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夢想い
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| 追い掛けていたのはなんだったろうか? 遠い、遠い昔…追い掛けて、追い掛けて…そして手に入らなかった… 自分に勇気がたりなかったのか?それとも… 「朱雀様…あの、朱雀様…」 ぼんやりと物思いにふけっていたのだろう、侍従が申し訳無さそうに、何度も声をかけていたのに気付かなかった。 「ああ、すまない、なにかあったのか?」 「はい、青龍様より連絡が入っております。」 「そうか、それは悪かった、すぐにいこう。」 朱雀と呼ばれた男は立ち上がると、心話を行う水晶の間に急いだ。 侍従があとから続こうとすると、優しいがきっぱりとした口調で言った。 「すまないが内密の用件だ、人払いをしてくれ。」 「はっ。」 鳳凰族の長、朱雀。 鳳凰の中の鳳凰、それが朱雀、天界の南を守護するもの。 その身体は、炎の中で消滅と再生を繰り返し、その度に強大な力をつける。 膝黒の髪と、紅いルビーのような瞳を持つ朱雀、秀麗なその顔は天界でも屈指の美貌を誇っている。 しかし未だに妃を娶っておらず、様々な噂を呼んでいた。 水晶の間に入ると、すでに王の意向が伝えられていたのか、だれもいない。 中央の、赤い、燃える様な水晶の上に一人の男の姿が浮かんでいた。 白銀の髪、蒼とも翠ともつかない翡翠の瞳、竜族の長、東の守護神、青龍セフィロス。 「待たせたな、セフィロス。」 「いや、そうは長く待っていないぞ、ヴィンセント。」 ヴィンセントは膝黒の髪をかき上げてふっと笑った。 「大きくなったな、セフィロス私が年をとるはずだ。」 セフィロスは少し戸惑った顔をする、子供の頃の自分を知っているこの男は、何とはなしにいつものペースを狂わせるのだ。 「もう何度も聞かされたぞ、いい加減にしてくれ、オレはもう子供ではない。」 「そうだな、立派な竜族の長だ。」 ポーカーフェイスを崩すセフィロスは、どことなく幼い頃の面影を残している。 寂し気にはるか西方に視線をはしらせて、銀色の髪をなびかせながら天界の花園に佇んでいた少年… 「ところで、何の用だ?我が愛し子に何かあったか?」 「いや、何もないがもうすぐ雪が降る、寒さが厳しくなるとクラウドには応えるだろう、貴男の羽を頂けないか?」 「もちろんだ、我が一族のものが世話をかける。もとはといえば私の不甲斐なさから起こった事だ。」 ヴィンセントの秀麗な顔に陰がさす、鳳凰族の長でありながら、一族に麒麟が誕生した事に気付かなかった。 それはクラウドの潜在能力があまりに大きすぎたために、その能力の見きわめができなかったせいではあるが、もっと早く自分が気付いていれば、少年の両親を死なす事はなかった、少年がそのせいで川に落ちて死にかける事もなかった。 全て気付かなかった私の罪… 「貴男の悪い癖だヴィンセント、そう何もかも自分で背負い込むのは。 言っておくが、オレは感謝している、貴男が気付かなかったからこそ、オレはクラウドと出会う事ができた。」 翡翠色のセフィロスの瞳が、自分を気づかう様に穏やかな光をたたえる。 この男は、いつの間に、他人を気づかう術を見に付けたのか? あの日、いつまでも西方を見つめ続ける少年を、そっと後ろから包んでやった。 少年の目に浮かぶ涙に気付かぬ振りをして、そのまま西方をいつまでも一緒に眺めていた。 西の際果て、西王母の宮殿にいる同じ女性を思って… 「セフィロス…昔私にもう少し勇気があったなら、おまえは私の息子として、この傍らに居てくれたのだろうか?」 言葉の裏にあるものを察し、セフィロスはわざとそっけなく答える。 「貴男は朱雀、オレは青龍、それはもう変え様の無い事だ。くだらない後悔をし続けるぐらいなら、今度の晩桃会(ばんとうえ)ででも、思いきって口説いてみろ、母上は今はフリーだぞ。オレは鳳凰族に異父兄弟ができても別に気にはしない。」 「セ、セフィロス…」 慌てて赤くなるヴィンセントにむかって、更に意地悪く追い討ちをかけた。 「だいたい貴男は悠長すぎる、とっとと押し倒してしまえばいいものを。」 「セフィロス!」 まったくあの儚気な美少年はどこに行った? これ以上からかわれる気はさらさら無い。 せき払いを一つすると、ヴィンセントは逆襲に転じることにした。 頭に手をやり、髪を一筋抜くと、見る間に鮮やかな緋色の羽に変化する。 「これをクラウドに。」 手の中で呪文を唱えると、紅いオーラに包まれたそれは、遠く離れたセフィロスの手の中へ一瞬で移動した。 「ああ、ありがとう。」 大事そうに懐にしまうセフィロスに、わざと意地悪く声をかける。 「言っておくが、我が愛し子はまだ幼い、相応に成長するまで手をだすなよ、青龍殿。」 セフィロスはイヤな顔をする。 解っているから手が出せなくて、オレがどれだけ忍耐を強いられている事か! 「もちろん重々承知の事だろうが、術を教える等とか言って、だまし討ちで不埒な真似に及ぶなよ、あの子は素直すぎる嫌いがあるから心配でな。」 「ヴィンセント…ザックスか?」 胸に手をあてなくても心当たりは山ほどある、ちくりやがったなあの野郎… 「ああ、もちろん天界にその名を知られた青龍殿が、そのような破廉恥な真似をするはずがなかったな、これは私の失言だった。」 わざとらしく「青龍殿」と呼び掛けて、にっこり笑うヴィンセントに、もう少し虐めてやればよかったと思いながらとりあえず返事をする。 「心配しなくても、クラウドが子供だと言う事はよく解っている。又何かあったら知らせるからな。」 「よろしく頼むセフィロス。」 最後の言葉が単なる社交辞礼ではない事を、十分解っているセフィロスは作り物でない笑顔を浮かべて心話を終えた。 「セフィロス様…」 「クラウド、まだ起きていたのか。」 先に寝かせ付けたつもりだったが、寝室に戻るとクラウドは心細気な顔をして、セフィロスを見上げていた。 「どこに行ってらしたんですか?」 不安げに揺れる蒼い瞳を見ると、つい笑顔が浮かんでしまう。 「ちょっと、用事を思い出してな、すまなかった寂しかったか?」 昔自分もこんな不安な瞳をしてたのだろうか? 遠い昔、二度と戻ってこないだろう母を想って、いつも佇んでいた天界の西の花園、ひょっとしたら遠い際はての西王母の宮殿が見えるかもしれないと思って… 気が付けばまだ「朱雀」を継ぐ前の青年が、優しく慰める様に側にいてくれた。 その人が自分の父になったかもしれない人だと聞いたのは、大分後の事だったが… 「どうかしましたか?」 「いいや、どうもしない。又術を教えるか?」 膝の上に抱き上げて、セフィロスは優しく髪を鋤いていく。 ゆっくり唇をあわせようとして、クラウドの言葉に固まった。 「はい、早く一杯難しい術を教えて下さいね。この間朱雀様がいらした時に、セフィロス様に術を教えてもらってるって言ったんですよ。」 無邪気に答えるクラウドに、セフィロスの眉が僅かに上がる。 「何か聞かれたか?」 「はい、舌は入って来たか?とか手は服の中に入ってきたかとか?とか。」 セフィロスの顔によった縦線にクラウドはまったく気付かない。 「だから、舌が入ってきて、かき回されると、頭が真っ白になってなにも解らなくなるくらい気持ちいいんです。それで気が付くと、手が服の中に入ってきてて、指先で乳首を挟まれて、擦られると背中に電気が走ったみたいにびりびりなるんです、って言いました。」 「クラウド…」 思わず、セフィロスは頭を抱える。 どうしてこう素直すぎるんだこの子は! あのときのヴィンセントの思わせぶりな笑いが、今さらながらに浮かんでくる。 「そしたら朱雀様がね…どうかしました?」 こめかみを押さえて蒼くなったセフィロスを、クラウドが心配げに尋ねる。 心の中でため息をつきながら、セフィロスは笑顔でかえす、できればこれ以上聞きたくないな、と思いながら。 「それで、朱雀様はどうしたんだ?」 「はい、朱雀様はもし手がおへその下に伸びてきたら、『セフィロス様って手が早い』って言いなさいって、どういう意味ですか?手が早いって?」 セフィロスが思いっきり脱力して、その後どれだけクラウドが強請っても、その日は術を教えてくれなかったのは言うまでもない。 心話を終えて、執務室で筆をとりながらヴィンセントは思う。 あの日、独ぼっちでいた少年は、やっと片翼を見つけた、もう絶対にその手を離す事はしないだろう。 では自分は? セフィロスの言葉に煽られたわけではないが、神々が一同に会す今度の晩桃会で、久しぶりに声をかけてみるか、ほんの少しの勇気を持って… 昔と変わらず美しいあの女性に… そして、そのころセフィロスは、腕の中で安らかな寝息を立てる少年を見ながら、今度の晩桃会でどんな仕返しをしてやろうかと根暗に算段することで、自分の欲望を抑えるのであった。 top |
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