花 火



じりじりとした陽射しが肌を刺す、クラウドは額にかかる前髪をかきあげ眩しそうに目を細めた。
街の広場では祭りの準備がすすんでいる。大きな櫓が建ち、甘い匂いのするお菓子や、射的の出店が次々に並び、子供達が手に手に銅貨を握って目当ての店に走っていく。
彼の故郷の小さな村でも見られていた同じ様な光景、もっともクラウドは他の子供達とは少し距離を置いていたので、あの中に混じった事はない。

「よお!坊主!このバッグパックは最新モデルだぜ、このへんじゃもう売り切れてる奴だぞ、学校で自慢できるぜ。」
「そんなのよりこっちはどうだ?このネックチェーンはかっこいいぞ、学校でもてまくる事請け合いだ。」

昼間っから出店をのぞいている自分は、大人に見えないのだろうか?と少し落ち込みながら無視して通り過ぎようとした時、目の前に大きなソフトクリームが突然出現した。


「!」

「暑そうなお坊っちゃん、当店自慢の甘いソフトクリームはいかがですか?」
「セフィロス!」
クラウドはギロリと目の前の男を睨んだ。
黒のノースリーブに白の綿パン、というありふれた格好。しかし、輝く銀色の髪を緩く一つにまとめ、ごっつめのサングラスをかけた姿は、信じられないくらいかっこよく、十二分に人目を引いている。
セフィロスは、からかう様な顔をしながら、30センチはあろうかというソフトクリームをクラウドに差し出していた。

「この辺の夏の名物だ、これだけの高さが出せる程品質がいいそうだ。」
「何だよ、お坊っちゃんて!」
「好きだろう?ソフトクリーム。」
「そりゃ好きだけど…」
悪戯めいた笑いを浮かべるセフィロス、きっとさっき子供に間違えられたのを聞いていたのだ。

「オレがガキだって言われているみたいで、気に食わない!」
ぶすっとした横顔に、セフィロスがソフトクリームを押し付ける。
「ほらすねるな、それでもソフトクリームに罪はないだろう?溶けるぞ。」
渋々受け取りぺろりと舐める、喉越しのよい冷たい甘さが口中に広がった。
「あ、ほんと…これ美味い。」
「気に入ったか?よかったな。」
とたんに機嫌を直すクラウドを見て、セフィロスが今度は嬉しそうに笑った。

「なんでぇ!やっぱしガキだな、食いもんの方がいいのか。そっちのかっこいい兄ちゃん、このペアリングなんてどうでい?もう彼女いるんだろ?にいちゃんに似合いのべっぴんさんがよ。」
言われて再びぶすっとしたクラウドの肩を抱き、セフィロスはぺろりとクラウドの唇についたクリームを舐める。
「あいにくオレはこっちの方が好きでな。」
あんぐりと口を開けた出店のにいちゃんを無視して、真っ赤な顔で固まったクラウドをさっさと連れ出した。

「な、なにするんだよいきなり!」
「何って、おまえ、ペアのリングが欲しかったのか?」
角を曲がったところでクラウドが、頭から湯気を立てて抗議した、ただでさえ目だつのに何するんだこの男は!
「そうじゃなくて人前であんな事するな!」
「オレは、自分の好みを主張しただけだ。」
「へえ、あんたがそんなにソフトクリーム好きとは知らなかったね。」
セフィロスがにっと笑う。
「おまえは何を聞いていた?オレはこっちを好きだと言ったんだ。」
とたんに塞がれる唇、ひんやりとしたバニラの匂いで一杯だったクラウドの口腔は、熱いセフィロスの舌でたちまち蹂躙された。

はふっと熱い息を吐き、クラウドが忌ま忌ましげに、目の前の端正な顔をにらみ付ける。
「もう!ただでさえ暑いのにくっつくな!あ、クリーム溶けてきてる、もったいない!」
ぽたぽたと、手に垂れてきたソフトクリームを舐めながら毒づくクラウドは、本当に可愛い。
この一見少年にも見える青年の実年齢を、だれが想像できるだろうか?
セフィロスの顔がふと陰る、人ならぬ道に引き込んだ張本人である事を、こうしたふとした弾みに思い出すのだ。
失ってはならない、自分の罪の記憶と共に。

「どうしたんだよ?」
気配に気付き、クラウドが心配げな顔をして尋ねる。
「いや、昔ゴールドソーサでだったか、こんな風におまえにソフトクリームを買ってやった事があったなと思ってな。」
失われて久しい地名を、セフィロスが口にする。
こんな顔で昔の話をしだす時に、この強い男が深く自分の傷をえぐっている事を、クラウドは知っていた。

「ふーん?あの時は確か2つ買ってもらった、バニラとチョコ。」
だからわざと陽気に返すと、セフィロスは寂しげに笑う。
「腹を壊すのではないかと心配してたんだ…あの時はおまえの無邪気さが年相応で微笑ましかった…」
「だからなんだよ?こんなガキの様なもん好きだから、今のオレは年相応に見られないって?」
「いや、そうじゃない、クラウド、この祭りが何の祭りか知っているか?」
首を振るクラウドに、セフィロスは答えた。

「『メテオ衝突から星が救われた祭り』だそうだ、さっきソフトクリームを買った店の老人が教えてくれた。もう覚えている者も少ないが、この祭りの最後に上がる花火は、メテオの災害の恐ろしさと、それを救ったライフストリームを模した所から始まったと。そういえば今頃の季節だったな。」
自嘲気な笑みを浮かべるセフィロスに、クラウドは一瞬言葉を失う。

かつてミッドガルと呼ばれたこの土地で、100年以上も続いている祭り。
時が止まってしまった自分には、100年と言う時間はあっと言う間だったが、普通の人にとってはとてつもない長い時間だ、その長い時間忘れられていなかった『メテオ』の災害、どれほどまでに人々を傷つけたのかよく解る。
そして、それをもたらした張本人である目の前の男が、その替え様のない過去をこうして突き付けられる度に、見えない血を流している事もよく解っていた。

「だから何だよ、夜には花火があがるんだろ?宿屋のオヤジが言ってたぜ『運がいいね、あんたたちの部屋は特等席だ』って。」
「クラウド…」
あまりにあっけらかんと言うクラウドにセフィロスは、少し戸惑った顔をする。

「まだ夜まで間があるけど、宿屋に戻ろうぜ…そして…」
思わせぶりにそこで区切ると、クラウドは背伸びをして耳元でそっと囁いた。
「…オレがもう、ソフトクリームで腹を壊すガキじゃないって、証明してやるよ。」




けだるげに目を覚ましたセフィロスの、指先に触れる優しい感触、洗いたてのシーツと、柔らかい金色の髪。
さっきまで妖艶にセフィロスを煽り、骨の髄まで蕩かしたとは思えない程、無邪気な寝顔で眠る青年。

おまえがいたから耐えられた。
自らの引き起こした罪に苦しむ人々を、未来永劫見続けなければならないと言う、この時の虜囚の身の上に。
そして、おまえがいたから許される。
オレの犯した罪の傷跡が、時とともに癒されていくのを見る事で、おまえと二人で見る事で。


セフィロスがそっと、微かに開いた淡紅色の唇にそっと口付けようとした時…

どーんという大きな音、揺れる部屋、窓から降り注ぐ極彩色の光。

「わ!な、なんだ?」
クラウドが慌てて飛び起きた、その間も音と光りの競演は止まず、灯りを落とした部屋の裸身の二人を美しく彩る。

「花火が始まったようだな。」
くすくす笑うセフィロスに、慌てて窓の側に駆け寄ると、空いっぱいに広がる大輪の花、花、花…
赤、青、黄色、ピンク、緑、オレンジ、紫…

素っ裸のまま嬉しそうに花火を見るクラウドに、セフィロスはそっと後ろからシャツを掛ける。
夢中で見上げる横顔は、昔、ゴンドラの中からはしゃいでいた姿を思い起こさせる。
セフィロスの顔が再び曇った時に、クラウドがふいに振り向いた。

「ねえ、セフィロス、この花火メテオとライフストリームを模したんだって聞いたけど、全然似てないね。」
「そうか?」
「そうだよ、あの時の光はこんなもんじゃなかった、信じられないくらい綺麗で、そして恐かった。」
その言葉で、抱きしめようとしたセフィロスの腕が止まった。
クラウドはかまわずにセフィロスの胸に、頭を預ける。

「でもね、オレは今のこの花火の方がずっと奇麗だと思うよ。」
「なぜだ?」
できるだけ平静を装って聞くと、クラウドはセフィロスの両腕を自分の胸で交差させ、にっこり微笑んだ。

「だって、あんたがここに居てくれるから…あの時はもう二度とあえないと思ったあんたが、こうしてオレと一緒に見てくれるから、オレにはこの花火の方がずっと奇麗だ。」
蒼い魔晄の瞳が切なげに、セフィロスを見上げた。

「クラウド…」
そうだ、おまえがいればいい、おまえさえ居てくれればいい。
この先何度贖罪の傷をえぐられようと、悔恨の想いに捕われようと、おまえさえいればオレは、この人ならぬ生を生きていける。

唇がゆっくりと重なった。
セフィロスの腕がしっかりとクラウドの身体を抱きしめ…

一際大きく夜空に咲いた大輪の花が、色とりどりの光で二人の影を美しく照らしだしていた。








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