| 衣更え 『今は昔の物語』番外:翠嵐の流れる日 |
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季節は移ろいを見せていた。 クラウドがこの邸に来て、しばらくの時が経ち、季節は移ろう。 セフィロスと思いを通じ合わせる事で、ようやっとクラウドの心は平穏を見せ始めた。 世話役として付けられた、金剛と真珠の二人の存在にも、ようやっと馴染み始めた。とは言っても、二人の使徒を使いこなすに至るには、まだまだ時が必要なのだが。 そんな折、セフィロスとクラウド二人を前にして、にっこりと柘榴が意味深な笑みを向けて言の葉を紡ぐ。 「そろそろ、衣替えの準備をしなくてはなりませんね。」 本当に嬉しそうに楽しそうに宣言した柘榴の周りで、いつのまにやら勢揃いした使徒達がかしましい歓声を上げる。 その沢山の高い声に驚いて、思わずクラウドはセフィロスにしがみつく。 そんなクラウドを当たり前のように膝の上に抱き寄せながら、セフィロスは諦めたような苦笑を浮かべる。 「とうとうこの時期が来たか………クラウド、覚悟しておけ。」 セフィロスの言葉の意味が良く分からずに、クラウドは首を傾げる。 「あの………お手伝いすればいいんですか?」 クラウドの言葉に、セフィロスは更に苦笑を深める。 「確かに、手伝いと言えば手伝いだが………恐らくお前が思っているのとは少し違うだろうな。」 「え?」 「これたちの言うがままに、着せ替え人形になる覚悟をしておけ、ということだ。」 「え?え??」 セフィロスの言葉に、クラウドは更に首を傾げる。 「主様、その言い方では、私(わたくし)たちが悪者に聞こえますが。」 「気のせいだ。」 いけしゃあしゃあと言い返すセフィロスに、柘榴も負けてはいない。 「ならば、何も気にする必要はないということですわね。」 「お前たちが気にしたことがあったか?」 「これはまた、異なことを。我々がどれだけ主様の御心を気遣っているか。」 白々しくも袖で目尻を押さえてみせる柘榴に、セフィロスは非常に嫌そうな顔をする。 「………お前、やり方が義母上とエアリスに似てきたな。」 「主様の側で仕える為に、御二方には日々御指南仰いでおりますれば、仕方のないことかと。」 ………こうやって、無駄に強靭な女性が増えていくのか………と、げんなりした思いを抱えつつも、セフィロスはどこか投げやりに言い放つ。 「とにかく、必要事項は分かっている筈故、あとはお前たちの好きにすればいい。」 「お言葉、確かに承りました。御二方の御衣装は、我ら使徒が責任をもって、此度も過不足なく揃えましょう。」 「任せた。必要以上に俺たちの手を煩わせることは無いようにな。」 無駄とは思いつつも、セフィロスは一応の釘を刺す。 「勿論で御座います。」 満足そうな笑みを浮かべる柘榴を筆頭に、十二人の使徒達から異様なやる気が伝わってくる。 その様子に、セフィロスは深い深い溜息を吐いた。 それは、いつもの光景。 衣替えの時期が巡ってくる度の、恒例のやり取りと会話。 いつもと違うところと言えば、今年はクラウドがいるせいで、使徒達のやる気が例年以上ということぐらいである。 早速わいわいとかしましく盛り上がり始めた使徒達から逃げるように、セフィロスはクラウドを抱いたまま、その場を辞した。 ………逃げるが勝ち、というやつである。 ◆◇◆◇ 館の中は、かしましい声と軽やかに走り回る使徒達の足音によって、にわかに騒々しくなった。 セフィロスはその騒々しさを厭い、静けさを求めて、クラウドを抱いたまま庭に降り立った。 しばし歩き、使徒達の声の届かない場所に移動すると、セフィロスはクラウド抱いたまま器用に、ポンと一つ拍手(かしわで)を打つ。 途端、どこからともなくワラワラとセフィロスの式神たちが寄ってきて、その庭の一隅に毛氈(もうせん)を敷き、大きな傘を立て、あっというまに暫し憩うのに丁度よい場所を設える。 場所を設えてしまえば、式神たちはまたワラワラとどこへともなく去ってゆき、その場には静けさと二人だけが残される。 「折角の日和と季節、堪能しなければ勿体無いからな。衣替えが済んでしまえば、本格的な夏だ。こうやって昼間に外で憩う事なぞ出来なくなる。」 そう言ったセフィロスは草履を脱いで毛氈の上にあがると、そっとクラウドを降ろす。そして、そのしっかりとしていながら優美な身体を、長々と毛氈の上に横たえた。 そんなセフィロスに、どうすればいいか戸惑って立ち尽くすクラウドに、セフィロスはどこまでも優雅に手を差し伸べる。 「おいで、クラウド。」 その言葉に、クラウドはくらりと眩暈にも似た感覚に陥る。言霊でも呪縛でもないけれど、クラウドはその言葉に、その眼差しに、その差し伸べられた手に、全てでもって全てを搦め取られる。 もうとっくに全てを捧げたというのに、これ以上何を捧げればいいのか………途方に暮れてしまう。 困惑しながらも、セフィロスの手を取れば、ゆっくりとその懐に引き込まれるから、引き込まれるままに膝をつき、セフィロスにもたれかかるようにして擦り寄る。 「また、詮無き事でも考えているのか?」 くすりと笑んでセフィロスがその頬を撫でれば、クラウドはますます困り顔になる。 「どうした?何を考えていた?」 セフィロスの問いに、クラウドは更に困ってしまい口篭る。 そんなクラウドの様子に、セフィロスは更に笑みを深める。セフィロスが気を遣ったり、心配そうな顔を見せると、クラウドはますます困惑して口篭ってしまうという事は、すでに経験済みである。だから、セフィロスは笑みを見せる。 「あぁ、そんなに困った顔をするな。無理に整理して言おうとしなくていい。お前の思うままに言えば良いのだから。それに時間もたっぷりとあるから、急がなくていい。」 セフィロスは自分の体に凭れ掛かるように座っていたクラウドの腕を引き、自分の横へと横たえる。 自分の腕を枕にさせ、懐深くに抱きこむことで、クラウドがと言うよりもセフィロスの方が安堵する。自分に自信の持てないクラウドは、そのせいで頼りなく儚く、いつかするりと何処かへ行ってしまいそうで。だから、その細い身体を抱き締めていると、その間だけはその存在を深く感じられて、セフィロスは安堵するのだ。 ………自分が、こんなにも情けない状態になるとは………そう思いつつも、今の状態を不満に思うでもなく、改善する気もない。クラウドをこの手に留め、感じるためならば、何と言う事もないのだから。 深く抱き込まれる事で安心したのか、クラウドが口を開いてポツリポツリと心情を語り始める。 「俺、セフィロスに色々なもの貰うばっかりで、何にも返せてない………。それなのに、好きになっていくばっかりで、どうしていいか、分からなくなって………。」 思いがけないクラウドの言葉に、セフィロスは一瞬驚いて目を見開くが、すぐにその顔には満面の見事な笑みが浮かぶ。 意識などしていないだろうが、こうやって、クラウドだけが鉄面皮を言われるセフィロスをいとも簡単に笑わせることが出来る。それがどれだけ凄い事なのか、クラウド自身は全く理解していない。 「クラウド、与えられたものを等価で返すというのは、不可能に近い。売買ならともかく、親しい者の間での行ないに、等価を求めるのは無意味で無駄な事だと俺は思うがな。」 「でもっ!俺は、何にも、何にも出来ないし、何も返せない………貰うばっかりで。」 「………本気で、そう思っているのか?」 やれやれとわざとらしく溜息を吐いたセフィロスに、クラウドは薄い肩をビクリと震わせる。 「お前は、自分がどれ程の事を成しているか、全然気付いていないのだな。」 セフィロス自身ですら、知らなかった。自分がこんな風に、穏やかに笑えるという事など。 自分は昔から、義妹のように笑う事が得意ではなく、その傾向は年を経るごとに強くなっていった。ほんの一握りの人間以外、側に寄って来る者は、力とか皇の血とか財とか権力とか、そういった益体も無いものばかりに執着する者ばかりで、笑う気になどなれはしなかった。 こんな、満ち足りた気分になる事など、なかった。 考えるだに、自分は仕事柄、普通の貴族連中よりも沢山の人間に会っていると思う。この身に受けた『黒の星』の力を使って、普通ならば行けない所にまで足を伸ばしたことも、一度や二度ではない。そうやって、数え切れないほどの人間に会ったが、自分をこんなにも安堵させる人間に会ったのは、初めてだった。 自分を愛情込めて育ててくれた、義父母達と共にいても、ここまで穏やかな気分になったことはなかった。義父母は本当に良くしてくれたが、セフィロスはそこが自分の居場所ではない事を、知っていたから。 クラウドだけ。クラウドというたったひとりだけが、成しえた事。 クラウドだけが、セフィロスに本当に安らぐための居場所を与えた。 「お前が俺に、どれ程のものを与えているのか、お前は全く理解していないのだな。」 「………???」 紡がれるセフィロスの言葉の意味が良く分からなくて、クラウドはもそもそとセフィロスの胸元から顔を上げると、一生懸命にセフィロスの顔を覗きこむようにする。 「………ごめんなさい………俺、セフィロスの言ってることが、よく分からない。」 セフィロスの傍にいたくて、セフィロスの事を知りたくて、だからセフィロスの言っていることの一言も聞き漏らさずに………でも、セフィロスの言葉は難しい事が多くて、クラウドには理解できない事が多くて………そのことがクラウドを切ない顔にさせる。 一生懸命で切ないその瞳は、そして何もあげられるものがないというその気持ちは、クラウドがセフィロスの傍にいたいと欲している、その証。 だから、一生懸命なその姿に、セフィロスは自分の中が満たされていくのを感じる。 「お前が、こうやって、俺の腕の中にいてくれるという事こそが、お前が俺に与えてくれる最高のものだな。」 「でも!それは、俺も嬉しいからっ!」 「そうか、需要と供給の一致は重要だから、喜ばしい事だな。」 「そうじゃなくって!他にも!セフィロスは俺にいっぱいくれるけど、俺は、俺は何にも無くて………この、汚い体しかなくってっ!!」 せめて、綺麗だったら、この体だけでも綺麗だったら、こんなにまでどうしようもない思いに囚われずに済んだのか? 身も心も捧げて、でも、与えられるものが大きすぎて多すぎて、こんな汚い体と心じゃ全然足りなくて………天秤が釣り合わない事なんて分かってるのに、それでもセフィロスを求めてしまう自分の浅ましさに嫌悪する。 「………俺には、何にもないのに………。」 何度言えば、この子は理解するのか?自分の持っているものの事を。そして、その身が穢れてなどいない事を。 「クラウド、何も無い者を、俺は傍に置いたりしない。お前がいる事で俺は満たされる気がする、お前がこうやっている事で俺はほっとする。だから、お前をこうやって手元に置くためならば、俺は何でもする。」 「……セフィロス。」 「お前だけだ。お前だけが俺を安らがせる事が出来る。だから、俺の為に、こうやって傍ににいてくれ。………それでは駄目か?」 「セフィロス!」 ぎゅ、と、セフィロスに圧し掛かるようにして、クラウドはセフィロスの首筋にしがみつく。大好きなその人の肩と、その肩に流れる銀色の滝に顔を伏せる。 「今は、今はそれだけでいいのだ、クラウド。焦るな。学を積み、術を磨き………そうしていつか、時が来れば、俺を助けてくれ。」 「………いつか、いつか俺も、セフィロスの役に立てるの?」 くぐもった声が、それでも必死に希望の糸に縋るかのように、セフィロスに問いかける。 「あぁ、お前だけだ、クラウド。お前だけが、きっと俺を救う事ができる………きっと………。」 やっぱり、セフィロスの言葉はクラウドには良く分からなかった。 でも、もう、いいと思った。 今自分が役立たずなのは自分で分かりきっている事、でも、セフィロスはいつか自分が役に立つと言ってくれた。他でもない、セフィロスの役に立つと。 今は、それでいいと思った。 風が心地よくて、抱き締め、抱き締められた体温が心地よくて、どちらからともなく目を閉じた。 ◆◇◆◇ 「兄様!!兄さまってば!!!」 突然振ってきた声に、セフィロスは面倒臭げに目を開け、眉を顰(ひそ)める。 目の前には、かしましい義妹の顔。エアリスが、どこかすねた顔をして立っていた。 「もーう、ホントに、兄さまばっかりずるい!いーっつも、そうやって兄さまばっかり、クラウドと楽しいことしてるんだから!」 「は?」 「衣替えの準備するっていうのに、呼んでもくれないし、兄さまばっかりそうやって、クラウドと仲良くお昼寝したりしてるし。」 「………あのな。」 「そりゃーねぇ、兄さまとクラウドがラブラブだっていうのは知ってるけど、偶には私とも遊ばせてくれたって、いいじゃない!!」 むきぃ、と甲高く大きくなる声に、セフィロスは宥めるように手を上げる。 「待て、少し声を落とせ。折角クラウドが気持ち良さそうに眠っているのに。」 「………あ。」 だが、注意した時には既に遅く、セフィロスの上に乗っかるようにして眠っていたクラウドが、ごしごしと目を擦りながら起き上がる。 「………ん………あれ?」 茫洋とした蒼い瞳が周りを見回し、ちゃんとセフィロスの傍にいること、そしていつの間にやら現れたエアリスの姿を認める。 「エアリス様?」 茫洋としたまま呟かれたクラウドの言葉に、エアリスは花の顔(かんばせ)を盛大に顰(しか)めてみせる。 「もーう。様なんてつけないで、クラウド。エアリスって呼んでって言ってるじゃない。………兄さまだけ呼び捨てなんて、ほんとーにずるいなぁ。」 起き抜けのところに勢いよく叫ばれて、驚いたクラウドは、思わず再びセフィロスにしがみついてしまい、それがますますエアリスの興奮状態を上げてしまった。 「兄さまばっかりずるーい!!私もクラウドにぎゅってされたい!!!」 がぁっ!!と、深窓の姫君とはとても思えない状態で吼えるエアリスに、クラウドはどうしていいか分からなくなってしまい、完全に腰が引けてしまっている。 別にエアリスの事を知らない訳ではなし、クラウドとしてはエアリスの事も大好きなのだが、セフィロスと比べる事自体で、そもそも間違っているのである。クラウドにとってのセフィロスの存在は、他の何と比べられるわけでも変えられるものでもない、唯一絶対的なものなのである。 その存在と、寵を競おうというところからして、そもそもエアリスは間違っているのだが………別にエアリスとて分からないでやってるわけではない。実際のところ半分以上が冗談なのである。 からかうと言うよりも、困ってセフィロスに縋るそのクラウドの姿を見たいが為に、わざわざやっているようなものなのだから。 「やれやれ、全く。」 抱きついてきたクラウドに頬を緩めながらも、口ではセフィロスは困ったような溜息を吐く。 「あ、兄さま、それよりも早く館に戻ってよ。使途の皆が待ってるよ。私も、兄さまとクラウドにお土産持ってきたんだから、合わせてもらわないと。」 「合わせる?」 「そっ。今日、こっちに遊びに来ようと思ったから、先触れに蛍惑を使いに出したら、何やら楽しいことしてるって話じゃない。だから、反物どっさり持ってきたわ。」 「なんだと?」 「だーって、当然でしょ?兄さまに着せようと思った分も結構あるけど、何よりクラウドに色々着せたいじゃな〜い。母様と上総からも持たされたし………お陰で、牛車1台じゃ来れなかったわ。」 「………。」 普通、牛車にはあまり物を詰め込まない。しかし、エアリスはあまり気にせず、場所が勿体無いと結構荷物を積み込む。この辺の型破りっぷりは、流石にセフィロスの妹である。牛車には人が乗り合わせることも多いので、それなりの広さがあってかなりの荷物を乗せる事が出来るはずなのだが、それに乗り切らない量の物というととんでもない量になる。 「さ〜、行くわよ!」 有無を言わせずにエアリスはクラウドを抱いたままのセフィロスを、一石二鳥とばかりに引き起こすと、ぐいぐいと館の方へと引っ張る。 深い深い溜息を吐きつつも逆らっても無駄だと知っているセフィロスは、エアリスの引っ張るのに任せて、歩き出す。 セフィロスに抱かれたまま、クラウドが先程までまどろんでいた場所を見ると、再び式神たちがわらわらと寄ってきて、せっせと後片付けをしている光景があった。 ◆◇◆◇ 「さ〜、今度はこっちの生地は?」 「それならば、この色と合わせた方が良くありません?」 「こちらも捨てがたいですわよ。」 「あぁ、これは色違いの生地だから、主様と青の君と、揃いで作ると素敵なのでは?」 「折角ですから姫様も、この模様で一枚お作りになっては?」 「わぁ、3人でお揃いなんて、素敵ね〜♪」 「いっそ、3人揃いで、十二単を作ってみるのも楽しいのでは?」 「わはははは〜、柘榴、それ、最高よ!!一揃い作ってみましょうか!!」 もはやセフィロスにとっては悪夢のような話題も交えつつ、エアリスを加えた衣替え隊の興奮は、もはや最高潮である。 セフィロスとクラウド、雛人形のように並べて座らせ、あーでもないこーでもないと、反物を掛けたり外したりと本当に忙しない。 外すよりも掛ける反物の数の方が多いので、今やセフィロスとクラウドの肩にはずっしりと何枚もの反物が掛けられており、クラウドの方はもう反物に埋もれている状態に近い。 クラウドはどうしていいか分からずに、蒼い瞳をきょときょとさせつつ、時折セフィロスに助けを求めるような視線を送る。セフィロスの方は出来るだけクラウドに笑みを向けつつも、眉間に寄った皺の深さは相当なものになっている。 「………おい、そろそろ、いい加減にしろ。」 低い声は、どこをどう聞いても機嫌が悪い声。普通の人間が聞いたら、それだけで固まるような、そんな剣呑とした色を漂わせている。 だが、今回、相手は無駄に強靭な女性達である。それくらいで怯むはずがない。 「え〜、何言ってるの兄さま。まだまだこれからじゃない。これから、更にオススメの布が出てくるのに。」 不満というよりも、どこか呆れたように言うエアリスに、柘榴が即座に同意する。 「そうでございますよ。我らが用意した分も、全然出し切っておりませんゆえ。」 二人の言葉を裏付けるように、年少の使徒達や五曜たちが、まだ山のように反物を抱えて部屋に入ってくる。 「お前たち、一体どれだけ作るつもりだ?」 「主様の分は、例年通りか、少し多目に。青の君の分はそれ以上に。何しろ作らない事には、衣装がありませんから。」 にっこりと言う紫水の言葉に、自分が何も持っていないという事を再確認させられ、クラウドが視線を伏せる。 そんなクラウドの様子を見ながら、真珠がおっとりと口を開く。 「特に青の君の今までの衣装は何しろ急ごしらえで、かなりのご不自由をおかけしましたから。これから先はそのような事が無い様にせねばなりませんからね。」 「本当に。我らが至らぬばかりに。」 そう言って真珠と金剛の二人は、クラウドに向かって深々と頭を下げる。 慌てたのはクラウドの方である。 不自由どころか、今までに着たことの無いような雅で上質な衣装を、使徒達はクラウドに何枚も用意してくれていたのだ。それは今までが基本的に着たきり雀だったクラウドにしてみれば、多すぎると思うくらいの量で。 使徒達が用意してくれた衣装に、不満など持ったことなどないのだから。 「えっ!?そんなっ!!俺、不自由なんて全然しなかったのに!」 ぷるぷると頭(かぶり)を振るクラウドに、それでも真珠と金剛の渋面は晴れない。 「お気遣いはありがたく存じますが、あれでは不十分だったという事は、我ら自身よく心得ておりますゆえ。」 「えぇ。だからこそ、此度(こたび)は十二分なほどに用意させて頂きますわ。」 「でもっ!」 使徒達が用意するということは、それは元来セフィロスの為の物である筈で、だからこそクラウドは困ってしまう。 クラウドと使途達のやり取りを黙って見ていたセフィロスだったが、ふむ、とひとつ肯くと、口を開く。 「ならば、お前達は今回クラウドの衣装の準備に専念すればいい。俺の分は今までの物で十分だろう。」 使徒への気遣いと、自分の分の回避と、半々に混ぜて紡がれたその言葉に、刹那の時を置かずに使徒達から猛反発がくる。 「何をおっしゃいます!!今を時めく主様に、昨年の物をそのままお着せするなど、我らに出来る筈がございませんでしょう!!」 「そうよ!!流行遅れのものを兄さまが着るなんて、犯罪よ!犯罪!!阿呆のよーに届け物が来るわよ!」 「そのような事、我らの矜持が許しませぬ!」 四方八方から攻められて、流石のセフィロスもうんざりした顔をする。 「だいたいねぇっ!兄さまはものぐさ過ぎるのよ!!だから、私や使徒の皆がいっつも苦労するんだから!」 「そうでございますよ!」 エアリスもいることで、女性陣の攻撃は容赦なく鋭くなるばかり。 集中的に攻撃され、溜息を吐くばかりのセフィロス。 ある意味いつも通りといえばいつもの光景なのだが、今年はセフィロスが一方的に攻撃されているのを耐えられない人物がいた。 クラウドである。 セフィロスでさえ言い返すことが出来ない相手なのだから、クラウドが言い返すことなど出来る筈が無い。 だからクラウドは、口を開くのではなく、行動を起こした。 突然、すっくと立ち上がったクラウドに、皆の視線が集まるが、クラウドは躊躇うことなく埋もれるほど肩に掛かっていた反物を落とすと、セフィロスの元まで歩み寄る。 「どうした?」 どこか泣きそうな顔で自分を見つめてくるクラウドに、セフィロスが問うが、クラウドはそれに答えずに、倒れ込むようにしてセフィロスに抱きついた。 「………どうした?クラウド。」 セフィロスが問うが、クラウドはただセフィロスを抱き締めるばかりで、答えようとはしない。 ただ、セフィロスを守るように、セフィロスに害なすものをその身でもって排除するかのように、クラウドはセフィロスを抱き締める。 そんなクラウドの一生懸命な様子に、くすり、とエアリスが笑みを漏らした。 「本当に、クラウドは兄さまが好きなのねぇ………参っちゃうわ。」 エアリスの言葉に、使徒達からも好意的な笑いが、クスクスと漏れてくる。 そんな風に言われてしまっては、クラウドとしては益々顔が上げられない状態になり、更に強くセフィロスに抱きつく。 そんなクラウドに、セフィロスも柔らかい色を浮かべると、クラウドを宥めるようにクラウドの背を柔らかく叩く。 「俺を庇ってくれたのだな。ありがとう、クラウド。」 セフィロスの言葉に、クラウドはフルフルと首を振る。だが、離れようとはしない。 その様子に、エアリスも気の抜けたような溜息を吐く。 「仕方ないわね、休憩にでもしましょうか。」 ふわり、と優しい風が通り過ぎた。 ◆◇◆◇ 結局、その日は続きは諦め、後日仕切り直しとなった。 先日のクラウドの反応のお陰で、セフィロス側と女性陣側、クラウドの手前共に多少の譲歩を覚え、その後の衣替えに関する様々な事は例年になくつつがなく終わった。 そして卯月一の日、衣更えはつつがなく終わった。 色違いの揃いの薄衣を纏って並んだセフィロスとクラウドは、今まで以上に二人合わせていることが普通で、幸せそうに見えた。 それは、緑の勢いがいっそう増す前の、柔らかな風の日だった。 ◆END◆ top |
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