスめ……」
セフィロスは少し忌々しげに呟くと、両方の掌で、双丘を強く揉んだ。
「あ、やだ……」
官能的な指の動きに、クラウドが思わず声を上げる。

『あの下着』と言うのは、コマーシャルの撮影の衣裳用に、ルーファウスが送ったシルクニットのTバック。フロントは立体裁断で膨らみのみを隠し、サイドとバックは、ただの紐だ。コマーシャル終了後に何を思ったか、これの12色セットが送られてきたが、その後クラウドが隠してしまったのだ。

「ところで、どうして今まで、着けなかったんだ?ん?」
セフィロスは淫靡な笑みを浮かべた、途端に赤くなるクラウド。
答えは聞かなくても解っている。シルクの紐が食い込んだ白い双丘は、どれだけ愛でても足りないほどに魅力的だった。クラウドが嫌がるのにも関わらず、下着を着けさせたまま色々と、楽しい事をさせて頂いたのだ。
返事をせずに、顔を真っ赤にして俯いているクラウドに、調子に乗ったセフィロスは、更に楽しく追いつめる。

「で、今日は何色のを着けているんだ?」
セクハラ親父その物のセリフに、クラウドの顔が極限まで真っ赤になった。頬を真っ赤に染めて、ぐっと唇を噛み、羞恥に耐える様は、嗜虐心を益々煽る。返事をしない耳元に唇を寄せ、愛撫する様に囁いた。

「返事をしないのなら……直に見せてもらおうか?」
「セフィロスっ……」
慌てて離れようとした腰をがっちりと押さえ込み、セフィロスは本当に嬉しそうににやりと笑った。唇で耳たぶに悪戯をしながら、焦らす様にカマーベルトをゆっくりと外していく。
「んっ……待ってってば……」
漏れる吐息を懸命に噛み殺すクラウドの気配が、悪戯気分を益々煽る。


本当に何色の下着を着けているのだろうか?順当に考えると白だろうが、スーツは紺色、合わせて同じ色かもしくは黒……


柔らかな桃のように形の良いお尻に、黒い紐が食い込む様を想像して、セフィロスがにんまりと笑った時、チャイムが鳴った。


「セ、セフィ……誰か来た……」
喘ぎながら注意を促すクラウドに、素っ気ない返事が返ってくる。
「気にするな。」
なおも何か言おうとするクラウドの唇を、再度自分の唇で塞ぎ、すかさずファスナーを降ろそうとした時、今度はドアがドンドンと乱暴に叩かれた。


「誰だ!」
「あなたの上司で、愛しい義弟です、お義兄様。」

インターフォンから返ってくる、人を食った様な返事。言わずとしれたルーファウスだ。
セフィロスが怒りで返事も出来ないでいると、更に声が続いた。

「開けないなら別にいいけどね、私はマスターキーを持っているから、勝手に入らせてもらうけど。」

クラウドが慌ててばたばたと、身支度を調える。セフィロスは大股でドアに近づくと、乱暴に開いた。


「やあ、お義兄様、ご機嫌麗しくなさそうで。」

にっこり笑顔のルーファウスの後ろには、ひきつり笑顔のザックスとレオ。二人ににしてみれば、とんだ貧乏くじなのだろうが、今のセフィロスは、不機嫌MAXだ。
ぎろりと睨みつけると、ドライアイスの様な低い声で聞いた。

「何の用だ?」

「何の様だって、この後の打ち合わせに決まっているだろう?今日の夜はライトアップしたクルーザーで、応募者50名とお食事しながら撮影会。」
「そんなものは、打ち合わせしなくても知っている!」
怒り心頭のセフィロスに、レオが控えめながら、口を挟んだ。

「連隊長、お言葉ですが、本来の目的をお忘れではないですか?」
「忘れるわけがないだろう!」
不機嫌にセフィロスが言い放つと、レオは更に続けた。
「では、打ち合わせが大切なのも、お解りですね。今回の我々の本来の任務は、副社長の護衛なんですから。それも自ら引き受けられた。」

そうなのだ、今回のキャンペーンにセフィロスどころか、ソルジャー連隊の司令部全員が同行しているのは、ルーファウスに対して、何者かが命を狙っているという旨の情報が入ったからなのだ。
キャンペーンの最中は、撮影のために人里から離れた所に行ったり、不特定多数の人と触れ合わなければならない。本来なら副社長なんて肩書きの人物は、そんな場所には行くはずもないのだが、クラウド参加のキャンペーンなら、全てを自分がプロデュースするつもりのルーファウスは、何があろうと、最後まで自分も同行すると言い切った。

護衛は最初はタークスに振られるはずであったが、にっこり笑ったルーファウスはセフィロスに依頼したのだ。
「コスタ・デル・ソルでの、2週間のコマーシャル撮影を兼ねたキャンペーンだ。貴方が来てくれれば非常に安心だけど、無理強いはしないよ。今の季節のコスタはいいだろうね、寂しがり屋のクラウド君は、しっかり慰めてあげるから、心配しなくても大丈夫だよ。」

セフィロスが司令部全員引き連れて、万全の体制で護衛すると即答したのは言うまでもない。若干嵌められた気はするのだが、会社持ちでコスタの高級ホテルで、クラウドと過ごせるなら、まあ、我慢しようと思ったのだ。



そういういきさつがあり、司令部全員を道連れにした身としては(もちろん、みんなはおもしろがって、付き合ってくれたが)真面目なレオの問いかけは、正直返事に詰まった。ルーファウスの護衛は、他の4人に任せきりにしているから余計に。


「そうだな、悪かった。では、打ち合わせを……」
殊勝な言葉を口にしかけた時、気に障る声が響いた。


「やあ、クラウド君、お疲れの所申し訳ないが、今晩よろしく頼むよ。スーツは深紅のシルクタフタ、キュロットタイプだから、まさに王子様に見えるだろう。ブラウスは私が選んであげるから、ついて来たまえ。」

虚を突かれたセフィロスが呆然としている間に、ルーファウスはすたすたと中に入って、クラウドの手を取ると、クロゼットルームに入っていく。

「では、にーさん打ち合わせしましょうか?」
怖々とと声をかけたザックスを、セフィロスは無言で睨みつけた。









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