書き初め

カーン、カーンと軽い音が響く、ひらりと翻る蒼い袖。
「あ、しまった!」
「残念だな、又俺の勝ちだ。」
セフィロスは悪戯っぽく笑うと、筆を片手にクラウドの側による。

「さて、どこに書こうかな。」
羽子板を持ってぶーっとむくれたクラウドの顔に、筆で大きく字を書くセフィロスは心底嬉しそうだ。
「だいたいずるいよ、俺こんな動きにくい格好じゃフェアじゃないじゃん!」
「それは今更言いっこなしだ、ちゃんと夕べ約束したじゃないか、今日は振り袖着て過ごすって。」
「…約束って…ずるいよな、あれは…」
赤い顔をしたクラウドが、じろりとセフィロスを睨みつける。無理はない、その約束した状況と言うのは、クラウドがセフィロスによって天国に連れて行かれている真っ最中…頭は真っ白、息も絶え絶えなその時に、約束したと言われてもクラウドに確かな記憶はない。

「俺だってちゃんと約束守って、着物を着てるじゃないか。」
「んな事言ったってさ、断然そっちの着物の方が動きやすいじゃん。」
そんな約束したっけ、と思いながらちらりとセフィロスを見上げれば…

セフィロスが着ているのは男仕立ての黒の大島紬。遠目に見ると地味な黒い着物だが、近くで見ると複雑に入り乱れる幾何学模様の染めと、独特の絹の光沢、単一の黒でない黒褐色の深みのある色合いが銀色の髪によく生える。少し白めの博多帯できゅっと腰を締めれば、元々高い上背がよりすらりと強調されて、まさに「粋」という言葉そのものだ。

「俺だってそっちの方がよかったよ、かっこいいしさ。」
「言いたかないが、ある程度肩幅がないとこっちの着物は似合わないぞ。もう少し身体ができたらこっちの着物を仕立ててやるから。」
「どうせ俺はチビですよ!」
「いいじゃないか、おまえはその着物とっても似合ってるぞ。」

うっとりとした翡翠の瞳で見つめられるというのは悪い気はしないのだが、作家物の一点物だかなんだか知らないが、地模様のある鮮やかな青に、色とりどりの花が描かれた手書き友禅の振り袖が似合うと言われても、男としてあまり、いや、全然嬉しくない。
「だいたいずるいよ、こんな長い袖で羽根突きしたら、俺が負けるに決まってるじゃん。それに朝からあんなことしたから腰が重いしさ。」
言ってしまったとクラウドは思った、案の定セフィロスがにやりと笑って顎をくいっと持ち上げる。

「あんな事というのは、どんな事だ?ん?」
「解ってるくせに!この性欲魔神!」
首まで赤くなってセフィロスを見上げるクラウドは本当に可愛い。
クラウドの瞳と同じ蒼い振り袖、金糸銀糸で刺繍をした西陣織の赤い帯、大きく後ろを抜いた襟足から覗くピンク色に染まったうなじ。
こんなに似合うのにどうしていやがるのだろうと、自分勝手な事を思いながらセフィロスは持っていた筆を放り出して、クラウドの腰に手を回した。
下着などという無粋な物はつけさせていないので、薄い絹の布地ごしでも這わす掌に、クラウドの魅惑的な尻のラインをしっかり感じる。

「ちょ…セフィロス…」
怪しい手の動きにクラウドは慌てた。
それでなくても今日の朝、初めてみる着物姿のセフィロスのあまりのかっこよさに、思わずぼーっと見とれていると、しっかりセフィロスの魔の手が伸びてきたのだのだ。

どうやらクラウドのうっとり顔に刺激されたらしいセフィロスは、もう着付けの済んでいるクラウドを後ろから抱きしめると耳元でそっと囁いた。
『知っているか?着物って着たままできるんだぞ。』
何を?と問う暇もなく、セフィロスの手が脇の間から入ってきて、直に肌を嬲られる。そのまま首筋に齧り付かれ、裾をめくられて、リビングのテーブルに手をつく格好でしっかり後ろからいたされてしまったのだ。
しかも ”ほとんど着たまま、脱がずにする” というシチュエーションに、不覚にもいつもより興奮してしまった自分がいるからたまらない。
絶対にあの二の舞は避けないと…それでなくてもから自宅の庭とはいえ、さわやかな新年の昼日中から外でいたすのは、あまりにも気が引ける。

「セフィロス、いい加減にしろよ…」
しっかり抗議したつもりだが、薄い布越しに腰から背中にかけて撫でられて、語尾が自然に震えてくる。
気をよくしたセフィロスが裾の間から手を差し入れようとした時に、インターフォンから元気な声が響いた。


『おめでとうセフィロス、クラウド!新年の挨拶に来たわよ、ザックスも一緒、早く鍵あけてね。』
固まる二人にさらにその声は響く。

『どうしたの?さっさと開けなさいよ、解った昼日中からいちゃついているんでしょう、いい加減にしときなさいよね新年早々から…』
これ以上ほっておくと何を言われるか解らない、セフィロスは軽く舌打ちしてクラウドから離れるとインターフォンのスイッチを押した。
「今鍵を開けたぞ、庭にいる。」


「きゃあークラウド、綺麗。それ着物でしょう?…顔どうしたの?」
入ってきたエアリスが怪訝な顔をする。
「あ…これはさっき『羽根突き』ってのをやってたんだよ。」
エアリスの言葉で自分の格好に気づいたクラウドが、慌てて逃げ出そうとするのをセフィロスが捕まえる。
「日本の伝統的な遊びだ、この羽子板で羽根を突き合って、落としたら顔に墨で字を書くんだ。」

「へえ、だからにーさんとクラウドそんな格好してるのか、で、クラウドぼろ負けなわけね。」
続いて入ってきたザックスが、しげしげとクラウドの顔を見る。

「仕方ないじゃないか、おまえもこれ着てやってみろよ、すごく動きにくいんだぞ!」
不機嫌なクラウドに食ってかかられ、ザックスは慌ててフォローした。
「ま、でもいいじゃないか、にーさんの愛情いっぱいでよ、うーん羨ましいような愛情表現だぜ。」
その言葉にさっきまで行為を思い出し、クラウドの顔が真っ赤に染まる。
「うるさいな!なんでそんな事解るんだよ!」

何してたか解るわけないよな…と思いつつ、どぎまぎしていると、ザックスがきょとんとした顔で答えた。
「何言ってんだ、ちゃんと顔に書いてあるじゃねーか。」
「顔に??」
にやりと笑うセフィロスに、イヤな予感がしたクラウドは慌てて鏡を探す。笑いながら差し出されたエアリスのコンパクトに顔を映すと…

「…セフィロス…」
書かれていたのは『My Lover』『Sweet Honey』『 Sweet Heart 』『Beloved Person』…

「何か文句あるか?本当の事だ。」
しれーっと言うセフィロスを真っ赤な顔で睨みつける。顔が汚れるのも気にせずに、ごしごしと字を消そうとしていると、エアリスが言った。

「だめだよクラウドそこだけ消しても、ちゃんと後ろにも書いてあるから。」
「後ろ??」
覚えのないクラウドにエアリスはくすくす笑うと、うなじを指さした。
「ここにね、ちゃあーんとキスマークで『 Lover』ってね。」
赤くなるどころか青くなったクラウドに、追い打ちを掛けるようにセフィロスが言った。

「朝つけたてのほやほやだ、背中じゅうにつけてるぞ、もっとも見る事を許されるのは俺だけだがな。」
「セフィロス!」
「いいじゃないか、これが俺の『書き初めだ』今晩は『姫はじめ』だな。」
「『姫はじめ』って?」
「新年最初のえっちをする夜の事。」
「もう朝から2回もやったじゃないか!…」
自分の言った言葉にはっとして青くなり、続いて真っ赤になったクラウドを、セフィロスはぎゅっと抱きしめると、人目も憚らないような熱烈なキスをお見舞いする。

そんな二人を見て、エアリスとザックスは今年も相変わらずだというように首をすくめた。



          

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