サンタクロース
「サンタクロースっているの?」

旅の剣士に唐突に話しかける自分の息子に、スタンドのマスターは慌てた。
大きな街道から少し離れているこの街で、簡単な料理と酒を出している店を開いて、もう10年になる。
ランチタイムが終わり、一段落したところにふらりと入ってきた見慣れない金髪の青年。大きな剣を背負っているのを見れば、剣士だろうとは思う。
この商売、客を見ればそれなりに、その人となりが、解るつもりだが、まだ若いだろうに、妙に老成した雰囲気を持つこの青年は、どこか人を拒絶する様な空気をまとっていた。
だから話しかけるのは、止めにしたのに、うちの子ときたら……

青年は後ろを振り返って、戸惑った顔をした。5歳になる息子はじっと顔を見つめている。
「俺の兄ちゃんはいないって言うんだ、でも俺はいると思う。」
まだ純真な瞳でそう問いかけられ、青年は少し考え込んだ。その顔は、最初の印象より少し幼さを感じさせる。

「何で、俺に聞くんだ?」
「にいちゃんはあちこち、旅してきたんだろう?さっき父ちゃんにそう言ってたじゃないか、だったら俺の兄ちゃんより詳しいだろう?」

青年が怒りもせずに普通に対応する様子に、マスターは、ほっとしながらも苦笑する。さっき、どこから来たのか聞いたら、ぶっきらぼうに『遠くから』と答えられ、更に聞くと『世界中』と言われ、続かない会話にカップを洗う事に専念していたのだ。
自分の幼い息子が問いかけた、たわいもない事に、無碍に即答しなかったこの若者は、意外といい人かもしれないと思い、もう一度話しかけてみる。

「答えてやってくださいよ、おにいさん。明日イブなんで、こいつ、朝から気になったしょうがないんでさあ、マフィンを一個サービスしますぜ。」

「そう言われても……」
正直返事に困ったのだろう、子供の心を傷つけてはいけないという気持ちがよく解り、最初の人を拒絶する様な空気は、旅をするための自衛なのだろうと考える。

「知らないのかよ、にいちゃん。」
「いや、そう言うわけじゃ……」
言いよどむ顔を見て、子供の顔が、がっかりしたものになった。泣き出しそうにも見える顔に、焦った青年は慌てて続ける。

「いるよ、サンタクロース。」
「ホント!じゃ、会った事ある?」
ぱっと輝く子供の顔、青年は何かを思い出す様にふっと笑った。

その柔らかい笑顔に、マスターはドキリとする。顔立ちの整った若者だとは思ってはいたが、ああして笑うと、そこらの女よりも美しい。しかし、その顔に不似合いな大きな剣、いったいこの青年は何者なのだろう。

「ああ、あるよ、ずっと昔に。」
「教えて!サンタクロースどんな人だった?どうやって会ったの?」
頬を紅潮させて尋ねる子供に、青年の笑みがより深い物になる。まるで何かを懐かしむ様な、大事な宝物をそっと開いてみる様な、そんな笑みに、マスターは思わず惹きつけられた。

「ずっと昔、あれはイブの夜だった。俺が寝ていると、窓の所で音がするんだ。」
「どんな音?」
「鍵をこっそりと開ける音、俺はてっきり泥棒だと思ってね、手を伸ばして剣を掴んで、ベッドの中で構えていたんだ。」
「その大きな剣?」
背中の剣を指差され、剣士は笑いながら首を振る。
「いいや、まだほんの子供だったから、この剣は使えなかった。もっと小さな剣だよ。それで、泥棒が来るのを待ちかまえていたんだ。」
「で?で?それがサンタだったの?」
わくわくする問いかけに、青年は内緒話をするように、人差し指を唇の前に立てて、答えた。

「そう、入ってきたのは、大きな袋を抱えて、赤い服を着た……」
突然青年は弾ける様に笑い出した、思い出しておかしくて、おかしくて仕方がないという風に。その様子は本当に幼くて、20代ではなくて10代かもしれないと思い直す。

「にいちゃん!」
続きをせかす子供に、剣士は謝った。
「ごめん、ごめん、そう、サンタクロースだったんだよ。サンタは剣を手にした俺に言ったんだ『なんで起きているんだ?』ってね、俺はあきれて『あんたは何してるんだ?』って聞いた。」
「サンタはどう答えたの?」
「サンタは真面目な顔で、言ったよ『プレゼントを配りに来たんだ』ってね。」
「それで、にいちゃんはどうしたの?」
「そりゃあ、お礼を言ってプレゼントをもらったよ、当たり前だろ?」
「そっか!やっぱりサンタはいるんだ。」
納得した様に頷く子供に、剣士は諭す様に言う。

「でもな、翌年からサンタは来なくなっちゃったんだ。」
「どうして?」
「俺に姿を見られたからだろ?だから、ずっとサンタに来て欲しいのなら、サンタに会うために起きておこうなんて、思わない方がいいぞ。」
真面目な顔をする剣士に、子供は慌てて大きく頷いた。

「うん、解った。会ってみたい気はするけど、それでサンタが来なくなるのはいやだ。にいちゃんありがとう。」
ぺこりとお礼をする子供の頭を、剣士は笑顔で撫でる。
「いい子だ、クリスマスイブは、早めに寝るんだぞ。」
「うん、解ってるよ。」

満足のいく答えを聞いて、ご機嫌な息子に、マスターは声をかけた。
「さ、そろそろ奧に戻れ、お客さんの邪魔だぞ。」
「はーい。」
走り出しかけた子供は、ふと立ち止まって振り向いた。
「ねえ、にいちゃん。サンタの目の色は、何色だった?俺、友達に教えてやるから。」

「目の色?」
「うん。」
「とても綺麗な翠色だったよ、まるで吸い込まれそうな……」
青年の蒼い瞳に、一際優しい色が浮かぶ。それこそ吸い込まれそうな美しい輝きに、マスターは思わず息をのんだ。

はっとしたのは、客が入ってきたのに気がついたからだ。
「いらっしゃい……」
声を出しかけ、別な意味で再び息をのんだ。

銀色の髪の長身の剣士が立っていた、整いすぎたその顔立ちは、どこかぞっとする物を感じさせる。

「ここに居たのか、探したぞ。」
「悪い、ついコーヒーの匂いに誘われてな、車治った?」
答える金色の髪の青年の笑顔は、今まで見た中で、一際輝いて見えた。
「治った、すぐに出発するぞ。」
「ああ、じゃあな、坊主。」
無邪気に手を振る息子に比べて、マスターは鼓動が早鐘の様に打つのを感じていた。銀色の髪の剣士が、鋭い翠色の瞳で、自分を思いきり睨みつけて出て行ったからだ、まるで、自分の物に勝手に見とれるなと言わんばかりに。



少し不機嫌に店をでたセフィロスは、人の気も知らず、さっきから思い出し笑いをしている青年に、話しかける。
「何がそんなにおかしいんだ?」
「いや、さっき子供にさ、サンタクロース居るのかって聞かれて、昔あんたがサンタの格好してたのを思い出した。」
「又随分、古い事を。」
苦笑するセフィロスに、クラウドは懐かしそうな目をした。
「びっくりしたよ『遅くなる』って言ってた人が、まさかサンタの格好で、窓から入ってくるなんて。」
「お前を喜ばせたかった……考えてみれば、サンタの格好までする事はなかったな、あの頃は司令部の連中に、いい様に遊ばれていたな、クリスマスはサンタの格好でプレゼントを置くのが、当たり前だといわれて、つい信じてしまった。」
「俺は、嬉しかったけどね、懐かしいね。」
蒼い瞳が少し切なそうに輝く、過ぎ去った黄金色の日々を惜しむ様に。

「じゃあ、明日のイブは、又してやろうか?」
同じ思いを浮かべた翠色の瞳で、セフィロスがそう囁いた。
「ううん、いいよ、俺が欲しいプレゼントは、もう一生分もらっているから。」

笑顔のクラウドの肩を、セフィロスはそっと抱きよせた。





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