マイホーム セフィロス
 ふっと目が覚めた、カーテンの隙間から漏れる朝日に気づき、起きあがろうとすると、くい!と何かに引っ張られ起きあがれない。
視線を横に滑らせると、ちょこクラが可愛い紅葉の手に、俺の銀髪を一房しっかり握って、すぴすぴと寝息を立てていた。その隣ではセピが、同じく俺の髪の上にどん!と乗って、すかすか寝息を立てている。
これは起こすべきか否か…しばし考え、大きく手を伸ばし、その向こうにいるクラウドを突いて起こす。

「クラウド、クラウド。」
小声で呼びかけると、クラウドがぼんやりと目を覚ました。

「ん…何?セフィロス…今日は俺、朝食当番じゃないよ。」
「それは解っているが、起きたいのに起きれん。チビどもを外してくれ。」
言われてクラウドがぱっちりと目を覚まし、状況を把握して笑い出した。

「あっはっは…だから、髪を編んで寝た方がいいよ、って言ったじゃないか。」
「しー!チビどもが目を覚ます。」

言われてクラウドがぴたっと黙る、朝の忙しい時に、この二人に起きていられると、かなり激しく予定が狂ってしまうのだ。

「解ったよ、ちょっとじっとしていてね。」
クラウドはまずセピをそっと抱っこすると、ゆっくりと自分の膝の上に乗せた。続いて、ちょこクラのちっちゃな指をそっと一本ずつ外し、俺の髪の束をゆっくりと抜き取った。

「はい、これで起きれるよ。」
「ああ、ありがとう、助かった。」
俺は起きあがって、さっと髪をかき上げた、なんかべとべとするな、ミルクくさいし…こいつらのヨダレだろう、たぶん。

少し妙な顔をする俺に、クラウドがぷっと吹き出す。
「英雄セフィロスもチビどもにかかったら、形無しだね。」
「ああ、最強だぞ、こいつらは。」
まだ、すかすかと寝ているちょこクラの柔らかいほっぺをつんつんと突くと、ふに…という顔をする、思わず顔がゆるんだ。

「なんか不思議…」
「何がだ?」
「だってあのセフィロスが、こんな風に子供の寝顔をみて笑うなんて、想像もしなかったよ。」
「そうか?何故だかわからないが、自然と顔がゆるむんだ。毎日うるさくて、手間がかかって大変なのにな、こうしておとなしく眠っている顔をみていると、どれだけ大変な目にあっても、いいか…という気になってしまう。」
「子供は3歳までにそのかわいさで、親に一生分の恩を返すそうだよ。」

そう言いながらクラウドも、セピの頭を優しく撫でている。
最初はどうなる事かと思った、まともな家庭で育った事もない俺が、この子達をきちんと育てていけるのかと。
この子達は人間に擬態させたジェノバだ、しかも擬態させるために、俺とクラウドのDNAを微妙に組み合わせを代えて使ったと聞いた。
そういう事を未だに行っている実の母親とは、とうに縁を切ったのだが、そんな俺が果たして育てていけるのかと。

本当なら今のうちに始末してしまう方がいいのだろう、まだ幼く、力も弱い今のうちに。
だが、最初に会った時のちょこクラの不安げな瞳、自分にも両親がいると知って、会いに来た時の、期待と不安で一杯の瞳。あれはジェノバの瞳ではない、親を求める幼子そのものの瞳だ。

『パパ』『ママ』

それが当たり前のように与えられずに育った俺には、あの時のちょこクラの気持ちがよく解る。
いつか会える、いつか会えると信じていたのは、幾つまでだっただろうか?
それがついにはかなえられないと知った時、自分には遺伝上の両親はいても、愛してくれる父も母もいないと知った時の絶望…
できるわけがない、この子達を拒絶できるわけがない。
もしこの子達が、将来厄災になったとしたら、俺が全力で阻止をする。この命に代えても…かってクラウドがそうしてくれた様に…だから、今は…


そんなシリアスな気持ちで育て始めたのだが、現実は毎日が戦争だ。
二人ともちょっとした事で喧嘩するわ、泣くわ、物は壊すわ、怪我はするわ…
今まで子供という物に縁がなかった俺には、毎日が戸惑われる事ばかりだ。
それなのに、嫌にならないのは何故だろう?
こいつらが手間をかけるたびに、ため息をつきつつも、可愛くてしょうがなくなるのは何故なんだろう?


「おまえの言う通りかもしれないな。」
俺はふっと笑って、ちょこクラの髪をそっと撫でた。

「何が?」
「子供は3歳までに恩を返すという話だ、たしかに俺は、この先どんな目に遭わされても、この二人のためなら、決して後悔しないと思う。」
「セフィロス…」
俺の言外の意味に気づいたのだろう、クラウドがじっと俺の瞳を凝視して言った。

「その時は俺も一緒だよ、あんた一人につらい思いなんてさせない。」


蒼い魔晄の瞳が俺を射抜く、どんな時でも俺だけを見つめ、信じ、そして支えてくれた魔晄の瞳が。
「俺がいるよ、あんたは一人じゃないんだ、それを忘れないで。」
そうだな、俺は、あの時それを忘れていた、自分が一人でない事を…忘れていなければ俺は…

「クラウド…」
俺はそっとクラウドを引き寄せると、唇を重ねた。
軽く触れるだけのキスのつもりだったが、その柔らかさに、つい軽く啄んでしまう。
下唇を何度も啄み、やがて深く合わせて、舌を差し入れる。
絡む舌の熱さに、もっと深く味わおうと、ぐっとクラウドを抱き寄せた時に、膝の上のセピがころんと転がった。


どすんと落ちた先には、ちょこクラのおでこ……


「ふぇ……痛いですぅ……」
「ん…あれぇ…どしたの?」

二人はぱっちり目を覚まし、キスいている俺たちを、まじまじと見ている。
しまった…でも、もう遅い。

「お、おはようのキスだよ。」
クラウドが慌てて離れると、ちょこクラのおでこを撫でた。
「そうですか?ママ、おでこが痛いですぅ。」
「はいはい、大丈夫だよ、赤くなってないし。」
「おはようのキスなら、セピも、ママ。」
セピが口をとがらせると、クラウドが毛布を掛けて優しく諭す。

「まだ早いなから、もう少し寝てなさい、起きたらしてあげるから。」
「ちょこクラもして欲しいです。」
「はいはい、解ったからもう少し寝てなさい。」
最初『ママ』とよばれる事に、激しく抵抗していたクラウドだが、最近はもうあきらめた様だ。
俺はそっとベッドから抜け出そうとした。

「今日の朝ご飯はパパですか?」
めざとく気づいてちょこクラから声がかかる。
「そうだぞ。」
「じゃあ、ちょこクラは、パンケーキにチョコレートソースがいいです。」
「セピは、ワッフルとカスタードソースにイチゴ!」
「解った、解った、待ってろ。」
俺が笑って返事をすると、クラウドの怖い声が聞こえた。

「駄目だよ、朝からそんな物!」
「ママ……」
「えー?」
「朝はちゃんと野菜とか、身体にいい物食べなくちゃ、セフィロス、きちんとしたご飯作ってね。」
「たまにはいいじゃないか。」
「駄目!こいつらは、いつもお菓子みたいなのを食べたがるんだから、セフィロスは甘すぎるよ。ワッフルとパンケーキは今度のお休みの時のブランチ。この前も言ったろ?お休みの日以外は駄目だって。」
「ぱぱぁ……」
チビどもはしゅんとして俺の顔を見るが、あきらめろ。


チビどものしつけに関しては、クラウドの方が厳しい。
と言うか、俺はそもそも、しつけ自体がどうしたらいいのか、よく解っていないので、加減が解らないのだ。
だから、クラウドの言う事には逆らえないわけで……
決してクラウドの言う様に、甘すぎるわけではないと思うのだが……


「解ったなら、お返事は?」
「ハイです……」
「はーい……」
不満気なチビ達に、手を振って、俺は寝室の扉を開けた。

仕方がない、今日のスクランブルエッグは、チビどもの分だけ、生クリームと蜂蜜たっぷりで、ふわふわに仕上げてやるか…クラウドには見つからないようにな。

…俺は決して甘いわけではないぞ……


誰にともなく言い訳をして、俺は髪に残るミルクの臭いを思い出して、先にシャワーを浴びるべく、バスルームに向かった。


甘いミルクの臭いと、柔らかなパステルカラー、今までの俺の人生には決して縁がなかった物。しかし、なかなかいい物かもしれないと最近は思い出している。



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