年の初めの♪



「さてと、ここの掃除は終わったし、あと片付いてないとこはどこだっけ?」
ホコリまみれのお掃除クロスをくずかごに捨てながら、クラウドは考え込む。
今日は年末、渡米して初めての年越しだ、二人で過ごす二度目の正月。

だけど、去年はクラウドの母親が亡くなっていたので、本当の正月の行事は何もしなかったのだから、初めて二人で迎える正月という事になるのだが…

「去年は正月どころじゃなかったもんな、セフィロスのマンションで二人でゆっくり過ごして…」
そこまで考えて、クラウドは、はっと気がついた。

…まずい、あれの始末を忘れていた…

慌てて手を洗って、物置きに走り、走りながら時計をちらっと見て、セフィロスが出かけてから30分ほどたっている事を確認する。

…あと30分は帰ってこないよな、それまでにどこかに隠さなくっちゃ…

セフィロスは床用ワックスと、クレンザーが切れたので買いに行っているのだ。
ついでに、返し損ねたレンタルビデオを返却して、本屋にも寄ると言っていたので、そのくらいの時間的余裕はあるはずだ。

ばたばたと物置きに駆け込む、日本から持って来た未整理にの荷物をごそごそとかき回すが、なかなか目当てのものは見つからない。

…えーと、あれ置いて来てたっけ…それならそれでいいけど…とにかく二度とあれは着ないぞ…

思い出すだけで、恥ずかしい、おまけに今思うとあれは絶対騙されたんだ!と、クラウドは去年の正月を思い出していた。


「え?お参り?だめだよ言ったでしょ、オレ母さんが死んでるから来年はお参りには行けないんだ。」
「そうか?あまりこっちの風習に詳しくないんでな。」
大晦日、夕食を食べながらセフィロスがクラウドを初もうでに誘ったのだ。

「残念だな、こっちでの正月の風習を少し味わいたかったのだが。」

…そっか、セフィロスはこっちでお正月過ごす機会なんて、もうないもんな…
寂しそうなセフィロスに、クラウドはちょっと申し訳ない気がした。

…セフィロス一人ならお参りに行ってもいいんだろうけど、それじゃつまらないだろうし…あ、そうだ!

「セフィロス、お参りには行けないけど、初日の出を見に行かない?」
「初日の出?」
「うん、新年最初の日の出を見に行くんだ、『御来光』っていってみんなわざわざ、海や山に見に行くんだ。」
セフィロスは興味ありげに頷く。
「初日の出ならオレ見に行けるよ、セフィロス。」
「そうか、ところでそれはどういう作法で行くものなんだ?」
クラウドはずるっと転けそうになった、なんでも知っているくせに、時々とんでもない事でずれているのだ、この先生は。

「作法なんて特にはないよ、ただ日の出を見に行くだけ、家族や友人、カップルなんかで。」
「そうか、夕食が終わったら、ネットで検索していいスポットを探すか。」
「じゃ、オレ後片付けするね。」

この時までクラウドは、これが二人で過ごす最後の正月だと思い込んでいた、だから少しでも思い出が欲しかった。

…セフィロス、来年は一緒に居られないけど、一杯思い出作らせてね。
胸につんと痛みを感じながらクラウドは食器を片付ける。

お正月らしい事なんにもできないけど、明日お餅だけでも買って、簡単なお雑煮くらい作ろうかな…
クラウドがぼんやりと考えていると、セフィロスが嬉しげに書斎から出て来た。

「いい場所を見つけたぞ、今から行っても十分間に合う、ホテルの部屋もとれたから、さっさと出かけるか。」
「え?ホテル??よくとれたね、今時分…」
「ロイヤルスウイートのがさすがに空いていた、聞いたら室内のスパからでも日の出は見れるそうだが、せっかくだから外に見に行こう。」
「…ロイヤルスウイート?室内のスパって…一泊いくら??」
「40万、どうせなら2、3日ゆっくりするか?」
こともなげに言うセフィロスに、クラウドは開いた口が塞がらない。
「…よんじゅう…も…いいよ、日の出見たらさっさと帰ろう…」
「どうしてだ?せっかくだからゆっくりしたっていいじゃないか。」

ホントずれてるよ…
クラウドは心の中でため息をついた。

そのあと車を飛ばして着いた海沿いのホテルは、たしかに眺めのいい高台にあったが、いかにも高そうなリゾートホテル、通されたロイヤルスウイートは、フロア全てを占めていた。
室内に用意されたワインとオードブルも一流で、ちらっと見たホテルの案内に本当の宿泊料を見つけた時に、びっくりするより納得してしまった。

…一泊150万…だろうね…とっと帰ろう…

あまりの事に、部屋に気を取られていたクラウドは、セフィロスがこっそり大きな荷物を、ボーイに運ばせたのに気がついてはいなかった。


二人でワインで乾杯したあと、夜明けまでの時間ベッドに潜り込む。
セフィロスが肩を抱きながら、残念そうに耳元で囁いた。

「せっかくムードのいい部屋にいるのに、我慢しなきゃならないのはつらいな。」
「別にいいよ、一人で日の出、見に行きたければ。」
「いじめるな、だからキスだけで我慢してるだろう?」
優しく微笑みながら、頬やまぶたに落とされるキス…

…こうやって過ごした事もいい思い出になるのかな…
クラウドは涙がこぼれそうになるのを、かろうじて堪えていた。

「クラウド、クラウド、そろそろ起きるぞ。」

いつの間にか眠っていたらしい、もう着替えているセフィロスが、クラウドを優しく起こす。

「え?まだ5時だよ、日の出そんなに離れている所まで見に行くの?」
寝ぼけまぶたをこすりながら言うクラウドに、セフィロスはいたずらっぽく笑う。
「オレも初めてだから、十分時間をとったほうがいいと思ってな。」
「いくら初めてだからって、ちょっと考え過ぎ…」

言いかけたクラウドの目に写ったのは、目にも鮮やかな青い振り袖…

「…何?これ?」
「着物だ、正月といえばこれだろう?」
真顔で言うセフィロスに、クラウドはまさかと思いながら恐る恐る聞いてみる。

「これ、だれが着るの?」
「お前以外にだれがいる?」

…この男は冗談にもほどがある!

「何言ってるんだよ!それ女の子用の着物じゃないか、オレそんなの着ないよ!!」
「そうなのか?おまえに着物を着せたくて、店で一番似合いそうなのを買って来たんだが…オレはこっちの風習に疎いからな…そうか…せっかく似合うと思ったのにな…」

振り袖を手に、とてもがっかりした様なセフィロスに、いけないと思いながらつい情が湧いてしまった。

「ごめん、知らなかったならしょうがないよね、残念だね、でもどちらにせよ着れないよ、着物の着付けって難しいから…」
「それなら大丈夫だ、着付けはしっかり勉強した。」
「勉強したって…セフィロスが!?」
「そうだ、だいたい大丈夫と思うぞ、まあとにかく着てみろ。」

セフィロスが着物の着付け…その事にあっけに取られているクラウドの返事も待たず、セフィロスはとっととクラウドを剥いてしまうと、さっさと腰巻きと長襦袢を身に付けさせてしまった。

「ちょっと待てよ、オレ着るとは言ってないって…」
しかしもはや人の話なんか聞いちゃいない、長襦袢のクラウドをうっとり眺めるセフィロス。

「和服が色っぽいっていうのは、本当だな、この長襦袢ってのはそそるじゃないか。」
クラウドの白い肌映える深紅の長襦袢、ちらりと覗く形のいい脚がスケベ心を刺激する。

クラウドは妖しい視線を感じて思わず叫んだ。
「オレ、『お代官様ごっこ」なんてつき合わないからね。」
「なんだその『お代官様ごっこ』と言うのは?」
「…知らないならべつにいいよ…」

こうなったセフィロスにはもう逆らえない。せめて被害を最小限に留めよう…
クラウドがすっかり諦めモードになったのをすかさず逃さず、セフィロスはさっさと着付けをすませてしまった。

「…セフィロス…ほんとに着付け初めて?」
「あたりまえだろ、どこでだれにやれと言うのだ?」
そう言われても、帯の結びの見事さに、つい聞き返してしまう、ネットで勉強したというが、ほんとセフィロスにできない事はないらしい。

成人式の様な真っ白な羽のショールを肩にかけてもらい、クラウドは赤い草履を履いて渋々部屋を出た。
ただでさえ着なれない着物、おまけに見栄えはよいが実用性は皆無の振り袖…草履はくりくりして歩きにくいし、もたもたするクラウドを、セフィロスはすっと後ろから手を添える。

気がつけば、周りの視線を全て集めていた。
ちらほらと日の出を目当てに集まってきた人たち、その中にはクラウドのように振り袖を着ている者もいたが、磁気のような白肌に目にも鮮やかな青い着物、金糸銀糸の花の刺繍、ほっそりとした柳腰をきっちり締め上げる赤い帯…クラウドより似合う者はいない。
雪の様に白いうなじがちらりと覗き、幼いながらも色気がほのかに匂いたち、周りの男達をそわそわさせる。

一方、その視線から遮る様にエスコートする長身のセフィロスは、黒のカシミアのロングコートが憎いほど似合っていた。
カシミアのもつ独特のぬめりのある光沢が、ノーブルな顔立ちと、月の光を集めたかの様な銀髪に独特の華を添える。
世界中の誰がこのコートを着ても、こんなふうに美しく着こなす事はできないだろう。
腕にすがるように歩くクラウドも、思わず見ほれるほどに…

「どうした?やっぱり歩きにくいか?」
「少し…いや、やっぱり歩きにくいよ、それにすーすーする。」
赤い顔をごまかしたくて、クラウドは少しすねた口調で言った。

「そうか、重ね着だから暖かいかと思ったんだが。」
その言葉にクラウドが口の中でもごもご何か呟いた。

「なんだ?よく聞こえないぞ。」
「…パンツはいてないから寒い…って言ってんだよ。」
「悪かったな、オレが勉強したところでは、はかない事になっていたからな。」
にやっと笑うセフィロスに、なんだかはめられている気がしてきたクラウドだ。
呆然としてるうちにさっさと、素っ裸に剥かれていた、パンツまで…
慌ててはこうとして、下着の線が出るからと、セフィロスにしっかり拒否されたのだ。

おかげですーすーするわ、裾がまくれるのが気になるわ、履き慣れない草履のひもは足の指に食い込むし、足場の悪い田舎道を歩くのがつい遅れてしまう。

「歩きにくいよ、もう!!」
「そうか、じゃ…」
いきなりセフィロスは抱き上げた、固まるクラウドをしり目にそのままスタスタと歩き出す。

「ちょっと!おろせよ、オレ自分で歩くよ!」
「すぐそこだ我慢しろ、日の出に間に合わん。」
どんなに抗議してもセフィロスは無視を決め込む、ただでさえ集めている視線がさらに集まり、クラウドは小さくなった。

…いいよ、もう、これもいい思い出だろうし…
こうなったらとことんセフィロスにつき合ってやろう、少し開き直って、クラウドは決心した。

初日の見える高台のすこし人込みから離れた場所で、セフィロスはクラウドをおろす。
もう東の空がほんのりと明るくなって来ていた。

やがて海と空の境に、一筋の白い光の線が入り、今年初めての太陽がゆっくりと顔を出す。
新年の光はセフィロスの銀色の髪をきらきらと輝かせ、彫りの深い横顔を神々しく彩る、本当にまばゆいばかりだ。

「どうした?」
日の光をきらきらとまといながら、セフィロスが優しい笑顔でふりむいた。
「え…綺麗だな…って…」
「日の出が?」
「…セフィロスが…」
消え入りそうな囁き声に、セフィロスの長い指がゆっくりとクラウドの顎をとらえる。

「おまえの方がずっと奇麗だ、光に溶けそうだ。」

ゆっくりと唇が重なり、すかさず舌が忍びこんでくる。
少し離れた所にいるとはいえ、他人がいるところであまりディープなキスは…と思っていたクラウドだが、優しく絡められ、抱きしめる様な舌の動きにもう何も考えられない。
抱きしめる左手は、背中から腰をゆっくりとなで上げ、薄い絹の生地越しに感じるセフィロスの掌が、直に触られているようで、クラウドは思わず腰が揺れてしまった。

ゆっくりと唇が外される。
「こら、こんなところで煽るな、部屋に帰ってからだ。」
「だれも煽ったりなんかしてないよ!」
「そうか?」
含み笑いをされ、罰が悪くなったクラウドはあっかんべーの顔をした。
「オレもう少し見て行くよ、せっっかくの日の出だもん、帰りたければ一人で帰れば?」
「生意気いうと、こうだぞ!」
「わー!」
いきなりセフィロスはクラウドを担ぎ上げると、肩に座らせた。

「どうだ?よく見えるか?」
「うん、遠くまで見えるよ、いいな背が高いと。」
頬に感じる冷たい潮風、普段の自分よりずっと高くにある目線、太陽は完全に顔を出し、黄金色の光があたりを包む。
見下ろせば、普段は目に入る事のないセフィロスの頭頂部が見える、見上げる翡翠の瞳はとても優しい。

…ずっといたいよ、ずっとセフィロスといたいよ…

胸がいっぱいになり、涙を堪える事に気を取られたクラウドは、裾を押さえる手があいてしまった。

ひらりん♪

突発的な潮風が、クラウドの着物の裾を大きくまくり上げた。

「わーーー!」
真っ赤になって裾を押さえようとするクラウドよりも早く、セフィロスが顔のすぐ側にある剥き出しの大腿に唇を滑らせる。
「何すんだーー!」

「やっぱり、はやく部屋に帰ろう、おまえもすっかりその気になってるし。」
ひらひらとまくれる着物の裾の隙間から、何がセフィロスの目に映ったか、理解したクラウドは全身真っ赤に染まった。
セフィロスはくるりと、クラウドを肩からおろし、そのままお姫さま抱っこをする。

「さ、部屋に帰って『お代官様ごっこ』をするか。」
「あーー!やぱりあんた知ってるんじゃないか!」
「当たり前だ、オレのレクチャーは完璧だ。」
「新年早々、あんたの煩悩は消えてないのかよ!」
「あんなちゃちな鐘で消えるほど、オレの煩悩は根性なしではない…後、スパで楽しい入浴タイムだな。」
「この煩悩魔人!セクハラ教師!!」
「あの広いベランダでの屋外プレイも楽しそうだし、いい正月になりそうだ。」
「どこがいい正月だーー!」
絶叫するクラウドの声が、空しく初日に飲み込まれて行った。



…あのあとホテルで散々だったよな…
ひとしきりホテルの部屋で『着物』を堪能したあと、セフィロスは言ったのだ。

『失敗したな、この遊びは布団がないといまいちだな、来年は少し考えよう。』


…セフィロスが思い出す前に、隠さなくっちゃ…


しかし、焦って探すが見つからない、クラウドがあきらめかけた時に玄関の呼び鈴が鳴った。

『クラウド、手伝ってくれ、荷物が運べん。』
インターホンから聞こえるセフィロスの声。

ドアを開けると大荷物を抱えたセフィロス。

「何買って来たの?」
「ちょっとそこを空けてくれ。」
慌ててリビングの掃除道具をどかすと、セフィロスが荷物を楽しげに解きはじめる。

現れたのは…目にも鮮やかな、真っ赤な絹の敷き布団…

「何だよこれーー!」

「去年失敗したからな、今年はこれを敷くぞ、振り袖はオレの部屋にもう広げたあるからな♪」

心底嬉しそうなセフィロスに、来年も正月早々から煩悩にまみれる事を覚悟したクラウドだった。





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