TABOO ー禁忌ー
ここの景色はいつも寂しげだ
そう思うのは、自分の罪悪感のせいだろうか

ミッドガル跡地を望む丘に立ち、クラウドは一人述懐する。

晴れ渡った空はどこまでも青く、流れる雲は緩やかだ。秋から冬に向かいかけるこの季節、ぎらぎらとした太陽はなりを潜め、日射しがただ暖かい。
乾いた空気は爽やかで、緑に覆われたかつてのミッドガルが、くっきりと見下ろせる。

寂しさを感じさせる要素は、どこにもない。どこにもないはずなのに、未だ自分はこの場所に立つ事が、苦手なのだ。
だけど、来ずにはいられない、忘れずにはいられない。

墓標代わりに大地に突き刺さった巨大な剣、かつて自分も使ったその剣をゆっくりと撫でながら、クラウドは唇を噛みしめた。


覚えているのは、明るい笑顔、おどけた口調、そして、血だまりの中、最後まで自分を案じてくれた優しい笑顔。

『俺の誇りや夢、全部やる』

あの時ザックスは、どんな気持ちだったのだろう?何よりも大事だったこの剣を、自分に託して死んでいったザックス。
いいや、ザックスは自分にこの剣を託したのではない、もう守れない代わりに、このバスターソードをクラウドの守りにつけてくれたのだ。

生きてくれと、おまえは生きてくれと


記憶が一度おぼろげになり、再度構築された時、何故かクラウドはそう思った。
自分の死ですらクラウドに負担にならない様に、あえてザックスは、ああ言ってくれたと。

『俺の分まで生きる』
『おまえが俺の生きた証』


思えば、ニブルヘイムからの逃亡の間、ザックスは自分に絶えず話しかけてくれた。
お天気の事、たわいもない冗談、これから向かう所、今日の食事、そして不安に揺れる自分の心。


『俺はどうしたらいいんだろう?』


どの言葉にもクラウドは答えたかった、だけど、それは夢の中にいる様であり、ガラスの向こうの景色の様であり……

やっとの思いで声を出しても、それはただの『音』にしかならず、どうしても言葉を紡ぎ出す事ができなかった自分。
そうしているうちに頭に霞がかかった様になり、次に意識が戻った時は、全く知らない場面にいる。まるで、眠りながらビデオを流し見ている様だった。

だけど覚えている、いつもザックスが思っていた事。


『クラウド、俺、ミッドガルへ行かなくっちゃ。』


置いていけばよかったのに、足手まといの自分なんか、どこかに捨てていけば良かったのに、そうすればザックスは待っている人の所に行けたのに……


そう思うたびに、ザックスの笑顔が浮かぶ。

『置いてなんか行かないよ、だって友達だろ?』


そう、ザックスは最後までザックスだった、潔い程に、自分らしくその生を生きた。だからその生を引き継いだ自分は、ザックスに恥じない生き方をしなければならないのだ。

それなのに……


「いつも俺は後悔ばかりだ『しょうがない奴』って、笑っているか?ザックス、エアリス。」


クラウドは苦笑すると、バスターソードを磨こうと、バイクから道具を取り出した。
風で飛ばされてきた空き缶を片づけ、シートを広げて道具を広げる。

『ちゃんと磨かないと怒られるんだ『使うと欠ける、汚れる、すり減る』ってな』

かつてザックスがしていた様に、時間をかけて磨き上げると、特殊な鋼を使っているこの剣は、以前と同じ美しい輝きを取り戻す。自分が、ザックスが、そしてザックスが譲り受けた男が使っていた時その物に。

クラウドは満足げに汗を拭った、後は花を飾るだけだ。ザックスは花が好きだった、ミッドガルの教会のお花畑の話しをよくしてくれた。その話しをする時、とても照れて幸せそうで、待っている大事な人がいるのだろうと思っていた。
そして、後にそれが誰か解った時、自分が二重三重にも罪深い存在なのだと、思い知る。ザックスの言葉がなければ、この世に留まっておきたくないと思う程に。

『まーた、おまえは!考え過ぎなんだよ!』


ぽんと頭を叩かれた気がした、見上げれば青い空に浮かぶ真っ白な雲。

まるでザックスの様だ、そこから見てるのか?


花を飾ろうとして、先程片づけた空き缶を思い出す。あれを地面に埋めて花を飾れば、しばらくは風に飛ばされる事もないだろう。

クラウドは、空き缶を取り出した。そういえばこの缶は、ザックスが好きだった銘柄のビールの復刻版だ。

『ちょっと他の奴より高いけど、コクがあって美味いんだぜ、ミッション終わってこいつを飲む時が、一番の極楽だ。』

あれから長い月日が経ったけど、このビールの味は、以前と同じなのだろうか。今度来る時は、このビールを買ってこよう。そう思いながら何げに缶をひっくり返し、はっとした。

この値札のシールには、覚えがあった。




「遅かったな。」
「うん、ちょっと手間取った、届け物ついでに買い物もあったし。」

居間に座って、新聞を読んでいる銀髪の男にそう答える。かつてミッドガルと呼ばれた都市の周辺にできた小さな街、この街に二人越してきてどのくらい経っただろうか。

「どこまで行ってきた?」
「昔のカームの辺りまで、晴れていたから気持ちよかったよ。」
「そうか。」

セフィロスは、再び新聞に目を落とした。クラウドは紙袋を抱えると、台所に向かう。買ってきた食料品をテーブルに並べながら、見慣れた値札のシールを凝視する。それはあの缶についていたのと、寸分違わぬ同じ物、クラウド達がいつも買う食料品店のシールだった。
冷蔵庫をあけ、奧に同じ復刻版の銘柄のビール缶があるのに気付き、クラウドは瞼を閉じた。
いつもセフィロスが飲んでいるのとは、違う銘柄。そういえばセフィロスは昨日、出かけていた。ザックスがいつ死んだのか、セフィロスには話していない、だが、おそらくセフィロスには、解っているのだろう。そして、今日クラウドがあの場所に行くだろうという事も……
あえてクラウドに会わない様に、昨日のうちに訪れたのだろう。


二人で暮らす様になって、かなりの月日が経った。だが、どれでけ長い時間を共に持とうとも、ザックスの事が話題にあがる事はない。自分達二人にとって、ザックスの事はあまりに苦く、そして痛い。

『ほんとお前ら二人、不器用すぎ、俺様は何にも気にしてないぜ。』


ザックスそこで笑っていてくれ、いつか二人で、ザックスの所を訪れるから、いつか二人で……互いに自分を許せる様になったなら……だからそれまでは……


「セフィロス、冷蔵庫のビール飲んでいいか?俺、喉乾いちゃって。」


クラウドは殊更に明るい声で、そう叫んだ。



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