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おやくそく
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「ソルジャー連隊司令部付、クラウド・ストライフ候補生入ります。」 少し緊張した面持ちで、クラウドは大きな声で自分の階級と名前を言うと、開かれたドアに足を踏み入れた。 授業が終わった後、いつもの様に司令部に向かおうと、急いで支度をしていたら、先生から本社に着いたら、先に、ここに来るように連絡があったと言われたのだ。 用件は先生も知らなくて、思い当たる節もない、第一この部屋の持ち主が、自分に用があるとも思えないのに。 「やあ、君がクラウド・ストライフか、遠慮しないでもっと奧に入りたまえ。」 若々しい声が響いた、総ガラス張りの窓から一望できるミッドガルの背景をバックに、悠然と革張りの椅子に座るその人は、思ったよりずっと若かった。 きちんと整えられた金色の髪、理知的に輝く青い瞳、白いスーツをわざと着崩しても、少しもだらしなく感じないのは、やはり、育ちのなせるわざだろう。 年はザックスと同じくらいか? 初めて見る、神羅の副社長という自分を呼び出した人物を、クラウドは興味深げに観察した。 「私が副社長のルーファウスだ、さあ、もっと奧に。」 「はい。」 なんで副社長が自分を呼び出すのだろう、しかも自分の事を知っている様だ。訳が解らぬまま、クラウドは一礼すると、ルーファウスの真ん前まで歩み寄った。 「ふむ、これは……噂以上だな、合格だ。」 「は?何がですか?」 きょとんとするクラウドに、ルーファウスは、にやりとした笑みを浮かべた。 クラウドの中で危険信号が鳴る、今までこんな笑いをする奴には、ろくな目に遭わされていない。いつもなら、回れ右で逃げ出すところだが、副社長相手にそんな失礼な事はできない。 「美しいブロンドだ、伝説の女神フレイヤの流した黄金の涙もかくや、というばかりじゃないか。」 「はあ……」 「それに、どうだ、このすばらしいブルーアイは、最高のサファイアでもこんなに美しくは輝かないぞ、そう思わないか、ツォン。」 「はい、誠に。」 答えるのはルーファウスの後ろに控えた黒髪の男だ、秘書にしては妙に気配を殺すのに慣れている。そして、自分の後ろには、いつの間にか二人の男が立っているのに、クラウドは気がついた。 ……これって、なんなんだ?イヤな感じが…… 焦り出したクラウドをよそに、ルーファウスは椅子から立ち上がると、クラウドに歩み寄った。くいと、クラウドの顎を持ち上げると、満足げに笑みを深くする。 「白磁のような肌だな、額から鼻にかけてのラインが実に美しい、唇はまるで熟れたサクランボだ、思わず食べてしまいたくなる。」 「あ、あの……離していただけませんか。」 キザったらしいほめ言葉の連発に、背筋に悪寒を感じながら、クラウドはやっとの思いで言った。 「それと、自分は何の用件で呼ばれたのか、まだ伺っておりませんが。」 「そうだな、アドニスの具現の様な、あまりの君の美しさに、思わず用件を言うのを忘れてしまったよ、私は美しい物には目がなくてね。気を悪くしないでくれたまえ。」 なんだよ、この芝居がかったキザ男は、副社長でなかったら、殴り飛ばしてやるのに、と、クラウドはげんなりする。そんなクラウドの心を知ってか知らずか、ルーファウスはもう一度にっと笑った。 「クラウド・ストライフ、君に頼みがある。」 「はい。」 「快く引き受けてくれ、でないと、これは命令に変わる。」 「はい、なんでしょうか?」 「まずは、服を脱いでくれ。」 「はあ?」 「聞こえなかったのか?服を脱いで。」 あまりの事に、クラウドは一瞬唖然としたが、すぐに断った。 「お断りします、どうして、ここで服を脱がないといけないんですか?」 「そうか、いやか、では命令に変える、ツォン。」 ルーファウスがパチンと指を鳴らすと、ツォンが一歩前に進み出た、それと同時に、後ろに立っていた男達が、さっとクラウドを羽交い締めにする。 「な?何をするんですか!」 「言ったろう?命令に変わると、服を脱がせろ。」 「はっ。」 ツォンが、クラウドの制服に手をかける。 「やめて下さい!どうして!」 「どうしてって、クラウド・ストライフ、全ては君が美しすぎるのがいけないんだよ。それにしても、本当に食べてしまいたい様な唇だ。」 ルーファウスは、もう一度クラウドの顎を持ち上げると、楽しそうにその唇を突いた。 かっ、かっ、かっ……と不機嫌そうな足音が響く、すれ違う人は皆、慌てて壁にへばりつき、視線をそらす。 無意識に『俺の前を邪魔するな!』オーラを全開にしてセフィロスは、一直線に副社長室を目指していた。 さっき、クラウドの学校から電話があった。 急に総務の方から、明日からの一週間の個人研修の届け出があったが、届け出用紙に本人のサインが必要なので、明日一番に学校に来るよう、クラウドに伝えてくれと。 そこで初めてセフィロスは、クラウドがルーファウスに、呼び出された事を知ったのだ。 ルーファウスの奴!どういうつもりだ! 昔から得体のしれない奴ではあった。 この間、廊下ですれ違いざま、気になることを言われ、気になったてはいたのだが、こんな手に出るとは。 『うーん、あなたも趣味がいいね、美しい物は見ているだけで、心が安まる。』 『何の事だ。』 『おお、怖い、単に私も、うっとりするような美しいペットが欲しいな、という話だよ、お義兄様。』 『その呼び方はやめろ。』 セフィロスは戸籍上はプレジデントの養子だ、だからルーファウスの義兄にあたるのは間違いないが、実際は兄弟として暮らしたことなど一度もない。 プレジデントが自分の籍に入れたのは、二重三重にもセフィロスを神羅に縛るためだ。 『おや、気に障った?じゃあ、本格的に怒らせない様、不詳の義弟は退散しますか。』 冷たい視線を送るセフィロスに、不敵な笑みを浮かべると、ルーファウスは去っていった。 あの時から、奴がクラウドに興味を持ったのでは、と心配だったのだが…… まさか、直接学校に呼び出しが来るとは思わず、セフィロスは己の間抜けさを呪った。 イライラしながら、エレベーターから降りる。副社長室は完全防音だ、しかし、セフィロスの並はずれた聴力は、このフロアに来た瞬間に、中の声を完全に捕らえていた。 『どうだい?気分は?ん?恥ずかしがる事はない、それにしても滑らかで美しい肌だ。』 『……触らないで下さい、こんな恥ずかしいかっこさせて……』 『うーん、いいね、その屈辱にまみれた表情は、実にそそられるよ。先に写真を撮ってしまえ、ローアングルからじっくりとな、全てが美しく見えるように。』 続いて、シャッターの切れる音が数十回。 「クラウド!」 瞬間、駆け出したセフィロスは、まさに疾風さながら、副社長室前の護衛兵が止める間もなく、蹴破るようにドアを乱暴に開けた。 「おや、お義兄様、せめてノックしてから入って来てくれないか、ただでさえ、あなたの美しいペットが恥ずかしがっているというのに。」 嫣然とした笑みを浮かべて、セフィロスをたしなめるルーファウスの向こうを見て、セフィロスは唖然とした。 紅い蔓薔薇の絡む壁のセットに、鎖で両腕をひとくくりに吊されているクラウド。フリルとレースがこれでもか、と、ついたブラウスだけを着せられ、しかも片袖は破られて、左胸が大きく露出している。 そして、その胸と、ブラウスの裾から覗く、むき出しの白い大腿に、血糊で妖しげな紋章が描かれ、華奢な足首には鉄の枷。 「連隊長……」 クラウドが情けない顔でセフィロスを見る、思わずはっとしたセフィロスは、慌ててルーファウスに向き直った。 「何のつもりだ!おまえ!」 「今度のコマーシャルのカメラテストだよ、思った通り彼にぴったりだ。」 「コマーシャル?」 「そう、コンセプトは『囚われの生け贄の王子』なかなかぴったりな俳優が居なくてね、うん、彼は適役だ。なんせあなたが、見ほれるほどだし。」 言われて、滅多に表情を変えないセフィロスの頬に朱が差す。囚われの生け贄の王子?なるほどなコンセプトだ、さっき部屋に入った瞬間、思わず視線を吸い付けられた、あまりの倒錯めいた美しさに。 一瞬全てを忘れて、クラウドに駆け寄り、思う存分貪りたいと思ったほどだ。 「これは最初のシーンでね、このあとモンスターが現れて、彼を襲おうとするんだけど、その時流された一粒の涙が、壁の蔓薔薇にかかると、伝説の騎士が現れて、彼を助ける。最後は王子がお礼に感謝のキスとチョコレートを渡して、騎士が一粒食べて、ハッピーエンド。バレンタインデイ向け新作チョコレート『ローゼンショコラテ 情熱の赤』だよ。」 さかんに説明するルーファウスだが、セフィロスは聞いちゃいない、どこかのエロ親父よろしく、上から下までクラウドの姿を舐め回す様に見るのに忙しくて。 色が白いから、赤い刻印が艶めかしいな、どうせなら太ももの内側に描いて、足を抱え上げた時、優しく唇でなぞってやりたい…… それにしても、クラウドは、いい……ちょっと待て! あることに気がつき、伸びきった鼻を元に戻して、セフィロスはルーファウスに向き直った。 「コマーシャルって事は、おまえ、この格好のクラウドを全国ネットで流す気か!」 「あたりまえだろう?その為のコマーシャルなんだから。」 「許さん!俺は絶対に許さんぞ!」 烈火のように抗議するセフィロスに、ルーファウスは平然と言い返す。 「許さんって、言われてもね、別に貴方の許可がいるわけでなし。」 「拒否する権利はあるぞ、俺はクラウドの上司だ、業務に支障をきたすという理由で、断固拒否する!」 「業務ね、クラウド君、先ほど暗唱してもらった社則を、もう一度セフィロスに聞かせてやって。」 クラウドはぶすっとした顔で、先ほど読まされたばかりの社則を暗唱する。 「神羅カンパニー社則、第2条1、神羅カンパニー社員は、一般、軍属を問わず、本社の営業、広報活動には本来の業務より優先して、協力をするものとする。」 そう、さっき逃げだそうとした時、この社則を読まされて、渋々協力したのだ。 「はい、よくできました。と言うわけで、これは立派な広報活動だ、貴方に拒否されるいわれはないね。」 「貴様……」 地の底から凍るようなセフィロスの声に、ツォンが慌てて妥協案を提案する。 「まあ、落ち着いて下さい、閣下。ではこうしましょう、撮影の時はズボンは履かせますから、それならいいでしょう。」 「ツォン、それはダメだ、せっかくの美しいクラウド君の脚が、隠れてしまうじゃないか。」 「でも、ルーファウス様、これじゃあ、危なすぎて、ゴールデンタイムには流せませんよ、タダでさえ妖しい筋立てなのに。」 言われてセフィロスは、ツォンの持っている絵コンテを引ったくった。 「なんだ、これは!」 パラパラと、絵コンテをめくっていたセフィロスは、絶叫する。 そうだろうな……とクラウドはため息をつく、最初、自分ですら絶叫したのだ。 伝説の騎士は、王子の鎖を外した後、呪いの紅い紋章にキスをすると、紋章が光に包まれて消えて、呪いが溶け、騎士に抱きつき、感謝のキスを送る王子…… 『この役、王子じゃなくて、普通、姫なんじゃ……』 素朴なクラウドの問いに、ルーファウスはきっぱりと言ったのだ。 『言ったろう?『バレンタインデイ向け新作』と、ミッドガルは同性のカップルも多いんだ、だからそういう層にも、受けるように、男でもなく、女でもなく、中性っぽく見える王子役を探していたんだ。ほんと、ぴったりで助かったよ。安心したまえ、君が何者かは絶対もらさないから。』 げんなりとしながら、諦めたクラウドだが、セフィロスにしてみれば、そう簡単に譲る事なぞできない。 「許さん!絶対に許さん!」 「だから、社則で決まってるから拒否権はないって、相手役はあの有名な二枚目俳優、ジョー・デ・ニーロを……」 「うるさい!俺のクラウドの胸や脚に、他の男がキスするのを許せるか!」 「でも、もう決めてしまったんですよ、お義兄様。」 「でもも、かかしもあるか!クラウドの身体は爪先から、髪の毛の一筋まで、俺の物だ!クラウドにキスしていいのは俺だけだ!」 独占欲丸出しで、激昂するセフィロスを初めて見て、ツォン他2名は、唖然とする。 一方クラウドは、ほとんど半裸状態で括られている上に、さっきから、セフィロスに『俺の』『俺の』と連発され、恥ずかしくてしょうがない。 もう、どうでもいいから、終わらせてくれないかな…… 「あのー……まだ続けるんですか、いい加減手が痛いんですが。」 控えめなその声に、セフィロスは、はっとして、絵コンテを叩き付けた。 「交渉は決裂だ、クラウドを連れて帰る。」 「そういう訳にはいかないよ、あくまで拒否するなら、社則に反したとして、私はクラウド君をクビにできるんだが。」 「ルーファウス!」 二人が睨み合った時、ツォンが、まあ、まあと、割って入った。 「落ち着いて下さい、お二人とも、一つ、いい手があります。」 「くだらない提案だったら、タダじゃおかないぞ。」 氷の塊のような、英雄の一睨みに、辛うじてツォンは耐えた。 「この騎士の役を閣下が演じられれば、全て解決するんではないでしょうか?ルーファウス様もお望みのコマーシャルが撮れ、クラウド君もクビにならず、閣下の心中も穏やかに。」 「俺に、コマーシャルに出ろというのか?」 「そうだな、悪くない手だ、クラウド君だって、クビにはなりたくないだろうし。」 こくこくと頷くクラウドと、絶対に譲らないぞという顔のルーファウスを、セフィロスはしばし交互に見ていたが、やがて渋々返事をした。 「解った、俺がその役をやる、ただし、クラウドにはズボンを履かせろ。」 「やれ、やれ、私も少し折れるとするか、ツォン、黒に近い深紅の絹のキュロットを、至急用意させるように。」 ひとまず解決した所に、クラウドがおずおずと、声をかけた。 「あの、いい加減、下ろして貰えませんか。」 「ああ、悪かった、鍵は私がもっていたな。」 ルーファウスがクラウドの側に行って、手かせ、足かせを外す。 「ああ、やっと手と脚が動かせる。」 ほっとして、その場でさかんに手を曲げ伸ばしたり、足踏みするクラウド、ひらひらと捲れる、シルクのブラウス。 それを見ながら、ぶすっとした顔のセフィロスは、ふとある事が気になって聞いてみる。 「おい、まさか下着を履かせていない訳では、ないだろうな。」 「まさか、そんな可哀想な事はしないよ、彼の履いていたトランクスだと、見えるから、このタイプに履き替えてもらっただけだよ。」 ぴらりとルーファウスが、ブラウスの裾をめくると、クラウドの少年らしい膨らみを、やっと覆い隠せるだけの小さな布地。両サイドと、バックは、ぷりっとした可愛いお尻に食い込むタダの紐。 「これも、うちの新作でね、ちゃんと立体裁断されているから、圧迫感がない、あとで、何枚か届けてあげるよ。」 「いえ、結構です……」 「そう言わないでくれ、セフィロスはどうやら気に入った様だし。ねえ、お義兄様、いい物見せたから、ちゃんといい仕事をしてくれよ。」 見た瞬間、鼻を押さえて前のめりになったセフィロスに、ルーファウスは、勝利の笑みを浮かべた。 「うーん、やはり、英雄とはいえ、ただの人間か。」 あの後セフィロスがクラウドを連れて、とっとと早引けしたと。しかも翌日は、クラウドの体調不良で、撮影が出来なかったと聞いて、ルーファウスは感慨深げに呟く。 「でも、よかったですね、巧くいって、私は内心ドキドキでしたよ。」 「ああ、最初からセフィロスに、コマーシャル出演を打診しても、速攻で断られるに決まっている。他の社員のように、クビをちらつかせるわけにもいかないし、搦め手から攻めたのが巧くいったな。」 「撮影も好調の様です、ところでルーファウス様、その書類は何です。」 「ああ、これはホワイトデイ用焼き菓子『スノーブライト 純白の夢』の絵コンテだ、コンセプトは『眠れる森の王子様』さて、クラウド君にはどんなドレスが似合うかな。」 「ルーファウス様、今度こそ閣下に殺されますよ。」 「何、大丈夫だ、ちゃんとご機嫌取りに、いい物を送っておくから。」 ルーファウスはにんまりと笑った。 数ヶ月後、神羅の新作チョコレート『ローゼンショコラテ 情熱の赤』はコマーシャル発表と共に、爆発的な売れ行きを示した。 特に騎士の格好をしたセフィロスが、王子様を後ろから抱きしめて、優しく微笑むポスターは、貼っても貼っても剥がされた。コマーシャルの数カットを焼き付けたプレートのおまけが付いた限定セットは、あっという間に売れ切れ、胸にキスするシーンのカットは、天井知らずのプレミアがついたという。 正体が一切不明の王子様役の少年については、マスコミ各社が探ろうとしたが、ルーファウスの『探った会社には、二度とうちの広告は載せない』の一言で渋々引き下がり、とうとう明かされる事はなかった。 なお、後日談では、そのコマーシャルの撮影が終わった後、セフィロスの家にルーファウスから例の紐パンの色違い10枚セットが、密かに届けられたとか。気づいたクラウドが速攻でゴミに出したとか。いやいや、クラウドはしばらく、人前では絶対に着替えなかったとか、色々聞くが定かではない。 top |
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