学校の怪談


「では、注意事項は解ったな、それと夏休み明けに実力テストがあるから、さっき渡したプリントを各自繰り返し行う事、『楽あれば苦あり』逆もまたしかりだ、遊び過ぎるなよ。あと質問があればこの後受けるぞ、では解散。」
「起立!礼!」

挨拶を終え、教室内がざわざわしはじめる、今日は夏休みの間の登校日、全開にされた窓から流れてくる風は生暖かく、蝉の声はうるさい程に元気だ。
ぴかぴかに晴れた空は、なんで今日が登校日なんだと思うくらい、勉強よりも遊びに誘う。
しかし、クラウド達は受験生、ここで踏んばっておかないと、セフィロスの言った様に『楽あれば苦あり』と言う事になってしまう。
それに他のクラスはさておき、このクラスの生徒達は、久しぶりにセフィロスに会うのが嬉しくて、解散の声がかかったあとでも、各自問題集を持ち寄って、セフィロスに盛んに質問する。
もちろんセフィロスに話しかけたくて、わざと難しい問題集を探して来ているのだ、結果的にそれがクラスの学力向上に繋がっているのだが。

生徒に取囲まれ質問を受けるセフィロスを見て、クラウドは少しふて腐れる。
学校にくればただの生徒、同居しているのは絶対内緒。
解っているのだが、ああして可愛い女の子の質問に、優しく答えるセフィロスを見るのはやはりいい気分ではない。

なんだよ、鼻の下伸ばしちゃってさ…

セフィロスが聞いたらさぞかし『心外だ!』と慌てるだろうが、自覚はないがしっかりセフィロスに恋しているクラウドにしてみれば、こういう些細な事もきになってしょうがないのだ。
おまけに今日はセフィロスは『宿直』だ。


「えー?今時そんなことするの?」
思いっきり不満げな声を出すクラウドに、セフィロスはもっと不機嫌な声で返事した。
「そう、夏休みの間だけ生徒が輔導された時にすぐに対応できる様に、宿直をやってるんだそうだ、全く、輔導されたんなら責任持って親に引き取らせればいいのに。」
セフィロスはぶつぶつ言いながら、バッグに着替えや洗面道具を詰め込みだした。
「オレが明日帰るまで、いい子にして待っているんだぞ。」
言われた言葉に、クラウドは顔を真っ赤にして怒りだす。
「あんた人をいくつだと思ってるんだ?バカにして!オレ子供じゃないんだぞ!」
「ふーん子供じゃないのか、そうか。」
言いながら、セフィロスの瞳がキラリと光る。

やばい!と思った時はもう遅かった、がっしりと抱き寄せられ、降って来る唇。
最初は啄む様に軽く、そして忍び込んだ舌が次第に激しく口腔粘膜をかき回す。
驚いて縮こまった舌が、たちまちセフィロスに捕らえられ、絡ませると同時にきつく吸われる。
一緒に住む様になって、ペナルティと称し、又挨拶と称し、セフィロスはよくキスをする。最初は触れるだけだったキスが、しだいに深い物となっていったのはいつからだろうか?
だけどきらいじゃない、こんな風にキスされるのは嫌じゃない。
掌が優しく腰をなで上げ、絡む舌の柔らかい感触がぞくぞくと背筋を刺激する。
こうして唇を合わせ、舌を絡ませあうだけで、身体中が蕩けそうになる事をクラウドは最近知った。
「ん…ふぅん…ん…」
耳をくすぐるクラウドの漏らす甘い吐息、快感が深まると同時に無意識に腰を擦り付けてくるクラウドに、セフィロスは心の中でにんまりとほくそ笑む。

こうして少しずつ慣らしていって、卒業する頃にはめでたく頂いて、アメリカにかっ誘っていこうと言う算段だ。
そのためには少しお名残惜しいが、この辺で止めておかないと。

ゆっくり唇を離すと、すっかり力の抜けたクラウドの両手がだらりと下がる。
それでも潤んだ蒼玉の瞳で、精いっぱい睨みつけ怒鳴り散らした。
「なにすんだー!」
「今晩できないからな、お休みのキスだ。子供じゃないと言うから大人のキスをお見舞いしただけだが。」
「このセクハラ教師!!」
この後の返事は決まっている。
「おまえ限定のな♪」


思い出してクラウドは教室の中だと言うのも忘れ、思わず赤くなってしまった。
実はあの時あまりの心地よさに、しっかりいけない所が反応しかかり、ごまかすために慌てて怒鳴ったのだ。
もちろんそれを擦り付けられていたセフィロスは、しっかり気付いていたくせにそ知らぬふりを決め込んだのは言うまでもない。

「おいどうしたストライフ、急に赤い顔をして。」
いきなり後ろから声をかけられ、クラウドは慌てる。
「え?別にどうもしないよ、何か用か?」
「おまえ、今晩暇?」
今晩は一人でセフィロスのマンションだ、思わず頷いてしまった。
「そうか、実は今日みんなで肝試ししようって事になってるんだ、おまえも混ざらない?」

今晩セフィロスは帰って来ないし、まあいいか…

「いいよ、オレも混ざる、何時にどこに集まるんだ?」
「そうこなくっちゃ!9時に学校の前だ、家の人に見つからない様に気をつけろよ。」
「え!?」
「例の、うちの学校の怪談をみんなで暴くんだ、ちゃんとカメラも持って来るからな。」
楽しそうに言うクラスメイトに、場所を確認してから返事すればよかったと、深くクラウドは後悔した。




その日の9時、校門の前に集まったのはクラウドを含め、男女合わせて4人ずつ。
「じゃあ、向こうの壊れた所から入るからな。」
生徒はみんな知っているプールの横の塀の隙間から、クラウド達は無事学校の中に侵入を果たした。

「じゃあ、くじで男女一組になって例の場所に行くぞ、で、証拠として前に生えている桜の木をこのカメラで写してくるんだ。」
「おい、へんなもん写ったらどうするんだ?」
「それが半分目的なんだよ、もし幽霊が写ってたら雑誌社に投稿できるぜ。」
はしゃぐクラスメイトをしり目に、クラウドは気が気でない。
なんせこの学校の怪談と言うのは…


職員室の近くに、毎年翠色の花をつける桜がある、その桜は20年前に先生に恋した女生徒が、想いを打ち明けたのに振られてしまい、哀しみのあまりにその枝で首をつったというのだ。
それ以来その桜に呪いがかかり、他の花が散り終えてからしからしか花を付けない、そして花の色も翠色になってしまったと、まことしやかに伝わっている。

「なんで呪いで、花が翠色になるんだよ。」
バカにした様に言うクラウドに、女生徒が口を尖らせる。
「ロマンがないのねストライフ君、その女生徒はきっと好きだった先生にずっと自分を見て欲しいのよ、だからわざと他の花が散った後に花を咲かせて、だけど哀しみの心を示すために花は翠色になってしまったのよ。」
「よくまあそんな事、考え付くな。」
呆れるクラウドに別の男子生徒が言う。
「まあ、まあクラウド、問題はそこじゃなくて、その桜の木の下に時々その女生徒の幽霊がでるってとこなんだぞ。」
「本当か?」
「だから確かめるんじゃないか、2組のやつがこないだ忘れ物を取りにこっそり忍び込んだ時、あの桜の下にぼんやり浮かんだ人影を見たって言うんだぜ。」
「やだー!こわーい。」
女の子達は楽しそうな声を上げる。

ちっとも恐いと思ってないくせに…どうかセフィロスに見つかりません様に…

クラウドは心の中で神様に祈る、なんせ問題の桜の木は、宿直室の真ん前にあるのだ、見つかったら盛大にバカにされるか、怒られるか…

たぶんバカにされるんだろうな…

肝試しなどとうに頭から抜けてしまったクラウドを無視して、クラスメイトはさっさと回る順番を決めてしまう。

「ストライフ君、ほら次あたし達の番よ。」
言われてクラウドは渋々その場所に向かう、夜の学校はやはり無気味だ。
特に今夜は熱帯夜、生暖かい風が頬を撫で、しーんと静まり返った中で時折風のいたずらか、かたんと小さな物音がする。
その度に隣の女の子がぎゅっとクラウドに抱きつくのは、まあ悪い気はしないのだが、とにかく今のクラウドは、幽霊よりもセフィロスに会いたくない。
だから、、目の前をいきなり猫が目を光らせて横切っても、風で立てかけてあったほうきがばたんと倒れても、いっこうに気にせず、ずんずんと歩く。
とにかく早く写真を撮って、セフィロスにばれる前に帰ろう。

「ストライフ君って強いのね、見直しちゃったわ。」
女の子から感心された、その子はぎゅっとクラウドの手を握りぽそっと呟く。
「あのねストライフ君、あたし前からストライフ君の事、少しいいなって…」
ひょっとしてこれは告白と言う物か?赤くなったクラウドがどう返事しようかとどぎまぎした時に、女の子が脅えた声でクラウドをつつく。

「ね…ストライフ君…あれ…何!?」
「え?」言われて指差された方には問題の桜の木、そしてその下にぼんやり浮かぶ白い影は…

「きゃあーーー!!」
「わーーーー!!」

二人同時に悲鳴を上げ、互いに抱きつく。
その声でがらっと宿直室の窓が開き、裸のセフィロスが顔を出した。

「誰だ!」

セフィロスの目に、しっかり抱き合っているクラウドと女生徒が映り、たちまち絵に描いたような不機嫌な顔になる。

「お前達、こんなところで何をやってるんだ?」
さっきまでセフィロスに見つからない様にと、そればかり考えていたクラウドだが、幽霊を見たとなれば話は別だ。
「セ、セフィロス…お化け…」
「お化け?どこに?」
訳の分からない返事に、ますますセフィロスは不機嫌になるが、とうの二人は必死だ。慌ててもう一度桜の木をみるが、そこには人影なんてどこにもない。
「本当にいたんだよ、あの桜の木下にぼんやりと人影が…」
「そうよ先生、あたしも見たんです、ぼんやりとだったけど、確かに見たわ。」

何がお化けだ…いいかげん離れろ!

セフィロスはじろりとクラウドの顔を見る。

「どうせ何かを見間違えたんだろう、ところでこんな時間に何してるんだ。」
「確かに見たんだって!あんたこそ裸で何してるんだ?」
「ここは風呂場だ、オレは風呂に入っていたんだが。」
言われてセフィロスが上半身裸で身を乗り出しているのに気が付いて、女生徒が真っ赤になった。
今度はクラウドが不機嫌になる番だ、じろっとセフィロスを見ると冷たく呟く。
「とっとと服着ろよ、露出狂。」
「なんだと?」

急に冷えた雰囲気に女生徒がおろおろしていると、さっきの二人の悲鳴にびっくりしたクラスメイトが走って来た。
「なんだ、どうした?…あ、先生。」
「きゃー先生vvどうしたんですか?そんなかっこで。」
「キャーvv先生ったら、風邪引きますよ。」
「やーん先生の裸、かっこいいvv」
女三人よるとかしましいと言うが、上がる黄色い歓声にセフィロスは首をすくめた。
「だから風呂に入ってると言っているだろうが、ちょっと待ってろ、服を着て来るから。」
ぶつぶつ言いながら首を引っ込めるセフィロス。
「きゃあ、先生の裸が見れるなんて思わなかったvv」
「休み明け、みんなに自慢しようね。」
「あーん写真撮ればよかったな。」
「えー?撮ってどうする気?でもやっぱ先生の胸って逞しいね、ステキ!」

口々にきゃーきゃー言う女の子達に、さっきの悲鳴はもう忘れたんだろうと、クラウドを含め男の子達はがっくりきていた。

「で、お前達は何しに来たんだ?」
シャツを羽織って来たセフィロスが、じろりと全員をにらみ付ける。
みんなに押し出されたクラウドが、仕方なしに説明した。
「オレたち肝試しに来たんだよ、例の桜の木の伝説知ってるでしょう?」
「知らん。」
りっぱりと言うセフィロスに、クラウドは渋々伝説の話を始めた。

「あのな…」
セフィロスはあきれた様に頭を掻く。
「あの桜は『御衣黄』と言ってな、元々緑色の花をつける珍しい種類なんだ、呪いで緑色な訳じゃない。」
「えー?そんなぁ!でもさ、クラウド達はお化けを見たんだろう?」
「え?うん、さっきあの桜の下に確かに人影が…」
そう言ってクラウドが指差した時に、再び桜の下に浮かぶぼんやりとした影…

「きゃーーー!」
「でたーーー!」
パニック状態の生徒達をしり目に、セフィロスはすたすたと桜の木の下に歩いていく。
「ちょっとセフィロス!危ないよ、何してるんだ!!」
蒼い顔をして慌ててて叫ぶクラウドに、セフィロスはちょいちょいと手招きをした。

おっかなびっくり近付く生徒達に、セフィロスは木の側の排水溝を指差す。
「この排水溝はな、宿直室のふろ場に繋がっている。」
わけのわからない話に生徒達の顔にクエスチョンマークが浮かぶ。
「さっきオレが風呂に入ったんで、今この排水溝からさかんに湯気がでているな。」
「それがどうしたんだよ。」
「さっきも、今も、おまえがお化けを見たと言った時、塀の外を車が通った、ライトをつけてな。」
セフィロスは地面に落ちている枝で図を描きはじめる。
「『幻灯』の原理だ、おそらくあの塀のどこかに小さな穴があいているんだろう、塀の穴の側を人が通った時に、たまたま車のライトに照らされると、穴を通って映し出された映像が、排水溝から吐き出される湯気をスクリーンがわりにして映ったんだ。」
生徒達は感心してセフィロスの顔を見ている。
「どうしてあんたにそれが解ったんだよ。」
なんとなくしゃくに障ったクラウドが聞くと、セフィロスはにっこり笑った。
「簡単だ、さっき映った人影は逆さまだったじゃないか、『幻灯』の映像は逆さまに映るんだ『幽霊の正体見たり、枯れ雄花』ってとこだな。」
明かされた幽霊の正体に、生徒達はがっかりするより、さかんにセフィロスをほめる。
「さすが先生、頭いいんだね、たったこれだけですぐ解っちゃうなんて!」
「えー?『幻灯』ってそうなんだ、知らなかった。」
口々に誉めたたえる生徒に向かって、セフィロスはにーっこりと笑った。
「ところでお前達、学校に無断侵入したという事は、どういう事だか解っているな。」

その声で全員すっかり肝まで冷えたので、とりあえず今夜の肝試しは成功したのだろう。


「で、セフィロス、どうしてオレだけ一緒に泊まらないといけないんだよ。」
「罰だ、一緒に今日回収したプリントの整理をしてもらう。」
「オレ他のみんなみたいに、不得意科目のプリント20枚でよかったんだけど。」
宿直室でぶつぶつ言うクラウドを、そっと後ろからセフィロスは抱きしめる。

「こうしてお前を抱きしめないと、最近ゆっくり眠れないんだ。」
首筋に触れる吐息に、クラウドの顔が赤く染まった。
「オレは抱き枕か?」
「オレ専用の抱き枕だ、文句あるか?」
そう言って降って来る唇を、クラウドはゆっくり受け止める。
差し込まれる舌、さらさらと頬に落ちる銀色の髪、キスされる度にもっと深くと願ってしまう自分は、最近少しおかしいのではないだろうか?
そんなクラウドの思考を吹き飛ばす様に、セフィロスはますます口付けを激しくする。

今はまだ口付けだけ、そう今はまだ…
このオレの想いをクラウド、おまえはいつ気が付いてくれるのか?

セフィロスの想いを知ってか知らずか、ようやく唇が離れると、切ない息を吐きながら、クラウドがとぎれとぎれに甘く囁く。
「この…セクハラ教師…」
「おまえ限定のな、そういえばさっき女の子と抱き合っていたな、罰だ、次のキスは最低5分だ。」
「ちょっと待って、そんなのオレ身が持たないよ!」
慌てるクラウドをさっさと押し倒し、セフィロスはしっかりと、ねっとりと、濃厚な激しいキスをクラウドにたっぷりと与えた。

おかげでクラウドは、セフィロスの思惑どおり、キスだけでイクという初めての経験を、学校の宿直室ですませると言う、とんでもない夏の思い出を作ったのであった。








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